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枯れ葉の流れ着く先 【後編 表紙】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編17】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

 ☆=ストーリ【Story16】からの続きです、是非下欄【Story前編17】をお読み下さい=☆

  《結婚式-ウエディング・セレモニー》

 ヨシ子は前日エステに、家に帰ってから 「ねぇー私、リュウは旅行、箱根って云っていたけれど、レースの事故での時にリュウが夢で見た信州の蓼科高原に行って見たいの、いいでしょう?」 「俺は何処でもかまわないよ」 「きっとリュウが印象深く感じた所、もっとリュウを理解出来ると思うから、リュウだって懐かしいでしょう其処に決めましょうよ」

 「良いと思うけど、これ以上俺を知ったらがっかりするだけだよ」 「そうかな?もっとリュウの素敵な処見付かる気がするわ」 「じゃぁ、行きたいと思うのだったら其処にしょう、でも俺に関してはきっと期待はずれだよ」 「いいから、其処に連れて行ってくださいね」 「わかったよ」。

 結婚式の当日、普段と違い流石に少しテンションが上がっている、朝4時には起こされてしまった、ヨシ子の実家で朝食を頂く事に。 ヨシ子は美容院に、女は大変だ、義父と俺はただうろうろするばかり、 義母は生き生きして 「お父さん、朝の食事と着て行く物は安部さん(義父の医院の看護師)に頼んで有りますからね、遅れない様に来て下さいよ、それにリュウさんも」

..化粧品だろうか、沢山小物の持ち物が有るらしく忙しく取りまとめて、ヨシ子は手を休める事無く、これからの段取りを俺に話す 「リュウ、私達お母さんと奥村さん(義父の事務員)行き付けの美容師を拾って、お父様の車借りて先に教会の会場に行きますから、後は安部さんに朝の食事お願いしてありますからね、式11時からですよ10時までに指輪忘れずに持って来てくださいね」

 そんなに慌てると、ろくな事はないと思った俺は 「だめだよ!ヨシ子は新しい車余り運転してないだろう、朝こんなに早く、俺お腹空かないし食べられないから、送って行くよ」 義父も俺に賛成するように 「アァーリュウに送って頂きなさい、その方が安全だ、そうしなさい」

 全て自分でやるつもりのヨシ子は 「リュウ、お腹空いていると機嫌が悪くなるから!」 俺は念を押すように「だ・か・ら、寝起きで食べられないし、こんな時だから余計心配だよ、いいから俺が送って行くよ」 一人でやらなければ成らないと考えていたヨシ子には本当に嬉しかったのだろう、俺に義父の車アウディーのキーを渡しながら俺の顔を嬉しそうに見詰め 「じゃぁプロにお願いするわ、リュウが戻ったら阿部さん食事お願いね」 阿部さん全て解っていますよと云う様な顔で 「はい、お嬢様心配なさらないで、ちゃんと食べさせますから」 俺は子供じゃないよと思いながら 「サァー行こう、まったく子供じゃないから、お腹空いたら食べるよ」 アウディーの車を運転して、やはり静かで激しいゆれもなく素晴しいと感じた。

 車の中でヨシ子は俺に念を押すように 「リュウ、リュウは嫌いでしょうが、此の式はね皆さんに社会人としての責任を認めて頂く事ですよ」 「解っているよ」 「いいえ、リュウの本心は形式なんか如何でも良いと思っているでしょう?人は助け合って生きているの、自分達が若く元気な時には感じないものよ、これから私達の子供を育てる為にも重要な事よ、判らない事ばかりでしょう」 ヨシ子は俺の心を全てお見通し 「だから解っているって!、全く!おふくろが二人居るようだよ」

 叔母は俺の味方をしているつもりだろう 「リ、リュウ・・、三人ですよ、私はもっと皆さんに来て頂きたかったんですがね」 未だ俺を呼ぶことに馴れていないようだ。 ヨシ子、もうーお母さんはと言う様な顔で 「お母さん!意味が違うでしょう」 叔母は堪りかけた様に少しキツイ声で 「ヨシ子!いい加減にしなさい、リュウは理解していますよ、だからこうして式が出来るのでしょう」

 ヨシ子は ”違うのよお母さん” と言いたげな顔をしていたが、俺の気持ちが解っているからこそ敢えて諭じたのだ、おそらく  ”リュウ、こんなに喜んで戴ける人達がいるのよ、その人達のいる事も忘れないで” と俺に伝えたかったのだろう、何故かこの頃ヨシ子の言わんとする気持ちが解る様になってきた、

 奥村さんは多分ヨシ子が俺に対して母が子供を説得するかの様に感じたのだろう、それに険悪な空気に慌てて 「リュウさん、こんなに綺麗で若いお母さんには滅多に合えませんよアハハ」 。 ヨシ子はその言葉に対して、母では無いわよと言わんとする顔で 「私は何時までもリュウの恋人のつもりよ」

 俺は女が集まれば凄いなと思いながら 「ワァー女ばっかりで、これじゃぁ大変だ!」冗談と皮肉をこめて 「母の日のプレゼントも大変だよ!」 義母目を細め嬉しそう 「そうですよ初めて男の子からプレゼント期待しているわよ」 ・・きっと義母からの息子に対しての精一杯の気持ちだろう・・こりゃ駄目だ!。 途中、美容師を拾い話は変わり女性達の美容の話になっていた。

チャペル.jpg 無事会場チャペル(chapel)に到着・・、俺はヨシ子が心配になり 「ヨシ子達も食事ちゃんと取ってね」 ヨシ子は微笑を返し 「大丈夫よ、ちゃんと頼んで有るから、女性はリュウが考えているより強いわよ、其れより遅れないでね」 俺の手を掴み胸にあてがい 「でもリュウ、私何だかドキドキしてきたわ」 強いと言ってみたり今度はしおらしくなったり、全く解らん?

 「大丈夫だよ俺達の子供が守ってくれるよ、それよりお父さんの方が心配だよ何か緊張しているようだったよ、バージンロードお父さんちゃんと歩けるかな、出足間違えずっこけそうな気がするよ」

 義母も心配そうに 「そうよね、お父さん見掛けによらない処あるから」 俺は回りに聞こえないようにヨシ子の耳元で 「お父さんにね特別な道ではないよ ”ヨシ子もうバージンじゃあないから” って言ってみたらお父さん落ち着くよ」 ヨシ子笑いながら 「全くもーリュウのバカ!よくそんなジョーク思いつくわね、子供出来た事知っているしお腹見て解るでしょう、お父さんもっとずっこけちゃうわよ、それより俺の大事な娘に!って、リュウに殴りかかるわよ」

 「おぉ!恐!」 「私ね、リュウに初めて逢った時の様に純粋で真っ白な”like a vargin”の気持ちで歩くのよ」 つい俺は心無く 「うん、そうだよね、女は女優って云うから」 「リュウ怒るわよ!本気なのよ!、何時も新鮮でいたいの、リュウは時々とんでもないジョーク言うんだから」 「ごめん!緊張していると思って、何時でも俺のこと思って考えていてくれるから」

 ..俺は本当に感謝しているが、なかなか思う様には伝えられない少し照れながら 「俺!ヨシ子が大好きだよ、何時だって俺の為に・・本当にありがとう、感謝しているよ!・・何時かお礼云はなければと・・思っていたんだ」 「リュウたら突然なによ・・そんな優しい事言わないで!涙でちゃうじゃない」 俺は照れ隠しに 「さー、その噂のお父さん迎えに行かなくちゃ」 今度はヨシ子急いで明るく笑顔を作り 「リュウは大丈夫と思うけど運転気を付けてね、それより指輪忘れないで!、それに浩子さんも来ていると思うから一緒にお願いね」 「うん、それじゃぁ迎えに行って来る」。

 トンボ返りで鶴見医院に付いた、浩子さんはすでに鶴見家に来ていて裏口の家族用玄関から賓の良い赤紫の背中が大きく腰の辺りまで開いたカクテルドレス姿、肌がきめ細かく滑らかで色白で、腰の括れが艶めかしくとても魅力的で眩しい、笑顔で出迎えてくれた 「おかえりなさい、この度は本当に良かったわね、改めて御結婚おめでとう」

 改め挨拶されて俺は照れながら 「あ!はい、ありがとう、そんな改まった挨拶..何時も浩子さん綺麗ですがその素敵なドレスと相俟って今日は一段と眩しい位ですよ」 正直、本当に美しい人だと思いドギマギしていた 「まっ!おじょうずな事、ありがとう、それよりこれ私と海斗からお祝いです」

 「おぉ海斗から!嬉しいな有難う、これ開けて良いですか?」 「はい、どうぞかまいません」 海斗から、色紙の青と紅色で二つ鶴を折ってあり、手紙に ”リュウ、ヨシコせんせい、けっこんおめでとう、あそびにきてね” 海斗、それに俺達の名前入りのクリスタルカットのワイングラス二つ浩子さんからでしょう 「素敵なグラスですね嬉しいです、有難う」 「大した事出来なくて、ごめんなさい」 「そんなこと無いです!本当に嬉しいです、海斗如何ですか?海斗に式が終わったら会いに行くからと伝えて下さい、さぁー入りましょう」

 「ええ、その前に御めでたい時に御免なさい、私達離婚出来ましたので・・」 「そうですか・・なんと云ったらいいか、兎に角俺達皆再出発ですね」 「ええ、そのつもりですよ、私これからやりたい事もありますから」  続いて子供の様な笑顔で 「そうそうヨシ子のお父さん威張った顔していますが、先ほどから落ち着かず、そわそわですわよ」 俺も義父顔を想像し思わず笑いがこぼれた 「ハハハァ!・・そうですかお腹もすいたし中に入りましょう」。

 二人してダイニングに入ると、義父は絹の立ち襟シャツと黒の蝶ネクタイ黒のモーニングに着替え、難しい顔をし何か落ち着かない顔をしていたが、なかなか板に付き似合っていた。 義父は待ちかねたように手招きして 「リュウ何か有ったのか?」 何処にも寄り道した訳ではないが、義父は余程心配で待ちどうしかったのだろう 「いいえ!何も」 待ちかねた素振りで 「遅かったな!浩子さんも食事まだでしょう、さぁー二人とも此処に座って食事をとりなさい」 俺は浩子さんに救いを求める様に声をかけた 「はい、浩子さんもどうぞ」 俺も義父と二人では、なにか気まずく浩子さんが隣に座って助かった。

 義父の助手の看護師、阿部さんもすでに着物に着替え食事を運んでくれた。何時もと違い何か微妙な色気さえ感じ見事な変身ぶりに思わず 「いいですね!誰かと思った、着物姿素敵ですよ」 阿部さんは食卓に食事を運びながら、俺に分る様にチラリと浩子さんに視線を向け、すまし顔で 「ありがとう龍崎さん、女は魔物よ!これからは気を付けなさい・・さぁー召し上がれ、浩子さんもね」 意味は直ぐに理解出来たが、俺は着物姿の阿部さんの変身振りの方が正直の処、一瞬魔物に見えた。

 真向かいに座っている義父は、真面目そうな顔をして小さく咳払いをして、改まり椅子に座り直した 「リュウ君」 俺も慌てて座り直し 「ハイ!」 神妙に返事をした 「娘、ヨシ子を宜しくお願いするよ、如何か幸せにしてやってくれたまえ」 深々と頭を下げた、 俺も思わず慌てながら頭をさげ 「ハイ!、此方こそ宜しくお願い致します」

 また拳を口元に充て咳払いをしおもむろに話始めた 「それから、リュウ君の呼び名だが、家内とも相談して健司君と呼ぶ事にするが良いだろか?」 なんだそのことか!ほっとして答えた 「ハイ、かまいません普通名前で呼びますからね、それで一向に構いません」 きっと義母からのリクエストだろうと思った 「そうか助かる、娘を頼む!」 よほどヨシ子を可愛く思っているのだろう、ヨシ子の ”お父さんリュウに殴りかかるわよ” の言葉を思い浮かべ、父親の複雑な気持ちがわかる様な気がした 「はい、大事にします」 俺らしくもなく思わず出てしまった言葉に照れを感じていた、 義父は相槌を打つようにウンウンと頷いている。

 先ほどから、義母の愛犬のルルが俺の足元でお座りをして、不思議な物を見る様に時々首を傾げ見上げている、俺はルルの耳の後ろを指先で軽く掻きながら 「義父さん、ルルは如何するんですか?」 「あぁ、ルルも家族連れて行くよ、幸い教会で預かって頂けるから」 流石に義父の前では俺とは言いづらく 「そろそろ行きましょうか? 私も向うで着替えますから」 「そうか健司君、君は君の車で浩子さんと行ってくれ、私は阿部さんとルルとで戸締りをして行くよ」 早速、健司君と来たか、この方が家族的に思えるからだろう。

 俺と浩子さんは駐車場に向かいながら、浩子さんの華やかにドレスアップした姿を見て 「義父の車の方が今日の浩子さんには合っています、あちらの車に乗りませんか?」 「いえ、リュウの...御免なさい!海斗が何時もそう呼んでいるので、云い方が出てしまいました」 「それの方が堅苦しくなく良いですよ、それより俺の車でいいの?義父の車が今日の浩子さんのドレスに似合いますよ?」 薄く明るい同系色のショールを纏い 「いえ此方が気楽でいいの、サァー行きましょう」 と云いながら俺の車の助手席に乗り込んでしまった、俺は運転席に廻り義父の方に目をやり、じゃぁーお先にと云う意味で手を上げ 「ハイ、では行きましょう」 と浩子さんに告げ、先に出発した。

 普段のヨシ子は仕事の関係上、香水の香りは余り感じないが、今日は浩子さんの香水の香りが運転席に漂う、暫く二人は無言で有ったが、浩子さん前を見詰めながら 「私、これから働かなければ生活が成り立たないので、以前から考えていたのですが、少し賓の良いスナックバーでも始めようと思っているの」 「そうなんですか、具体的に何か考えているの?浩子さんなら美人だから人は集まり沢山来るとは思いますが、経営する事は良い時だけではありませんよ、その辺覚悟出来ているのですか?」 「もちろんですわ、実家は伊勢崎町で母一人でいるの、其処を改造して..それより南波さんの事どう思いますか?」

 突然、南波と云はれ誰の事か判らなかった 「南波!ってだれ?」 「もう忘れているの、リュウの逗子でのパーティーでサーファーの」 「あぁ彼の事、本当に余り知らないんだよ、あの店で偶然遇っただけ、それで時々ね車やサーフィンの話などしただけだよ」・「それより、彼良い人かも知れませんがビジネスは一人でする覚悟でなければ、必ずトラブルよ!、もし彼を充てにしているのなら止めた方が良いよ」

 浩子さんは、何故か悪戯顔で俺を覗き込む様にして 「そうでなくて!一人の男性として・・」 俺は何故か恥ずかしくなり、少し慌て 「それこそ、彼のこと駄目だと言ってる訳ではないですよ、浩子さんの問題でしょう、誰かが止めろと云えば止められるですか?俺も生意気な事言えませんがゆっくり考えたら」

 俺の心を見透かしたかの様に、にっこり俺を見詰めながら 「リュウ!気になるんでしょう?、あれから幾度か南波さんから、お誘いの電話やメール幾度かありましたが、あれ以来会っていないわ」 俺は心を見透かされたようで慌て 「べつに!そんなんじゃぁないよ!そんなの知るかよ!」 と言い訳を言った

 浩子さんは何が可笑しいのか含み笑いで? 「でも心配して下さったんでしょう?、リュウは解かり易いわよ!」 俺は突けんどうに 「俺は単純でバカな男だからね」 「そう云う意味じゃないわよ、悪ぶっていても何か可愛いて云うのか、女はね母性本能とでも云うのかしら、危険を承知で未完成なものに引かれる者よ、それにリュウは本当は純粋だから・・ヨシ子が羨ましい」 と言った後にため息を漏らした、だめ男を好きになると言うことか?何か子供扱いされた様で、その上俺がカー・レースを諦めきれずに中途半端な事を見破られているようで返答が見付からなかった 「・・・」、何か女性の複雑な気持ちを感じた。

 暫く過ぎ去る町並を二人して沈黙のまま見送り、浩子は口を開いた 「私、お店を持ちたいと思った事ずーっと以前からよ、だから前々から準備していたの誰の力も借りるつもりは無いわ」 「そうだったの」 「そうよ!リュウはもう少し遊び心を待たないとね、きっとそうなればもっと魅力が増すと思うわ!それにレースの事で何時までもヨシ子を悲しめないで」

 「そっか!俺、気持ちに余裕が無いって事!ヨシ子が云ったの?」 浩子さんは声を強め 「ヨシ子がそんな事言う訳ないでしょう!、貴方達を見ていれば解かるわよ」 俺はそうだよな!と思い反論もなく 「そう!俺・・」 浩子さん、言い過ぎたと思ったのか 「別に気にする程の事ではないから」 そんな話の中、教会に着いた。

 義父達も、まもなく着き チャペルの控え室に入るともう母や兄夫婦や姉夫婦が集まっていた、おふくろは家紋入り友禅の黒留袖、身頃から後身にかけて小菊に松の古典柄の金刺繍が施され鶴亀がさりげなく入っている、何か何時もと違い知的にしゃんとして見える、俺と浩子さんを見つけるなり浩子さんにむかって 「今日はご苦労様です、こんな子ですが宜しくお願いします」 「いいえ、此方こそ」

 次に母は俺を見詰め 「健司、ヨシ子さんに採っては一生に一度の晴れ舞台、へらへらしないで確りサポートしてあげなさい、それとちゃんと落ち着いて挨拶出来るのですか?お母さんそれが心配で」 あいかわらずだ、だが当っている俺は 「出来るなら俺の挨拶飛ばして欲しいね」 「まったく!しかりしてちょうだい」 「大丈夫だよ、挨拶ヨシ子に書いてむらったから」 「それなら良いが、ちゃんと練習したでしょうね!」

 なにがそれなら良いだ! 「まったく!子供じゃないよ」 「それから健司、御両親の挨拶だけどね、家はお父さんもいないし、ヨシ子さんは一人娘でしょう健司はあちらに・・兎に角、挨拶はヨシ子さんのお父さんにお願いしましたから」 「別に誰でもいいよ、俺も代わって欲しいよ」 「それだから、健司は何時までも・・」

 浩子さん、母とのやり取りが、余りにも可笑しかったであろう俺の後で、口に手の甲を当て色っぽく笑っていた、それを見た母が問いただすように 「健司、此方の方は?」 母は今、浩子さんに頭を下げ挨拶をしたのに!もう忘れたのかな? 「あぁ、ヨシ子の親友、なが!...浩子さん浩子さんだよ」 離婚前の姓を聞いていなかったので慌てて名前で答えた。 母も緊張しているのか又頭を下げ 「健司がお世話になり、此のたびは有難う御座います」 浩子さんも慌てながら頭を下げ、俺は浩子さんと顔を見合い苦笑し合った。

 義父達も到着し、ややこしい挨拶が始まった、俺達仲間なら”ヤー、オッス、元気?ドウーモ”で済んでしまう、これもヨシ子の云う人と人との繋がりあいだろう、母に感謝、俺はその場を抜け出し、着替えと、ヨシ子が心配になり奥の着替え室に向かった

ヨシ子 ウエデングドレス1.jpg ヨシ子は既にウエディングドレスに着替えて髪を美容師に整えて終わったところ、身籠って五ヶ月に入ろうとしている、お腹が微かに張って見えるが、俺以外気が付かないと思う、何か今までにないほど、ヨシ子が輝いて美しく感じ、思わず 「美しい、凄く綺麗だよ!」 「リュウ本当に?」 「うん、何か輝いて凄く綺麗だよ」

 「うれしい!ありがとう、ねー、リュウに云われて心配になったから、バージンロードお父さんと歩く処だけリハーサルお願いしたいの、こちらの方、式のコーディネーターで、披露宴の進行司会もお願いした方です、私の婚約者です」

 俺に手を差し向けて、少しでっぷりした三十代後半の男性を紹介し 「龍崎 健司さんですね、宜しくお願い致します」 俺はテレながら 「はい、いえ、こちらこそ」 ヨシ子「リュウ、お父さん呼んできて下さい」 「俺はリハーサルしなくて良いでしょう?」 司会者 「龍崎さんは、神父さんが式の時に指示しますからそれに従って下さい」 余計な事言ちゃったかな 「義父に伝えてから、俺も着替えますから」

 母と義父達の所に又戻り 「義父さん、ヨシ子さんが、呼んでいますよ」 「なんだろう?」 「何か、リハーサルしたい、様ですよ」 「健司君もか?」 「いえ!私は着替えがありますから」 「てれるよな!私もいいよ」 俺は笑いを堪え 「兎に角、行ってください」 俺は着替えに向かったが、両家族全員に見守れて、半ば強制的にリハーサルをさせられて、ハンカチで汗を拭きながら、緊張する義父を想像すると、自然に笑みがでてしまう、俺もスーツに着替え鏡で確認、式も間近になり人事ではなく緊張感を覚える。

 控え室に出向くリハーサルも終わった様子で、ちょうどヨシ子が家を出る前にする筈の挨拶が出来ずに今父に、挨拶を始めた処であった、俺は気配を感じ入り口で立ち止り、室内からヨシ子の改まった声が聞こえるので、入室する事を控えた 「お父様、・・今まで長い間・・あり」 義父照れた様子で言葉を遮る様に 「ああ、その改まった挨拶は良いから、ただヨシ子の幸せだけを願っているよ」 「はい」 「それに、これでお別れではないよ、出来るなら健司君と家に戻って欲しいと思っているよ、なーぁ、かーさん」 義母は心配そうに 「そうですよ、あなたは時間も不規則な仕事を持って生まれて来る孫の事も心配ですよ、健司さんに一緒に住むように勧めたら?」

 ヨシ子 「えぇ・・、リュウに相談してみます、私から話しますからリュウには直接言わないで、それでなくても、私リュウの夢・・、誰が反対しょうが手助けしなければいけないのに反って壊してしまったから」 義母安心したように 「自動車レースの事ですね、あんな危険な事、お母さん良かったと思いますよ」

 ヨシ子は両親に理解してよという様に体を乗り出し 「私、彼がレーサーで有る事、承知で、お付き合いしていたの、彼は絶対一流なれる人なの、それなのに・・・私リュウを縛り付けたくないの、自由にさせて」 あきれたように義母は 「生まれて来る子供の事を考えなさい」 ヨシ子は俺を理解してと 「今のリュウ・・妻の私が受け止めなくては・・暫くそっとして下さい」 義父は 「お母さんもうよしなさい、ヨシ子も考えての事だろう」 俺はヨシ子の気持ちを知って何か胸がジーンと来た。

 ヨシ子はもう一度あらたまり 「お父様、お母様、これからも心配掛けますが、今まで有難う御座いました」 義父照れている 「うんもういいよ、今日はめでたい日、さーヨシ子時間だよ」

 そうだよな、俺って現実に生まれて来る子供の事余り真剣に考えていなかったな!、ましてや子供の将来の事など考えもしなかった、”だめおやじになる所だったな、責任の重みを感じるが、でも実感無いよな!それに如何してよいか解からないよ、全て始めての事だから、俺は控え室に入る事を躊躇っていた。

 その時 「龍崎さん!時間ですよ、皆さん、みえています」 式場の女性が声を掛けて来た 「ハイ!」 ヨシ子の返事が控え室から聞こえた、部屋から顔を出し 「誰か呼んでいる様だったけど!」・・部屋の外に顔を出した 「・・あらリュウ来ていたの、その白のタキシ-ド、リュウに良く似合っているわ、モーニングコートにしなくてよかったわね」 俺は照れ笑いをしながら、ヨシ子達の話を何も聞いてはいなかったように振る舞い 「あぁ、ちょうど今来たところ」 さりげなく答えた。

 改めてヨシ子がとても綺麗に感じ 「ヨシ子、本当に綺麗だね」 「ほんとう?」 「本当だよ!何か輝いて見えるよ」 「リュウ!うれしい、ありがとう」 「俺このタキシ-ド着慣れないから、何かぎこちないよ」 ヨシ子はにこやかに 「大丈夫、良く着こなしている感じよ、何か大人に感じるわ、すてきよ!」 俺はなおさらテレて 「レースより首や肩が張るよ、もう疲れちゃったよ、あ!そうだ!始まる時間だって係りの人が呼びに来て、皆さんチャペルに行って下さいって、こちらの係りの方が云っていますよ」 と係りの女性を指さした

 係りの女性ハキハキした声で 「花嫁様とお父様は此方に残って下さい」 さぁー、いよいよだ、二人を残し式場チャペルに入った。 ヨシ子の親戚の方や来賓、何故かエリート集団に見える、俺の偏見か?病院の先生や看護師であろう、入り口付近にこれも係りに誘導され席に付き始めている。 やはり浩子さんは一際綺麗だ何か妖艶な感じさえ与える。

 俺の勤務先の米海軍基地のボスからの紹介で親しい友となった部隊全体の現役将校パトリシアの父、彼が日本に赴任なったばかりの頃からから、横浜や東京を案内してくれと頼まれ、パトリシアを案内してからの友達付き合い、 それに彼の部下達、白の制服の詰襟に光る金の星、外人は流石に凛凛しく一際目立つ、白の制帽を深々かぶり、黒のツバの奥にブルーに光る瞳に魅せられる。 来賓の女性やヨシ子に俺の事で問いただした女性看護師とその仲間達の目が輝きを放つ、 白の詰襟、金ボタンが規則正しく真っ直ぐに光る、肩には金の星が輝きを放つ制服の外人達を女性達が見詰めている。

 外人特有の気軽さでパトリシアの父を始め次々と 「リュウ!コングラチュレーション」  握手をしながら、もう片方の手を肩越しに背中を軽く叩いてくれた 「サンキュウ・サー 、ソー・プリシェード」 「リュウ、今日はオフシャル・ビジネスではないよ、トモダチでしょう、サーは要らないよ」 それにドレスの似合う職場のパトリシアと主だった人達、それにレーシングチームの監督や仲間達、イタリアン・レストラン夫妻トニー 「リュウ、ヨカッタネ、オメデトウ!」  やはり外人、確りハグをしてくれた、トニーの妻エバは外人達に通訳を買って出てくれ助かっている。

 職場のボスが握手を求め 「Congratlons! with double advantage.」 「What's?  Boss, something reason?(ボス・サムシング リーズン?)」 「リュ-に頼まれた(request of..employment)採用決まったよ、今度特別に公務員テストを受けてくれ」 「オーノウ、テストですか?」 「easy! quite safeリュウ大丈夫だよ、それに米軍で必要な人として特例だから形式的にだよ、予定決まったら連絡するよ、決まったら training course at states 講習に行く事になるよ」 俺は思わず 「エー、テストとアメリカに講習ですか?」 「Yas,take a PC class at silicon valley. 」 テストか思いもしなかった、なにも勉強していない俺に、大丈夫かな?それにカリフォルニアのシリコンヴァレーに勉強だって、英語もろくに出来ない俺にビックリだ!。

 レースの北原監督も近ずき 「おめでとう、今の話聞いたよ・・英会話然駄目だけれど、話聞いてなんとなく分ったよ、少しは戻って来る事に期待していたが、残念だけれど、これでレースに区切り付けた様だね!」 俺は確り頭を下げ 「ええ、今まで有難う御座いました、お話した通りこれからもinstructorとして宜しくお願いします」 「もちろん、此方からお願いするよ」

 おぉ!俺は驚きの眼(まなこ)で見る、 若々しく一般の女性より美しい孝ちゃんが華やかなピンクの裾野広がったドレスで現れた 「やぁー!孝ちゃん、今日は一段と綺麗だね」 「ほんとうに!ありがとう、リュウおめでと~う、リュウも、かっこう良いよ、時々来てね、寂しいわよ!」。

 式場係りの人の声 「皆さん、間もなく、始まります、其々席に付いて、お座り下さい」 いよいよ式の始まりだ 式が始まり型どおりのメロディーが流れ、ヨシ子をエスコートて義父緊張した義父のぎこちない、姿を見守り、式は型通り進み。

 結婚の誓いと指輪を送る場面になり、盛り上げを予ねてから考えていた事を行った、俺はタキシードやパンツのポケットを大袈裟に探し、牧師さんに 「チョット待って下さい!指輪が見当たら無いんです!」  牧師は唖然とした様子、ヨシ子は ”もうー、あれほど云ったでしょう” と云うような顔をしている、俺は牧師に向かって 「ちょっとだけ待って下さい、お願いします」  牧師の了解を得るが、牧師は首を振って嘆いている様子、

 参列者に向かい 「何方か、チリ紙を一枚、戴けますか?」  と最前列の義母から求めた、義母は怒りの目で俺を見詰め小声で 「健司さん、いったい、どうしたの?一番大事な物、忘れるなんて!」 と言いながら心配げにチリ紙を渡してくれた 「ええ、とりあえず、これで間に合わせます」 

 義母は怪訝そうに見ていたが、かまわず俺はその紙でかんじん縒りを作り、義母の指を借り丸め指輪を作り、参列者の皆さんに解る様に高く上げポケットに戻した、義母は呆れ顔で落胆、参列者の驚きや溜息やひそかな笑い声を背に浴びながらヨシ子の元に、

 牧師に向かい 「どうぞ始めて下さい」 牧師は 「では、永遠の愛を誓い指輪の交換を」  俺はおもむろに、隠し待っていた、本物の指輪を取り出し、参列者に向かい本物の指輪を高く上げて次に左右に確認させるように見せた、皆さんの驚きと、安堵の笑いを誘った、ヨシ子は子供にメっと怒るような顔をして、小声で 「もーう、驚かさないで!もう一度ほっぺをピシャリとする処だったわよ」  と怒って見せたが、みんなの手前、本心で無い事は、解かっていた、例え紙の指輪であってもヨシ子は俺の気持ち受けてくれるだろう。

w-yr.jpg 俺は無言で、おもむろにヨシ子の手を取り薬指に指輪を治めた、参列者、笑い声と皆さんの割れんばかりの拍手と祝福を受けた、・・先ずは成功かな?少しはウケた様でとホッとした、後は表に待っている人達の祝福受け、其の後ヨシ子が投げたブーケはヨシ子の職場の看護師が受け取り、仲間からからかわれていた。

 引き続き、場所をかえ披露宴を行う為会場に移動、その折ボスからの就職の件を手短にヨシ子に伝えた、ヨシ子は少し当惑した表情で 「良かった、と言っていいのかしら?」  俺の気持ちを汲んでの事だろう 「良いに決まっているよ」 何かすまなそうな顔で 「でしたら、良かったわね・・・」  ヨシ子の関係の人や俺の関係の人達に二人は祝福の言葉に遮られてしまった

 以前から義母の要望で着物姿も見たいと云う事で、会場にてヨシ子は着物に着替え席に付いた、会場ではもっと、大勢の人達が集まっていた、無論、レーシング・スクールの久美ちゃん始め全員揃っていた、其の後、久美ちゃんと竹田君どうなったか、心配で有ったが、二人仲良く寄り添っている、義父と義母の関係者達で有ろう、俺の苦手なエリート集団、初めて見る顔ばかりだ、それに母の付き合いの人達も集まっていた

 披露宴会場.jpgヨシ子の大学病院での学長夫婦の仲人の挨拶から始まり、其々の来賓や友達の祝辞も形どおり終わり、宴も中盤に進み、そこで義父の挨拶に普段ありうる話なのに何故か印象に残った

 「健司君もいずれ感じる時が来るだろう、・・娘、ヨシ子が生まれると、わかった時から、嬉しくて嬉しくて・・・」 俺はそんなにも嬉しさは無いよ・・そんなに嬉しいものなのか?義父の挨拶は続く

 「幼い頃は、おてんばだった君、怪我をしないか毎日気が気じゃ無くて、仕事がら、夜の多い日があり、家に帰り一番に君の無邪気で汚れを知らない寝顔を確かめ、ホットし・・帰れぬ夜は妻に様子を伺い安堵したものだ、やがて、小学生になり、変らずおてんば娘で、膝や手を擦り剥いて学校から帰る事が度々あった、ある時、学校に行きたくないと、駄々をこねる君を、いじめに合っている事も知らずに厳しく叱ってしまった、涙を流しながら眠りついた、君の頬に残った涙を拭きながら、どれほど辛らく思ったか、叱ってしまった事を後悔し、この子だけは、どんな事があっても守りぬかなくては、どんな事があっても子のこの見方でいようと、頬の涙を拭きながら、語りかけていたものです」

 それから俺の顔をみて、まるで俺の心を見透かした様に 「健司君も近い将来、その時が来るはずです、きっと家庭を持つ喜びを知るはずです、如何か皆様方も優しく二人を見守ってやって下さい」 その部分は感動的で俺にも印象深く心に残った、まだ義父の挨拶は続いたが、余り憶えていない。

 式も和やかに進み、ケーキ・カットやキャンドル・サービス、病院の医師達のテーブルではヨシ子が一生結婚はしないのではないか?、何が、その硬い気持ちを変えさせたのか?、心境の変化、教えてと、ヨシ子に訪ねた、きっと何人かがヨシ子にアタックしても動じなかったからだろう、ヨシ子は無言で微笑で誤魔化した、ために俺に質問が移った、

  俺は 「さーぁ、きっと駄目男で黙って見ていられなかったのじゃないかな?」  皆に笑い混じりにひゃかされていたが、俺が入院中訪れた不可解な医師はいなかった。

 外人席に移りほっとした、ヨシ子の着物姿がかなり気に入った様で褒めていた、若い外人一人が、孝ちゃんが気になる様で紹介して欲しいと、俺は思わず 「she is he! bisexual?」 「pardon? what you say?」 俺は改めて 「If you like he is in female dres in drag.彼は女装しているんだ!それでも良かったら」 暫く沈黙が有ったが 「いいよ!紹介して」 話を聞いていたエバに 「じゃぁー、エバ頼むよ」 「いいよ、変った人ね」 と俺に向かいウインクを送って、エバは若い外人を連れ孝ちゃんの席に向かった。

 其の後普段、指定された席以外余り移動はしないのだが、やはり外人達は積極的だ、ヨシ子の病院の看護師のグループに混じり、片言の英語や日本語でジェスチャーも大袈裟に会話が弾んで時々笑いが聞こえ、会場全体が和やかで、明るくなっている。 それに伴い、知人や親戚同士ビールを手に、あちこちのテーブルで挨拶が始まっている、やはり浩子さんは人気者ですっかりドクター達の席で盛り上がっているようだ。

 雛壇に飾られている様な俺には親戚関係の初対面の人達がお酒やビールを持って時々挨拶に、作り笑顔で答える位で、退屈で少しでも早く終わって欲しいと思っていた、ヨシ子が俺に「リュウ、退屈で、早く帰りたいと思っているでしょう、もう少しだから、リュウの挨拶が残っているよ、確りね」と俺に耳打ちして、優しく睨みつけた、なんで?そんなに細かい俺の心が解るか?、そうだよな・・浩子さんも解り易い人と言っていたな、俺も小さく肩を上げて見せた、会場はだいぶ盛り上がっていた。

 暫らく雑談がで盛り上がっていたが、司会者のマイクから 「宴酣では御座いますが、新郎新婦からのお礼の挨拶、謝辞に移らせて頂きます」 此方への指示があり、あぁ嫌だな!思いながらヨシ子と共に指定の場に進み、俺はヨシ子に教わったお決まりの謝辞を 「本日はお忙しい中、私達二人の為に・・・」  を陳べ挨拶も終わり、無事何事も無く終了した、来賓を送り出す。

 母が俺とヨシ子の所に近ずき 「ヨシ子さん、とても綺麗でしたよ、健司は自由奔放に我儘に育ててしまい、今日も神聖な儀式の時に指輪、あんなバカな事をして、大変でしょうがヨシ子さん宜しくお願いします」 「あ!はい」 「おふくろは、堅いんだよ」 「だから駄目なの、それに健司!解っていると、思いますが、ヨシ子さんは一人子ですから、御両親の事も確り見る覚悟をしなければいけませんよ、結婚とはそう云うものです!」

 「ヨシ子の両親、俺なんか当てにしてないよ」 「健司!何時までも御両親、若くわいられないのよ、確りして下さい」 「それ位、解っているよ」 次にヨシ子に向かい 「ヨシ子さん、こんな子ですから頼みますね」 続いて思いだいたように母は俺に向かって 「それにレース事まだ愚図々していないでしょうね」 ヨシ子、俺の当惑した表情を察して 「お母様、ご心配して下さり、有難う御座います、健司さんは、レースを辞めて、正式に基地に勤める事に決めたようですよ」 「本当に我儘ですから」 母は念を押すように呟いた、ヨシ子は無言で微笑で応えた。

 式も全て終了し着替えをすませ、この様な場が大嫌いな俺は本当にホットすると共に疲れが出た。 ヨシ子も流石に疲れた様子 「無事終わったね!リュウ有難う、疲れたでしょう」 「ああ、こう言うの苦手だから、それよりヨシ子の方が疲れたでしょう、早く帰ってやすもう」。

   《翌朝自宅マンションにて》

 翌日、穏やかな朝を向かえ、明後日ヨシ子からの提案で信州の諏訪、霧ヶ峰、白樺湖、蓼科を二泊三日で訪ねる事にした、今朝は流石に昨日の疲れもあり十時過ぎまで目覚めなかった。

 軽く朝食を済ませ 「ヨシ子、俺ヨシ子と結婚したいと御両親に報告に行った時、皆と同じに幸せにしますからと素直に云えなくて生意気な事を云ってしまって、機会が有ったら謝っていたと伝えて」 「リュウ急に如何したの!」 「義父さんが、あんなにもヨシ子のこと心配して、事あるごとにヨシ子を頼むよ・って、俺初めて父親の気持ち解った気がしたんだ、俺軽率だった、だから・・・」

 「負けず嫌いのリュウが、どうしちゃったの?」 「俺だって、理由もなく突っ張らないよ、ヨシ子が可愛いから下げたくも無い頭・・義父の気持ちが解ったからだよ、俺って青いよな・・そうだ、俺今日の夕食タン・シチューでも作ろうか?」

 それだけでは無かった、あんなに望んだ結婚で今の俺はヨシ子を失ったらきっと狂ってしまうのに、心と裏腹に勝手な者だ!こんな時にもハンターの血が騒ぐのか?次の獲物をもう追うつもりは無いが、何故か寂し?、

 これをマリッジブルーと言うのか?、・・フッフッフゥ・・俺はキリストや親鸞には絶対成れないな!・・其れに諦めたレースの事が思い出され、複雑な気持ちにじっとしている事に耐えられなかった。

 「リュウ!本当に如何したのよ!今日は何処かに食べに行来ましょう、ねーそうしましょう」・・「久し振りに金沢八景の野島で漁師さんのお店に行きたいわ」 「うん良いけど、飲んじゃぁ駄目だよ」 「ええ解っているわ、ほらね!口ではいい加減な事云っているが、リュウはお腹の子を心配しているからよ」 「・・・」

 「明日から出掛けるでしょう、今日はゆっくりしましょうね、帰ってから美味しいシチュー作っていただける?」 「うん、そうするよ」 「コーヒー入れましょうか、飲むでしょう?私フレーバーティーにする、リュウわ?」  最近ヨシ子はフレーバーティーに興味を持ち色々試している

 「うん、コーヒーで良いよ、じゃぁ其処にしょう」 「今、美味しいの入れますから、何か静かな音楽かけて」 ヨシ子マンション1.jpg「ヨシ子、クラシック好きでしょう?お腹の子にいいよ」 ヨシ子は驚いた表情で 「へー、リュウも聞くの?エルビス・プレスリーの方が良いんじゃない?無理しなくていいのよ」 「俺、クラシックで有ろうがジャズやロック・シャンソンや歌謡曲でも、良いもの何でも其の時の気分で聞くよ」 近頃ヨシ子は受け応えが俺の母に似てきた 「はいはい!、コーヒー入りましたよ、リュウ、ベランダに座りましょうか?、話があるのよ」 「うん、何なの?」

 ヨシ子は俺がこの曲に衝撃を受けた事を憶えていたのだろう ショパンのンクターン第20番ピアノ曲をリピートでかけコーヒーとフレーバーティーをベランダに運んで来た

 もう季節は秋空に変り鱗雲が遥か高く見える、ベランダの椅子に座り穏やかな海を定めも無くぼんやりピアノ曲を聞きながら海を眺め、運ばれたコーヒーを一口飲み終わった頃、ヨシ子は静かに話し始めた

 「ねー、リュウは今まではカー・レースの頂点に駆け上ろうと懸命に生きてきたのに、私と巡り逢った為に運命が変って目標を失ってしまったわね、リュウがどんな気持ちか解っているつもりよ、でもそれを云うとリュウに叱られるから、俺が決めたんだって云うでしょう」

 「うん、そうだよヨシ子の事では無く俺自身の生き方の問題だよ、今までぐずぐずしていてごめん、それに俺だけで無く他のアスリートも遅かれ早かれ何時かきっと通る道だよね」

 ヨシ子は頷き 「うん、大凡のアスリートは体力の限界を感じた時と思うけれど、それなら自分自身に納得が得られると思うの、リュウの場合は続ければ出来たのにお金の問題、スポンサーが必要でしょう・・だから悩んだのでしょう」

 ・・・俺は心の中で叫んでいた "クソ! 誰か金を回してくれ スポンサーが欲しい・・きっと期待に添ってやるぜ!” だが心と裏腹に「だから、それも・・もう・・」 俺に訊ねる様に 「今はそう云う事では無いの・・リュウは登山好きでしょう?」 「急に何?、そうだけど・・でも長い間山には行ってないよ?」 俺は如何したの?と云う思いでヨシ子を見た

 「本当はリュウと初心者向けのやさしい山に、トレッキングか登山したかったの、でもこのお腹ではね、最近リュウみたいに元気良く動き廻るのよ」 ヨシ子の膨らんできたお腹に目を移しながら 「フーンその中にいると思うと何か凄く不思議に思うよ」 俺は冗談まじりに 「そのうち、子供背負って行くのも良いかも」

 「良いわね、何時か三人で行きましょうね、やっぱり、リュウは子供の事考えているんだ」 「それと愛情は別だよ」 「リュウは気が付かないだけ、それを愛情と言うんでしょう!」 「・・・」 俺は実感が湧かなく答えようが無い

 ヨシ子は優しい眼差しで俺をみつめ 「それでね・・登山は登る時より 下山する時の方が難しいて云うでしょう、登る時は頂点だけしか見ていないと思うの、でも下山する時は別の景色が良く見えるでしょう、リュウ 焦る事はないと思うの、次の目標の山が見付かるまで 勉強の期間と思えば良いんじゃない」

 ヨシ子は続いて 言葉を選ぶように 「それもあって リュウの夢に出てきた所 信州の蓼科、其処がリュウに採って心の原点と思ったの それでリュウが何かを得らればいいなと思って」

 「そんな事考えていたんだ ヨシ子の言う通り 其処が原点と言えるかも、俺小学校低学年頃 身体が弱く 夏休みに療養生活を送った所だよ、母親と家族と初めて離れ辛く思ったが、・・・でも何か変わるのかな~ぁ?」

 「変らなくてもいいじゃぁない! 何故かそんな気がしたの 行って見ましょうよ」 「うん、それも良いけどこうしてヨシ子といると安心出来るよ」 ヨシ子嬉しそうに 「本当に!嬉しいわ」 

 俺は話が折れないように引き続き話した 「それに平凡で在り来りの生活が一番良いって誰より解っていて それをヨシ子に求めて来たのに、でもその安心と幸せが余りにも心地良く慣れていないのか、このままで良いのか? 何処かに?・・、誰と言う訳ではないが 世の中に置いていかれてしまうのではないか不安で恐くなるんだ!」

 ヨシ子は俺の目を確り見詰め 「いいじゃない!リュウは私の膝で何時までも甘えていられない人よ、でもね私達二人はその為にいるのよ、私もリュウに助けて頂いたり甘えたい時もあるのよ、互いに助けあうのが夫婦でしょ」

 「以前にも聞かされたよ!でもそれとは違う何かが?!、・・・俺って素直に受け入れられない天邪鬼なのかも」 ヨシ子は真剣の顔で 「そんな事無いわよ!リュウは純粋過ぎるのよ、誤魔化しが出来ない人よ、何時も男でいなければならない そう思っているから、完全な人などいないのよ・・・ネー リュウの椅子私の横に並べて此方に来て」

 俺は椅子をヨシ子と並べて座り、遠くにウインド・サーフィンや浜辺を穏やかに散歩する人々をボンヤリ眺めた、

 ヨシ子は座ったままで俺の左手を両手で取り、海を眺めながら少し大きくなったお腹の上に俺の手を置いた、ヨシ子はその手を離さず俺の手の平をヨシ子のお腹に添え続け 「リュウ暫くそのままにしてね、この子が動いているのがきっと判ると思いますよ」 俺は手に神経を集中させ、そのまま待った

 「リュウの手暖かいのね!」 「・・」 「ほんとうはね、リュウが出ているレース初めて観戦した時から夢中になって私の方が、此の間々行けばリュウが世界できっと活躍出来るのではないかと思い・・とっても恐かったが、リュウの子供のように輝いている目と、成績も良く頂点に駆け上がって行く事がとても嬉しくなって、・・リュウにレース辞めると聞かされた時、リュウの可能性を信じて夢見ていた、私の方が驚きだったわ」

 「・・・」 「それでね、リュウの決断が私の為だと知っていたが、・・矛盾していると思っても、知らずしらず私の方が夢中になりリュウにプレッシャーを掛けてもレースを続けて欲しくなっていたの、人の気持ちって、いいえ私の気持ちが複雑で!私には辛くて選択出来なかったのよ」

 「判っていたよ、俺がレースに対する気持ち皆から理解されず反対され、くさっていたんだ、それをヨシ子は心から応援してくれていると強く感じていたんだ、初めて俺の気持ちを理解して、心から応援してくれて本当に嬉しかったよ」 「だから、リュウに ”もう良いよって”、聞かされていたが、・・いいえ自分に、それがどんな結果になっても、私達にとって、それが一番良い選択と自分に言い聞かせていたの」 俺は自分に言い聴かすように 「・・・それでいいよ」 ヨシ子はホットした表情をみせ 「最近リュウもやっと、落ち着いてきたから、本当の私の気持ち話せたの」

 当然俺の手の平に軽い衝撃を感じた 「あっ!お腹動いたよ、凄げー!本当に生きているんだ、不思議だね」 「きっと、リュウの暖かさが伝わったのよ」 「へー、ビックリさせてしまったのかな?重くて苦しいから ”どけよ” って言っているみたい!」 「うんうん、此の子が ”此処にいますよー” って、リュウに懸命に伝えたのよ」 俺を見詰める目もそうだが、何だろう?最近ヨシ子何処か優しさが以前にも増して感じられる。

 「ふ~ん、頭では解って、この手にもこうやって感じているけど、未だ不思議で、この手に抱いて話をしないと余り実感が沸かないよ、俺って想像力が無く夢が無いのかな?俺に子供育てられるのかなー」 「リュウが不安を感じるって事は、責任が出てきたことでしょう、私だって不安ですよ、私達だけでは無いのよ、皆始めての経験をして来ているのよ・・そうだ!今から食事に行く前に海斗に会いに行きましょう、結婚の御礼に行かなければ、容態も気掛かりだから」

 「寂しがっているよね、ところで、浩子さん離婚して、姓(苗字)、なんて云うの?」 「あ~ぁ!リュウは知らなかったわね、旧姓は大平って言うのよ」 「俺、お袋に聞かれ、慌てて名前だけ言ったよ、大平か!で海斗は?」 「もちろん、浩子が親権を取ったから、大平に変えるでしょうね」 「フーン!何かややこしいね」 「人が暮らして行く事は、色々な事が起きる物なのよ、リュウだって新しい仕事になるでしょう」

 俺は大きく息を吐いて 「フゥー!そうだよね、ただ俺、これからの仕事に自分が生きているって感じられるかな?」 それまで海を眺めていたヨシ子は俺に向き直り俺の目を見据え厳しい声で 「何!言ってるの、リュウが決めたことでしょう!、まだ真剣に何も初めてもいないのに、それでは何をやっても駄目でしょう!・・リュウは別の世界に飛び込むのが恐いんでしょう?・・何処で働いても、リュウらしくね」

 びっくりしたな、こんなに叱られた事は久し振りだ・・そのとおりだと思い、何も怒りも覚えなかった・・俺は力無く呟く様に 「だよね」 俺にはヨシ子の気持ちが解っていた俺の負けず嫌いな気持ちに火をつけ様としている

 余り俺が素直で、反って心配になったのか、ヨシ子はお腹上に置いた俺の手を力強く握り 「慌てる事無いわよ、今は休みましょ」 「うん」 「信州に行って、のんびりしましょうよ、諏訪には温泉もあるでしょう?」 「あぁ・・・俺って何なんだ!何の為に生きているのかな?」 思わず俺自身に呟いていた

 ヨシ子は椅子から立ち上がり 「リュウ!そんな事誰にも永遠に解らないと思うわ!それよりどの様に生きるかでしょう!・・しっかりてよ!」

 急に浩子さんの言った事を思い出し、俺はヨシ子の顔を見て少しムカつき、大声で怒りを込めて 「どうせ俺は何をやっても未完成で中途半端だから!・・!解ってい・」 ヨシ子は急いで中腰なり俺の唇に唇を重ね塞ぐ様にキスで、俺の言葉を遮った。

 俺の怒りが静まるのを待ち数秒後、唇を離し、顔色を伺う様に、静かに冗談まじりにお腹を擦りながら 「リュウはね ヨシ子とこの子を愛するために生まれて来たのよ」  俺を見下ろしながら微笑み 「リュウが、いなくなったら悲しむ人が二人ふえたのよ」

 ・・まったく・・もう怒る気も無くなった、簡素で粗雑な答えに聞こえるが、きっとヨシ子も人としてどのように生きるか悩み考えぬいて得た結論だろう、虚しいが明快な答えのように思えた・・そこに何か喜びが生まれるのか・・・?。

 余りにも複雑な気持ち、以前にも味わった事だ、今度は違うと思っていたが、、ボクサーがボデイブロー受けた様に時間が経つほど無気力になって行く、矢張り心に穴が空いてしまってレースへの断念が此れほど力が抜けてしまうとわ、其れになにか結婚で自由を奪われた様で、心がもやもやする、男と女、当り前の事だろうが女性は子供の出来た事で現実の生活に密着する、決してヨシ子を失う事など出来ないが勝手な者だ!

 結局、ヨシ子が冗談のように言ったが、行き着く所は其処なのか!?出会い!結婚!子供!有り触れた人生!どんなに著名人が難しく難解な言葉を並べようが誰も明快な答えは何も無い、何の為か解らず、どんな飾り付けを施しても人間や動物、植物達は争う様に子孫繁栄に勤しんでいる、そしていつの日か地球を食い潰しあげくの果てに醜い争奪、そう言う俺もか!、生きた証しを子孫に残す為に?・・ただ虚しさだけが・・・・ 

 ヨシ子は俺の肩に手を置いて、俺が今考えている事が解っているかの様に、言葉静かに 「リュウ、貴方が生まれた時期がわるかったのよ!バブルがハジケその上オイルショックの景気後退の時期きっと大勢な人が苦しんでいるよ、世の中にはリュウの様な人が沢山いるのよ、本当の強さはね、困難を乗り越える心の強さなのよ!リュウは今まで有る意味、本当の挫折を味わった事が無かったのよ・・神がと言えばリュウは否定するでしょうね、でもね以前リュウに話した様に愛情は人を特別な存在に変えるのよ!本当の意味でリュウ自身の事や人間の存在価値を考える良い機会を持ったのよ」

 「・・・」  クー参ったなーぁ・心臓を一突きにされた!

 ヨシ子は俺の両肩揉みほぐし一拍おいて両肩を平手で軽く叩き 「さー!海斗君に会いに行きますよ・・如何するの?」 「あぁ、行くよ」 「そんな落ち武者みたいな無精髭と伸びた髪の毛していると、海斗君が心配するよ、髭を剃って冷たいお水で顔洗って来なさい、シャキットするから」 「落ち武者?」 俺の背中に折れた矢でも刺さって獣の道の藪の中をさ迷い逃げ落ちて行く落ち武者に見えたのか・・言えてる!今の俺にピタリの表現だ、返す言葉も無い 「・・・」

 「リュウ憶えている?」 「うん・・・?」 「リュウと知り合った頃、私も人間について・・いえ!私自身の人生についてとても悩んでいた時なの、一度自分に与えられた道から外れ、世間の常識や束縛を取り除いて自分をめちゃめちゃにして一度見詰め直して見たかったの!覚えているでしょう?次の日の朝、リュウに冷たいシャワー浴びて来なさいって、言はれた事」 「あぁー随分大胆な人だなとおもったよ」

 「ごめん そんなに悩んでいた事が有ったなんて!何の素振りも見せないから・・何も知らなくて、そう云えばヨシ子の悩み何も聞いてあげられなかったね、もっとも医者や医術の事など解らないけれど?」

 「リュウが居てくれるから、それだけでいいの!今は幸せだから!・・先ほども話したけれど、愛情は人を特別な存在に変えるよ」 「特別?」 「ええそうよ!リュウにもそのうち解かるわよ」

 「・・それで時何を得たの?」 「沢山の事!気付いたのよ、何が私に採って大切な事か!自分の信じた道を選びなさいって・・だから・・」

 「もういいよ・・自分でも解っているよ!出会い結婚子供ありふれた人生?」 「そうよ!きっとその意味が解かるわよ」 「そうかなぁ~ 」 俺は一体何処に向かい何処に行きつくのか?・・・

 「愛の意味・・結局生きてる意義は自分で見つけるものよ・・」 ヨシ子はその後の言葉を飲み込んだ多分 ”いつまでも甘えていないでよ” と云いたいのでは?と思った。

 尚もヨシ子は優しく 「・・もう一人ではないのよ、お腹のこの子も私もリュウが悲しめば一緒にかなしむのよ!私が悲しめばリュウ・・悲しいでしょう・・・それが愛なの!繋がりなのよ!・・・」 リュウ何故解らないの?と云う様な眼差しで見つめられた。

 単純すぎるそんな子供のお説教の様な事を言われてしまったが、それが正解なのかもしれない、なぜか今までのように心の虚しさや空洞は無く この安定感は何だ!一言々が心に沁みて満たされていた! 「・・・」 またヨシ子と共に自分の生きる場所を探すのか? ヨシ子の明るい声が 「さぁーいそいで!」

 その数週間後  ガアム島米軍基地へ三ヶ月程の出張命令が有り 俺一人で 厚木基地 より急遽軍用機でガアムに向かった!・・・・・

 ☆その後 支え合い許し合い 穏やかな普通の営みが続いた ある日 自分にとって本当の幸せが何んであるか知ることになる が!!・・・・☆ 

kitahara-22.jpg

 

          ストーリ【Story後編1】は制作中暫くお待ち下さい!


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編16】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

 ☆=ストーリ【Story前編15】からの続きです、是非下欄【Story前編16】をお読み下さい=☆

  《葉山・森戸海岸》

森戸海岸.jpg レーシング・チームへの報告も終わり俺は自宅マンションに向かったが、何とも寂しいそれにこんな気持ちでヨシ子にすまな過ぎる誰にも逢いたくは無く、首都高にて横浜横須賀線を何時もなら港南台ICから釜利谷JCTをへて堀口能見台ICで高速を降りるのだが そのまま通り過ぎ朝比奈ICから鎌倉へ向かった、鎌倉をも走り過ぎ海岸沿いに逗子をへて葉山の森戸海岸まで来ていた。

 森戸神社(森戸大明神)裏手から海辺の岩場に腰を下ろし、暫く静かに波打つ渚に耳を傾けた、俺の心にどんなに嵐が起こり荒れ狂おうが 自然や世間は何も変らない、何時かこの日が来る事を分っていたが 空しすぎる何とも寂しい 何が如何狂ってしまったのか? ぼんやり時を過した・・。

 以前の俺はただひたすらに目的に突き進んでいたのに、束縛されない自由な気持ちを求め自分の事意外は興味も関心も持たなかった。 だがそんな自己主義が通じる訳がない 何かが俺の中で変わり始めたのか?

 レースの為に美奈子やヨシ子生まれ来る子供まで目的の為にまだ懲りずに犠牲にしてどんな価値があるのか、ヨシ子を知り何かが俺の中で変わり始めたのか、今はそんな事を考える俺自身が恐いのか?自分の目標を守る為に非情になれない俺がいる。

夕日.jpg これまで必死に守ってきた物がと言えば自己主義過ぎて語弊があるが、すでに 横浜駅に立ち スポンサーを求むのプラカードを掲げられなかった俺は あの時から夢を失っていたのかもしれない 自分の好きな事の為にしてきた事だがそれほど俺にとってレースは意味が有ったのか? 今まで何も感じなかった事に大切な意味があり家庭を作り此れからの生活が重要な事に気が付いたのか? ・・ふん!今更何を言わんか!何時も何処かにエスケープゾーンを求めていたのに!

 俺の欲望と本心でない心を世間の常識の為にそんな振りをしなければならないのか?それとも俺自身の良心の呵責か!他の人達も同じ苦い味わいをしてきたのだろうか?俺だけは違うと思い込んでいたのに全て無意味な時を過したのか!

 俺は運命を乗り越え変えてきたつもりであったが、何も変ってはいない自分の選択を超えた何か ”宿業” とでも云うのか、それも運命なのか?いつの間にか引きずり込まれてしまう、人はどうやって、この苦しみを乗越え次に進んで行くのか?

 俺はこの気持ちをどう処理し、何処に収めるのか? 理屈では何の解決にもならない人間とは厄介な物だ、いや俺自身が厄介な人かも知れない、

 **人は生かされているとある見識者が物知り顔で語っているが、 俺は だからこそ 病や老い それに事故や自然の驚異に倒れるまで 自分の意思で生きていたい!**

 海岸袖の 俺が腰かけている 岩場付近に何処からか流されてきた汀の枯れ葉が、夕日に照らされ波間に揉みくちゃにされ 目の前で岩に当たりながら行ったり来たりしている、

 次に来るものが俺には痛いほど解っているから それが俺の実力なのだろう ただ認めたくないからだ、 俺の無能さを周りのせいにしているのか! あの枯れ葉の様にぼろぼろになる姿が怖いだけだ!

 この世に俺の生きて来た足跡や存在さえ否定され、あの枯れ葉の様にボロボロになり世間の冷たい視線を受けられるのか?、感傷的になっている俺には物の哀れを感じる。

 木の葉が青々と成長している時は希望に溢れ、突然の嵐に散ってしまった、その葉達はその役目に終わりも告げられず どんなに逆らっても流されてしまう。

 枯れ葉が川に流されあちこちの岩にあたり急流に飲み込まれ渦の中で翻弄され岸辺に留まっても、何れ大海原に流され朽ち果ててしまう。 あの一枚の枯れ葉が俺だと言うのか!それを運命と決めてしまうのか?・・・人生とは何って悲しく虚しいものか!諸行無常とは良く云ったものだ この世はなんと儚いものか!。

 何時の日か時が鎮めてくれるのか? 俺の目指し求めた物が崩れ目的を失ってしまった、今までの全てが虚空の中に引き込まれてしまう恐怖。 一体此れから何を求め何を生甲斐にすればよいのか、もう這い上がる事も出来ない深い淵、巨大なブラックホールに吸い込まれ押しつぶされ光まで失ってしまった俺にとっては敗北以外何物でもない!時は一時も止まらない事を悟る地点が何時も遅すぎる。

 勝手なもので自分が落ち込んでいる時だけ考えてしまう、この宇宙で地球とは人の感情や心に関わらず無常に自然の営みが行われている、其の中での人間とは?俺とは?何の役割があるのか?海斗の事を一つ採っても、俺には如何する事も出来ない、なんて不条理か!俺が生きている意味が有るのか?又進むべき道を失ってしまった!。

 それともヨシ子の言う人と人との繋がり、愛は全ての物を特別なものに変えてしまうのか?ヨシ子は・・ ”私にとって、リュウは最も必要で特別なぞんざいよ”

 だから与えられた時間を大切に・・そしてそれと同じように全ての存在に意味が有るのよ。 と言ったが、俺って一体なんなんだ!本当に何の意味があるのだ!全てが無意味に思える時がある。

 人はこんな時、勝手に神を作り上げ、勝手に恨んでしまう者なのか?ましてや神など信じていない、この俺が!愛に意味が無いとは言は無いが愛に甘えこじ付け、愛に救いを求めしまうのか。

 誰か教えてくれよ!運命に身を任せる気は無いが、運命に逆らう事も出来ないのか! ヨシ子が言ったとおり愛情は人を特別な存在に変える、ヨシ子に出合った事で運命が変ってしまった事も事実だ!

 そしてヨシ子はこんな事も  ”リュウ、神は宇宙の何処かにいる者ではないわ、其々の人の心の中に生まれるものなのよ、それは人々の願いが創り出した者なの”  そこを見失わないで。

 ・・・・”フフフ・・俺には三人の賢者も現れないし、特別な存在なんかじゃない俗物だよ!” フフフ・・・そんな事決まっているだろう、馬鹿な奴!なんてジョークな人生!

 本当にそんな簡単な事まで見失ってしまいそうだ!ヨシ子は生かされていると云ったが、俺は此処に生きている実感が欲しい! 全てを賭けたカーレースを失った俺に、これから何の実感が得られるのだ!

 暗黒の無の世界に何故か解らぬガスの様な素粒子が集まり、やがて巨大に圧しくされ耐え切れず大爆発(ビクバーン)を起し此の宇宙が出来、何千何万億年の時をへて、一つの星に水を与え、それは美しく青く輝き、沢山のハレー彗星の様な星により、アミノ酸をこの地球に振りまき、命に限りある生物を誕生させ、

 以来、その目的が何か解らぬままに、全ての生物が競い争って辺りを傷つけ生き残ろうとし、無常の自然に命を奪われ様とも、いづれ地球食いつくし破壊させても、飽き足らず子孫を作ってまで生き延びようとしている。 その為に仲間を作り、他の家庭やグループを味方にして、国を作り、又他の危険要因な生物や同胞までを裏切り排除する、そんな背信的努力さえも自然が破壊する、人間の飽くなき欲望は果てしなく続く、それが現実だ!。 そうまでして生きる意義はなんなんだ!このちっぽけな俺の生き甲斐さえも奪ってしまう、いかに慢心した俺を笑い飛ばすかのように、神など人の弱さが作りだした幻の産物だ!。

 そう思いながら生きている実感が欲しいだと!、矛盾だらけだ、俺の弱さなのか!何かに救いを求めている!それが神か?。 俺の価値とは何だ!人が生死を掛けた軍鶏や闘牛の戦いに歓喜する様に、愚かな人間の破滅への醜い戦いを何処かで楽しみ、全てを奪い去る事が神の目的か?自然にとって、人間の善悪は無関係、一番自然を破壊する人間は、神にとって一番の失敗作で有ったのかも知れない、それとも何時の日か宇宙をも変える存在なのか?。

 一体、人間って!俺はなんなんだ!、何の為に此の星にいるのだ、本当に何か意味が有るのか?悲しいかなこれが生物の生命体の宿命なのか!勝手なものだ、こんな時ほど取るに足りない俺のちっぽけな存在意義が問われる、答えなど見出せるわけがないと思いながら、それでは余りにも悲し過ぎる!。

裕次郎灯台.jpg 俺にとって大きな夢を失ったが、愛にトキメキ、愛を見つけ、情熱的で、かけがいのない愛、ヨシ子を心から愛し、もう失う事など出来ない、そして、命の尊さを海斗を通して教えられ、愛する人を悲しませる事など出来ない!、・・出会い、結婚、ありふれた家庭を作る事、これが運命なのか? 女は強い優れた男を選び求め、それを得られたらその強さを他の女に向けさせずに抑え、その矛盾を見事に操り自分を守る! 子供の誕生、時々神秘の衣に包まれる、急ぎ過ぎたのか?俺は一体如何すれば良かったのか?。

 やはり、俺は、流されて生きる事は苦痛だ!生甲斐、生きている実感、証が欲しい!

 日も暮れ辺りを紅に染め初め、黄金に変る、その変り行く海の美しさに見入っていた、美し過ぎる光景もやがて茜色変わり終止符がくる!意味も無く、涙がこぼれそうになる・・・。

 目の前の波打際の砂浜を若い恋人らしき二人が、移り変る夕焼けに女性が男に向かって 「ワァー凄い!綺麗!ねーみてみて綺麗でしょう」 感動の声を上げ楽しそうに通り過ぎる、何故かいっそう空しく遣る瀬無くなる!

R & Y 膝枕2.jpg やがて、深紅の空も暗くなり始め全てを飲み込む様に暗闇が俺を襲う、

 何処からか?ヨシ子の声が聞こえて、顔が浮かぶ、今は、ただヨシ子の胸の中で眠りたい、・・・・ ”リュウ膝枕する!そんな顔して、如何したの?” ・・・ヨシ子が笑顔で語りかける、そんなフレーズが思い浮かぶ・・俺は心の中で呟き ”何時まで引きずっているのだ!駄目な俺、さぁー帰ろう!・・あまり遅くなり心配させてはいけない” 家路に着くことにした、やはりカーレースに未練が有るのかな?

 帰途のドライブ中、ふとヨシ子の事が気がかりになっている自分に気付いた、俺は自分の事ばかり考えて少しもヨシ子や生まれて来る子供の事を考えていなかった事に気付きハットする思いを感じた、愛する人の為に喜びを感ずる事が出来ないのか!ヨシ子の言う様に俺は子供過ぎるのか?。

   《金沢文庫、柴町 自宅マンションにて》

 あんなにヨシ子に会いたく安らぎの家なのに、何故か今日に限って重苦しく足を踏み込む事を躊躇ったが、マンションにもどり誰よりも心配しているヨシ子に一部始終全てを隠さず報告した。 ・・家事や勉強している時のヨシ子は何時もポニーテールにしている、その髪をなびかせ振り返り

 「遅いから、心配したわ!」 「うん」 「それで、美奈子さんにも会えたのですね」 「あぁ、偶然ね、でもちゃんとヨシ子と結婚の事も話して来たよ、大分元気で安心したよ」 ヨシ子俺を何時もの優しい目で見詰め 「そうですか」 ヨシ子が、何を感じ何を思っているか解らないが美奈子に関しては、俺に気使ってかそれ以上の質問も意見も一切触れなかった。

 しばらく沈黙の後 「スクールの企画ね、やって見たらどう?、何か次の目標が見付かるかも知れないわよ、其れだけでは無いわ、リュウの今まで車での知識生かせるでしょう」 「うん、そうだね」 「私、スクールの教科書見たんだけれど、素人でももっと確りした物が有った方が良いと思いましたよ」

 「スクール立ち上げたばかり、殆んど監督一人で創り上げた見たいだよ・・あんなに短い間にヨシ子は良く見ているね、凄いよ経営アドバイザーになれるね」 「そんな事ないわよ、ただリュウなら車に関して経験も豊富だから生かせると思って」 「そうだね考えて見るよ、ただ俺のめり込むタイプだから迷惑掛けると思うよ」

 ヨシ子は此方に向き直り 「やっと解ったわ!リュウを好きになった理由、貴方が誰の邪魔も払いのけ自由に何かの目的に取り組んで、あの危険で生き生きした目が好きだったのね!其れが家庭を壊す事も感じていたけれど、おかしなものね他の若者達には無い危険な者をリュウから感じたのよ」 「俺を選んだ事失敗したね、先生の血が騒ぎ俺を見捨てられなかったんでしょう」

 「そうよ!でもそれ以上にリュウの事、愛してしまったのよ、此の気持ちどうにもならないわ」 「今の俺何処を突いても、もう何もないよ!空蝉だね」 「そんな突いたら粉々壊れそうな人嫌いよ!リュウはそんなんじゃないわ」 「・・・」 「そうだ!だったらリュウの辛い経験を生かして生徒達の為にも、スクールの企画初めて見たら」 「うん、やって見ようと思っているよ・・でも俺と同じ思いをする人を作るだけだよ」

YOSHIKO2.jpg 本を手元に置いたヨシ子を見て 「そういえば、俺の事より、ヨシ子の心理学の勉強の方は順調なの?、自分の事で一杯で何も聞いてやらないでごめん」

 「大丈夫よ、でも此れほど難しいとわ思わなかったわ、一つの物に単純に当てはめられる物では無いから、学べば学ぶ程考えさせられ意味深い物なの、学んだ事をどの様に生かすか携わる人の理解度も有るが人としての経験も有ると思うし、最近直ぐに薬に頼る傾向に在るけどもっと心のケヤーをする必要が有ると思うわ」

 「だろね、人の心理は複雑だよ、其れを必要なデーター集め当てはめて平均を出しているだけ・・素晴しい先生との違いはその現実の問題だけでは無く、その人の幼い時からの環境や生活等も含め、分析力と経験、応用力、其処だと思うよ、レースだってそうだよセオーリや道理だけじゃ勝てないよ、レースコースの変化、設置場所、マシーンの状態、タイヤの磨耗、気候、温度、対戦レーサーの心理、一つの物でも此れだけ診方があるよ、況して人に到っては色々な複雑なケース、環境や境遇、体験を経験しての総合的判断だよ、精神的問題は特にそうだと思うし、何でも知れば知るほど奥深いものだと思うよ」

 「リュウは実際にレース体験しているしその通りだね、説得力あるわよ、私もそうだけれど女性は特に単一思考になり易い処が有るから、簡単に決め付ける事は出来ないわ、薬で一時的に抑えても反って心の反発が強くなる場合もあり、心の奥底に触れる事はなかなか難しいわ・・ リュウにこんなアドバイス受けると思わなかったわ」

 尚もヨシ子は真剣に話を進める・・「ただカー・レースでは人や車を追い詰める事でしょうが・・人生はそれが正しいからと、とことん人を追い詰めては駄目なの逃げ道も与えなければならないの・・前にも云いましたが特にリュウ自身もそうよ、それが自分をも追い詰める事になるのよ」 もっともだと思った 「うん、そうだよね痛い所付くよ!」

 美奈子にも言われたばかりだ、たぶん、現在の心理学は頭の良い専門家が何人も集まり何年も研究し分析し実際にテストを繰り返し作り上げた事だろう、納得出来る所も沢山あるがそれを扱う人にも大いに左右される事と思う。

 ヨシ子は理論で語りあったらたぶん俺を簡単に負かすだろう、だが決して理論を振りまわさず偉ぶらず素直に聞いてくれる俺の好きな処だ。

 ヨシ子は優しい眼差しで俺を見詰め 「ごめん少し気になったから、リュウ一人だって子供と言うか青年みたいな良い所有るし、反面頼れるし未知で不思議な処があり其れだけでも解らないのにね、アハッハァ!本当に難しいわね」

 俺の気持ちを擦るのが解るだけに もやもやした気持ちをぶっつけてしまった 「こんな 自分の生き方さえ見失った俺なんか 頼れる訳が無いだろう!」 「今は疲れているからよ 少し休んだら?」

 「そうだよね 俺なんか単純だよ、ヨシ子のオッパイだけあれば、其れで幸せだよ、それが解っただけでも、進歩だね」 何かごまかしのように放った言葉だが、ある面本音かもしれない。

 ヨシ子は笑顔で 「リュウたら私のオッパイだけ!人格は無いの?オッパイに顔でも描こうかしら・・解っているわ」 ヨシ子はおどけた表情を作り 「でも、ほかの人のオッパイに、のめり込んでは駄目よ、毒に当たるわよ」 俺も驚いた表情を作り 「オッパイに顔!面白い事云うね」

 ヨシ子は少し拗ねた様に 「だって、リュウは人格無視の様な事云うから」 俺は慌てて否定した 「それだけじゃぁ無いに決まっているでしょう、本当に毒に当たるのかな~?恐いね!」 俺は内心人の顔にそれぞれ違いが有るように、オッパイも其々違いが有るのにと思ったが "それを言っちゃぁお終いよ” 何故かトラさんの決め台詞が思い浮かび慌てて飲み込んだ。

 ヨシ子、茶目っ気たっぷりの表情で、手のひらを広げ指先をくの字に折り曲げ、もぞもぞと俺の腕の皮膚をなぞりながら 「本当よ 恐いよ~、ウフフゥ体中にアレルギーが出るから大変よ!」 俺は体をひねりヨシ子の可愛い攻撃を避けながら 「おぉー!鳥肌立つよ、よせよ!」 今度は真面目顔になり 「それでね、赤ちゃんは母親からのオッパイで免疫をむらい受け強くなっていくのよ」 

  「あぁーそれで、俺もヨシ子のオッパイから免疫むらっているんだ!」 そうーよと言う顔で 「私もリュウからの免疫頂いたから、多少の事は大丈夫になったわ」 「確かに、ヨシ子は以前こんな事云なかったのにね..変わったね、その方がもっと好きだよ」

 ヨシ子真面目な顔になり 「角が取れたかなーって思っている? 冗談はともかくゼミや勉強会は部長が理解有るから、スケジュール上手く組んで頂いているの・・患者さんが最近よく言うのよ、”先生、結婚してから優しくやわらかくなりましたよ!” だって、此れもリュウの影響かな」

 「俺の影響か?ヨシ子は自分に厳しいから、知らない人は冷たく感じるかも、俺も初めは冷たく感じたよ、でも良く話を聞く内に優しい人だなって思ったよ、だから好きになったの」

 「本当に?嬉しいわ!、私達、医者は大勢の患者を扱っているうちに麻痺してしまい、余り個々には、聞いて上げられない時もあるの、ましてや大学病院では責任も分散されてしまうの、でもそれではいけないの、この頃、心理学の影響もあるけど患者にとっては病気を治す為とは言えどんな手術であっても、体を傷付ける事になるし、かけがいのない命、人によっては冗談みたいに誤魔化していても本人にとっては本当に恐ろしい事、そうしたことも受け止められるようになったしこれらは教科書では得られない事ですね、リュウが色々な人と会わしてくれたから」

 「そうだよ、柄が悪くて話す事が下品な人も、親しみからで凄く心が優しい人も沢山いるよ、水の中に入らず、水泳を教える様な物ではね」 「ええ、少しずつ解ってきたわ、頭だけではなく皮膚感覚や体験も重要ね」

 「先ずは、相談者が本当に心を開いて居なければ、なかなか掴みづらいよ」 ヨシ子俺を改めて見詰めながら 「人間の心理って不思議よね、病院に来ているのに痛みや病気を隠し検査を受けたがらない人、やたら病気にしてしまい思い込む人、本当に難しいわ、本当にリュウって急に立派事言って大人なのか、頭が良いのか全然子供の様な処があり解らない人ね、だから好きなのかな?」

 ヨシ子は続けて真剣な面持ちで・・ 「ねー、リュウにシリアス(serious)に尋ねたいけど」 「改まって なに?」 「もし私が癌等で、リュウの大好きなオッパイ無くしてしまっても変らず愛してくれるの?」

 「なに、急に?そんな事ありえないよ」 「将来、何が有るか分らないわよ、・・リュウ真剣に考えてみて」 「そりゃービックリして驚くよ、初めは、とまどうけれど、それで命が助かるなら、その方を選ぶよ」 ヨシ子じれったそうに 「そうではないの、そんな一般的答えは要らないの、其の後同じ様に愛せるの?」 俺も力を入れ答えた 「だから、初めは戸惑うといったでしょう、ヨシ子を失うより良いよ、オッパイだけじゃないよ、ヨシ子が一番解っているでしょう」 「でも、実際にそうなったら」

 「いい加減にしろよ! 俺がそんな事で変わるとでも云うの・・それこそヨシ子自身の問題でしょう、現実を確り受け止めて、それでも誰よりも凄く女で、いようと思うヨシ子で変らず女性でいてくれたら、乗り越える方法はいっぱいあるよ!そんな傷位でヨシ子みたいな良い女が変わる者じゃないよ、前にヨシ子が言っていたでしょう」

 「そんなにおだてないでよ、・・たぶんリュウなら ”人のせいばかりにしないで、自分の生き方や考え方もあるのよってね” リュウがそう云うって解っていたわ、確かめたかったの、これで患者さんに向き合えるわ」 「おだて、じゃぁないよ本当にそう思っているよ」 「ごめん、ありがとう」 ・・ヨシ子の事だ!もしかして俺に傷ばかり舐めていないで、次に進みなさい、早く気付きなさいと間接的に云っているのかも、・・

 「最近よく、夜遅くまで勉強しているから、病院の仕事、休みでも呼び出しが有るし、夜中でも行かなければならないし大事な体、気を付けてよ」 「何時もリュウに送って頂き助かるわ、今の病院、此れでも女性に優しい方よ」 「妊婦の休暇は無いの?」 「病気では無いのよ、動ける内は動いた方が良いの、リュウは心配症ね、大丈夫よ時期が来たら休まして頂ますから」 「ようやく、二人少し静かにいられるね」 「本当ね、少しゆっくりしましょうね」

  「何か格調の高いゆったりした音楽聴くと、お腹の赤ちゃんに良いんだって」 「そうですよ!リュウは子供の事になると夢中ね、フフ、私もかまって欲しいわ」 「俺の方が云いたいよ、ヨシ子は勉強ばかり、たまには俺をかまって!って・・本当に冗談では無く体の為に少しは休みなさいよ!」

 ヨシ子は本から目を離し向きを変え、俺を見詰めながら 「はい、ありがとう・・処で美奈子さん、心臓の方はどうなの?」 やはり、医師として気になるのだろう 「軽井沢の気候が良いから、大丈夫の様な事言っていたよ、あまり詳しくは」

 ヨシ子は椅子から立ち上がり、俺の目を真っ直ぐ真剣な眼差しで見詰め 「そうですか、そろそろ本題に入りましょう!、リュウ、もうお互い避けては通れませんね、ハッキリ云うは、美奈子さんの事とスポンサーの件、私の立場を考え、本当はリュウが一番心苦しく許せない問題、心が束縛され何時も心に残って晴れ晴れした気持ちを味わえない事、それでもリュウに取ってレースが全て、今もって不完全燃焼である事痛いほど解っていたの」 今までのヨシ子の思いを吐き出すように話は続く

・・「だから、いけないと思いなが本当にこれで良いのかって?リュウに何回も聞いたのよ、それが反って苦しめる事も知っていたわ、ビジネスだからと割り切れない理由がリュウにはあるのよね」・・「リュウに・・ ”じゃぁ俺は如何すれば良いんだよ!” て聴かれても、私応えられないが、リュウもハッキリする時期ですよ。

 そうーね、例えは違いますが、私達、医師も全ての患者、助けられる事が、出来ないのよ、私、気持ちでは解っていても、初めは凄く空しく敗北感を覚えたわ、他の優秀な医師だったらって、私だってリュウの考えや悩んだ事、私も考えたわ。

 人は何の為に生きているのかって?皆突き当たる事よ、雄大な自然の前では皆無力なのよ、世間の皆、もっともらしい理由など言うけれど誰も明快な答えなど無いのよ、それが本当の処だと思うの、リュウも今回そうだと思うわ、でもねリュウは私に云ったでしょう、出来る事をやればいいって!、自分の事になると判らなくなるのね」

Yoshiko3.jpg 尚もヨシ子の話は続く 「くどい様だけど本当に、このまま二人の為に進めて良いの?・・リュウ!貴方がどんなに平常心を装っても、私には痛いほど解るの、リュウの夢を壊したくないと云いながら、かえって、私、辛いのよ、私の為に犠牲になってリュウの自由を奪っているのよね!リュウがどんなに苦しんでいるか!私、解っているわ!私、リュウの誰にも束縛されない、伸び伸びと輝いている、そんな生き方と姿が大好きだったのに、私自身が壊してしまうなんて!思いも寄らなかったわ、

 だからなお更辛いの リュウ優等生ぶらないでよ!あの逗子の海岸で初めて私に話した時の様に あの自信に溢れたリュウは何処に行ったの!・・私に何もかもぶっつけてよ!私も一緒に泣く事しか出来ませんがね あの時のリュウの方が人間的で好きだったわ!・・またリュウが迷い悩んだあの時 ”チームを変りなさい” って云えば良かったの?」

リュウ正面1.jpg 「なに云っているの!そんな事出来る訳ないだろう!」 「そうよね、リュウはもっと傷つくわね」 「じゃぁ!もし俺と別れてくれと云ったら、如何するの!」 ヨシ子は険しい顔をして 「そんな事いやよ!出来るわけ無いわ!たとえ子供が出来ていなくても別れる事など出来ないわよ..リュウのぬくもりを知った今、もう出来ないわよ」

 「俺だってそうだよ!、沢山悩んだよヨシ子と出会無かったら違った道が有ったのかって?、俺はね、みなと未来のラウンドマークタワーでヨシ子に遇った時、初めてレース以外の事が、如何しようもなく気になったんだ!もう、ヨシ子のいない生活なんて考えられないよ!本当にいいんだよ、全て終わったんだよ、考えてみれば美奈子さんが病気になった時に、俺のレース人生は終わっていたのだよ、仮にヨシ子に遇わなくても、いやヨシ子に遇ってどれだけ救われたか!」

 「リュウ、もういいのよ、貴方は大バカよ、正直になって!私の為に何も云えないのよ、だからと云って私から別れることなど出来ないわ、私どうしてよいか分らないし如何する事も出来ないのよ!」 「それって、俺に決めろとでも云いたいの!」

 「そうよ!後々私や子供の為に犠牲になったって云はれたく無いの、もともとリュウには家庭を作る事、早かったのよ!それで何時か二人が駄目になるのよ、私、リュウの事になると冷静でいられないの、カウンセリングの勉強してもリュウに関しては何にもならないね」

 初めて心からヨシ子とぶつかり有った様に思えた 「そうだよ!ヨシ子のせいだ!って云えばいいの?それで全てを失えばいいの? ヨシ子だったら、俺など充てにしなくても一人で子供を育ていけるだろうよ、でもそんな馬鹿げた事出来るわけ無いだろう、男は正直、子供の事は生まれて一緒に育て初めて愛情が湧くものだと思うよ、本当に子供を持つ実感余り無いよ、でもねヨシ子と付き合い始めた頃、セックスと子供に就いて話してくれたから、そんなに無責任じゃあないよ、だから話した事が全てだよ、そんな事とは別だよ」   

 ヨシ子は俺の顔を覗き込む様にして 「リュウそれと私達の事とは違うのよ リュウがそんな無責任と思ってもいないわよ だからこそ云うのよ、それだったらこんなにリュウが悩む訳ないでしょう、私が子供を望んだ事よ ただリュウの夢壊したくないから」

 「その事は、誰のせいでも無いよ、俺の中でもう望みが無い事は痛いほど解っていたよ、みんな俺が招いた事もう、とっくにレース諦めていたのに、何処かで何とかならないかと俺の未練、せめて国内だけでもと思ったから、前にも云ったと思うが、たった一回位の優勝では誰も認めないよ、例え年間チャンピオンになったって如何にもならないよ。

 スターに成るには、レーサーは才能実力が有って当然 後はお金と凄腕のマネージャー それに人の持つ運だよ! 其れが全部揃はなければ駄目だよ 本当に一握りの人に与えられものなの、だから・・せめて自己満足の為だよ! ・・・それより心から安らぎを感じられ どんな俺でも受け止めてくれるヨシ子に出会えた事、本当に俺の救いになったよ・・これからもだよ!  ただ レース一筋に十年以上生きて来たのだよ それだけ思い入れも有り戸惑いもあるよ、切り替えるには時間が必要だよ」

 ヨシ子は険しい目を向け 「自己満足の為?全部うそよ!夢を追って輝いていたのに・・そんな貴方が好きなのに・・私自身が壊してしまう事になるなんて!」 俺は答えが見付からなかった 「・・・・」 暫く沈黙が続いた後で、ヨシ子が口火を切った 「思う様に成らない物ね ・・解かったわ もう本当に二度と云いません 本当にそれでいいのですね!」

 ヨシ子も俺れ以上に悩んで来た結果だろう、この一緒に泣く一言が俺の心に響き沁み込んだ 苦しみも、痛みも、悲しみも、喜びも、全て貴方と一緒よと俺に伝えている、俺は余りの悲しさに なんって自分勝手にヨシ子に甘えきっていたのだろう取り返しのつかない間違えをするところだったのではないだろうか!

 俺の心の動きを全て感じ取って、ヨシ子と付き合い初めの頃 ”美奈子さんに会って来なさい” の言葉を思い出す、スポンサーの件も含め、俺の性格を知り、どれだけ悩みレースを辞める事にしたか本当に良く理解している、俺が今回決着を付けたことで、どれだけ気が楽になり自分自身で居られる事か、反面常に中途半端で燃え尽きたという実感がない事を良く知っていていたのです、改めてヨシ子は俺を心から理解し俺を守ろうとしていた事に触れた思いでした。

 俺は全ての思いを断ち切る思いもあって 「迷いながらレースしても良い結果が生まれないよ、それより危険だよ!、何れこの時が来るんだよ!其れだったら、早く切り替えた方が、横須賀基地の仕事、今は必要で望まれているから、これで本当に良いんだよ!これで次に進めるよ、..俺はね、何が有ってもヨシ子とお腹の赤ちゃん失う事など出来ないよ、今までヨシ子に肩身の狭い思いをかけていたね」

 ヨシ子は優しく俺を見つめ、ゆっくりあゆみより 「そんな事は無いわ、リュウは私に決してそんな事、少しも感じさせなかったから・・リュウは本当にバカよ、優しいね、そんなに想われていて嬉しいわ!私もよ、リュウを失うことなど・・絶対出来ない!」 解った、と言う意味だろう、ウンウンと背に廻した手で二度ほど軽く叩いて、俺を優しく受け止め 「リュウ、夕食も取らないで!お腹空いているんでしょう?」

 俺は何も云はずに、ヨシ子の胸に小刻みに幾度となく頭を打ち付ける様に押し付けた、ヨシ子も黙ったまま、俺の背中に腕をまわし抱き締め 「本当にいいの?リュウの後悔の無いように好きな道を選びなさい、死んでいるリュウなんか見たくは無いわ」 ヨシ子は誰かの力を借りなくても一人で生きていける人だ、どんな気持ちで言っているか俺には痛いほど解っている、これが人と人の愛と言う絆だろうか?

 どれくらいの時が過ぎたのだろう、こんなに安心出来る処が他にはない、ヨシ子を失う事など何が有ろうが絶対に出来ない、俺は目の前の大事な幸せが見えなくなって見失う所だった、俺は呟くように 「もう大丈夫だよ」 ヨシ子の目にも涙が光って見えた 「うん・・いいのね、さぁー手を洗って来なさい、直ぐに支度するからね」

 ヨシ子は口にはしなかったが美奈子の事も含めての事だろう、俺は思い出したように 「如何して、お腹空いている事判るの」 ヨシ子は俺に感づかれない様に急いで後を向き涙を拭き取り「其れくらい解かるわよ、リュウの全てって云ったでしょう リュウは連絡もしないで 勝手にしないから私も待っていたのよ、食事温め直すからね」 俺はその場の雰囲気だろうか 何故か「ごめん」 と云ってキッチンに立つヨシ子を目で追った、その何でも無い様な会話と後ろ姿に何故か安らぎを覚えた

 夕食後 二人はどちらかでもなく散歩に行こうと、連れ立って手を確り握り合い月明かりの海の公園を言葉少なく寄り添いながら散歩する、呼吸に合わせた様に渚の音が静かに響く。 俺は改めて実感する ”このやすらぎだ” 想わずヨシ子を引き寄せ抱締めたヨシ子も無言で応じてくれた。

 俺はこの安らぎを求めいたのに、不思議で厄介なものだ、幸せの中にどっぷり浸かり当り前になってしまう事を何処かで弧絶しているのか、何故かこの安らぎの中で安穏している事に不安で恐くなっていた、俺の戦う本能が、この幸せを壊してしまうのか?

 ヨシ子は俺の不安を察したのか 「リュウ..私はリュウを縛り付け様とは思っていないわ、本当にリュウの進みたい道に進んで欲しいの、でもね互いに休める場所が有る事が大切な事と思っているの、私だってリュウに甘えたい時も、助けて戴きたい時もあるのよ」 「うん・・・全部を得られる事なんか、無いよ何か上手くいかないね」 

 八景島の柔らかな月明かりに微かに浮かぶ渚に、二人のシルエットが揺らぎながら微かに浮び上がらせては消える、何か幸せの風が漂っているかのように。 ・・・其の後、静かな穏やかな一週間が過ぎ、結婚式を迎えた。

タッチおじさん ダヨ!.jpg  ストーリ【Story前編17】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16是非お読み下さる事お願い致します


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編15】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

 ☆=ストーリ【Story前編14】からの続きです、是非下欄【Story前編15】をお読み下さい=☆

    《スポンサー東京駅》

  東京駅絵1.jpg翌日、約束の時間に東京駅近くの元義父の会社の受付で面会をお願いし、女性の秘書が出向いてくれた 「社長から聞いております、どうぞこちらに」 と丁寧に俺を社長室まで案内してノックしドアを開け俺が来た事を告げた、

  奥の大きく広々としたデスクの前に立ちながら 「健司君、入り給え」  社長の威厳のある声が聞えた 「はい 失礼します」 と俺は深々と頭を下げた、 俺の姿を見るなり社長の顔がほころび 「健司君優勝おめでとう 初年度なのに大分活躍だった様だね、うちの営業の者から逐一報告を受けているよ 事故での怪我が無くて良かったよ」 俺は社長の目を確り見ながら 「はい 事故の時には大分ご迷惑をお掛けしました 色々と有難う御座いました」  もう一度深々と頭を下げた。

 此の社での俺は今と成っては随一ビジネスに関わらない人かも知れない、俺を見詰める社長の目と声は優しさを漂わせている 「健司君はお昼まだだろう?どうだ!寿司でも食べに行くか」 其の前に俺は大事な話を終わらせたかった 「はい其の前に 今年のレースは御蔭を持ちまして無事終わりましたが・・私!」

 話が長引くと感じたのか 「そうか来年の事か?まーぁ座りなさい!」  社長の大きなデスクの前には高級そうな深々とした長椅子などの応接セットが備えられている、 俺はこれからの話が重要な事 社長の進めには応じず その場に立ったまま緊張した思いで応えた 「はい 其れもあるのですが・・私からお願いして大変申し上げ難いのですが、今期 此れを限りレースを辞める事にしたいと思いまして・・何時も勝手なお願いで申し訳御座いません」 

 社長は予想とは違った言葉に驚いた様に暫く考えを探している様子 「・・・また!何か有ったのかね 始めたばかり此れからだろう! 事故の事か?」 呟く様に「・・・それ」無視しする様に「予想以上に活躍していると営業の者に詳しく報告は受けている 遠慮はいらんよ・・事故の件か? それとも・・?」 何故か社長は言葉を止めた!

 一番言いづらい事から報告しなければ 俺は思い切って切り出した 「いいえ ・・事故ではレース出場出来ず 尚私への怪我の気使いまでして頂きご迷惑お掛けしましたが・・」 言葉に詰まった俺をせかす様に「それで?」 俺は一息入れ意を決して 「・・私 ・・結婚するので!」 社長はそれほど驚いた様子もなかったが、暫らく沈黙の後 「・・・そうか娘の事を気にかけているのでろあろうが 美奈子と離婚しているのだから君の自由だよ 其れとは別の話 私は何も云うつもりは無いよ」 「・・・」 俺を気遣ってか 「娘から頼まれたとは言え 公私混同はしないよ」「はい 有り難うございます」

 意外とあっさりした対応に驚いたが、それも当然スポンサーである社の営業部員が細かく報告していた事だろう、 俺は社長に負けない様に力を入れ 「此方からお願いして真に言いづらいのですが」 「それで」 社長は俺を急かすように尋ねた、俺は少し途惑いも有ったがはっきりと答えた 「二度とお嬢様の様に悲しませる同じ間違えはしたくないと思いまして」

 社長は穏やかに 「まぁー 其れは君がレースをしていなくても美奈子が病気で 正常な夫婦生活が出来なかったから仕方ない事だよ、初めて美奈子の発作が起きた時から、大分重症で安静が必要と担当医から告げられていたからな」 「ええ ・・」 「それより君がトラウマ・・いやいい・・」 「何でしようか?」 レースのスポンサー 今回の君の結婚で壊れるとでも思ったのか? そればかりでは無く・・・ それより夫婦に限らず人間関係にとって重要なのは信頼・・ 

・いや!何でも無い家の娘は特別なケースだよ」 「・・」矢張り年の功 理解していたのだ 「当時家内からも娘の病気で君に夫婦生活は無理だから、何時でも離婚しても良いと伝えたはずだよ」 「はい聞いていましたが でも私達二人で頑張って行こうと・・でもご存知の通り結果は惨めな事に・・・ご迷惑おかけしました」

 「君達は若さ故に・・まぁーいい 悩み苦しんだ事 美奈子だけでは無く君も同じだろう、美奈子を通して解っているつもりだが?・・・一度は義父になったんだ、此れも何かの縁 遠慮は要らんよ」 俺は凄く嬉しく思ったが 俺は今のヨシ子の為と言うより反面それが重く苦しく感じていた、 社長は俺の気持ちを察してか 「此れは あくまでビジネスだよ」

 義理の父に甘えるのでは無く、俺自身許せない思いがヨシ子を知ってから日に日に強くなった、ヨシ子と知り合う前とは言え、単に一個人のレーサーとして援助を受けたかったが何処にも頼る処が無く此処を訪ねてしまった、一企業の広告搭として勝手なものだ世の中そんなに甘くは無いよな!これは社長より俺自身の心の問題だろう、後々の柵が恐いからだ本当に自分勝手な言い分と思ったが、

 叱られるのを覚悟で当って砕けろだ!言ってみるしかない 「はい!ありがとう御座います・・レースを始めたからには上を望みます、自分で言うのはなんですがこれ以上は世界が目標になります」 途中躓きが無ければと言いたかったが、飲み込んだ 「ですが私の歳もあるので限界を感じました、此れ以上ご迷惑を掛ける訳にはいきませんし考えられません・・其れで切り替えるのなら少しでも早い方が良いと思いまして、本当に身勝手で生意気な事ばかり言って申し訳有りません」 俺は気持ちを込め頭を下げた、

 暫く考えている様子、裸一貫で此処まで昇り積めた人、慧眼が鋭く多分全てを察している、それに懐の深さを感じこれが企業を大きく育てたのだろう。 ・・俺の性格でレースの事では限界などと決して云わない事を、何か別の理由が有ると思ったのか 「そうか頭を上げなさい、健司君が其処まで言うのなら余程考えての事だろう、解った!」 俺はもう一度深々と頭をさげ 「本当に勝手ばかりで申し訳ありません」

 社長は穏やかに 「そうか話は違うが、まだうちの会社に来る気は無いかね?娘の事と関係なく、私は君を見込んでいるのだよ」 俺は叱られると思ったが、以外だったどんな考えがあって言っているのか俺には測り兼ねた、だがそんなに割り切れる物ではない、その優しさが反って俺には耐えられない。

 「本当にありがたいのですが、今までお世話になった所で、公務員として雇用していただけそうなので」 「ふむ・・そうだろうな、やっぱりむりか!」 「それに厚かましいのですが、お世話になったチーム来年のスポンサーの件で今度はチームとして監督と後ほど伺わせて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」 「そうか解った!監督と連絡を取り説明に来なさい、どれだけ協力出来るか判らんが営業の方に伝えておくよ」 「有り難う御座います」 「それに何か有ったら遠慮なく相談に来なさい」 「はい・・有難う御座います」。

 其のとき社長のデスクの電話がなった、社長受話器を取り言葉少なく 「そうか、此処に直ぐ来るように伝えてくれ」 「お客さんですか?じゃぁ私は・・」 受話器を戻しながら改めて俺を見詰め 「良いんだよ、丁度三日前、美奈子が軽井沢から此方に戻っていてね、何か買い物で一週間ほど家に居るそうだ、今下の受け付けに来ているよ直ぐに来るから待って居てくれ」

 ・・!俺は驚きと急な事で、何か落ち着かずその場を行ったり来たり!そわそわしていた・・、 俺の気持ちを察したのか 「健司君落ち着きなさい、あんな美奈子の一方的な別れで余り話していないだろう、良い機会だ、二人できちんと話しなさい」 それでも俺は落ち着かず二人に気まずい沈黙があった、

 暫らくしてドアのノックの音がした・・社長、落ち着いた声で答え 「入りなさい」 美奈子ドアを開けながら 「パパ食事・・あっ!」 入って来た美奈子と目が合った、意外な出来事に驚いたのであろう、美奈子は大きな瞳を益々大きくして暫く胸を押さえ、その場に立ち尽くし暫く俺と見詰め合ったままだった、あの繊細で壊れそうな美奈子は別れた頃より顔に赤みがあり健康そうに見えた。

 俺も驚きを隠せず胸がつまり、何から話したら良いか戸惑った 「久ぶり・・・あ、あのーう、病気は・・どうなの?」 何故か焦り言葉に詰まりながら問い掛けた、相変わらずヘアーはショートカットで、クリスタルの様な繊細な体とあのクリクリした引き込まれそうな瞳でじっと俺を見詰めながら美奈子も驚きで言葉に詰まって居る様子だったが・・明るく 「あ、はい、大分良くなりました健司さんは?」 相変わらず、静かで清楚な人だ・・改めて感じた。

 二人の会話から感じたのであろう、社長は 「そうだ!君達二人で下の寿司屋に行って来たらい良いよ、予約入れてあるからそうしなさい」 多分俺と食事をするつもりだったはず、何故か慌てながら俺は 「いいえ、私は帰りますから」 社長は押し付ける様に 「いいから!きちんと話して来なさい!、私は別に出かける処があるから・・そうしなさい」

 美奈子に俺の口からヨシ子との結婚の事、話しておかなければならないと思い、考え直しもう一度社長に深々と頭を下げ 「はい、有難うございます」・・「では、そうさせて頂きます」 社長にお礼の頭を下げた 「うん、そうしなさい!私も今から出掛けるから、あぁ!今日は社に戻らないから、美奈子の話明日にしなさい」 社長は何処かに出かける予定があるのだろう 「はい!お父様」 それは物静かな優しい声であった、

 俺は改めて社長に頭を下げ 「ミーコ(美奈子)行くよ」 と、美奈子を急かす様に、当時、結婚以前から美奈子の事を ”ミーコ” と何時もそう呼んでいた、 とにかくその時はその場から早く立ち去りたかった、無言で美奈子は俺に従って後に続いた。

八重洲口寿司店.jpg 社長に指定されたビル内の寿司屋に入り、・・いらしゃーぃ・・あぁ、店の主人らしき人が美奈子の顔を確認したのだろう 「社長さんから連絡有りました」・・奥の席に案内され 「何にしますか?」 と俺に尋ねた 「とりあえずお茶と二人共、お刺身定食!適当に見繕ってください」・・ここの店主は美奈子の好みは解っていたので 「ミーコ(美奈子)いいよね」 美奈子は笑顔で店主を見て 「はい、お願いします」

 美奈子は改めて、俺を見詰め相変わらず静かな口調で 「・・元気そうね・・ちゃんとバランス良く食べているの?野菜も採っている?それにその服装・・洗濯はしている様ね」 美奈子と知り合った頃の俺は車に夢中で服装などお構いなしで、美奈子は何時も清潔に気使っていた、

 相変わらずゆったりとした優しい話し方で触れれば壊れそうな透明で繊細なクリスタル細工の様な美しさだ、やはり嘗ての妻と改めて感じていた、互いに言葉は少ないが、互いに深く愛すればこそ苦しんだ日々の重みを痛切に感じていたし 今でも直ぐに元の生活を取り戻せるのではないかと思えた。

 「うん、大丈夫だよ・・スポンサーの件お父さんに聞いたよ、力になってくれて有難う」 「そんなこと!いいのよ・・」 「・・・」 「それより、何も伝えず家を離れた事、許して下さいね」

 美奈子は小声で自分自身に呟く様に言った、その現実離れした雰囲気となんの翳りも汚れを知らない大きな澄んだ瞳に見詰められると異次元の世界に引き込まれてしまいそうだ 「うん!もういいんだ・・ミー子(美奈子)が苦しんで俺の為に出した結論だったと思っているから・・それが正解だったかもしれないよ」。

 何故か!俺は、ふっと美奈子は俺に ”戻ってくれ” と云う言葉を待っているのではないかと心の中を過ぎった、そんなこと有る訳は無いよ俺の思い込みなのか何処か俺の心の奥で思っていた願望なのか? 否!、同じ苦しみを与えるだけと解っているのに、俺は何を考えているのだ!。

 暫く沈黙が続き・・・美奈子の容態が気になったが以前より大分元気そうだ、結婚する事を伝えなければ、心苦しく辛いが思いきって切り出した 「それで俺、今度レース辞めて・・・」 結婚まで躊躇して言えない、俺の言葉を遮るように、美奈子は普段でも大きい瞳を益々大きくして 「え!・・」 と小さく洩らした ・・ビックリしたのか冗談に思ったのか 「本当に?・・どうしてレース辞めるの!」

 俺は真面目な表情を作り 「才能が無い事が判ったから」 大きな瞳が又、益々見開いた 「そんな事嘘よ!・・解っているわ絶対レースしたいのに・・それなのに負担を感じお父さんに援助受けたく無いからでしょう」 本当に感の鋭い子で、その通り俺はドッキとしたが 「そんな事は無いよ」

 それ以上の美奈子の追求は無かった、全て解っている子だから暫く沈黙があり・・・やっと結婚について話そうと 「俺・・」 またも言葉を遮り 「解っているわ、結婚って!本当なの?」 真意を確かめる様に真っ直ぐ俺を見詰めた、 俺も目を逸らすこと無く力強く 「あぁ!」 と応えた、

 美奈子は暫く考え込む様にしていたが静かな口調で 「・・・良かったわね」・・何か自分に言い聞かす様に 「何時までも一人いるから心配していたのよ、私のせいで結婚が恐くなったのかと思ったわ・・・どんな人?」

 言い訳しても意味の無い事だと解っていても、何故か俺は言い訳していた 「別にミー子のせいではないよ・・・俺の結婚の事、本当によかったと思ってくれるの?」 そんな事、良いとは決して思ってはいないだろう、少し酷な事と思ったが聞く事で俺の心の決着を着けたかった。

ミーコ正面.jpg 美奈子は本当に汚れの無い子だ、今も変ってわいない俺に話すより美奈子自身に問いただす様に 「良い訳無いでしょう」 「え!」 「冗談ですよ!・・・えぇ本当に気になっていたのよ、何時までも一人でいて心配していたの・・良かった!・・・もう私の事なら心配しないで、どう考えても仕方の無い事よ、成るべきして成ったのよ!」 今も変わらぬ、その汚れの無い眼差しで俺を見詰めたが 既に噂はミー子の耳にも入っていた事だろう

 俺は何故か耐え切れずに目を伏せ 「・・・」 返事に戸惑い黙っていた・・美奈子は俺の返事を待たずして話続けた 「美奈子も解っていたの、私達あのまま進めば悲惨な破滅の道を進んでいたわ、美奈子は健司さんの性格知っていて甘えていたの、健司さんも解かっていたはずよ」俺は沈黙を続けた 「・・・」

 美奈子は尚話を続け 「美奈子、長い間 健司さんが苦しんでいたこと気が付かない振りをして悪い子なの、美奈子の気持ちだけを押し通し健司さんを苦しめてしまったわ、もっと早く決断すべきでした・・許して下さいね」

 俺は呟く様に 「ミー子が謝る事ではないよ・・全部俺が悪いんだ」 美奈子は引き続き静かな口調で 「・・そんな事云はないで!だからお互いもう忘れましょうよ・・う~ん・・忘れるなんてとても無理でしょうが!なるべく考えない事にしたの」 俺は何故か切なくてやりきれない思いで、黙って聞いていた。

 美奈子は普通の人とは物を見たり感じたり考える視点がまるで違う。 教養はかなり高く頭は非常によかったが、何処か危なげで、常識では考えられない別な星から来た様な不思議な人だ。 時として誰よりも物知りで、俺は理数は得だったが文学や歴史芸術絵画等は全くの苦手で有った、何時も俺の質問の度に解かり易く丁寧に教えてくれた。

 だが俺にとっての美奈子は、純真無垢の子供の様に危なげで、そんな美奈子を俺はとても可愛く好きでたまらなかった。 ただ違っていた事は守る愛だけで、女として考え得なかった事だ! ・・破滅か!俺も痛切にそう感じていたが逃げ出してしまう事は俺にとって自分を裏切る事と美奈子をジャングルの中に一人置き去りにしてしまう様でとても出来なかった。

 そして美奈子は俺を失う事で美奈子自信が命を失ってしまうのではないかと恐くもあり、この気持ちを貫く事だけしか見えなくなって、死に向かって進みもがけばもがくほど出口が見付からず、この愛は間違っていることを認める事も告げる事も出来ず、それどころか美奈子を傷付け壊してしまうのではないかと恐くて出来なかった!。

 そう云えば以前、美奈子が俺の為に云った事がある、人はどんなに美しく綺麗な心を求めても この世界に生きる事自体が醜いの、黴菌も病原菌も全て生きているの、彼等からすれば人間の方が大悪党、それを人間のエゴで敵と勝手に決めつけ悪い物として殺してしまうの、

 しかも、高級霜降り牛やフォワグラなど、人間の都合でビールを与え運動をさせずに育て其れを平気で食べ、新鮮の物が美味しいと魚など未だピクピク動いている活き造り等美味しそうに食べるのよ、これって観方によっては物凄く残酷な事でしょう、

 この世界の生き物は全て生きる悲しみを抱えているのその為に動物も植物も無残に殺して飢えを満たしているのよ、そして時として自然すら感情も無くどんなに望む命であっても無残に暴れまわるのよ。 

 もっと悪いのは人の生き血をすって金持ちになり、金銀の装飾を付けその人達がそのお肉等を得意げに喋りながら食べている口やあの油でギタギタした唇を想像すると、吐き気を覚えるわ。

 人間の都合で神の思し召しと云い、この世に生まれた事、事態がもう罪み深いの、生まれた其の時からこの世の生物は全て戦っているの。 矛盾に苦悩しても人は生きる為に大切な動物や植物の命を頂いているの、又其れに関わった人々努力が有っての物なの、だから食事は疎かに出来ないの、

 其の為に心ある人は、外国では食事前に祈り、日本では感謝の気持ちをもって ”頂きます、ご馳走様” を言うの。

 全ての人は人ばかりではないわ生物そのものが互いの犠牲で生きていられるの、貴方が思っているほど綺麗な生きものはいないのよ ”運命は残酷なものよ”、でもね人間は不思議なもので正義のためや愛情のために死ねる人もいるのよ、 と俺を救う為に云ったことがあった。 もっとも皆知っての事だろうが、改めて問いかけられ ”生” 其のものが残酷な事を知らしめられた思いである、

 この自然界に生きる箏は全て悪の原理に繋がっているのかもしれない!。

 なおも美奈子は今まで心に溜めていた、思いを語る様におっとりした口調で話始めた 「健司さんに、初めてお逢いした時に、この人は言葉は荒いが 今まで誰にも感じた事のない優しさと愛を感じ 誰より純粋で真っ直ぐな人と思ったわ、 実際その通りで美奈子を理解して 愛して頂けるのは健司さん以外いないと思ったの」

 美奈子は自分の言葉を慌てて否定するように 「・・うそよ!美奈子解っていたのよ!健司さんを苦しめている事を知っていたわ」 ・・また静かに自分自身に問いかける様に話始めた

 「でも健司さんを失いたくなく このまま護っていただければ一緒にいられる、一時はそれで良いのだと思い最後までこの愛を貫こうと思ったわ その方が美奈子にとって幸せの事だったから、健司さんに抱かれ見守られて死ねるのなら良いと思ったの でもね自然でない愛がこのまま進めば健司さんが耐え切れず崩れてしまい壊れてしまうから、だからこそ 美奈子も凄い葛藤が有ったの」

 そこで言葉を捜す様に暫く沈黙があり 「本当に健司さんを愛しているのなら健司さんの為に 恐い結末にならない様に美奈子!身を引いたの」 なおも溜めていた物を吐き出すように静かに話続けた、

 美奈子の云う通りだ 美奈子だったら死も厭わないだろう 美奈子自身も俺の為に辛い選択をしたのだ、

 其の頃の俺は看護疲れと 俺の全てを賭けたレースを捨てる事のジレンマで限界だった、若さ故か 自分の殻らの暗闇に押しつぶされ 方向も変えられず追い詰められ 出口も見失いどんな理由があろうと愛し続けるのだと、方向を変える事に嫌悪感さえ覚え許せなく、だが何時か俺の弱さ きっと裏切る事になる、それを思うと死を考えた事もあった! あのまま進んだら・・きっと・・ いや!俺は美奈子の方が確り現実を観 受け入れていたのかも知れないと思った、意外にこの壊れそうなクリスタルの容器は俺の予想より強いのかもしれない。

 俺の心を察したのか 美奈子は話題を変え 「軽井沢 空気も綺麗で 夏じめじめしていないの、此処の所 体調安定しているの それに沢山友達も出来たから、もう何時までも子供で無いから・・今 家のお手伝いさんと小さな喫茶店を開いているの、健司さんを困らせる事はもうしないわ 本当よ、こんなに元ピルケース.jpg気で明るくなったでしょう・・で誰なの?」

 何気なく美奈子の手は胸の薬入のニトロペンダント(nitro-case 'nitroglycerin')を触っている、当時俺が緊急時に薬が飲める様にプレゼントした物だ・・まだ薬を入れているか解らないが..聞くことも出来なかった・・俺との思い出をなるべく考えないか・・・、美奈子らしい答えかも知れない。

 ・・丁度 刺身定食が出来て来た、何かネタが特別の様だ 俺は無言で ”何故!” と云うような目を向けた 店の主人 「社長さんから伺っていますから」 俺は店主に向かって笑顔を作り 「そうですか ありがとう」 今度は美奈子に向かって 「さぁー食べよう・・ミーコが良く知っている人だよ」

 「ねー誰なすしjpg.jpgの、心当たり無いわ」 俺は覚悟を決め 「先生だよ!」 「先生?」 「ミーコが入院していた時の鶴見先生だよ」 「ええ!・・うそよ!うそでしょ!」 「本当だよ、こんな事、嘘なんか言える訳無いだろう」 「そう言えば優しい目で、健司さんを見ていたわ、あの時・・病気の私にコンプッレクスがあって何故か、やきもちかな?、すごく先生と反対の立場に生りたいって・・」

 「健司さんに言えなかったの、時々健司さんに毛布掛けていたわ、優しい人だと思った、あの人なら大丈夫よ、健司さんが何時までも一人で気になっていたのよ・・でも驚いたわ!先生で本当に良かった安心したわ、先生元気にしていますか?」 やはり、毛布の事知っていたんだ。 美奈子はそのように考えていたんだ、それと凄く勘の鋭い子であった、その時から何かを感じ取っていたのかも・・ 「元気だよ有難う、ミーコと話せて・・これで俺・・胸の痞えが取れたよ・・」 一息入れホッとしたように 「良かった!」 その後、暫く沈黙が続いた。

 「さぁーお寿司美味しそうだね頂こうよ、ミーコも食べなさい」 寿司ネタも新鮮で美味しいところばかり美味しいはずの刺身も、何時ものように美味しさは少しも感じず、それどころか口の中は渇き切り、お茶で無理やりに押し込むように食べた、今まで多少のストレスが有っても、これほど食事が精神的に左右されるとは思いもしなかった、 美奈子も一切れか二切れ位食べた様だが食が進まない様子だったが無理に進める事は出来なかった。

 俺は乾ききった喉を潤す為にゆっくりと二杯目のお茶を飲みほし、次の言葉を必死に捜した、出た言葉は 「ルノワールの絵が好きだったけれど、今も絵を描いているの?」 大きく開いた瞳は何処までも深く澄み切り、何か幻想の世界に引き込まれてしまうような、眼差し、現実を忘れてしまいそうで、美奈子の話声が何処か遠くから聞こえて来るようだ・・ミーコとの楽しかった思い出が甦る 美奈子は悲しそうにあらぬ方向に目を映している俺を見て 「健司さん、どうなさったの!」 俺はハットして 「いや、なんでもないよ」 頭の中で思い出が渦巻いていた。

 「ええ、最近少しずつ描き始めているわ・・画廊と言う程のものでは無いですが、お店の2階に飾っているの・・・でも此れでお別れね!」 伏せ目であったが確りと別れを告げる声であった 「そんな事ないよ、其のうち絵を見に行くから・・それと、まだお父さんにはチームとしてスポンサーの事でお世話になるかも知れないよ」

 暫く間をおき、物静かに美奈子は語りかける様に 「それは、それよ」 「・・」 「健司さニトロケース2.jpgん、お別れに来たんでしょう?・・健司さんのいけない処、私の事言っていたけど、私よりナイーブで優し過ぎるのよ、反って罪作りよ! 世の中には如何にもならない事もあるの」 「・・・」 俺はどの様に答えてよいか何を話して良いのか解からなくなりただ沈黙をした、

 美奈子は尚も話を続けた 「健司さんの性格を知っているからこそ私が家を出る前に何度もビジネスだからと念を押したのに、あのまま父からの援助を受けていれば、今になってレース辞める事は無かったのよ」 「そうは行かないよ」 俺は力なく答えた 「そうよねそれが健司さん、出来る訳ないから・・」

・・暫く沈黙があり、あの引き込まれる様な目を大きく見開き 「私が家を出る前に今の様な話を聞かされたら、・・きっと健司さんのその優しさに絶えられなく取り返しの付かない事をしてしまったと思うの、私達はもう会わない方が良いの!・・もう前の美奈子では無いわ、大丈夫です先生の為にそうしなさい、それが私と健司さんの幸せよ、解っているでしょう!」

 美奈子はゆっくり、おっとりと俺に理解出来る様に話した、全くその通りだ!、 確かにその通りだが何か美奈子自身に言聞かす様に聞こえ、懸命に強がっているとしか思えてならなかった、また病をぶり返すのではないか本当に体大丈夫なのか?薬が必要ではないのか・・?かえって心配がつのるばかりだ。

 俺の心を察したのか 「私の事なら大丈夫よ」 いつの間にか大人になっている!いや、もうずーと前からなのかも!ただ俺が気付かなかっただけかも知れない。

 ・・俺は心の中で心配との葛藤があったが、その通りだよ、あのまま行ったら本当に俺は壊れてしまった、現実に生きているのだから!・・今ではヨシ子を誰よりも愛しているよ!そして誰よりも必要で大事な人なんだ!、改めて感じさせられているよ・・別れは寂しいものだ、此の異常なくらいの寂しさは、なんなんだ!・・本当にかなしいよ・・俺は遣る瀬無い気持ちを俺自身に吐き捨てるように

 「あぁ・・解ったよ!」 荒れ狂う人も困るが、こんなに優しい人も困る・・美奈子俺をなじってくれよ・・俺が救われたいからか?そんな事の出来る人ではない、勝手だよな・・優しさを求め優しさに苦しむなんって!。

Minako-R.jpg ・・何だろう逢うまでは沢山々話す事が有ったのに、肝心な時に何も思い浮かばない!、話せば虚しくなる、頭の中で思い出が空回りして焦るばかりだ、よく体が弱く俺に何もして上げられないと嘆いて ”悲しい顔でいるミーコを後ろから良く其のたびに抱き締め、慰めたものだ” 当時の事が甦る!二人の会話は沈黙が多く途切れ途切れで有ったが、二人には通じ合っていた。

 大丈夫と言ってはいるが、未だに心配なってしまう、割り切る時が来たのだ・・・息苦しい沈黙が暫く続いた心残りで有ったが・・

 心残りであったが、振り切る様に立ち上がり 「それじゃぁー、まだ時間あるから俺達のレーシング・スクールの事務所に寄って帰るから」 ・・なんで、こんな説明しているのだろう、俺が何処に行こうがもう何の意味も無いのに?・・

 「お父さんには、本当に自分勝手な事をして、申し訳ないと伝えて下さい・・其れにお母さん元気ですか?」 美奈子は俺を見上げ 「はい母は、元気にしています」 「お母さんにも宜しく伝えて下さい、それじゃぁ」 俺は手を出して握手を求めた、 美奈子は応える様に立ち上がり、両手で俺の手を握り締め 「健司さんも、お元気で・・・お母様にも宜しく伝えて下さい」 澄んだ大きな瞳が益々大きく俺を見詰めた

 「あぁ、それじゃぁ!」 俺は頭を小さく立てに振り応えた・・そのまま何も語らず暫く目を見詰会い、色々有ったがもういいのよと言っている様であった、

 美奈子はは目を伏せ消え入る様な声で 「さーぁ、行きなさい」 その言葉の意味は そうする事しか出来なかった俺を許したのか 悲しくなるからか?、その意味を理解したくなかったのか俺自身答えを出したくなかったか美奈子の本音を知りたくもなかった。 俺は思いきる様に今度は 「あぁ.. 」 頭を小さく立てに振り頷いた、 本当は今まで俺の方が助けられていたのかも余りにも静かな別れだ、言い知れぬ悲しみと 決して取れることのない 棘が心に突き刺さったままだ。

 何故か、さようならは二人とも口には出さなかった 俺は一度も後ろを振り返らず寿司屋を出た、涙が出そうで振り返れなかった、それだけでは無かったもし振り返ってしまったのなら、ダムが崩壊する様に全てが壊れてしまう、 美奈子にしてもそうだろう・・ ’ミーコ(美奈子)’ はどんな顔をして、私を見送っているのだろうか・・寸先も見えない豪雨のなか独りぼっちで立ち竦む少女を思い浮かべてしまう・・それを見た誰もが手を差し伸べているだろう 解っていたがどうにも悲しくたまらない! クソ!悲しくて悲しくてやり切れないよ! 誰かが俺にすこしでも俺に触れたら きっと滅茶苦茶に爆発していただろう。

  《レーシングチーム事務所にて》

銀の鈴広場1.jpg 駐車場に戻り車に乗り込んだがこのまま、真っ直ぐチームの事務所に行くのは苦し過ぎた、乗り込んだ車を降りて車はそのまま駐車場に置き電車で気を紛らせ訪ねる事にした、東京駅の人混みの中、銀の鈴広場を通り過ぎ良く此処で美奈子と待ち合せしたものだ、当時俺を見つけると万遍の笑顔で上げた手を千切れんばかりに振りながら駆け寄る美奈子の姿が思い浮かぶ。

 俺は一層孤独と悲しみを覚え、電車の中で黙ってすまし顔で乗っている人々は、何も苦しみも悲しみも楽しみも無い能面に見えた、いや能面の方が表情がある、この人達には其々の人生がある、いったい何を思って生きているのだろうか?恋人に逢いに、中には誰かを恨み怒りに震えている人も、最愛の人を亡くした悲しみを背負った人もいるのだろうか?同じ境遇でも探す様に俺は何故か車内を見回している。

 錦糸町の駅から気分を変える為にゆっくり人々や商品の飾りウインドーを見ながら歩いてレーシングチーム事務所を訪ねた、沈んだ気分を取り除くために大きく息を吸い込み気持ちを整え、ドアを押した

 明るさを装い 「ヨォー!この前は有難う!」 パソコンに向かい難しい顔の久美ちゃん 「あら!龍崎さん如何したのですか?」 俺は寂しさを打ち消すために 「可愛い久美ちゃんに会えなくて寂しくて会いに来たんだよ、慰めてくれる」

 パソコンの手を止めた久美ちゃん、俺の顔を伺うように 「またぁ~、冗談を!慰められたいのは私ではないでしょう?」 俺は作り笑いで、質問を無視て 「監督は?スポンサーの事で少し話が」 久美ちゃん、席を立ち 「監督、今奥で生徒にランセンス習得の講習やっているの、後2,30分で終わりますから・・今コーヒー入れます」

 俺は事務所のカウンターのドアを押し開け、コーヒーを入れに立った久美ちゃんの後を追いながら 「孝ちゃんや井原君は?」 久美ちゃんカップにコーヒーを注ぎながら 「スクールの練習用レースカーのメンテナンスに富士なの」 続いて矢継ぎ早に「竹田君は?」 暫くして此方を向き 「はい、コーヒー・・・、竹田ですか・・教室、中で監督の手伝い」 何処か事務的で冷たく応えた、うまくいっていないのかな?

 まったく!俺は人の心配している場合かよ!心の中で思いながらも 「有難う、コーヒー旨いね!それでどうなの、仲良くしている?」 少し暗い顔を作り久美ちゃんは声を落とし 「それが・・まだハッキリしないの、影で彼女に未だ会っているような?、彼には内緒よ」 「ふーん!俺はなんとも言えないよ、此れから先は、久美ちゃんが決める事だよ、自分の人生だからね」

 「ええ、私も解からなくなって」 「今、彼はこんな華やかで刺激的な世界に入り目移りして居るのかも、何て云って良いか解らないが、自分を見失っているのかも、何時かわ気付くと思うが、それでは久美ちゃんが可愛そうだね、今俺が言っても解らんと思うよ・・如何したものか誰か他に良い人居ないの?」

 「ええ、いないわ」 「此れは、危険な賭けだけれど他に誰か居る様な素振りしたら・・でもこれ幸いに逃げられる可能性が大きいよね、俺にも判らないよ」 「辞めときます、リュウさん責任取ってくれるなら・・もう暫く様子見ます」 「ビックリさせるなよ!本当難しいな」

 今度は少しすねた様に 「結婚早々で冗談ですよ!今日の龍崎さん、何か違う!恐い顔している、如何かしたんですか?」 やはり、美奈子との別れが何処かに出ているのか? 「別に、何も無いよ」 慌ててコーヒーを口にした、 どうやら、B-ランセンス(JAF公認)のペーパー講習が終わったようだ、久美ちゃんは慌てて 「今の話、内緒よ!」 俺は頷いた。

 未来のレーサー達が十~二、三人位、ザワザワ話をしながら出てきた、中には俺と面識は無いのだが俺を知っている者がいて 「龍崎さんですね優勝おめでとう御座います」 きっとレースでも観戦したのだろう 「あぁ、ありがとう」 イストラクターの森田君と営業の竹田君が話しながら此方に来る、竹田君 「あ、龍崎さん如何したのですか?」 「お前の事が心配で、レースクイーンに目移りしていると思ってな」 竹田くんテレ笑いしながら 「リュウザキさん!キツイッス!冗談でしょう!監督中にいますよ」 俺は教室の中に入り、監督に声を掛けた 「監督!先日は支払い有難う御座います」 「おう!リュウどうした?」

北原 監督どした.jpg 「今日、俺のスポンサーの処に行って来ました、俺今期限りでドライブ辞める事、了解を得てきました、其れで来期からの相談改めて伺う事でお願いして来ましたから」 監督、大きな窓ガラス窓越しに外のビルや景色をボンヤリ眺めながら 「そうだよな、あの会社前の奥さんの処だからな、大口のスポンサー失ったか、冗談だよ!ご苦労さん、何れ挨拶に伺う予定だった」

 「勝手にすみませんでした」 監督はそのまま外の景色に目をやりながら「いいんだ!あれはリュウ個人のスポンサー、苦い思いで獲得した物だからな」 暫くの沈黙の後・・監督は躊躇しながら 「リュウ!酷な事だがチームの為に又一緒に行ってくれるか?・・無理なお願いとは解っているが、スクールも苦しいからな」

 俺の予想した通りだな 「....はい、スクールのチームとしてなら一応話はしましたが、しかし、どうなるか解かりませんよ保障は出来ません、それでよかったらその時は連絡下さい」 頷きながら「何れチームとしてお礼の挨拶をしなければ」 「はい、有り難う御座います」

 やはり俺が険しい顔をしていたのか、監督の後ろにいた、森田君、気をきかし言葉を挟んだ 「龍崎さん、今度走りますから教えに来て下さいよ」 「そうだな、結婚式済むまでは忙しいから、その後だな」 森田君の性格で有ろう、素直に 「お願いします」 と応えた

 事務室に戻りながら、監督は後ろに従って来た森田に手を差し伸べ俺に向かって 「今度、此方の森田君をGTレースに出場させようと考えているんだ」

 俺は内心複雑な気持ちも有ったが、ホッとして 「F.Jの前に いいんじゃないですか、それとスクールのレースで生徒の成績の良い者、スクールの年間チャンピオンからビックレースに出場出来る様にしたら、生徒達も励みになり希望が持てますよ、 誰かもう一人事務員企画担当を入れたら良いのでは?」

 監督空かさず 「いい考えだ、リュウ企画立てて見てよ」 「俺がですか?・・横須賀基地 本業になるから もう今までの様に休めません、何時になるか解りませんよ」 監督この期を逃してはと思ったのだろ 「新たに生徒集めるのに良い企画だよ!軌道に乗ったら人を入れるから、当分の間だリュウの休みの時だけでいいから、必要な時は連絡に久美ちゃんを使ってくれ、頼むよ!..なー久美ちゃん 良いだろう」 監督・・本当に人の使い方上手いよ、経営者に向いているな

 久美ちゃん、何故か嬉しそうに 「はい 解りました、リュウさん何時でも言って下さい」 「まったく!監督!何時になるか解りませんよ」 監督俺の肩に手を沿え 「リュウは良いアイデア一杯持っているから、今年中でよいから企画立ててみてよ!」 背中をポンと叩いた 「まぁー、何時も俺の要求聞いて頂いてむらっていますから」 監督空かさず 「他のスポンサーの件も有るから、此れからも頼むよ」 ・・そんな雑談の後、チーム事務所を出た。

 錦糸町から東京駅へ戻り社長と美奈子の顔を思い浮かべ、ビルを眺めながら、もう此処にはあまり来られないな、そんな思いで駐車場に向かった、 流石に今日はそのまま直ぐに家に戻り、ヨシ子に話しをする事が出来ない心境で、この言い知れぬ寂しさを一人心を鎮めたかった。

タッチおじさん ダヨ!.jpg ストーリ【Story前編16】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-17是非お読み下さる事お願い致します


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編14】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

☆=ストーリ【Story13】からの続きです、是非下欄【Story14】をお読み下さい=☆

   《母と元町》

 元町商店街.jpg3日土曜日逗子に出かける日だ、朝からヨシ子が何かマタニティー用洋服が欲しいからと俺の実家により、母と実家近くの横浜元町と中華街に運転手として買い物に付き合う事になった。 母とヨシ子は本当に気が合いとても仲良である、横浜元町の通りを歩きながらヨシ子が母に 「リュウいえ健司さんはレースを辞める事を決めた様ですよ」 母は疑う様に俺を見た俺は無言で相鎚を打つ母は俺から目を離しヨシ子に向かって 「そうですか私も其れが心配だったの、良かったですねヨシ子さん!」 「アッはい」 母は俺に振り向き 「其れで健司、仕事の方は?」 と俺に尋ねた 「あぁ・・」

 ヨシ子は俺のぶっきらぼうな言葉を遮るように俺を庇い代弁して 「横須賀ベース基地で公務員として本雇いして頂く様ですよ」 まったく母には弱いどうにも俺の出る幕は無いようだ 黙って二人の後に従う、結婚式の事は俺には事後承諾で母と二人で決めている様だが最も其のほうが俺も気が楽である。

 母は俺を振り返り疑いの眼差しで 「あの子にサラリーマン勤まるのかしら?・・でもヨシ子さん心配事が減って良かったわね」 流石に俺は細(ささ)やかな抵抗で 「おふくろ、まだ何か言いたいの?」 まったく!ヨシ子と同じ事を言っている、俺ってそう感じるのかな~ 母はもう一度俺に振り向き 「そうですよ!お前は幾つになっても皆に心配ばかりかけて!・・」

 ヨシ子は俺を見詰め庇う様に 「お母様大丈夫ですよ、お母様が思うより凄く確りしていますよ」 母は不安そうに 「なんだかね? こんな子ですが宜しくお願いします・・・それとヨシ子さん体労わってね、順調なんですか?」 「はい今の処順調です、マタニティー用の洋服で無いとお腹がきつくなったものですから」 と母から俺に振り返り 「リュウ!私達に付き合っても大変だから、此処の喫茶店で待っていて・・良いでしょう?」 ヨシ子は俺に同意を求めた 俺は助かったと思いほっとして 「あぁー俺も其のほうが良いよ、じゃぁ此処の喫茶店で待っているよ」 母もその方が気楽であろうヨシ子と嬉しそうに連れ立った。カフェ炭火焙煎珈琲.jpg

 母達と別れ通りを隔て真向かいの喫茶店のドアに手をかけ様とした時 「リュウ!」 振り返ると、ヨシ子が俺を追って来て息を切らして近寄ってきた、 俺は何か有ったのかと驚き 「どうした!何かあったのか!」 ヨシ子は息を整え 「リュウ お母様の洋服の好み解る?」 俺はホッとして 「なんだ・・ビックリしたよ!・・・そんな事か!」 ヨシ子ちょっと気まずそうに 「驚かせてごめんなさい それに お母様何色が好きかしら?」 「俺・・なにも解らないよ!・・どうして?」

 「お母様に何かプレゼントしようかと思って! 今ね リュウが財布持っていないからコーヒー代渡して来るって、お母様に言って来たの・・リュウはお母様のこと何も見ていないのね、男の子って皆そうなのかしら?」 「そんな事無いけど俺には解らないよ、そんな事より俺がコーヒー代もない何って!御袋 如何思うか?」「御免なさい」「それより 率直に御袋に聞いたら?其のほうが良いと思うよ、そんな御袋だから」 そう言えば、母の好みの洋服には関心も無かったな・・・そうだ!洋服より和服 母の着物姿が好きだったなと思ったが 着物なんてとても言えないな、 ヨシ子は少し考えていたが 「・・・解ったわ!そうする、直ぐに済ませますから待っていてね」

 俺は冗談で 「うん、じゃぁ-コーヒー代頂戴!」ヨシ子は驚いた様に 慌ててショルダーバックから財布を取り出した 「冗談だよ! 一度言ってみたかったから」 「もぉー・・」 「あぁ- 御袋の事 有難うー、慌てなくて良いからね」 「いいのよ 此れからはリュウに毎月のお小遣い考えなければ」 「だから 冗談だよ、いいから御袋待っているから!早く行って」 ヨシ子は時々俺に振り返りながら手を振り急ぎ足で母のもとに向かった。

 ヨシ子と母は1時間程でお店の紙バッグを其々さげて、俺の待つ喫茶店に戻って来た 母は嬉しそうに店の紙バックを上げながら 「ヨシ子さんに洋服買って頂いたわ、健司からもお礼言って下さいな」 俺は照れながら 「うん、ありがとう」 「何ですか!ぶっきらぼうにその言い方は!・・お腹空いたから、中華街で何か頂きましょう、さぁー健司行くよ」 「まったく!云いたい事云って、お袋は」 ヨシ子笑いながら紙バックを示し 「此れ、お母様から腹帯買って頂いたのよ、後で健司さんと二人で御参りしなさいって」

 俺は母を見ながら 「あぁ、後で鎌倉に行くよ!なあーヨシ子」 「ハイ」 返事をしたヨシ子もなにやら俺に見せた以外に紙袋を沢山提げていて 「中華街近いから、荷物車に入れてから歩いて行きましょう、お母様の荷物持ってあげてね」 俺はぶっきらぼうに 「あぁ、おふくろ荷物!」 と云いながら母の紙バックを手にした、 母は笑いながら俺を見て 「あら珍しい事、持ってくれるの?」 「まったく、いやみ!」 お袋のこんなに楽しそうな顔を見るのは久し振りだ、駐車場に戻り車に荷物を入れ久しぶりにゆっくり三人で中華街を歩く。

 中国茶.jpg俺はヨシ子の実家で飲んだ甘く美味しい烏龍茶を思い出し 「美味しい烏龍茶が欲しいな専門店で探そうよ、体にも良いから」 母は不思議そうな顔で 「健司お茶なんか飲むの?ジュースかコーヒーだけだったのに」 「そりゃぁーたまには飲むよ、本当に良いのは甘く感じるから」

 母は驚いたように 「へー健司がね、ヨシ子さんに教えて頂いたの?」 ヨシ子、母を気使いながら 「多分実家だと思います、父が何処からか頂いて来たみたいです」 専門店で高級な美味しい烏龍茶の葉を母とヨシ子の実家と俺達にとお土産に、烏龍茶の美味しい入れ方を店の方に説明を受け、実際に入れて頂きました、やはり良い物は仄かな甘みもあって美味しい。 

 中華街1.jpg母は昔を思い出した様に 「ヨシ子さん健司はね、小学6年生の時に将来の為にお茶を習はせたの、始めの頃は嫌がっていたのですがお茶の先生が美人で子供が無く健司を可愛がって優しくしてくれ、健司ったら私が忙しく相手をしてやれなくて寂しかったのでしょうね、そのお茶の先生の処に入り浸り、御かげでお茶すっかり覚えてしまった様ですよ。 当時、生意気に ”おふくろ!お茶の心は、思いやりのもてなし 一期一会を大事にしなさい” だって・・此の子は本当に人一倍心優しい子なの、ただ上手く表現出来ないのよ」

 「おふくろ!そんな事まで云わなくても、もうお茶は全部忘れちゃったよ」 母は真剣に 「此れからはヨシ子さんに貴方を預けるのよ威張っていても甘えん坊なんだから!」 俺は投げやりに 「まったく!形無しだよ!」

 ヨシ子は母の話に遠慮がちに 「お母様心配なさらずとも、健司さん本当に優しくて確りしています、ご心配しないで下さい」 母はどれだけ俺の事をだらしなく思っているのか、尚も 「健司、前の様に二度と人を悲しましてはいけませんよ、ヨシ子さん改めて健司を宜しくフカヒレ小龍包.jpgお願いします」 と頭を下げた、もっとも兄弟の中で俺が一番自由気ままな生活をしている ヨシ子慌てて頭を下げながら 「いえ、此方こそお願いします」 俺は言葉も無く 「・・たく!赤ちゃん預ける訳じゃぁ無いよ おふくろ!もうお腹空いたよ、行こう!」

 母は小さい子供を扱うように 「はいはい」 ヨシ子は笑いを堪えながら二人の後を歩いている、小籠包の美味しいお店でお昼の時間帯食べ放題、女性はフカヒレえび包みコラーゲンの言葉に弱く付き合う事に、今日は夕方より逗子で祝勝会と俺の引退の報告が有るので母を早めに家に送った。

 早々に引き上げ我々のマンションに戻り、ヨシ子の買い物して来た4,5点、マタニティードレスのファションショウに付き合され少し閉口する、 手に入れた新しい服を肩と首の辺りに充て 「ねー、リュウこれ似合っている?」 「あぁー」 「リュウちゃんと見て頂戴!」 浩子さんも落ち込んでいるから、一緒に連れていく事にしていた 、そろそろ時間が気になり 「大丈夫だよヨシ子は何を着ても似合っているよ、そろそろ逗子に行かなくちゃぁ、さぁー逗子に行く準備して!」 「そろそろ時間だよ!浩子さんに連絡入れてよ」 

 ヨシ子は俺の感心無さそうな態度に苛立ち 「もーう、リュウたら私に感心無いの!」 「違うよ!今は時間が無いの、何時だってヨシ子綺麗だよ」 「リュウは直ぐに本気に応えるから冗談よ!良く知っていますよリュウが凄くヨシ子のこと愛しているって知っているし何時も感謝しているのよ、でもリュウに時々 ”綺麗だね” って言われたいの、それが女性にとって一番嬉しいのよ!」

 「まったく!今日はお母さんの事ありがとう、本当に嬉しそうだったよ」 「時々、お母様の処でリュウの好きな料理、教えて頂いていたのよ、だからお礼ですよ、本当にリュウはお母様に愛され幸せ者よ、今日改めて良く分ったわ!・・浩子に直ぐに連絡取ります」 と云って携帯を取り出し浩子さんに連絡を入れた 「もしもし、浩子?何処に迎えに行ったらいい?・・・はい分りました」 電話を切って 「リュウ病院で待って居るって、そろそろ行きましょうか?」。

     《病院》

 病院の玄関前で浩子さんが待っていた、浩子さんは少し落ち着いたのか窶れ顔が取れとても綺麗に見えるが、不思議と以前のトキメキは起きなかった、 俺は無性に海斗に会いたくなり両女性に許可を求めた 「ちょっとで良いから海斗に会って行きたいな、直ぐ戻るから車で待っていてよ」 ヨシ子、浩子を見ながら確認を取り 「良いわよ、私達は毎日会っているからリュウ行ってらしゃい、待っているわ」 「直ぐ戻るから」 俺は急いで海斗の病室を訪ねた。

 海斗はベッドでテレビを見ていたが 「ヨォ!海斗元気かようぉ!」 元気なはずは無いのに、海斗テレビから目を離し此方を振り向き驚いた様に 「あ!リュウさん、あれ?お母さん玄関で待っているって!会わなかったの?」 「うんお母さんに会ったよ、海斗に会いたくて少し待ってむらっているの・・・うん!どうだ?」  「うん・・・」 俺に気を使って俺の質問には答えず、別の言葉を探し 「ねーリュウ今は何しているの?」 俺を気使っての事だろう 「うーん?そうだね・・アメリカの兵隊さんの手伝いしているの」 興味津々の海斗乗り出す様に目を輝かせて 「凄いね!銃とかピストル持っているの?」

 「アメリカの兵隊さん訓練の時は持っているよ、でも普段は待っていないよ、リュウの居る所もそんな物無いよ、コンピューターと機械が部屋中にいっぱいだよ」 「ふぅーん」 「ごめんね長く居られなくて今度ゆっくり話すから、もう行かなければ」 「うん、知っているよお母さんに聞いたから」 「今日は海斗も知っているレーシング・チームの人達と会うの、下でヨシ子先生とお母さんが待っているから、お母さん連れていって良いだろう」 自己承諾だが海斗の了承を得る事で少しでも海斗の寂しさを軽減させたかった 「うん解ったよ・・リュウお母さん可哀そうだから助けて上げて」

 「如何して?お母さん海斗が思っているより強いよ」 「だって!パパが」 「パパだって海斗が大好きなんだよ、今海斗の為に一生懸命働いて疲れているからチョットだけお母さんと喧嘩したの、又休んで元気になったら仲良くなるよ!」 「でも・・お母さん可哀そう」

 「そうか!解かったよ、海斗は心配しなくて良いから、海斗はパパもママも大好きでしょう?」 「うん」 「じゃぁー、先生の言う事を良く聞いて海斗が元気になり、パパとママを喜ばせなければいけないよ・・・リュウは辛らかったり悲しい時は、我慢しろ何って言わないよ、海斗!泣きたければ泣いて良いんだよ、解かった?・・海斗は優しいんだね、リュウも海斗の事大好きだよ」

 「うん・・リュウ・・聞きたい事有るんだ!」 「なんだ!海斗、あんまり難しい事はわからんぞ!」 「ねぇー、死ぬって事はなんなの!如何言うことなの?リュウ教えて!」 俺は突然の事に頭が真っ白になった海斗は知っていたのか!「ねー教えてよ」 俺はとっさに 「さぁー俺にも判らないよ、死んだ事無いからね・・如何してそんな事知りたいの?」 「海斗!死ぬかも知れないから・・苦しくて痛いの?」

 ・・・俺は答えに詰まった、物理的に説明しても何の意味も無い、海斗は漠然とで有るが、迫り来る死に対する恐怖だろう・・なんて事だ! 俺は咄嗟に話をそらした 「解らないよ!海斗 それよりレーサーになるんだろ?俺も良くは解からないが死んだらレーサー出来なくなるよ、海斗約束したろうレーサーになるって、それにお母さんも助けるだろう?そんな事考えていたら何も出来なくなるぞ!辛いけれどリュウとの約束守れよ」

 「リュウがレースの事故の時、死んでしまったのかと思ったよ、本当は凄く恐くて一生懸命我慢したんだ、だから知りたいの」 そうだったのか小さい心痛めていたのか、俺はなお更応えられなくなった 「人は何時かは死ぬんだよ、俺は自分が死ぬ何って考えた事も無いよ」 そんな俺は幸せってことか! 「そんな海斗は嫌いだよ!海斗いいな!もう一度約束だ!元気になって俺の代わりにレースしてくれるな、約束しただろう?だからリュウの大事なレーシングカーに乗せたのだよ、あのハンドル握りたいだろう」 あの時、海斗の目は輝いていた何としても生きる気力を取り戻して欲しい、俺は海斗を睨みつけた 「うん、乗りたいなぁー」 「男の約束だぞ絶対乗るんだ、いいな!」 海斗は俺の気迫に驚いた様に 「はい、解かりました」 俺はこんな事を押し付けて、こんな事しか言えないのか、もっとましな力付けが出来ないのか、なんって無力だ!。

 「そうだ!海斗、プラモデル出来たか?」 「リュウごめん、疲れちゃってまだ出来ないの」 俺は海斗のベッドの横にすわり 「そうか、リュウが作ろうか?」 「うんうん、大丈夫少しずつやるよ」 何かやるせなく切なく思わず海斗を抱き抱えた 「そうか慌てる事ないよ、無理するな、リュウは何時までも海斗を待っているよ、海斗に会えなくなったらリュウ悲しくてたまらないよ!」・・・「海斗のお母さんもお父さんもヨシ子先生だって、皆悲しいって泣いちゃうぞ!」・・「海斗だって同じだろう、リュウが海斗に会いに来られなくなったら悲しいだろう?」 海斗は俺を押し戻し 「リュウ、苦しいよ!解ったから!」 思わず強く抱き締めていた、そいで海斗を離し 「おぉー、ごめん痛かった?」 「うん大丈夫だよ 又来てくれる?」 「あたりまえだろう!リュウは何時だって海斗の友達だよ」

 俺は心苦しかったが皆を待たしている 「海斗 お母さん待たしているから」 「いいなー 皆に会えて」 「海斗が来てくれる事皆も楽しみに待っているからね」 「うん リュウ忙しいでしょう 行って良いよ」 「俺に会いたくなったら何時でもヨシ子先生に言えよ 直ぐに会いに来るから、じゃぁ皆も心配しているから海斗は元気になっているって言っとくよ、じゃぁー行くよ」 海斗親指を立て「うん わかった」。

    《逗子パーティーへ》

 BMW.jpg俺は駐車場に急いで帰り車の運転席に乗り込み 「お待ちどう」 キーを差し込みエンジンをスタートさせ後部席に振り返り 「浩子さん!海斗お母さんの事とても心配していたよ・・」 浩子さん考え深げに 「海斗が・・そうですか」 俺は明るく振る舞い 「今日は全部忘れて楽しみましょうよ」 車は逗子にむかう、 ヨシ子は助手席で静かに聞いていた、俺は海斗の云った最後の質問を除いて一部始終を話した、浩子考え深く静かに 「海斗がそんな事云っていたの、驚いたわ!知らぬ間に大人に・・」 俯いて感情を堪えている様だ

 俺は後ろの席を振り返り 「お母さんには中々本心はテレがあって云えない物ですよ、特に男の子はね本当に海斗は優しい子ですよ」 ヨシ子、俺の顔で何かを感じたのだろう心配そうに 「リュウ如何したの何か有ったの?」 「別に!」 俺の顔と返事で何かを察したのだろう、明るい声で 「リュウも同じでしょう、お母様にはテレて言えないでしょう?」 その場を明るくしようと振舞っていた。

 運転する俺の態度と口調に浩子も何か感じたのだろう話題を変え、俺がレースを辞める事信じられない様に 「龍崎さん前の奥さんの事も有って、レーサー本当に辞めるんですか?」 前の奥さんの事は余計な御世話だ!と思ったが口には出来なかった、尚もヨシ子を庇うように 「ヨシ子凄く心配していますよ・・ヨシ子の為にじゃないかって!」 「そんな事無いですよ、ヨシ子に説明したのに如何して?」 浩子俺を嗜めるように 「前の奥さんのお父さんの会社がスポンサーでしょう」 「ええそうですが?」 「龍崎さんが優しいから、ヨシ子の為にって、それを心配しているのよ・・・龍崎さんがヨシ子やお腹の子供の為に犠牲になっているのではないか心配だから、ヨシ子もそれを心配しているのよ」

 此れは説明が長くなるが、ちゃんと説明しなければと思い、おもむろに話始めた 「俺ヨシ子の為に犠牲になっているなんて一度も思った事ないよ!本当にその事だけでは無いよ、たとえ俺が誰とも結婚せず一人であっても同じ結果だったよ、それに歳の事も考えなければ」

 確かに其れも有り痛い処を指摘されたが、其ればかりでは無いレースを辞め他の世界にどう生きたらよいか考えられない事も事実だが、世界はそんなに甘くない潮時を探していたのかも!本当に痛いところを突かれたが諦め切れない思いも事実だ! 説明も面倒くさいなと思いながら仕方なく

 「ヨシ子はまだ世界の自動車レースの現実を知らないから、俺も始めた頃は単に実力の世界と思っていたよ、今になってそんなに甘い世界ではない現実を知ったから、日本から出向いたレーサー腕は世界に通用する人が何人かはいたが誰一人成功した人はいないんだよ・・言葉の壁もあるしアメリカ軍基地で働いて習慣と感情の違い日本人の奥ゆかしさは競争の世界では邪魔になり売り込みが出来ない事も理解したし、外国に通用する宣伝効果も得られない事など学んだからこそ、俺が行ってやってやると思ったが現実はそうはいかないよ」・・

 ・・「其れも、もっと若く海外の自動車レースに出ていなければ駄目だよ、認められるまで余程のスポンサーとマネージャーの力が必要だよ」

 ・・・「本当は前の奥さんの事があった時に辞めるべきだったが、何か遣り残した気がして心残りだったんだよ、せめて国内だけでも一度トップになり俺なりに納得したかったからで!・・もう俺の中で終わったんです」

 実際に俺を追い込む事で終わらせようと実行してきたが、口から出る言葉とは裏腹に未練が募り俺の中では終わってはいない。

ウインドサーフィン.jpg 鎌倉から逗子のへ向かう海岸を横目に、今年は女子大生がかなり多くウインドサーフィンに嵌っているグループであちらこちら砂浜にて講習を受けている、そんな人達を眺めながら車を走らせ、

 俺は説明しながら自身にも納得のある答えを見出したかった 「今までそんな事など一度も考えなかったが、本当の幸せってなんだろうって考えて見たんだ、物、名誉、権力、金、全部違うなと思ったんだ、それらは限りが無く望みを得れば又次が欲しくなる、負け惜しみでも何でも無いんだ ”平凡の中に幸せが有る” 事がわかったから、だから本当に心配しなくていいだよ」

 本当にそれが欲しいのなら、美奈子の父の会社に入っていただろう、二人にはかっこよく話しながら自分を追い込み俺自身を納得させていたのだろうか? ” 嫌な奴!カッコ良い事言いやがって!” 本当はその全てが欲しいくせに、自分への言い訳だ!何って俺だ!そんな事で自分の生きて来た事は何であったのか俺の中では何も解決していないではないか!?。

 俺は続けて 「まぁー過去も含め自分の選んだ人生、結局その道に対し全ての実力が欠けていたから、かっこ付けて誤魔化しているだけだよ」 二人は無言で俺を見詰めている自分でもこんな言葉が出るとは思はなかった 「ヨシ子が期待して応援してくれるの嬉しく思うが、時として俺は負担に感じるよ」

 ヨシ子は本当にすまなそうに 「浩子ごめんなさい 私リュウに直接聞くべきだったわ、でもリュウの性格判っているからビジネスとして私の為に割り切れなく思っているのではないかと・・」 俺は慌てて弁明した 「いや俺が悪いんだよ、自分だけ解っていてヨシ子に説明不足だったよ」 ヨシ子の為だけでは無く浩子の自身の気持ちも入って 「本当よ!此の前だって命落としたかも知れないのよ、もぅーあんな思いは関わりのある誰だって嫌でしょう!」 はっきりと言はれてしまった

 ヨシ子同感する様に 「私だって人一倍恐いわ・・でも其れとは別よ!私にはそうは思へないの、私の為にリュウが可哀想よ!」 俺のことはもうほっといてくれよと思い 「もう良いんだよ!そりゃぁー未練有るけど どうにも成らないでしょう、もう良いから!」

 浩子はじれったそうに 「ヨシコ子、私の事云うけれど貴女だって同じでしょう、龍崎さんの事になると治り掛けた傷を何時までもいじって開いているのよ」

DSC01508-2.jpg 浩子を説得するようにヨシ子は 「ごめんなさい、ただリュウの才能此のまま埋もれてしまうのが悔しいの、本当に何とかして上げたいの!」 言葉に発しはしなかったが ”もう俺の事は放っておいてくれ変になるよ” と思いながらも反面本当に俺の味方になりヨシ子の気持ちが嬉しくて何も言えなかった、

 尚もヨシ子は言葉に力を入れ 「他の一流チームの外人ドライバーだって追いつかなかったでしょう、本当に凄いなって!そう思っているから!・・何とかしたいが如何したら良いか解らないの」

 ヨシ子はリュウの肩に寄り添って甘えるしぐさをした、リュウはヨシ子の手を握り 「ありがとう、本当にもうー良いんだよ、反ってそんなヨシ子が俺には負担に感じるよ、俺はヨシ子と今の生活が幸せであればいい、此れを護りたいだけ、もう決めたから」 俺にも解らない、レース続けたい思いが一杯なのに、なんで俺自身こんなにカッコつけるのか? ヨシ子甘える様に 「私もくどい事解ってDSC01506-2.jpgいるの、でも本当に良いのかしら」 俺より俺の性格が解っているヨシ子の方が残念で悔しがっている。

 浩子は呆れた様に 「お暑い事、見ていられないわよ!バカバカしい!」 俺は感謝を込めて 「浩子さん、ありがとう、助かったよ、それと余り名前で呼ばれた事ないし、何かこそばゆいから、リュウって呼んでよ」 やはり口では如何でもよいような事を言っていたが、気になるのか浩子は 「解ったわ そう呼びます・・リュウ 一時的な事で道を間違わないでよ 良く考えてからでもいいじゃないの」 「あぁ、ありがたいが俺一人じゃないしチームの方針もあるから早めに決めないと」。

 ここ逗子海岸はウインドサーフィン(wind surfing)が盛んである 積極的な女性達も大分増え、波間を風に乗り軽快に魚か鳥なって時の過ぎる事も忘れ皆笑顔で輝き声も弾んでいる、太陽が辺りを紅に染め始めた・・ふと俺もカーレースを夢中で始めた頃を彼らと重ね合わせ思い浮かべた、あの頃は全てが新鮮で苦難も新たに壁を乗り越える喜びに輝き、彼らや彼女達と同じだった・・そんな会話の中逗子海岸近くのトニー・イタリアン・レストランに付いた。

   《パーティー・トニーの店》

逗子の夕暮れ-1.jpg トニーの店の扉をあけ人数の多いのに驚いた、トニーの奥さんエバが目ざとく俺を見つけ俺に近付き 「リュウ、久しぶり待っていたのよ、皆さん来ているよ」 「よう!」 俺はエバに向けて手刀を切った、エバは催促するように 「中に入って」

 むんとするほどの熱気と人の集まりを感じた 「なに!この人数凄いね!エバも元気そうだね」 エバ、店内と久し振りの再会に親しみを込めて俺の顔を交互に眺めながら 「そうなの地元のウインドサーファー(wind surfer)達なの!パーティーの事話たらリュウなら友達だから仲間に入れろって! 私の勝手な判断で仲間に入れたの いいでしょう?」 「ふーん そうなの いいのかな?」 「リュウ心配する事ないわ 前もって監督から連絡有った時に 話を通したから、それにレースの監督の方も人数増えたからって連絡があったの」 「そうだったの」 「だからお隣の中華のお店に2,3品応援お願いして、家のと合わせバイキング形式で・・主立ってはローストビーフ、ターキー、ピザ、それからサラダ後中華とにかく充分食べ物あるからね・・リュウ良いでしょう?」「楽しそうだし いいも悪いもないよ」

ピザ釜jpg.jpg 俺はエバの説明を聞きながらヨシ子に手を差し述べ 「あぁ、ありがとう!凄いなサンキュー・・俺の奥さん・・ヨシ子ですそれからヨシ子の友達の浩子さん」 ヨシ子笑顔で 「宜しく、先日ご主人に大変お世話になり リュウと仲良くなる切っ掛けを作って頂いたのよ、こちら浩子も宜しくね」

 エバ、ヨシ子を観察するように眺め 「此方こそ! リュウおんな先生美人じゃない、うまくやったね!」 俺にウインクをしながら俺の肩を叩いた 「さぁー 皆待っているよ中に入って!」

 一歩中に入るなり、拍手や口笛の ”ピューピュ” の嵐ような歓声と、監督からビールの入ったグラスを3人に渡され 「皆静かに!リュウとヨシ子さんの結婚とお腹の赤ちゃんに乾杯!」 ウォーと言う歓声と共に乾杯 「それから、今回 F.J レースの優勝を祝して、リュウから挨拶があるそうだ、どうぞ」 エバも調子よく監督の言葉にのって 「さー主賓の挨拶だよ、さぁーリュウ始めて」

 俺は改まった挨拶は如何にも苦手だ、頭を掻きながら 「こうゆうの、弱いんだ監督お願いします」 監督おもむろに立ち上がり 「えー、静粛に願います、此れより龍崎より挨拶がありますリュウどうぞ」 「ええー監督!それは無いよ」 監督は俺を押し出す様にして無言げ催促した 俺は仕方なく 「リュウです」 サーファーの誰か 「名前は知っているよ、さぁー後続けて」 多分俺の気持ちをやわらげるつもりだろう、皆大爆笑 

 俺は無視して 「それでは、うっうん」 咳払いをして皆の注目を集めた 「エーこの至らない俺をチーム監督初めメカニックの皆さんと営業の皆さん達の並々成らない努力と支援に感謝しております、又今まで応援して下さった皆さん、それにサーファーの皆さんやレースクイーンの皆さんまで集まって頂き、心からお礼申し上げます..此処に感謝と優勝を祝して乾杯致したいと思います」・・「乾杯!」

 参加した皆の 「オォー!おめでとう!」 の返事を聞き、改めてヨシ子に手を差し伸べ 「えーと、ですねー今度、此方七月十七日に鶴見 佳子さんと入籍しました」 ピーピー口笛での祝福、サーファーの一人 「じゃー今此処で祝ちゃえよ、リュウもう遊んでいられないな年貢の納め処だよ、さー披露宴だ!」 又爆笑

 俺は皆を手で制止しながら 「皆静かに!..それでお腹に子供もいます、祝っていただき皆さん、ありがとう」 サーファーの一人だろう 「おめでとう!なんだよ!レースも早いが、そっちもはやいね、とにかくオメデタにおめでとう」 別のサーファーが同調して 「かーちゃんうるさくて、これで俺達も飲めるから何回もやってよ」 レースクイーン 「ちょっと違うでしょう?何回もって!結婚祝いよ、なんなのよ!」 頭を掻きながら 「おぉいけねえ、リュウなら遣りかけないよ」 またまた大爆笑、悪いと思ったのか、言い訳に 「こんな美人もうないよ、なぁーリュウ?」

 笑いの収まるのを待って 「それからもう一つ大事な報告があります」 「なんだよ、まだ何かあるのかよぉー」 「....俺..レースから引退したいと思っローストビーフ-1.jpgています、今までおれ、いや、私を支えて下さった皆様に心から感謝とお礼申し上げます」 「ホントかよ」 「はい!此れからもスクールを通し皆様と今まで通りのお付き合いと、お腹の三人目とも宜しくお願いします、又サーファーの皆さんにも変わらずお付き合いお願い致します」

 幸ちゃんが驚いた様に 「リュウ辞めるって、本当なの?」 「あぁー本当だよ!」 今度は幸ちゃん監督に向かい 「監督!本当なんですか?」 「あぁーその様だ」 監督改めて 「今回の優勝と結婚!リュウおめでとう ..二人共飲めないから、ジュースに変えて、ヨシ子さん順調ですか?其れと浩子さん、も元気でしたか?」 ヨシ子と浩子さん、二人で 「はい」 ヨシ子は軽く会釈をして 「此方こそ、今日は宜しくお願いします」

 ..監督気配りが良く 「浩子さんは飲めるんでしょう、サーどうぞ!、それから私の家内です、宜しく」 監督の奥さん以前は車会社のコンパニオン 「リュウちゃん久しぶりね、此れから活躍出来るのにガッカリだわ、如何して続け無いの?」 監督、奥さんを制止しながら 「よしなさい!リュウも悩んだ結果だよ、スクールもリュウのおかげで沢山生徒が集まって来ているよ」、

 少し酔い始めたサーファーの一人が 「なんでよ、優勝したのに、もう尻に引かれ、引退かよー!」 浩子さん真面目な顔で 「そんな事、無いのよヨシ子さん、リュウにレース進めたのよ!」 30代位のサーファーの古株の南波さんが 「解っています、リュウは誰も止められないから、知っています、冗談ですよ、浩子さん此方に来て飲みませんか?」 浩子さん不安そうに俺を見て如何するのって顔をしている、俺は目配せで大丈夫行きなさいと合図、

ガーリックチャーハン.jpg 何か一人でポツンとしているエンジニアの井原君に俺は訊ねた 「井原さん、其方奥さんですか?綺麗な方ですね」 井原君は本当に残念そうに 「あぁはい、リュウさん、これからなのに残念です如何してですか?」 俺は説明が長くなるので手短に 「本当にごめん、其の話後で監督に聞いてよ話して有るから、奥さん、始めましてリュウです、彼には何時も助けて頂いています」

 俺は井原君の奥さんに向かって、手を出し握手を求める 「アッ!、はい家内の真澄です、此方こそ主人がお世話になっています」 ヨシ子も俺に従い笑顔で 「ヨシ子です、此方こそ宜しくね」 井原君の奥さん、尊敬の眼差しで 「凄いわ!女医さんですってね、憧れます」 孝ちゃんが近ずいて来る 「ヨシ子さん、お腹順調!」 「ええ、孝ちゃんは元気?」

 「寂しいわよ、急に辞めるなんって、リュウにはガッカリだわよ!これからじゃない、来年活躍出来るのにねーどうしてよ?何か気が抜けたわよ!」 俺は孝ちゃんの肩にてを置き軽く叩きながら 「まだスクールにお世話になるから、俺よりもっと若いレーサーが来たじゃぁない宜しく頼むよ、あっちのサーファー達のグループ紹介するよ」 本当に気抜けした様に 「もう!がっかり!気がぬけたわ」 元気付ける様に 「何時でも遊びに来いよ」 俺はヨシ子の目を見て救いを求める ヨシ子は俺の気持ちを察して 「孝ちゃん!私も、孝ちゃんの面白い話し聞きたいから時々遊びに来てね」

 表情豊かな孝ちゃん、万遍な笑顔 「ほんとうに!うれしい!ヨシ子さんの許可が出たから、リュウに会いに来るわよ、ヨシ子さん本当にいいのね」 「ええいいわよ、リュウの命預けた人達でしょう、本当にお世話になり、何時でも顔を出して下さい」 「うれしい」

 向かいには次期レーサー候補の森田君とレースクイーン達がいる、俺はレースクイーン達を呼び孝ちゃんとサーファー達のグループに皆を連れ挨拶をした 「皆、久振り!俺達のチームの連中だよ、宜しくね!」 レースクイーン達 キャー!云いながら 「凄い真っ黒!ちょと触っていい!」 次に森田君に俺は手を差し伸べ 「森田君だよ、俺れの変わりに走るから宜しく」 森田君サーファー達に握手しながら 「森田です、よろしくお願いします」

 陽気なサーファー 「おぅ!リュウに負けるな、頑張れよ!ねーリュウ、こんな美人ドクターをどうやって釣り上げたの?」 レースクイーン 「そんな下品な云い方じゃぁ無理よ、何処で出会いましたか?でしょうー..ね!」 俺は笑って誤魔化した、..スクールの生徒達もサーフィンに興味が有る様で、話に夢中だ!、浩子もサーファーの南波さんと話が弾んでいる様だ、竹田君と久美ちゃんには少し離れた所にいる、手あ挙げ挨拶を送る、どうやらその後仲良くしている様だ、..あちこちで、話が盛り上がっている..

ピザ.jpg 俺は一様落ち着いた様なので一息入れヨシ子に 「何か挨拶、締まらなかったね、でも凄いよこんなに来てむらい沈んだ雰囲気ならないで良かったよ」 ヨシ子俺の耳に顔を近付き 「リュウの友達皆個性ある人ね、でも気取っていないで本音トーク皆 楽しそう」 俺はヨシ子の背を押すようにして一緒に厨房に入り トニーに挨拶  「ハイ!トニー元気、今日は有り難う」 陽気なトニーはヨシ子に握手をしながら 「ヨシコ&リュウ、コングラチュレーション(Congratulations)おめでとう、赤ちゃんもね」 ヨシ子も笑顔につられ 「ありがとう、トニーの御かげよ、あの日此処に来たから本当に私達に採って運命なキューピットだったわ」

 トニー両手と肩を上げながらお決まりのオーバーアクションのポーズで 「運命?」 俺は冗談交じりに 「トニー、ベートーヴェン第五だよ」 エバ、横合いから俺を制止して 「リュウよしてよ、それじゃぁーなお更解らないわ、destiny!よ」 トニーオーバーに両手を開き両肩を竦める様に上げ 「おぉ!destiny うんめい....そうだよ、私キューピッド(Cupid)ね」 トニーは続いて尋ねた 「..ねーリュウどうしてよ、レース、ファースト-プレイスなのにどうしてリタイヤなの?」 俺は質問には答えず、ふざけて 「トニーはキューピットって顔じゃないけどね」 トニーも解ったようで乗ってきた 「どうして、可愛いでしょう」 顔の頬に両指を当て顔を傾けおどけて見せた、

 エバ、トニーに真面目に説明した 「だめよ、He is never-change、リュウは決して変えないよ」 ヨシ子俺の顔を見ながら 「リュウ、あなたよほど頑固者で通っているのね、皆知ってる様ね」 エバ得意そうな顔で 「そうよ、子供の頃からよ」 俺はエバを制止しながら 「エバが宣伝するからだよ」 エバ声を高め 「へー、そんな事云っていいの高校の時の事云うよ」

 ヨシ子笑いながら 「其の話知っているわ、リュウのお母様からも聞いたの、後でゆっくり聞きにくるわねエバさん」 俺はヨシ子に言い訳するように 「別に何にも無いよ、エバは子供の頃から、お兄ちゃん、お兄ちゃんって金魚の糞みたいに、俺に付いて来たんだ」 話を変え 「其れよりエバ、支払いお願いするよ」 エバ真面目な顔になり 「もう、頂いているわよ、監督からと、南波さんから、皆で会費払った見たい、リュウに叱られるからって、言ったんだけど、皆いいから、お祝いだからって」

ローストターキー.jpg 「そうなの..分った、足が出たら俺払うから云ってね」 エバ 「大丈夫よ、充分頂いているから、リュウお祝い何が欲しい?」 エバは前より少し太った様だ、胸元が大きく開いたTシャツから豊満なバストの谷間が見える、エバ笑いながら、俺に何時もの悪戯 「リュウ、そんなにバストばかり見詰て、私は駄目よ!ハァハァ夫ある身ですからね」 !「バカだね、間に合っているよ俺結婚したてだよ!、少し太ったなって思って、..ウインドサーフィン(wind surfing)でも教えてもらえ!やせるよ!」

 エバ自分の体を見ながら 「そうなのよ!ほんとう太り始めてこまっているのよ、やろうかな~」 「食いすぎだね!ハズバンドが美味しい物作ってくれるから、・・サーフィン今女性も多いよ、俺もやる事無くなったから、始めようかな?」 間髪をいれずにヨシ子は 「私も連れて行って!」 俺は少し驚き 「泳げるの?」 俺を睨むように 「泳ぎ位出来るわよ!、リュウはまだ知らなかったわね、此処のところご無沙汰ですが、浩子と良く沖縄の海潜ったのよダイバーの免許も有るのよ」 「へー、意外だな!」 「意外って!これでも運動神経有るほうよ」

 「あぁそういえば結婚式の招待状もう届くと思うから、頼むね、何せ俺達のキューピットだから」 ヨシ子改めて 「本当にそうよ、是非出席して下さいね」 エバはトニに説明する 「トニー、リュウとヨシ子さんのan invite guest wedding-ceremony & party  ウエデング・セレモニーとパーティー行くでしょう?」 トニーは俺の胸を拳で軽く叩く様に 「Yes of course イエス、オフコース、お店クローズね」 「ありがとう、待っているからね、今日は皆話も盛り上がり楽しそうで良かった」 皆其々楽しく過ごし無事パーティーも終りに近ずき

 俺はエバに改めて、海斗の病気の事、レース観戦に行き、明るく成った事等、手短に説明して、レース関係は監督に、サーファー関係をエバの知り合いの人に、ボランテアで海斗の海外手術の費用の寄付を集めて頂く事をお願いした、此れも”心臓病の子供を守る会”や”臓器移植ネットワーク”などにお願いしなければ成らないし、直接海斗には如何にも成らないかも知れないが少しでも何かしなければ、遣り切れないよ、

  俺は良いと思うけど、中には煩い奴が居て、中傷する人もいて俺達夫婦はヨシ子の医師とゆう立場で患者の個人的応援は出来ないので、幼馴染のエバに海斗の事、臓器移植ネットワークに手紙を添えてお願いする事にした、エバは納得言ったように 「分ったよ、リュウに何時も助けってむらったからね、やってみるよ」

エビチリ.jpg ヨシ子は俺を感心したように見ながら 「リュウそんな事考えていたのね、リュウには驚く事ばかり!」 俺は言い訳するように 「生意気の事、云うだけじゃかっこつかないからね、此れでやり残す事無く結婚式出来るね」 ヨシ子感心した様に 「リュウは..なんって..」 俺はテレながら 「何かしなかったら俺の気持ちが許せないだけ、だから俺の為だよ」 ヨシ子頷き 「それでも凄いわよ」

 エバは俺の子供の頃から知っている事を強調して 「ヨシ子さん、リュウは昔からそうゆう人なんだから、私昔、生意気で問題起こして、何回もリュウに助けてむらったから!パーティー終わる時に海斗君の事、私から話すよ」 「助かるよ、頼むね」

 暫くして、エバは両手で大きな音をたて..パン!パン!平手打ちをして注目を集めた..エバ 「皆!静かに!静かに..大分盛り上がっていますが、聞いて下さい!..突然ですが、浩子さんの6歳の息子、リュウの友達でもあるのですが難病の心臓病で移植を受けなければ生存が困難です、移植待ち状態ですがそれで少しでも助けに成ればと思い、寄付と海斗君の為の署名、協力お願いします」

 サファーの南波さん、浩子さんと大分話が弾んで気に入っている様だ、南波さん 「如何して浩子さん何も話してくれないのですか?そう云う事なら湘南じゅうのサファーに協力してむらうよ、なー皆」 サーファー 「エバの頼みなら、俺達余り金無くて大した事出来ないが、それでも良いなら協力するよ」 エバ皆を説得するように 「もちろんよ、気持ちで良いからさ」 陽気なサーファー 「エバに、飯で大分世話掛けてるかな、なー皆やろうぜ!」

 レースクイーン達がサーファー達に 「皆でやろうよ、私もレース場で海斗君に会ったの可愛い子よ!協力するでしょう?」 サーファー達..彼女達の手前も有って、皆もちろん協力するよ、うん良いよ..と言ってくれた

カルパッチョ.jpg 俺は監督にも協力してむらう為に 「監督!そんな訳で、勝手ばかり言ってますが、レースの主催者に話して下さい、お願いします」 浩子さんも俺に合わせ、少し涙ぐみ、声を詰まらせながら 「皆さん!宜しくお願いします、本当に!本当に!ありがとう御座います」 何回も々頭を深々と下げていた、

 俺は浩子さんをかばう様に 「海斗だけの事じゃないから、個人的にも出来るが日本全国には何万人が待っているだよ、厳しい審査の上危険度の高い順で尚且つ年齢に有ったドナーが見付り適合しなければ成らないのだよ、ただこれが少しでも役立てたらと思ってだよ」 監督説得するような響く声で 「もちろん協力するよ、此れは浩子さんの為では無く宣伝になるから、リュウが居なくなり如何しようと思っていたからな!」 ..多分、俺や浩子さんに、気を使ったんだろう..自分達の為にと、浩子さんの心の負担をなくしたい為に監督らしい心ずかいだ!だから他のチームには移れないよ!.. 「監督!ありがとう御座います、..エバの所で纏めて管理しますから、宜しく」

 エバ小声で 「リュウよかったね、意外と策士じゃん!あの子達、女に弱いから」 俺は複雑な気持ちで 「そんなんじゃないよ、たまたま重なっただけだよ、其れよりエバはもうここら辺のサーファー抑えているの?」 得意そうな顔で 「リュウが以前言ったでしょう、男捕まえるなら胃袋掴めって!、それであの子達のお金の無いとき時々めんどう見てるの、きっとあの子達、他のサーファー達に話してくれるよ」 トニーはエバに同調する様に 「そうだよ!だから何時も赤だよ!」..多分赤字の事と思う.. 「だから、フレンド沢山だろうトニー?」 「オー、イエスうれしいね」

 ヨシ子感心したように 「リュウの友達って皆、凄い行動力ね!感心するわ、私の知り合いには居ないわ、理屈だけは、ごちゃごちゃ云うけれど全然駄目よ、皆自分の手を汚さないの、エバさんと居ると何か元気を頂けるわ、良かった私からもお礼言うは本当にありがとう」 エバ照れた様に 「奥さんやめてよ照れるじゃぁない、リュウに世話になったからだよ」 もう大分時間も過ぎていた、俺はそろそろ”お開き”の合図をエバに送った、エバは了解の合図を俺に送り返して

 エバ大きな声で 「皆!名残惜しようだけど、そろそろお開きにしまーす..リュウしめてよ、挨拶!」 「えーぇ、本日は忙しい中ありがとう、此れを機会に皆さんが友達なれたら嬉しく思います、それから俺の友達の海斗の事宜しくお願いします、今日は本当にありがとう御座いました」  ヨシ子と浩子さんが一緒に頭を下げてくれた、久美ちゃんと竹田君に結婚はまだか、訪ねたがまだはっきりしていない様子、

 ヨシ子、サーファー達と話をしていた孝ちゃんが気になった様で 「孝ちゃんは、どうだった?」 幸ちゃん頭と胸を押さえ 「あの子達、見た目は良いけどさ、こことここ、今一よ、やはり、リュウ以外居ないわ」 ヨシ子笑いながら 「孝ちゃん、リュウはだめよ!」今度は真剣に「友達見つかると良いのにね」 と問いかけた 「安心して、ヨシ子さんには敵わないわよ、リュウ早く来てね、待っているわ」 「ああ、いずれインストラクターで行くよ」 俺達は監督にお礼を言って帰る事にした、浩子さんと南波さんはまだ名残惜しそうだった、エバは俺を気使って 「リュウ、エビチリ残ったから持って行って」 「おぉサンキュウ、美味しいからむらって行くよ」。

 帰りの車の中で、浩子さん 「今度、南波さんが食事しょうって、リュウ行っても良いかしら?」 「其れは..浩子さんが決める事でしょう」 俺は浩子さんの挑戦的目線を感じた 「リュウなら友達でしょう、彼の事知っていると思って、それとリュウが止めると思って」 ..何、考えているんだ、俺が止めたら?時々解らなくなる..寂しくて誰かにぶっつけたい気持ち解らない訳ではないが 「友達と云っても、時々トニーの店で会っただけだよ、自分の目で確かめるのが一番だよ、其れより寂しいの解るけど順序間違えないようにね、俺が云う問題ではないが旦那の事が先だよ、それだけ踏まえて居れば良いじゃない」

 ヨシ子も何かを感じたのか、心配そうに浩子に向かって 「浩子、家に泊まって行ったら、もう遅いし一人で寂しいでしょう、ね!リュウ良いでしょう?」 その寂しさでは無いのだが..俺 「構わないけど」 浩子さん俺の意見には応えず 「今日は帰るわ、海斗の事本当に嬉しかったわ、本当にありがとう御座いました、明日弁護士に会う予定なの家まで送って下さる」 浩子さんを送り、俺達はマンションに着いた。

 「私やっぱり、リュウの人生狂わしちゃった、才能あるのに!」 俺は少し疲れているしこれ以上レースの話は ’俺自身がどうにもならない事を一番解っているから うんざり’ だったが、本当に俺を気使って居る事が解っているので、ヨシ子を優しく抱き締め 「違うよ!、最初にヨシ子に病院で逢う前からレース捨てたんだ、だから俺が運命変えたから、でも監督からの誘いが有って国内だけでもと思ったんだ、それが終わっただけだよ、ヨシ子は強いよね何時も自分の生きる道を失わないね、気持ち嬉しいけどもういい加減よそうよ!、俺には反って負担だよ!本当に怒るよ!良いね」 少し驚いた様に 「ハイ!御免なさい」 俺は慌てて付け加えた「何が有ってもヨシ子事が一番だよ」 本当に恐いほど俺の心が解っている人だ 「嬉しい!今日は海斗君の事ありがとう、浩子も喜んでいたわ」 ヨシ子は年上なのにそうゆうところが、素直で子供みたいに可愛い人だと思う、

 ヨシ子思い余った様に暫く考えて 「浩子..うん..何でも無い!、リュウは凄いね行動力が有って、それとエバさんも」 「云うだけじゃぁーかっこ悪いから」 ヨシ子には珍しく話を止めたので気になり尋ねた 「浩子さん如何かしたの?」 急いで否定するように 「何でもない!きっと浩子、苦しくやり切れないほど寂しいと思って」 俺は、ヨシ子の言おうとし止めた事が解っていた、俺れの事だろう、きっと浩子さんから何かを感じ取ったのだろう、それと浩子さん俺達の様に何でも話し合える相手が欲しかったのかも..俺はそれ以上質問はしなかった。

ヨシ子右横海斗.jpg ヨシ子は病院で俺を待っていた時の事が気になったのか 「ねーリュウ、海斗君に何か有ったの、海斗に会いにいって戻った時にリュウ変だったわ?」 「うん、海斗死について俺に質問してきたの、俺如何応えたら良いか解からず、悲しくて訳もなく腹立たしく!俺..」 「もういいわ、それ以上言わなくて解かったから、きっと全て知っているのよ、だから恐かったのだと思うわ、だからリュウに助けを求めてたのよ」 「そうだよな!、俺何にも勇気ずけ出来なかった本当に駄目だよな!」

 「そんな事無いと思うわ、リュウには心開いているの、聞いてあげるだけで良いのよ、なるべく会ってあげてね」 「うん、そうする様に海斗に云って来たよ」 「リュウ、海斗君はね..御免なさい、なんでもない」 「良いんだよ解っている、医者の守秘義務って事だろう、もうただ変わりの心臓を待つ事しか出来ないなんでしょう、なんで世の中こんなに悲しい事ばかりなの!」 ヨシ子は悲しそうに目をヨシ子後ろ髪1.jpg伏せてしまった、

 ヨシ子の方がもっと悲しいよな、俺はぽつんと呟く様に 「ごめん」 ヨシ子は後を向いた、その後姿は悲しみを絶えている様だ 「いいのよ!でも医者は最後まで諦めはしないわ、リュウも..本当はパーティー楽しんでいなかった!・・なんでもない」 俺はその続きは解っていたレースの事だろう

 明日は日曜だがヨシ子は出勤で当直、月曜の夕方まで帰らない、久しぶりに俺のマンションの片付けでもして、おふくろに鍵を預け管理を頼もうと思っている 「ヨシ子、俺あした勤めに行った後おふくろの所に泊まってくるよ、俺のマンションの鍵渡してくる、今の内に売れたら良いと思って、不況になってからでは遅いから、いいよね」 「リュウの家だもの聞くまでもないわ、今が良いと思ったら良いじゃない、リュウの感凄いと思うよ」

 「今は二人の物だよ、じゃぁーそうするよ月曜の夕食、ヨシ子疲れているだろうから、たまには俺が作るよ」 「へー、何作って頂けるの?」 「まだ決めてないよ、..そうだ、餃子と、もやし炒めに挑戦してみよう、初めてだから上手くいくか分らないよ、それとえびチリむらって来たのあるから、遅いから寝よう」 「楽しみにしているわー」。

 今回こんなにはっきりした、意志表示は初めてだ、俺は少し驚いた 「ねー、リュウ..!」 ヨシ子から俺を抱き締め身体を摺り寄せる様に、にじり寄ってきた、俺は少し大きくなったお腹を擦り 「如何したの?お腹大丈夫?本当に大丈夫かなぁ~」 ヨシ子は黙って俺の背に廻した腕に力が入り強く抱き締めて胸に顔を押し付けてきた 「..」 「うん、わかった」 俺の胸の中に顔を埋めて.. 「優しくね」

 何か俺には解る様な気がした、俺の子供の頃からのエバとの絆を知り、又 浩子と海斗の事もあり、ヨシ子自身の為より、俺の気持ちを愛を確かめたかったのでは無いのか、そんなヨシ子を愛くるしく思い 「ヨシ子だけが、俺の休める処だよ」 「うん、解っているんだけれど、..寂しかったの」 ..此のときほど、どんなに理性的な人で有っても、齢のさも無く、なんって素直で可愛い人なんだ!と思った、俺は思わず、ただ黙って抱き締めた.. 「リュウ!大好きよ!・・」 「うん、俺もだよ」・・・。

 翌日、俺のマンションに寄り実家の母の元へ、餃子の作り方を教えてむらいながら一緒に作った、やはり母の作った方が形がとても良く早かった、 母笑いながら 「健司、お前とね..餃子作るとはね、後は家で焼きなさい、水より熱いお湯を入れた方が上手く焼き上がるよ、蓋をして5分くらい音が変わったらごま油を少し上から垂らしなさい」 「うん」 「翌日朝仕事前に家により冷蔵庫に入れて行きなさいよ」

  ..「いよいよ来週は結婚式だね!」 「うん」 「佳子さん美人だし背丈も有るからドレス似合うと思うよ、今から楽しみだね、知っているとは思うけど、お父さんよりお母さんが年上だったのよ、其れなのに先に行ってしまい、本当に辛く悲しかったわ、健司ヨシ子さんの事考えてもう危険な事はしないでね」

 「もう!、分っているよ」 「それと夫婦だからと云って感謝の気持ち忘れてはいけないよ」 「うん」 「健司はお父さんにそっくり、お母さんはね、何時もお父さんに始めて逢った時の事思い出すのよ..」 母と何年ぶりにゆっくり話す事が出来た、母はほとんど一人で喋っていたが嬉そうだ、マンションの鍵を預け母の知り合いの不動産屋を通し売る事をお願いした。

 餃子.jpgその翌日、餃子を言われた通り焼き、少し焦げめが付き上手く出来たが、ヨシ子に直ぐにバレテしまった 「この形の良い方はお母様でしょう、皮はモチモチで羽はパリパリ中身はジューシーで美味しいわ!、知っているのよ鶏ガラで作ったゼリーを少し入れブタバラを皮の上にひく事でしょう、お母様に教わったから」

 「こっちだって美味しいよ」 ヨシ子笑いながら「中身はお母様が作ったからね、とても美味しいわ、リュウのモヤシ炒めもシャキシャキして美味しいよ」 「今度は俺1人で全部出来るよ」 やはりこの話になると目の輝きをまし、嬉しそうにヨシ子は語る 「式、後一週間ね、リュウと知り合い、沢山の事が一度に一杯有りすぎたね、怖い事も有ったけど凄く充実していたわ」

 「全部任しちゃってごめん」 「うんうん、リュウは休みも無く忙しかったから、考えているだけで何かドキドキして楽しかったわ」 俺もある面充実していた 「此れから肉もやし炒め.jpgもだよ、何時もヨシ子にドキドキしていたいね」 ヨシ子照れた様に 「其れは大変!・・何時も若く新鮮でいなくちゃ!ね」

 俺は結婚前にどうしても済ませておきたい事があり、今ヨシ子に話さなければならないと思い 「俺やはりスポンサーの件で、監督が後でいいと言ったが此れだけは、結婚式前に済ませたかったんだ、今朝、職場から連絡取ったの・・明日休み取って来たから東京に行ってくるよ」 ヨシ子は俺の気持ちが解っていた、きっぱりと 「美奈子さんのお父さんの会社でしょう、私リュウにハッキリ言ってむらった方がスッキリするわよ、リュウ義理を欠いてはだめよ世話になったんでしょう気になるだったら行ってらっしゃい」 俺はそんなヨシ子を快く好きだ 「うん、今日朝社長に連絡して明日11時に会えるからて」

 「着て行く物、用意したの?」 「別にいいよ、何時もの物で」 まるで母親が幼い子供の心配をするように 「駄目よ!夏の明るいスモークグリーンのジャケット有るでしょう、ネクタイ嫌いでしょうから黒のティーシャツで良いから着て行きなさい」 「うん」 「少しリュウのスーツ用意しないといけないわね」 「いらないよ、持ってこなかったがお袋の家に、沢山置いてあるよ」  今まで全て一人でやってきた俺には、そんな受け答えをしながらも、何処か心良く感じていた 「リュウもセンス良いけど、此れから使えるかチェックして、たりない物買い足さなければね」。

タッチおじさん ダヨ!.jpg   ストーリ【Story15】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-18是非お読み下さる事お願いね 


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編13】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

☆=ストーリ【Story12】からの続きです、是非下欄【Story13】をお読み下さい=☆

   《鶴見医院・ヨシ子実家へ》

 最近俺の顔から笑顔が少なくなった事をヨシ子は感じていたのだろう。 「ねぇ話変るけど 私達もどんな小さい事でも不満やストレスを溜めないようにしようね」 「あぁー 解っているよ」 「それには話し合いをね、どんなにくだらないと思う事でも聴きあうようにしょうね」 やはり俺は苛立っていたのか声が大きくなり 「俺ってそんなにくだらない!」 この所 何が原因か解っているが 何をすれば良いか俺は最近苛立っていた。

 やはり年上とでもいうのか、ヨシ子は怒りを表すどころか優しく説明し始めた 「リュウ これってね、私達にとっても真剣な話なの!、私の患者さんの中に馬鹿げた事を言っている人がいるの、始めはね聞き流していたけれど その人は本音を素直に言えなく わざと馬鹿らしい事を言って誤魔化していたのよ、 彼本当は手術 恐くて恐くてたまらなかったの 解ってくれって訴えていたのよ、 素直に言ったら良いと思うのに言えない人もいるのよ。 だから理解するために心理学が必要と思ったの」

 患者の話にすり替えているが 本当は俺がレースを辞めたく無いのに、ヨシ子に遠慮して本当の事言えずにいるのではないか、本当は私が足を引っ張っているから 力になりたいのにどうして良いのか解からず 俺以上に苛立を押さえているようだ、

 俺はヨシ子の気遣いに 反って苛立ちが増し 「何に! 俺を分析しているだよ!言たい事が有るんなら、そんなに遠廻しに言わないではっきりいったら如何なんだ!」 ..少し言い過ぎたかと思い慌てて補足した 「・・解ってるよ!」ヨシ子から学んだ事沢山有るし助けてむらっているよ、何時も本音で話してくれるから俺も本当にそうしてるよ だからもういいんだよ!本音は これから莫大な資金が必要で一流企業のスポンサーの後押しか おぼちゃんでなければ と心の中で思ってはいるものの言葉には出来なかった

 ヨシ子は驚いた顔で俺を見詰めたが 直ぐ様ほっとした顔で 「私もよ リュウと同じ! やっと安心して自分でいられる場所を見つけたの だから..」 何か虚しさが収まらず 少し強めに「もうー良いからって!言っているでしょう!」 俺は何って天邪鬼なんだ 甘えている事も身勝手な事は解っていているが、あまり優し過ぎるのも腹が立つ!。

 ヨシ子は、私だって如何して良いのか苛立っているのよ、というような悲しそうな顔をして 「本当の所、身内は分析出来ないわ、特にリュウの事になると冷静に判断出来ないし解からなくなるの・・リュウって、凄く甘えん坊だったりファイターだったり、時々変に大人に見えたり、本当に多彩ね、一緒にいて飽きない人、・・どんな時でも、いざと言う時にリュウは必ず私を守ってくれるから」..「でも私に遇いさいしなければリュウはレース続けていられたのよ、私解っているの!でも如何したら良いのか判らない」 悲しそうに訴えるような目で俺を見る。

 「だから 諦めるしか無いだろう、ヨシ子のせいではないよ 違うって言ってるでしょう、その気遣いがくどくて腹が立つよ」 可哀そうな言い方をしてしまったし俺自身も腹立って惨めさを一層感じる、ヨシ子も仕事や人生に目的を持った人だから目的を失った俺の気持ちが判るのだろう、ヨシ子はそんな俺に戸惑いを見せ 何も出来ない自分自身に怒を感じ 両手に握り拳を作り耐えている様子で 「でも事実よ 何んにもして上げられない! 私ってだめね!」 「なに言っているの!充分助けてもらっているよ、無駄な時間を過ごした 俺が招いた事だよ」

 急に俺の目をきりりと見詰め 「リュウ無駄な時間って!美奈子さんの事?そんないい加減なお付き合いしたわけでは無いでしょう!それに他人のせいにするなんて!そんなリュウを選んだ私も侮辱する事になるのよ!」 なんだしっかりしているじゃん 全く指摘の通り 「ごめん!説明のしかたが間違っていたよ、自分で選んだ道だから自分で切り開かなくては駄目だと解っているよ、でも どうにもならない事もあるんだよ」。

 引き続きレースーについて説明した・・ 「カーレースはそんなに単純な物ではないよ、大勢の支えてくれる人があって成り立っているんだよ、レーサーの才能が有ってもスターに成れる人はほんの一握り、それも俺の実力の無さと運だよ!・・ヨシ子に影響されて辞めると言っているのじゃないよ。

 ・・自分だけは違うと思って始めた才能のある人達が消えていった現実を沢山見てきたよ!何処の世界でも成功出来るのは、ほんの一握り。 俺も其の一人、悲しいかな消えていってしまうんだよ。 だからヨシ子には関係なく其のときが来ただけさ!」 言葉の最後は投げ遣るように言い放った。

 本当は何時もヨシ子が俺を護ろうと思っている。 それなのに、このやりきれない気持ちをヨシ子にぶちまけ甘えているのか・・俺は内心、ヨシ子に心配掛けて御免と思う気持ちが有りながら、それとは裏腹に投げ捨てる様に言葉を吐いていた。

 「俺の事はもう良いよ!決断の時が来ただけさ!。 気持ちが暗くなるから此の話やめよう、如何にもならない事考えるだけ無駄だよ」..「そうだ!明日、海斗に会いに行くよ」 ヨシ子は自身に呟く様に聞き取れない位小さな声で 「本当にいいのかしら?今は何を云っても・・」。

 暫く沈黙の後、ヨシ子は俺を伺う様な目で尋ねた 「海斗君に会った後、私の実家に一緒に行ってね、結婚式の事話したいから」 俺は何故か気の無い返事をした 「あぁ」 ヨシ子は力を入れ語尾を強め 「本当に良いのですね!」

 そうか、それで俺の本当の気持ちを知りたっかたのか! 「良いに決まっているだろう、ヨシ子を失える訳が無いでしょう」 本当は俺のはっきりした答えが欲しかったのだろう、嬉しそうな笑顔で 「うれしいわ!本当ね?ありがとう」 もう一度確かめるように 「いいのね!」 「うん・うん」 俺は黙って頭を2度ほど小さく立てに頷いてみせた。

 なんだか俺は息が詰まりそうで、話題を変えた 「それより、海斗に何て言おうかな、レース辞める事がっかりするだろうな、俺、海斗がストライキ起こした時、最後までやれって威張って言ちゃった」 ヨシ子はサラリと 「事実だから仕方ないじゃない、誠意を持って話してみる事ね」 なんだ!アドバイスは無いのか、・・それもそうだよな 「そうだよね、其れしか無いか。 解ってむらえるか判らないが話すよ」

 「リュウって、なにか海斗君の事、自分の子供みたい、お願いしたの私なのにね」 お腹を擦りながら 「将来、此の子にもきっとそうでしょうね」 自分の子供の事もそれ位考えよと俺に云っているのかな?母親の心なのか?

 本音はまだ会っていない俺の子を理解出きる訳が無い 「そうかな~ぁ?良く判らない」 自分の子供が欲しくてたまらない人も居るだろうが、本当に子供の事を考えずに突然出来てしまった人はどの様に受け入れていくのか?ただ己の行為の責任感だけで流され、其の内愛情が芽生えるのか? 俺の戸惑った気持ちを察したのか 「まだ、リュウは実感ないものね」 もう父親の自覚持ちなさいよ、では無く、本当にヨシ子の顔は皮肉では無い様だ、俺を気使っての事だ、そんな風に感じる、

  俺自身が拘っているのかも知れない、頭の中で考える倫理感と実際に起きた事とは違ってくるのだろうか?俺は皆と違って冷たいのか?、そんな事は無いだろうが今この時期、子供によりもっと俺の道を閉ざされてしまうのではないか、一体世の男はどう思い感じているのだ本音が知りたい?・・いや俺自身の本音に問いかける事が恐いからか!

    《病院にて》

 翌日、スクールでの販売用の子供用Tシャツを持って海斗の病室を訪ねた。 海斗は疲れたのか静かに眠むっている、ベット横の来客用補助椅子に座り、暫く寝顔を眺めていた、..なんって、汚れの無い顔か!、誰かが云っていたな.. 「昼間は散々困らせるのに寝顔を見ると全て忘れ幸せになれるわ」 って..そんな言葉が浮かぶ..。

 海斗は俺の気配に気付いたのか 「リュウ、来ていたの」 俺は片手を軽く上げ 「よぅ!」 海斗は嬉しそうに 「ヨシ子先生から聞いたよ、一番になったんだって!凄いね、・・ねぇねぇ、話し聞かせてよ」..俺の手を取って揺すっている..俺はレース辞める事、なんって話すか迷っていた。 取り執えずTシャツを海斗に渡し 「今回急いで帰って来たから、お土産此れだけだよ」

 「いいよ、リュウが一番になれた事が一番嬉しいお土産だよ」 思わず海斗の頭に手を置きグルグル撫でまわした 「なーに、生意気な事云って!」 頭を揺すって俺の手を避けながら目を丸く見開いて 「だって、リュウの一番のファンだから」 自分の子供で無くてもこの様に接して話し合い、初めて愛情が湧いてくるものだ、まだ見ぬ我が子にしてもそう思う、確かにヨシ子のお腹の中には居るだろうが会わない内に一体何を感じるのだ、俺って間違っていておかしいのか?

 ..丁度、ヨシ子が定期診断の時間だろう白衣姿で入って来た、ヨシ子と顔を見合わせたが..俺は海斗に話を続けた 「嬉しいけど、海斗はファンより一番の友達だよ」 ヨシ子、海斗の脈を取りながら 「あら、先生がリュウの一番のファンだと思っていたのよ、海斗君が一番だったんだ」 海斗、得意そうな顔をして 「そうだよ、一番の友達で一番のファンだよ!」

 俺とヨシ子は顔を見合わせた、リュウちゃんとあの事を話しなさいと云っている目だ..俺は海斗を見詰め 「なー海斗・・俺レース辞めるよ!」 暫くキョトンとした顔で 「え!どうして、どうしてなの!辞めたら嫌だよ!」 ..こまったな!なんて説得したら良いのか?思いも見つからなく言葉に詰まっていた..。

 その時、浩子さんと海斗の父親(長崎 伸男)らしき人が病室に海斗の見舞いに入って来た、そのまま海斗に歩み寄りながら 「海斗!うわまま言ったらいけないよ!」 そのまま海斗の意見も聞かずに俺に向き直り 「龍崎さんですね、お世話になっています・・噂は聞いていますよ!」 語尾がきつく何か文句が有りそうな言い方だ 「いいえ、此方こそ」 海斗は父親を睨み「お父さん、なんか何にも知らないくせに!」 父親は冷たく 「海斗は黙っていなさい!」

 ..俺はレースの事も有って何かもやもやしていた、誰でも良い無性に当たり散らかしたかった、..俺が腰を上げ反論を言う気配を察したヨシ子が素早く俺の手を握り押さえ遮るように前に立って、彼に向かって 「別の部屋に行きましょう、海斗君後でね」 海斗は何か父に云おうとしたが俺に向きを変え 「リュウ後で絶対きてね、聞きたい事があるの約束だよ!」 軽く頷き 「おーぉ、後で」

 同じフロアーの患者相談室に俺と長崎さん三人が案内され、ヨシ子は厳しい顔で相談室のドアーを開け中のテーブルを手の平で示した 「さー皆座って、リュウも浩子さんも、海斗のお父さん長崎さんも座って下さい、さーリュウもよ!」 ヨシ子は皆がテーブルを囲んで座るのを見届け 長崎さんに向かって 「..お父さん、如何したのですか?海斗君に訳も聞かずあんな言い方して、如何したのですか!、其れで無くても海斗君は自分の事で怯えているのですから!」

 「すみません、何をやっても..もうこれ以上如何したら良いですか..」・誰も返事は無かった・皆なぜという顔で長崎さんを見詰めた・「私もう駄目なんです、浩子は全部私の責任にして」 ヨシ子呆れ顔で 「一体如何したのですか?第一に海斗君の事を考えて下さい」 浩子達夫婦は別居状態が以前から続いていたようだ、浩子が夫を睨み付け 「この人、愛人にも捨てられたのよ!、それで私の処に戻りたいって、今まで散々私を蔑ろにして、今更・・もう家庭裁判所に申請出したのよ!何があっても、もう一緒には住めないわよ!」 と尾びを高めた、

 長崎さんは素早く立ち上がり両手の平で机を叩き、派手な音が響いた 「なに云っているんだ!今までどんなにして上げても、何時もだめよ貴方が悪い、何時もそれだけでしょう、いい加減嫌になるよ!」 ヨシ子は当惑した様に 「ちょと待ってください、浩子も長崎さんも、今はその話と海斗君の事は別でしょう、これからは海斗君の前で言い争いは止めて下さい!」 其れより長崎さんの ”どんなにしてあげても” 言葉を聞いてがっかりした ”してあげる” のか?考え方が違うなと俺は思った。

 ヨシ子は二人を宥める様に 「とにかく、長崎さんも浩子も座って下さい、リュウもよ」 長崎さん怒りが収まらない様子で 「何かと言うと、浩子はリュウさんリュウさんなんだから、いったい貴方は浩子のなんですか!」 今度は逃げ場を求め俺に矛先を向け話題を変えた。 

 俺が反論の為、立ち上がりそうな気配を感じたのか、ヨシ子は又俺の手を確り掴んだまま俺を制して、長崎さんに向かい厳しい声で 「貴方は人の好意も分らないのですか!自分のして来た事を何と思っているの、責任転化して!その反省もなくなんだって言うのですか!少しは海斗君の事父親として考えたらどうなんですか!今は皆さんで海斗君の事を考える時でしょう?」・・「もし医療費の事でしたら、院内にも市や県に相談できます、落ち着いて下さい」 よほどヨシ子も呆れ絶えかねた様子、こんなに激しく荒い言葉で話す事を今まで聞いた事わ無かった、やはり男社会で生き抜いて来た人だ!。

 長崎さん再び席を立ちながら 「もうほっといて下さいよ!・・誰も私の事など解ってくれない、本当に疲れてしまいましたよ!」 今度は急に言葉が荒くなり 「..先生、あんたも気を付けな!龍崎さんに裏切られるから!」 なにお!また話を変えて!怒りがこみ上げる、ヨシ子は俺の手を確りと握り押さえる様に制し、俺の顔を見てヨシ子は顔を小さく横に振って”駄目よ”と合図し、

 次に長崎さんに顔を向けるとヨシ子は厳しい声で 「話をそらし責任転換しないで下さい!、私達に何が有ろうが貴方に関係無い事、それに貴方夫婦に何が有ろうと海斗君に対して責任が有るのですよ!、もう少し父親として考えて下さい!」

 浩子さんも声を荒立て 「あんた!何言ってるの!負け犬の捨て台詞の様な事云って、貴方と違うのよ!、恥ずかしいわ!本当に海斗の事考えてよ」 長崎さんは、怒りを抑える様に頭を静かに左右に振り 「これ以上如何すれば良いんだ、お前は何時もそればかりだ!」

 浩子は怒りの頂点に達した様に 「全く無責任なんだから、今更許せません、もう家に入らないで下さい!荷物は何処へでも送ります!、鍵を置いて行って!」 浩子の凄ざましい言いかたに、長崎さんポッケトから鍵を取り出しテーブルに投げ出し、向きを変え乱暴にドアーを開け、足早に出って行ってしまった、

 ..だれも後を追う気配も引き止める事もしなかった..、浩子落胆したように 「御免なさい、何と言う人なんでしょう、本性が解ったわ、これで本当に私の心もはっきりしたわ」 ヨシ子心配そうに 「本当に其れでいいの?冷静に考えてみて、海斗君の事、冷静に話合わなくていいの?呼び戻しましょうか?」

 浩子怒りが収まらない顔で 「私は冷静よ、ヨシ子には云えなかったが長崎の女性問題で随分まえから私達別居状態だったの、もっと早く決めれば良かったと思っている位、今は何を言っても無理よ話にならないわよ」

 ヨシ子宥める様に浩子に向かって 「とにかく海斗君の事少しも考えていないのね、浩子、今後二人の事は必ず弁護士を通して話合う様にね、..今日は浩子、長崎さんに会わない方が良いでしょう、私の実家に泊まって行ったら?私たちも行く予定だから、お母さんに電話するからそうしなさいよ」。

 俺は出て行った長崎を思って 「長崎さん、荷物こまるでしょう?」 浩子リュウ解っていないのねと言う様な顔をして 「いいの、もう殆んど長崎の必要な物あの人の処へ行っているのよ」

 ..彼に怒りを感じたが、背中を丸め足早に立ち去る後姿を見て..、何か哀れさを憶えた嘗ては愛し合った二人だろうに。 疲れきっても誰にも理解されず、嘗ての俺を垣間見る様で少しは同情も沸き気持ち解らないでもないが決して彼の見方になれないと思った。 そして彼の邪推した事は何も無かったが、彼の推測通り俺に少し下心も有って心も痛んだが、俺もそうとう頭にきてヨシ子の制止が無かったらぶち切れるところだった。

 俺も落ち着いて 「ヨシ子、俺の云いたい事全部言ってくれたよ、俺、海斗と約束したから病室に行くよ」 ヨシ子まだ心配そうに俺を見詰め 「リュウも今後何が有るか判らないから、海斗君の前で争いは絶対駄目よ」 「あぁ、解ったよ」 「私達少し話が有るから、少し、してから行きますから、お母さんに浩子が今日泊る事連絡するわ」。

 ..もっと冷静に海斗のお父さんの立場からも聞いてみないと、優しいが故に不甲斐ない自分に誰よりも心を痛め、疲れ切ってしまっているのだろう..嘗ての俺を見ている様であり、一層、強い彼を勝手に期待し、勝手に裏切られた気持ちになっていたのかも知れない、彼は本当にボロボロになっていたのだ! 今少し冷静なり、本当は俺が理解者になり手を差し伸べ聞かなければならなかったのでは?..いや何が有ろうが許せない、何かやるせない思いだ。

 ..海斗の病室に戻り..俺の心の中は複雑で自分自身の怒りと彼に対しての怒りで一杯、心の拳を何処に下ろすか迷ったまま海斗の病室にもどった、海斗の顔を見ながら心鎮め.. 「お父さん、何か仕事が有るからって先に帰ったよ、海斗に早く元気になって、て言っていたよ」

 海斗厳しい目で俺を見て 「そう、リュウの顔なんだか恐いよ!..お父さんの事なんかいいよ..其れよりレースの話して」 俺は顔の強張りを緩めたつもりであったが、海斗に指摘されてしまった 「そうかごめん、海斗!..お父さんが一番心配しているんだよ」..何で、こんな事言わなければ.. 海斗は拗ねて膨れ顔で 「いいよ!、もう止めてよリュウまでそんな嘘言わなくていいよ!」

 海斗は全て解っている 「どうしてそんなふうに思うの?、海斗のお父さんだよ」 ..本当は海斗も充分知っているんだろうが、どんなお父さんでも愛されたいよな..この俺がこんな事云うなんって!.. 「海斗が早く良くなる様に、海斗に会いたいけど我慢して一生懸命働いているんだよ、解って上げないとお父さん寂しいよ」

 海斗は涙目になり 「うん、もうーリュウ良いから!もう云わないで、やめてよ!」 ..意外と大人になっているかも.. 「そうか悪かったね、もう言わないよ..」 子供の目は鋭いな全て解っているようだ、

 俺は意を決する様に 「あのさー 、さっきも話したけど、海斗、俺レース辞めるよ!」 「なんで!海斗否だよ!リュウ、最後までやれって言ったじゃない!」 あんなに期待させって..何の説明も無く納得出来ないだろうな.. 「ごめんな!約束やぶって、リュウは最後まで力出し切ってもう走れなくなってしまったの、その代わり海斗走ってくれよ」

 「そんな事出来ないよ!リュウが海斗に云ったでしょ」 「海斗本当にごめん」 ・・まだ納得出来なく膨れ顔でいる、俺は無視して 「あれ、リュウにレース・カードライブするって約束したでしょう」 「だって、リュウがやめちゃうでしょう、嫌だよ!」 「大丈夫だよ、レースは辞めても海斗は特別、リュウが教えてあげるから」 きっとリュウは変える事は無いと判ったのか? 「..本当?約束だよ」 「あぁ..」

 ヨシ子達が入ってきた 海斗は不満そうに 「ねーねーお母さん、リュウ、レースやめちゃうんだって」 全然納得しない様子..俺が悪いんだ..あんなに期待させちゃって.. 浩子さん海斗を無視して俺に 「そうなんですか、ヨシ子も此れで安心ね」 海斗なお膨れ顔で 「そんなの!ちょとも良くないよ!、リュウはレーサーだよ!..いやだよ!..」

 俺は謝る事しか思い付かず 「海斗ごめん、本当にゴメンよ」 海斗は俺の何かを差したのだろうか、少し収まり「..でも、その代わりリュウがね、海斗に教えてくれるって」 浩子優しく答え 「そうなの、良かったわねー、先生の言う事聞いて早く元気にならなければ..」

 「うん、だからリュウ、時々来てね約束だよ!」 俺は親指立て 「ごめんよ!俺の代わりに走ってくれるよな」 「うん、頑張るよ!」 「お母さんと先生の云う事聞いて頑張れるかな?」 「うん、リュウ絶対来てね約束だよ」

 俺は以前海斗が聞きたい事が有るからと、云った事を思い出した 「海斗、俺に聞きたいってなんだ?」 海斗はお母さんの顔を盗み見して 「今日は良いよ!」 俺は察して 「そうか、またな」 海斗は子指を出して約束を求めてきた 「おぅ」 小指を出して応えた

 「それで海斗、今日はリュウ達、海斗のお母さんも一緒に、ヨシ子先生のお父さんとお母さんに会いに行くけど」..「海斗・・もう行かなくちゃぁーならないけど、いいよね?」 「うんわかった、でもリュウ..絶対来てね!」 ..海斗なりに、レースの事も含め何か感じとった様だ.. 俺はほっとして

 「当り前だろう、海斗!、海斗はリュウの大事な友達でしょう」 海斗の頭をぐちゃくちゃに、両手でかき回した、顰め面だが嬉しそうにしている 「ねー、やめてよ!」 俺はもう一度親指を立てた、海斗も心なしか指を立てた手に元気が無かったが少し元気を取り戻したようだ、

 海斗、消え入る様な声で 「..友達より..」 俺は海斗の前にしゃがみこみ目線を合わせ 「海斗、はっきり云えよ..」 とっさに心無く云ってしまったが、俺には海斗が何を云をとしたか解っていた 海斗目を伏せ 「うん、..何でも無い、もう良いよ、..本当に来てね!」 俺は、こみ上げるものがあり声にならず、ただ頷き海斗に答えた、

 ..俺は海斗の親父にはなれないよ、でも親父のまね少しは..、 海斗は漠然とそれなりに薄々は気付ている、近ずく死の恐怖に怯え戦っている、俺の話に乗り夢中に成る事で少しでも迫り来る現実の恐怖を忘れ生きる希望を..子供なりに感じているのだろうと、それは後髪を引かれる思いであった、海斗を説得出来ないまでも、俺は海斗と向き合った海斗の父親にもそうして欲しいと思った..、

 病室を出、三人で車に乗り込みヨシ子が緊張した顔で 「さっきは、リュウの顔凄く恐かった!止めるのに必死だったわ!」 浩子は、吐き捨てる様に 「あの人は自分より強いと思った人には途端に変わるのよ、だから黙って出て行ったのよ、あんなに卑怯でだらしない人と思わなかったわ、離婚決めて良かった!」 ヨシ子は俺の顔を見、徐に浩子に 「絶対に直接話しては駄目よ、必ず弁護士を通して交渉するようにして、後で後悔しないようにね」 浩子まだ、興奮が収まらない様子 「解かったわ、今日は御免なさい」

 「本当に、ヨシ子と浩子さんって、何時も正反対だね一人は結婚一人は離婚、不思議だよ」 ヨシ子慌てて、なんて事を言うのと云う様に 「リュウ不謹慎よ!」 浩子冷静な声で 「いいのよ、本当の事だから気を使われる事の方がいやよ」 そんな話の中ヨシ子の実家に付いた。

    《ヨシ子の実家にて》

 車の音で分ったのだろう、ヨシ子の母が玄関先で向かえてくれた 「浩子さん随分久しぶりね学生以来かしら、とにかくおあがりなさい」 浩子沈みがちな声で 「はい有難う御座います、お邪魔させて頂きます」 義母は明るく装い 「堅苦しい事は良いから、それからリュウさん余り来てくれないから、お母さんの事嫌い?」 「え!・・・」 俺は義母の突然の言葉に返事につまった、ヨシ子慌てて俺を庇い 「お母さん!リュウは車のレースで忙しかったの」 俺は頭を掻きながら素直に 「ご無沙汰して御免なさい」 義母は俺を見詰め甘える様な声で 「寂しかったのよ、さーぁ早く上がりなさい」 俺は嫌味では無い義母の何気ない言葉に本当に嬉しく思った。

 三人は居間に通され、大先生(義父)と受付の奥村さんが待っていた 「リュウ君、たまには顔を出しなさい、お母さんが寂しがっているよ」 「すみません、此れから伺うようにします」 ヨシ子急いで言い訳した 「お父さん、リュウはねレースで忙しかったの、今回優勝したんだから」 義父は俺に向き直り驚きの顔をみせながら 「ほーう、ヨシ子には聞いていたがそれは凄いね、良かったおめでとう・・まーぁ座りなさい、浩子さんもどうぞ」

 ヨシ子両親を安心させる為に 「来年まで、これでリュウの出ているレースは無いそうよで、それにリュウは来年からのレース辞めるか考えているようよ」 義母、急に明るく嬉しそうに 「本当ですか?良かったわ!何時も心配で心配でたまらなかったわよ」 ヨシ子俺の気持ちを充分しっているから、バツが悪そうに 「お母さんたら!よして」 慌てて嗜めた

 俺もヨシ子に助け舟を出し 「皆さんに、ご心配おかけしてすみません、もう自分の夢だけを追っては居られませんから」 社交とはいえ、俺もよく言うよ俺自身思ってもいないのに! 義母嬉しそうに 「此れで安心本当に良かったわ、此れからは、そんなかたぐるしい言い方をせずもっと甘えて来て下さいね」 其方こそ、如何にも綺麗過ぎる言葉ずかい、よそよそしく感じる 「でしたら義父さんも義母さんも、リュウと呼んで下さい」 二人は其の言葉の意味を十分解ってると思った。

 義父は中を取り持つように話題を換える 「まあリュウ君、いやリュウと浩子さん夕食にしょう、坂下の焼肉屋さんからお肉など先ほど奥村さんに運んで頂いたから、さあ頂こう」 義父は焼肉が若い頃から好きだったのだろう、本格的にダイニングのテーブルは埋め込みの焼肉用ガスコンロが付いていてテーブルの上にからも下からも換気装置が付いている、

 たぶんヨシ子が俺の好みを話たであろう、肉は骨付きカルビを筆頭に沢山の肉や野菜、サンチェ、センマイも有る、みんな俺の好きな物だ、義母は名前を呼ぶのに恥ずかしげに 「リ、リュウ、貴方の好きなセンマイもサンチェも有りますよ、食べなさい」 たぶんヨシ子に聞いていたのだろう、

 「はい、どうもこれ大好きです」 やはり好きな食べ物を見ると自然に笑顔がでる、 義母は嬉しそうに俺を見て、浩子に目を移した 「それと浩子さん、学生の頃の様に今日はヨシ子の部屋で休みなさい、用意してありますから」 浩子懐かしそうに辺りを眺めながら 「宜しくお願いします」 義父は肉を網みに乗せ焼き始めたが、ただ喜んではいない 「リュウ、レース辞めて今後は如何するのだ?」

 「あ!はい、今まで契約でベースに雇われていたのですが、公務員として正式雇用をお願いしてあります、返事は未だですが多分大丈夫です」 義父は肉を返しながら、安心したように 「ヨシ子も一安心だな、ヨシ子体の方は順調か?」 ヨシ子のお腹に目をおとす

 ヨシ子の本音であろう 「ええ大丈夫、順調ですよ、それよりリュウが心配よ無理に好きなレース辞めさせてしまったようで・・」 浩子の気使だろう、慌てて遮る様に話題を変える 「お父さんもお母さんも、もう直ぐお孫さんの顔が見れ楽しみですね」 義母は嬉しくて堪らないように声を大きくして 「ええ、楽しみにしているわ」 ..云った後に気付いたのだろう 「そうそう、海斗君は如何ですか?大変ですよね」

 ヨシ子は自分の仕事以外の事だが、友達として尽くしている 「病院も色々頑張っているのよ、提供者が少なすぎるし想定外の問題が多くて、一つ間違えると諸刃の剣、公平性や提供者側の問題解決が多過ぎるし、人としての問題もあるの法の整備も必要なのよ、リュウも云ってたけど有る事は有るのですが、国で其の家族も保護しないとね、ボランティア団体にもお願いしてありますが、待つ人が多すぎて、..其れと院内に福祉相談室もあり浩子に相談する様に進めたの経済的問題もお願いして有るの」

 浩子は本音であろう 「ヨシ子が居なかったら途方に暮れ如何なっていたか!本当に助かっているわ、..長崎は、いざ、と言う時に逃げてしまう人だって早く分って良かったわ、こんな問題無くても何時か駄目になったと思うわ」 義父やはり重みがある、何か皆を安心させる 「弁護士に離婚の問題だけでなく、まず市や県の相談室で海斗君の経済的問題と移植の件、一緒に相談して頂きなさい、きっと力になって頂けると思うよ、浩子さんそうしなさい」 

 浩子は沈痛な顔で 「はい、行って話してみます、臓器移植は私迷ったんです、たとえ死んでしまった人でも他人の命や臓器をむらい受けてまで、自分の子の命守りたいのか、外国では人の命を奪ってまで売買するとか?私成りに悩み、いくたびも葛藤がありました、其の上拒否反応と戦はなければいけないし、もっと海斗を苦しめてしまうかも、...でも助かる者なら、何としても助けたいです」 よほど苦しかったのであろう、声が震え涙まで溢れていた、暫くその場は暗く沈んだ沈黙が有った、

 .. その雰囲気を消すように、義父力強く 「さぁ、浩子さん食べなさい、其の件に付いても移植団体やボランティア団体が有ります、先ずは力を付けなくては、弘子さんも、もっと食べて!」浩子さんの皿に焼きたてのお肉を置く、きっと義父なら力になってくれる人だと思った、

 ヨシ子仕事の話になるとやはり顔が締まる 「其の件に付いては病院の方からも申請していますから、親として当然な気持ちです浩子さん、市や県の方からもお願いしてむらったら良いわね、さあー食べて」

 この重い雰囲気を消す為で有ろう....ヨシ子は俺を見て、焼肉の網から煙りを出している、カルビを俺の皿に運びながら、ヨシ子にしては雑な言葉で 「腹がへっては戦が出来ないでしょう、ねっリュウ!」 ヨシ子が俺にウインクを送って来る、ヨシ子と俺の隠語になってしまった様だ(戦とは・・俺が冗談で言った愛の営みの事であろう)、

 義母は何も知らずに 「そうよ、昔からその様に言われいるわ、弘子さんも、もっと食べなさい、リュウもよコチジャンも頂いてきましたからサンチェに巻いて食べて下さい、沢山あるのよ遠慮しないで、リュウさん私作りましょうか?」 ヨシ子が事前に話し、俺の好の食べ方を聞いていたのだろう、義母の心ずかいが嬉しかった、 事務の奥村さん慌てて 「私、作ります」 「大丈夫です、俺自分でやりますから」

 叔母さん風の看護師さんは、時々笑顔を浮かべながら黙って聞いていた、奥村さん俺の顔を伺うように 「あのう、後でコンピューター解からない処有るので教えて下さい」 「はい、遠慮無く何時でも言って下さい、急いでいる時は電話でも良いですよ」 「ええ、食べてからで良いですよ、此れから解らなくなったら電話しますからお願いします」

..そして、ヨシ子が結婚式の日取りや場所、本当に身内と友人だけにしますからと報告、義母は招待する人に少し不満があった様子もっと医院や母の関係者をと望んでいたようだがヨシ子が本当に身内だけでしたい事、説得し了解を得ていました、俺は奥村さんと受付に行き、コンピューターの新しいアプリ(application)の扱い方を説明、問題点を修正した、奥村さんゴマ摩りではなさそうだ 「リュウさんて、お嬢さんが選んだ理由が解るわ、頭も良く優しく簡単に直してしまうのね」 「いやー、おだてないで下さい、ヨシ子にたまにコンピューターの扱い聞かれて喧嘩しながら教えていますよ、たまたま工学系の学校だったから、何時でも電話して下さい使い馴れたら楽ですよ」

  《新たなる旅立ち》

夜景部屋.jpg 式の話も了解を無事得て、浩子さんをお願いして、俺達はその夜マンションに帰った 「リュウ、今日はありがとう疲れたでしょう、お父さんもお母さんも嬉しそうだったし、浩子も安心して休めると思うわ」 「俺、兄弟がいるから気が付かなかったが、ヨシ子は一人っ子もっと行ってあげれば良かったね、ごめん、此れからもっと行くよ」 「いいのよ、リュウ今まで忙しかったから」

 「お父さんお母さん、リュウって云いづらかったようよ」 「今まで何かよそよそしくてやっと鶴見家の一員成れた気がしたよ」 「そうね、リュウの気持ち解ったから、家の家族は人を呼び捨てにする事が無かったの」 「・・」 「其のうち馴れると思うわ、リュウコーヒー入れましょうか?」

 「うん俺何か、以前の俺を見ている様で長崎さんの事複雑な思いで、一概に批判出来ないし心苦しいかったよ」 「そうよね、リュウは経験が有るからね・・人って思いがすれ違って難しいものね」

 俺は思いだした様に話を変えた 「話は違うけど、結婚式の前にチームの皆を呼んでお礼と 引退の事話さなければ、ヨシ子何処が良いかな?」 ヨシ子、キッチンカウンターに立ちコーヒー豆を挽きながら 、俺の裏腹な気持ちを感じ過ぎるほど判っていたのだ 「本当に車諦められるの?」 俺は心の中を見透かされた様で腹が立ち少し声を荒げ 「もぅー、何回も云わすなよ!」

 「直ぐ怒るから、本当にそれで良いの?・・」 「・・」 「解ったわ、そぅーね若い人にはボリュームもある、あのリュウと行った逗子のイタリアンレストランが良いじゃない、チームの皆、此れから来年こそと思っているのにビックリするしガッカリでしょうね」・「アッ!其れより監督に知らせる事の方が先でしょう!」 「そうだよな、監督には前もって話しておかなければいけないな」 心配そうにヨシ子が問いかける 「大丈夫かしら?驚くでしょうね」 「説得するより仕方ないよ」 「少し遅い時間で迷惑かもしれないが大事な事、少しでも早く知らせたら」 

 「うん、そうするよ」 家の電話から連絡を取った 「もしもし、北原さんのお宅ですか?」 当時メーカーの綺麗なコンパニオンだった監督の奥さんだろう電話に出て 「ハイ北原ですが」 「龍崎ですが、監督お願いします」 「ああ、リュウちゃんお久しぶりね、先日優勝おめでとう、家の人も大変喜んでいたわよ、今変わります」

 監督は近くにいたのだろう、受話器を受け取る音がする 「もしもし、此の間はご苦労さん、何か?」 「はい、監督俺大分考えたんですが、今年・・いや此れで、リタイア・・、レース辞める事に決めたんですが、お願いします」 「急に一体如何したんだ!話が全然分からんよ!」 「はい、充分考え出した答えです、大事な話を電話ですみません、少しでも早く知らせしようと思いまして」 「ウ~ン 何か有ったのか?・・・一方的に言われても・・」

 歳の事が頭の隅にあったのでつい 「歳ですから」 俺の冗談に、監督は考えてもいなかった意外な言葉に怒った様に声を高め 「..冗談いうな!そんな歳ではないだろう、本当に冗談ではなく如何したのだ!何か有ったのか?」 俺は神妙に 「本当にすみません!充分考えた上です!」 監督冷静を装っているが、まだ声は高ぶっている 「何だ!もう話合う余地は無い口振りだな!全く晴天の霹靂とはこの事だ!・・・考え直す事は出来ないのか?」 「はい、何処かの大きな会社の社長の息子だったら、ボロボロになっても続けられますが、このFJレース始める前から考えていて、一度でもトップでゴール出来たら、辞めようと思っていましたから、本当に良くして頂き、申し訳ありません!」

 本心は続けられるものなら続けたい、だがビジネスと割り切れば良いのだろうが、俺にはヨシ子へ背信行為と拘りが、どうしてもスポンサーを変えないかぎり続ける事が出来ない!

 余りにも突然な事に尚も監督は押し付ける様に声を荒立て 「辞める事少し早すぎるぞ、もう一年二年やってみたらどうだ?もう一度冷静に考え直せよ!」 「すみません!本当にもう」 「う~ん!何か有ったのか?出来る限り相談に乗るぞ!これから活躍出来るのに!くどいようだが本当にそれで良いのか?後で冷静に話し合おう」 俺は一切考えは変えないと云う気迫で 「いえ!考えは変りません!お願いします」 電話口で頭を下げた

 暫く監督の沈黙が続き監督自身も経験があるだろう 「..そうか残念だな!..俺と同じ悩みに突き当たったんだろう、その上を望む事に悩んだ末だな!惜しいな!リュウ、お前は俺の時よりもっとチャンスが有ると思うぞ!他のチームに移籍も出来るぞ!」 「他に移る気は無いです、今のチームが好きですから、それと他のチームに移っても俺の将来、同じ事が待っています」 監督も世界に挑戦しようとした人だ、俺の気持ちはこの短い会話で充分理解している事だろう、諦め落胆した様に 「お前の事だから、決意は変らないだろうな」

 「本当に勝手云ってすみません、結婚式の前にケジメを付けたくて、それと今年のレース・スケジュウルが終わりましたから、チームの皆に慰労の意味も兼ね、招待したいのですが来月3日か4日如何ですか?」 「うーん、そうか結婚で解った、スポンサーの件だな!前の奥さんの所だからな」 「ハイ」 「それでか!お前は決めたら変えない頑固物だから」 「本当にすみません、勝手な事云いまして」 「そうか!・・俺の方こそリュウの祝勝会開こうと思っていたんだ」 「その件も兼ねてですが、俺の友達の逗子のレストランなら多少人数や予定日など変更が出来きますから、ご足労願いたいのですが?」 「解った、・・奥さん元気か?宜しく伝えてくれ」

 「はい元気です、あとでスポンサーのお礼兼ね挨拶に廻らなくては」 それにインストラクターの事を思い出し 「あぁーそれと..出来たら、スクールのインストラクターに土日手伝わして頂きたいのですが?」 やはり俺に腹を立てずに経営者の才覚がある 「願っても無い事だよ、リュウの名前で生徒も集まるよ、スポンサーか来年は不況になりそうだな、リュウ達の式が済んだ後でゆっくり廻ろう、其のときは頼むよ」 「はい有難う御座います、お世話になった方に挨拶とお礼を兼ね挨拶に伺がわなければ、宜しくお願いします」 「おぉ、正直来年1年くらい続けると思ったよ、残念だが解った!、スポンサーの件とスクールチームとして今後もお願いに挨拶廻りしたいから、今はゆっくり休め、奥さんに宜しくな」 「はい、でわ」 監督の対応にほっとして、電話を切り

 俺はヨシ子に向かって 「監督がヨシ子に宜しく伝えてくれって」 心配そうな顔で 「それで、如何なの?」 「一応、了解得たよ、監督も同じ事で悩んだ時期があったみたい、パーティー逗子で良いって、3日か4日ヨシ子空けておいてね」 尚も心配そうに 「解っているわ大丈夫よ、でもそんなんで監督納得したの?」 「だろうな」 「だろなって!、それでいいの?」 「あーぁ、此れで夢は達成出来なかったが、何処かでケリ付けなければ、..”俺のレース人生も終わったか”..もっとガックリ来ると思ったが、意外とサッパリしているよ」 本当は自分を追い込む事でしかケリがつけられそうに無いからだ、それにそう思いたい強がりかも! 「リュウ一度出掛けて監督とちゃんと話しなさい!」 「大丈夫だよ」

R & Y 膝枕4.jpg 「本当にそれでよいの?、リュウコーヒー出来たわよ」 「うん」 コーヒーをテーブルに置き、長椅子の俺の横に並んで座った 「..膝枕する?此処に来て、お腹の赤ちゃんが呼んでいるよ、リュウ本当はレース続けたいのでよう、訂正するのならまだ間に合うわよ、私のせいにすればいいのよ、本当にそれでいいの?」 ヨシ子は俺の頭を膝の上に乗せ、念を押す様に本当に偽りの無い真の俺の気持ちを知りたかったのだろう、ヨシ子の質問には答えず

 ヨシ子の話をはぐらかす様に 「そだね、何か聞こえるかな?」 ヨシ子の膝に頭をあずけお腹の音を聞くが、未だ何も分らない実感は余りない、不思議だが俺達の新しい生命が此の中に眠っているんだ、日に々少しはお腹が大きくなって来たようだ、ヨシ子は俺の顔を覗き込み、..多分電話の内容から、俺が本気である事に察しが付いたのだが、未だに本当に其れで良いのか心配しての事だろう、やはり俺の本心を見抜いている出来るならばレースを続けたい事を、ヨシ子は徐々に話始めた

 「リュウが辞めると言ったときにね、リュウは私の為で無いと言ったけれど、以前レーシングスクールの事務所をリュウと一緒に訪ねた事があったでしょう、その時私 久美子さんが経理ノート開いていて見てしまったの」 「・・・」

 「其のとき美奈子さんのお父様の会社にスポンサーになって頂いている事初めて知ってしまったのよ、それも凄い金額!、其のこともあって 今回のリュウの気持ち本当に嬉く思ったわ」

 「そんなんじゃぁないよ・・・」 「リュウがそう云うと思っていたわ・・・でもね私も迷ったのよ 私の為に辞めるんじゃぁないかと、それもレースの事 私と結婚する前から決めていた事だったでしょう」 「・・・」 「スポンサーの事もビジネスの内と思って・・それにリュウの夢を潰したくなく何も言へなかったの、それにリュウが気使かってくれる気持ちも嬉しく 此れで良いのかと思っていたの」

 「うん..もう、いいんだ、誰のせいでも無いよ」 ヨシ子は全部自分の為にと思ったのか 「私の為だったら、いいのよ其の為にリュウの夢壊せないわよ!・・それに私のせいにされたらたまらないから!」 「そんなに思う訳ないよ!それだったらヨシ子を選ばないよ」 「嬉しいわ!でも・・」

 「・・もう良いんだよ、本当に俺自身の問題!其れだけでは無いよ、プロをやって行くには、お金集めも実力の内だよ..そうか!それで以前事務所から帰ったあとヨシ子が変だと思ったよ、珍しくあんなに荒れて..もう決めた事だから、ヨシ子に再会した時から決まっていたんだよ此れが運命だよ」 俺はヨシ子のお腹を擦り 「其れよりもっといい事あったでよう!」

 「私達の子供の事?」 「あぁーそうだよ!、ヨシ子と再会した時から漠然とこうなるって、何処かで感じていたのかも、いずれ俺自身決着をつけなければ」 「どうして?」

 「俺、本当にカーレース以外にヨシ子の事あんなに気になった事、今まで無かったよ、あの時から今の此の子と同じに様にヨシ子の子宮の中に吸い込まれ護られて何の戦いも迫害も受けず休みたかったからかな?」 ヨシ子、俺の顔をマジマジ見詰めながら 「リュウて、突然変わった、こと云うのね!話そらさないで」 「・・・」 「リュウ、逃げないでちゃんと向き合って!

 「マジだよ!、上手く表現できないが女性は男だからって ”確りしてよ” 言う人が多いが、俺って、いや男って力があっても精神が基本的に繊細で弱いんだよ、何時も頑張っていられない時も有るよ、俺は何時もヨシ子に包まれていたいのかも、初めてヨシ子と愛を交わした時の暖かみと香りかな?、凄く懐かしい気がしたんだ、遠い昔いや生まれる前からかな?其処に居たような、凄く安心出来たよ..

 やっと解ったよ!..産れてきた子宮に戻った様な、全て子供の頃の汚れの無い姿を曝け出し安らげる気がしたからだよ..この宇宙が出来、地球に初めて生物が生まれた時から子宮によって受け継がれて来たのだよ、多分この子が出来た事が神秘的で、男には無いからなお更感じるのかな?俺だけなのかな?それだけヨシ子を必要としているから

 レースを辞めようと決断したあの時、そう感じたんだ此処なら安心して全てを捨て休めるって、でも休んでいては・・不安も感じる時があるよ、本当に無性にヨシ子に甘えたくなり、反面何かに取り組まないと自分でも解らない程、不安を感じ、ヨシ子から飛び出したくなるんだ、自分でも解らないよ!」 「正直な人ね!、それは誰しもが持っているものかも知れないわね」

 又俺はヨシ子のお腹をさすりながら 「今は此の子には負けるよ!追い出されちゃったぁー!でも、海斗を知って尚更、本音で、何でも良いから五体満足で健康な子である事を願うだけ、それに愛する人を失いたくないって、痛切に感じたよ」 多分他の女性だったら、何、訳の解らない事云ってるの?頭がおかしいんじゃない、スケベでマザコン位に思うだろうが、ヨシ子は違っていた俺を理解しようとちゃんと向き合てくれた、

 「リュウって本当に変っているね、考えている事時々解らなくなるわ・・・でも私に向き合ってみると、変な表現だけどリュウの言う事解る様な気がするわ、私だってリュウに愛されリュウの全てを知りたいと思うから」 「うん」 「この世の中の誰であれ皆お母さんのお腹から産れたてきたのだからね、何かの本で子宮は宇宙と繋がっているって、子宮回帰の幻惑かな、現実と幻想が絡み合うような、読んだ事あるわ大丈夫よ、リュウの為のスペース有るから安心して、でもリュウは私の処に収まって居られる人では無いわ、時々休むだけよね?..リュウを知れば知るほど縛り付ける事出来ないわ、..此の子も、リュウの愛情一杯受けているから、大丈夫よ心配しないで」

 懸命に俺を理解しょうと思っている、ヨシ子をいじらしく可愛くさえ思えた 「その本の事は知らないが、幻想ではないよ現実にヨシ子に感じている事だよ」 「良く解かったわ、リュウは一度に色々考え疲れているの、さーぁ遅いから休みましょう」。

  翌日お昼頃、監督から連絡が入り 「リュウ、夕べの話で、本当に良いのだな! 今、結論出さなくても良いんだぞ!」 「はい、有難う御座います」 「パーティー3日でどうだ、皆本当にガッカリしていたぞ!」 「すみません、インストラクターとして土、日お願いします、それで3日の午後5時どうですか?其れで何人になりますか?」 「もちろん、スクールの顔になってむらうよ、スクールもようやく形ちに成って軌道に乗って来たところだよ、..えーと、こっちは丁度11人・・

 皆、朝から鎌倉.江ノ島を周って湘南の海を見たいって、俺と井原君は奥さんと二人、竹田君と久美ちゃん、其れと久美ちゃんの女性の友達1人、後は孝ちゃん、森田君と森田君のレースクイーンの友達2人、森田は女性に手が早くリュウの若い時と同じだ!」 「もうー勘弁して下さいよ、其れより森田君来年から乗せたらどうですか?」 「あーぁ、俺も考えていたんだ、リュウ時々見てやってくれるか?」 「ええ土日だったら構いませんよ、じゃー3日5時お願いします」

 早速、逗子のトニーの店に電話を入れ予約を取った トニーの奥さんが電話に出た、奥さんとは子供の頃から近所の付き合い良く俺達と遊んでいた、未だ米軍基地が横浜本牧にクラブ(Club)や食堂、遊戯場、エックスチェンジ(米軍の日用品や食料のスーパー兼、換金両替所Exchange)が有った頃、外人達の遊び仲間とクラブで良く遊んだ、彼女は外人好きで、名前は富士子だがちょっと二世の様な顔立ちで当時外人仲間に(エバ)と呼ばれていて、其の頃知り合ったトニーと結婚した、

 「もしもし、エバ?」 「もしもしリュウちゃん、何よ!ちょとも顔見せないで、レース凄いじゃないインターネットで見たわよ」 「まぁーね、それで今度予約したいから、3日5時、全部で14人、料理任すから安く上げてよ」 「分っているわよ、何時もリュウには安くしているじゃぁない」 「そうだよな!俺、結婚したんだ トニーには先日会っているよ」 「聞いたわよ 本当に?トニーが話していた先生とか?、また私に黙って連絡しなさいよ お祝いも出来ないじゃない」

 「ごめん、まだ式は此れから17日だから、それからレース辞めるよ」 「またぁー 今度の人の為?」 「そうじゃ無いよ俺が決めたんだ、それと妊娠しているんだ!」 「リュウが?」 「そんな訳無いだろう!」 「解っているわよ 冗談よ!それでリュウは仕込みが早いね!」 「またまた すぐからかうから!、彼女の歳がね だから早くしたの、やめたのは子供が理由では無いけど」 何か適当な理由をつけた 「リュウは 何にも言ってくれないから、とにかく分ったわバイキング形式で良い?予約トニーに言っときます」 「任したよ、其の方が人数変わっても良いよね、頼んだよ!じゃぁねトニーに宜く」

タッチおじさん ダヨ!.jpg   ストーリ【Story14】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-19是非お読み下さる事お願いね 


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編12】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

   ☆=ストーリ【Story11】からの続きです、是非下欄【Story12】をお読み下さい=☆

   《宮城県 松島》 

リュウ車中.jpg 名取駅を夕方6時に出てJR東北本線で仙台に15分位で到着、JR仙石線・石巻行、30分で松島海岸に着く、ヨシ子が予約した松島センチュリーホテルにタクシーで3分で着いた。 フロントデスク(reception受付)にて記帳し 「妻と記入した事、初めてだわ、なんだか実感ないわね」 と俺に囁いたが、何か嬉しそうな表情で妻と云う言葉に少し感動した様子であった。

チェックインを済ませ、 日本三景として知られる松島が一望出来る部屋に案内され、ヨシ子は旅馴れた様子で素早くルームサービスに心付けを渡し、今食事は何が美味しいか?お風呂はどうか?景色の綺麗なところは何処か色々質問した。 「今ちょうど、野天風呂の個室が空いているから利用出来ますよ」 の返事、直ぐに予約入れて頂き、先ずわレースでの汗を流すことにした。

 貴重品等金庫にしまい一息入れる暇も無く野天風呂へ、 「リュウ見て!日が沈む」 「あぁー」

 仄かに赤く染まった空、影絵のように浮かぶ島々、今までの騒がしさは嘘のように、オーシャンビューの素晴しい景色だが束の間に夕暮れの闇に包まれる、辺りの町に明かりが優しく灯り始め、静かに聞える規則正しい潮騒に心が癒されホッとする。

 海辺に作られた野天風呂に身を沈め静かに二人して優しく穏やかに聞える潮騒を聞きながら夕暮れに広がる海と島々に目を向けながら、ヨシ子と俺は今までの緊張をほぐす様にゆっくりと肩まで湯に浸かり温泉をしみじみ満喫していた。

 見慣れたはずのヨシ子の体、海に沈みかけた日没の残り火に、ほんのりとし写し出された柔肌が怪しくドッキリほど妖艶に薄暗い海を背景に浮き上がる、以前より全体にほんの僅かにふっくら丸みをおびた身体は益々優しさを感ずる露天風呂汐音RY.jpg

 「此処の野天風呂本当にいいわね、ほっとするわ、二人でこんなにゆったり温泉に入る事初めてね、此処の温泉肌に良いみたいよ・・」

 暫らく温泉を楽しんだであろう、流し場に上がり 「リュウの頭、ヘルメットで汗一杯だったからここに座って・・頭流してあげる」 此の様な時は女性の方が気持ちが座り何か堂々している様だ 俺は何か落ち着かない心を悟られないようにむりやり堂々として見せた 「そうだよね」

 髪を纏め上げる仕種、項から肩にかけなんともゾクとする色気を感じる、 ツンと上を向いたプリンの様な魅力的なオッパイに俺は吸い込まれる様に手を出したが、

 直ぐ様ヨシ子に一喝され 「だめよ!今は、さあー此処に頭を下げて!洗うから、やっとリュウが私の処に帰って来たわ..」 俺は髪の毛にシャワー浴びせられながら質問した 「何時も一緒だったのに如何して?」 

 シャンプーの泡が目に入らぬ様に頭を低くした頭上からヨシ子の声が聞える 「レース中のリュウはファンや皆さんの者で取られてしまったようで、傍にいるのに何か寂しかったわ」 シャンプーが終わり、タオルで髪を拭きながら 「どう?サッパリしたでしょう」 「あぁースッキリしたよ」

 ヨシ子は優しい目付きで 「ねーリュウ其処に立って見て!こんな事考えるの嫌なんだけれど、この前の事故でリュウに何か有った時に身体の何処を見ても直ぐにリュウだって解かる様と思ってね」

 やはり こんな時も医者だなと感じた、俺は少し恥ずかしい思いでヨシ子の前に立ち上がった 「改まって言われると気恥ずかしいな、此れでいい!」 ヨシ子は何の動揺もなく見詰めている 「しみじみ見た事無かったわ 思ったより全体が筋肉質ね特に胸と腕凄いわ、そこで廻ってみて」

 「もーぅ!これでいい」 その場で一周廻る 「今までこんなに全身ゆっくり見る事無かったわね、意外と見ている様で気が付かなかったわ 何回も着替え手伝ったのにね、孝ちゃんが言ったとうりお尻が小ちゃくて締っているよ」

 「もうー良いだろう、ショーは終わり..毎朝ヨシ子と走って腕立てしているでしょう、馬力の有るレーシング・カーは意外とハンドルや首に力がいるんだよ、今までヨシ子は医者の目で部分的にしか見ていなかったからでしょう」

 「そうよね、そうかもしれない、感心にリュウは毎朝欠かさず走っているから、私も付き合ってスタイル良くなったでしょう?」 「大丈夫だよ綺麗だよ」 「本当?」 「本当だよ」 子供が出来たと聞かされて、俺の見る目がそうさせるのか少しお腹が出て来た様にも思われる、お腹を押さえ 「此の子産れた後又ジョギングするから付き合ってね」

 「あぁ、今度は俺が背中流そうか?、なんだか少しオッパイ大きくなったのかな~ぁ?」 「そうね、赤ちゃんの為の準備かな、..優しくね、今は悪戯は無しよ」 「あぁ ちゃんとするよ」 「初めて人に流して頂いたわ・・なんだかリュウに言われ女として感じるのかな?レースの時の興奮と今のリュウの裸見て、ギリシャ神話の彫刻より筋肉が生々しく動き何だかたまらないわ!女でも疼く時が有るのよ、私を引き付けた時と何処か同じ感覚よ、でも後にする」

 「え!・・はいはい、後でね」 俺は余りにも率直で拘りの無いヨシ子の言葉が、美味しいお菓子でも食べる様に聞こえ、可笑しさを覚えた、真面目に優しく背中を流し意外と華奢で小さいな背中、背丈は有るのにこんな小さな体で一生懸命だったと思うといっそう愛おしく思った。

 もう一度湯に浸かりながら 「リュウ凄いのね!実力改めて感じたわ、前に言っていた事本当ね!」 「・・」 「今シーズン終わったわね・・」 俺はそれには応えず 「うん・・お腹すいたね」 ヨシ子も笑顔で 「ほっとしたら本当にお腹すいたわ リュウに逗子に連れられて行った事思い出すわー」。

 ヨシ子は松島の海をぼんやり眺めながら 逗子の海岸を思い出したのか 呟く様に 「何か遠い昔の様な つい最近の様な・・」今度は俺に向って 「さぁー 食事に行きましょうか?」 「そうだね 短い間に色々な事があったから」 少し感傷にしたり野天風呂を満喫し部屋に戻った。

オープンキッチンjpg.jpg 先ほどフロントで聞いたホテル内のオープンキッチンで 牛タン塩味、天ぷら、えび・すずき・あなご・烏賊・野菜・刺身の盛り合わせなど好きな物を、メニューをに見ながら各々オーダーした。 ヨシ子は顔をテーブル近くに付け手を置いて俺を覗き見 子供が何かをお願いするように小声で

 「リュウの優勝祝い 少しくらいビール飲んでも良いよね」 俺は笑いを堪え「俺に聞くなよ!先生だろう」 ニッコリしてお腹を擦りながら 「少しなら良いって言っているわ....ね!リュウ いいでしょう」 俺に甘える様に訊ねた 「都合のいい腹だね」 と云いながら俺は頷いてみせた。

 客は俺達二人だったのか それとも話好きのガッシリとした厳ついコックさんが?、身を乗り出す様に笑顔で話かけてきた 「おめでたですか?」 ヨシ子は嬉しそうに 「はい!」 と神妙に返事をした、コックさんヨシ子の嬉しそうな返事で活きよいずいてか まるで自分のことの様に 「それは おめでとう御座います じゃ少しだけですよ」 と嬉しそうに言った、俺は思わずヨシ子と顔を見合わせ苦笑した。

 俺の注文した宮城ステーキはその場で焼いて頂きその手さばきを楽しみ、ヨシ子は牛タンや刺身の盛り合わせなどを注文して、俺達はお腹も空いていたので美味しく楽しみながら頂いた。

 コックさんが話好きで此の時期余りお客さんが少なく、本当は冬場の牡蠣が有名ですよ、何処が見所かいろいろと冗談を交え説明と観光案内をして頂き楽しく退屈をしなかった。

 まだ寝るのには時間も早く、夜の海岸に出かけて、僅かな月明のかりに島々からの明かりも加え漣が綺麗に輝いている、静かに時折そよぐ風、寄せては返す潮騒の音..二人手を繋いでの漫ろ歩き、此の雰囲気からもっとムードのある話に浸るところだが、俺は今後のレース活動に不安を感じレースの話に触れる事は恐かった。

 俺は話を逸らす為に、海斗の事が思い浮かび 「俺、ヨシ子に海斗達の事 生意気な事いったが如何してやったら良いか何も考えていなかったよ、駄目だよな」 ヨシ子は風呂上りの少し乱れ髪を掻き上げながら 「そんな事ないわよ、苦しみを理解して聞いてあげたでしょう、それで十分だと思いますよ」 俺は俯き加減に 「そうかなぁー?海斗が可哀そうで、何とかならないかな」 ヨシ子は顔を斜めに傾けて何故という様に俺に問いかけた 「以外ね!車の話しするのかと思ったわ?」

 やはりきたか!俺は車の話を避けていたから、慌てて 「始めた頃はね、楽しくて車漬けだったよ、今は全てが仕事、仕事となるとね」 何かを察したのか、話を海斗の事に戻してくれた 「私ね以前から、リュウのそう云う処が人一倍優しいと思っていたの、相手の気持や体調の悪さを想像出来る、そんな愛と思いやりがある人だと思っていたわ、だから人より疲れるのよ」 俺は照れながら 「買い被りだよ!」 優しい瞳でヨシ子は俺を見詰めながら 「私がリュウを好きになった理由はそれもあるかも知れないわ」 俺は本当に照れくさくなったが海斗を利用している事を少し恥じていた 「もう良いから、そんなんじゃーないよ!」

 俺の本音は、今後来年からのレース活動の事で頭が一杯だった、当然今回は後半、半年分の費用で済んだが来年は其の倍以上の予算が必要だ、それに年間良い成績を残す為に当然予備のマシーンや部品を準備する必要がある、其れを考えるとスポンサーが善意であればあるほど心が縛られてしまいそうだ、今はその事に触れたくなかった.. ヨシ子は俺に何かを感じたのか車の話は避けて、考え深げに 「そうね、時々レースの事忘れたいよね」 「・・・」 俺はどのように答えて良いか無言であった。

 ヨシ子は明るく話を変え 「海斗君の事ね、もっと未来だったらアレルギーも起きない自分の細胞から必要な内臓器を作れる様になれるのに..昔から、生命力の有る人が色々な苦難を病気だけではないのよ、災害や戦いを乗り越え生き残って来たのよ、其の中で、医師達の力どれだけ小さいか、どれだけの悲しみが有ったか、それの繰り返し、今わどうにもならないわ、私自身医師としてどんなに無力で不甲斐無いか思い知らされたわ、それだから諦めろと云っているのでは無いのよ、其の中で出来る限りの努力しているの、私自身も如何にあるべきか、他にもリュウのように心痛めている人が何人もいるのよ」 やはり、こんな時は先生と云うより母の様だ!

 俺は医学が進む事で確かに沢山の人々が幸せになる事には異論はないが、それにより新たな疑問が生まれ先生としてどのように思っているか尋ねてみた 「遺伝子の組み換えや臓器を作る其処まで、進んだら病気で苦しんで居る人は良い事だが、何か恐いね、俺は神など信じる信者では無いが、なにか神をいや自然を冒涜するような、戦う為の最強の化け物が作られたり..まだ俺が小さな時に読んだ漫画本の中で、あの包帯グルグル巻きのフランケンシュタインの涙の意味、それに永遠の命を持った火の鳥の悲しみや人の欲望が初めて解ったような気がするよ、金持ちだけが欲望を満たし息長られる事になるのでは?それもヨシ子が云う神が人間に与えた進化と知恵だけど..」

 ヨシ子はやはりこんな時にも医者を感じさせる 「そうよね、実験段階ですがiPS細胞(人工多能性幹細胞)って言うの、まだまだ動物の臨床検査等沢山テストがあるの、本人の細胞から作るのですから拒絶反応も少ないと云われているのよ、これからもっと実際に実験や拒絶反応のテストが必要で、研究者達は純粋に海斗君の様な難病で苦しんでいる人を一人でもその研究により助かれば良いと思っての事よ」 「それは、そうだけど!人間一人一人に何が与えられ何をするべきか?俺には全然見当もつかないよ!もしかしたら何の意味も無いかもしれない!」

 ヨシ子は俺の疑問を解って 「それも何れは倫理的に法律規制が出来るでしょうね、その為の争いも起きるかも知れないわね」 「ふ~んでも実際欲望の為に動く人もいるよ!」 ヨシ子は尚も俺の疑問を理解して 「それもそうだけれど、クーロンはあくまでクーロンよ、形はそっくりでも心や考えまでその人に代わる者では無いのよ、だって同じ環境が容易く作れる物で無いでしょう」 「だよね」

 「でも、なんだか恐いわね、何処までも進化するでしょうね、いまや特殊タンパクの利用で脳細胞の再生を試みているのよ、アルツハイマーや痴呆症が治せるかもしれないわね、其れが人間の欲望だからでしょうが。 リュウとそんな話出来ると思はなかったわ、とにかく難しい問題ね私も一人の医師として、一人でも多く助ける事を望むから努力しているのよ、時々リュウは違う視点から物を考え、根本を改めて考え直し刺激になるわ」 やはり先生だな俺が云うまでもなく考えている。

 俺は突然こんな事を思いついた 「もし大海原で、誰も助けも無く二人で最後の水を如何するか、本当にこの周りの社会で其れくらい追い詰められる人達が沢山いるんだ、二人で仲良く飲んで命を共に無くするか、それともどちらかに上げて一人だけ助かるか、考えた事ある?人が極限に追い込まれた時にとる行動、俺だったら如何するだろうって?」

 リュウは一体私達の将来について何を考えているのか解らぬと云う顔で俺の心の中を見通す様に窺がう目付きで 「どちらも恐い事ね、私ならリュウと愛し合い幸せの中で死にたいわ、リュウって時々変なこと考えているのね」 もっと重要な事が有るでしょう、と思ってるに違いない、でも俺はとぼけて 「変って?答えになってないよ」

 まったくもう、と云う様な表情で 「そぉね!言い方がいけなかったわね、それも皆さん、顔が違う様に又育った環境も違い其々違うでしょう、取る行動も其々違うと思いますよ」 「そうだね」 「ただ突然その質問今でなくても、時々リュウが解からなくなるわ」 不思議な顔をして俺を見詰めた、・・ヨシ子に云はれてみれば、俺は何を話しているんだ!と、思っているだろう、

 俺は何も悪い事はしていないのに、質問が恥ずかしくなりもう一度 「そうだね、ただふっと思ったから、でも本当にユニークな考えだね、俺もするよ一人では出来ないしヨシ子のこと大好きだから」 全くもう、と云う様な顔で、ヨシ子笑いながら 「そうよね..それが、一番平和で悲惨に成らないでしょう、それに意外と人は最後まで助け合う者よ、リュウだって私の為にそうすると思うわ、人間は弱いからそうやって生き延びて来たのよ」 「やはりヨシ子の考えの方が的を得ているね、それが人間や動物の生と死かも」・「でも本当の所俺には解らないよ、そうまでして生きなければならない意義が」

 「以前リュウはこの世界で人間の存在価値について、質問したわね、この宇宙に何かの条件が組み合わされ、たまたま人が生まれたもので、誰も見付けられないと思うの。..何のためではなく、折角与えられた命どう生きるのかでしょう、もっと生きていて欲しい人も生きたくても生きられない人も、どんなに人が悲しんでも思う様にならないの、それが自然の摂理なの」 医師だからこそ、沢山の人を見てきた実感があり感じた事だろう。

 ヨシ子は又、覗き込むように俺の顔を見て 「それにね、リュウと私が何億万人の中で出会えた事も、リュウの両親が存在したからよ、私達何万人とすれ違ったのか?不思議で奇跡でしょう!だから悔いの無いように確り生きることでしょう」 「うん、そう云われれば両親の愛がなければ存在しないよね」 本当に自分の弟か子供に教える様に押し付けるのではなく 「それでね何も無く生きるより、その人なりの価値のある目的を見つければ良いと思うよ」..俺と違って余裕のある考え、でも俺はその目的を失いかけ暗闇の中をもがいているのに..如何するのだ!。

 なんで、こんな話になるんだよ!本当はなるべく、将来のレース(車)の話を真剣に話合わなければならないのに。 それでもレースの事には触れたくは無かった、自分の考えが決まらないうちに触れたく無かったからだ..話せば決断しなければならない..と云うより結果は解かっているからだ、ただ俺がそれを認めたく無かった!。

客室1jpg.jpg 折角二人でムード有る処にいるのに、なんて色気の無い話、俺は何やってるの!..街灯や島からの明かりに照らせれ、寄せては返す優しい波の音が情緒を誘う....。 俺達の部屋に戻り久振りにベットでは無く布団に入る、俺はレースの興奮が残っているのか今後の事が気になるのか眠れそうになかった。

  俺はまたも話をそらす 「海斗の事、解っているけど!」 ヨシ子優しく俺を見詰め 「いいのよ、それでも悩んでくれる、そんな優しいリュウが好きなの、でも誰にでも優しいリュウに時々焼きもちやいちゃうな」 「ええ!そんな!」 「でもね、レースに取り組んでいる時のリュウの真剣な顔見ていたら、改めて此の人なら信じられるて感じたの、女の直感かな!」 「へー変なの!」

 ヨシ子は眠気が増したのだろうか、気怠そうに 「そうなの、女ってそんな変な処有るのよ、..私、自分がこんなにやきもち焼きだなんって思っても見なかったわ、此の年に成るまで、こんなに男の人に夢中なった事無かったの、どんなに優しくされても何時も何処かで醒めていて、入り込め無かったの」・・・「リュウだけは違ったわ、何時でも本気でぶっつかって来て..その澄んだ目で見つめられ、どんな過去が有ろうが、この人は純真な人と、と何時しbetto.jpgか引き込まれてしまったの、レースに取り組んでいる目と同じ、..だから..さ....」 暫く”そうなのか”と思いながら聞いていたが、沈黙の時が流れ 「・・・zz」 ヨシ子の寝息が微かに聞えた。

 ..なんだ、寝てしまったのか!今日は全てを忘れメチャクチャになりたかったのに、ヨシ子は久しぶりにビールを飲んだ事でも有り、レースで流石に疲れた様だ。 本当に率直で可愛い人だ..、年上なのに、こんなに愛しく感じる人は初めてだ・・あ~ぁ!俺は一体如何すればいいんだ!。 又これから無責任に今の生活を全て捨て俺の夢を追う事で愛している人の悲しい顔を見ることは二度としたくないよ、そんな事出来ない。 それでは望み薄のレースが尚のこと望みが無くなる、やはり全てを捨てないかぎり駄目だ、ヨシ子が俺を選んだ時にボロボロになっても、と云った事があるが果たして俺にも出来るのか?。

 其の夜、俺は余り眠れず、レースを十年程前に始めた頃からの事を思い浮かべ、あの頃の俺はレースが全て毎日が楽しくて喜びだった。 資金繰りに苦しみ走り廻った事すら楽しく、レース用車の改造やレースで性能の低い車で高性能の車を追い詰めた時はこの上も無く喜びを覚え誇りに思った、仲間とレース用車のボデーの軽量化やエンジンのパワーアップや足周りの改造等、レース談義に仲間達と時間も忘れ夜明かし、少しでも性能の良いパーツが欲しくて、噂を頼りに仲間と飛び廻った事、ただレース・カーで走五大堂毘沙門堂五大明王像.jpgれる事が楽しく喜びで生きがいを感じていた、本当にあの頃はギラギラと燃えて楽しい日々を過ごしていた。

 しかし、レースを中断せざるを得なく目標を失ったあの苦悩、再開出来た喜びも有ったが、今又次の段階に上がる苦しみの中にいる、此のまま進んでも先が見え初めてしまった..決断する時が来たと思っても何処かで続けたい気持ちに揺れる!。

 翌朝も、二人で野天風呂、朝の日差しを浴びながら雄大な海と自然が創りだした見事な島々、柔らかく包み込む温泉に浸り、爽やかな活力と元気を取り戻し、バイキングの朝食を戴き、ホテルを9時に出発、近くの名所五大堂や福浦島等を訪ね、島めぐりの遊覧船で自然が作り上げた島々の美しさを満喫し、明日お互い仕事なので早めに帰る事にした。

 新幹線(はやて)にてヨシ子、良く眠れたのか少し元気を取り戻した様だ 「ねー、リュウは如何して、あんなに早く走れるの?」 「如何してって云はれても、あのクラスになるとレーサーの腕はほとんど変わらないよ、本当に車の調整力それと、集中力の従続と思い切りでしょう..それと天候も運かな」

 「でも、気持ち良い位早くてスッキリしたわ、チーム全員活気が出て大喜びだったわよ、..リュウ、余り浮かない顔ね」 「うん、流石に疲れたかな」 その後は言葉少なく午後五時半には我が家に到着。

   《瞑想か迷想?》

 ヨシ子、玄関ドアーを開け何時もと違い、倒れ込む様に居間の長椅子に身を沈めたまま俺を見上げ、疲れたようすで 「リュウ、此処が一番ホッとするわね」 「そうだね、俺なんか何時も家のドアー空けてヨシ子の返事の声を聞くと、ほっとして安心するよ」 「ほんとう?嬉しいわ」 何か返事も何時もの元気さがない 「俺、本当に感じている事しか云わないよ」 「リュウ、コーヒー飲む?・・何か疲れたわ」 何時もと違いヨシ子とても疲れた声だ!

 「あぁーいいよ、俺が入れるから、ヨシ子は何時もの紅茶?」 やはり普段と違い気怠そうにキッチンをゆっくり指さし 「ええ、ありがとうミルクテーにして、そこに紅茶アッサムが有るでしょう、それと温めたミルクと半々にしてね」

 俺はミルクテーとコーヒーを入れリビングに戻った、何時もなら素早く荷物を整理する人なのに?ソファーに深々と腰を降ろしたままだ 「出来たよ」 「ありがとう」 気怠そうな返事に 「疲れているの?食事出かけるのよそうか?何か頼のもうか?」

 長椅子に座ったままのヨシ子、俺を見上げすまなそうな笑顔を見せ 「家に着いたら疲れが出たみたい、そうして頂ける」 「うん、いいよ何にする?」 「消化の良さそうな物がいいなーぁ」 「じゃぁーうどんか何かどう?俺カレーにするよ」 ヨシ子は気怠そうに 「月見うどんで良いわ、電話して下さる」 「わかったよ、お風呂入れておくね、きっとあかちゃんがいるから疲れたんだよ、夕食取ったら直ぐに休めよ」 「ええ」

 ヨシ子何時もと違って腰も重そうにゆっくり上げた 「じゃぁ先に入るわ、リュウ洗濯物出して置いてね....うぅ..うぶぁ」 ヨシコ子は慌ててキッチンの流し台に走りこんだ! 「ヨシ子如何したの!・・気持ち悪いの?紅茶のせい」 流し台に顔をうつ伏したまま 「ゲッゲプ!..大丈夫よ、....多分悪阻(ツワリ)でしょう」 流し台から涙目の顔を上げ 「少し吐き気がしたの、心配しないでもう大丈夫よ」

 「..ふぅーん、女の人は大変なんだ!心配しちゃた」 ヨシ子は無理やり笑顔を作り 「大丈夫だから、お風呂に入るわ」 心配だったので時々声をかけた、風呂の中から元気そうな返事が戻った 「大丈夫よ、リュウは優しいね、もう本当に大丈夫だから心配しないで」 「うん」 自分の事ならまだしも、俺にしてみれば全て初めての体験、心配になる事は当然だし戸惑うばかり。

 月見うどんを二つに変更しオーダーし、荷物を整理していると ヨシ子が「リユウ 先にシャワー浴びて 私少し休むは」「大丈夫?」「心配しないで」「じゃーそうする」

俺は風呂場に入り裸になり鏡をみて自分自身に問いかけた ”このままレースを続けられるだろうか?これで契約も終わり新たな契約を結ばなければならない ” 何時も不安や いきづまった時に俺は鏡に向かい問いかける癖がある 何故か本当の自分を探す為に ”歳と共に反射神経も鈍る 子供もできた それにもう以前の義理の父からの支援も受けられない 他チームへの誘いも俺のスポンサーが有ってこそ成り立つ事 ここで区切りではないか?” 結論が出ぬままシャワー浴び終え ヨシ子に風呂を進め 少し元気を取り戻したヨシ子は風呂に向かった、 

 うどんだけではと冷蔵庫を開けると卵と焼き豚、残り物冷凍ご飯、後は粒コーンの缶詰とマッシュルームのスライス缶が有ったので、バターで洋風チャーハンを二人分作る、 後から考えると可笑しな事、何かして上げなければとそんなことしか思い浮かばなかった。

 ヨシ子がお風呂をすませ 「リュウとおんなじ、やっぱり家が一番良いわね疲れが取れたわ・・リュウも入る?」 「食事してからにするよ、チャーハン作ったから、うどんだけじゃぁお腹空くでしょう?食べられる?」

 ちょうど出前のうどんも届いていた、先ほどの疲れた様子も見せず 「お風呂に入ったら落ち着いたわ、なんだかお腹空いてきたみたい、リュウて気が利く、本当優しいのね」 今度は元気そうに 「もう大丈夫よ、さー食べよう!」 美味しそうに食べ始めた、何か心配したことが馬鹿らしく拍子抜けした 「リュウ、このチャーハン美味しいわよ、べたべたしないで、上手く出来てるわ、感心しちゃう」 女性の体に複雑な気持ちもあったが、俺もほっとして食べ始めた 「元気になってよかった、ホント心配したよ」

 「もう大丈夫よ、さすがに疲れたわ、見ているだけでもこうなのに」 「俺はレースに慣れているし、ヨシ子はお腹に子供いるからだよ」 「自動車レースって側で見ているより数段ハードで頭もかなり使うスポーツね、今回だけでも良く解ったわ、レーサーの技量、レースの組み立て、チームワーク、天候、技術、全てが上手くかみ合って居なくてはいけないって事よね」

 俺は何故かヨシ子の様子から、早く俺の考えを話さなければいけないと思い 「さすがだね、少しの期間に良く細かく観察したね、これから自動車レースの見方変わるよね」 俺が如何してレースに夢中になったか少しは理解してむらったのに、それに俺の為に協力してくれた事にすまなく思い。

 俺は心を決して話始めた 「ねー真剣な話、聞いてくれる」 「リュウ改まって如何したの?」 俺は少し躊躇したが話す事を決めた 「....俺ここのところ考えいたが、これでレース辞めるよ!....」 ヨシ子、俺の突然の決断に直ぐには理解出来ない様子 「....!....?」、 返事に戸惑い言葉が浮かばなく驚きの表情で俺を見詰めた。

 俺はヨシ子が理解出来るように説明した 「自動車レースのカテゴリーは色々有るが、俺がエントリーしているレースは一応日本の自動車レースでは最高峰、もし今回トップを取れ無かったら、まだ挑戦をして辞める事は考えなかったと思うが」 「・・」 ヨシ子は俺がいったい何を伝えたいか次の言葉を待っている 「今回、曲り形にもトップに立てたんだ、一応俺なりに納得出来たが、年間チャンピオンを取ら無ければ本当に一番と言えないよ、 それを取るには来年になるか再来年か、それすら解らないよ、誰もが此の道に入った以上、世界で活躍したいと思うよ、ましてや俺にとって其れが夢だったから、・・世界に挑戦するなら技量だけではだめ、世界の一流のマネージャーを付け一流チームでなければ決して良い成績を残せないよ」 「解ったわ!それで?」 「今年の俺のレースも終わり、区切りも良いし、其の上、来年当たりから必ず不況が来るよ、そうなるとスポンサーもなかなか見付からないかも」

 本音の主な理由はスポンサーだが、ヨシ子に詳しく話す訳にもいかず、このまま前の奥さんの会社の援助を受ける訳にも行かない、今後此の不況何処まで続くか解らない増してや日本ではカーレース等余り理解されない、今後安定した生活を支えてくれるメイン・スポンサーが見付かる訳も無いと思う。

 ヨシ子は驚いた顔をして 「それで、優勝出来たのに浮かない顔していたのね、..もう決めていたの?..、本当に..後悔しないでね!」 俺が最後まで話さずとも、何を話したいか理解した様だ、それに何か言たい事が有るようだがそれ以上は云わなかった、

 とりあえず簡単な理由を付けた 「あぁー、ヨシ子が一生懸命レースの事覚えたのにごめん!、もうーこれ以上は皆に迷惑を掛けられないし俺にとっても無駄になる様な気がするよ」 

 ヨシ子は自身と子供の為と思ったのか 「私の事なら良いのよ、リュウのビジネスと思って割り切るつもりよ」 この話し方は、スポンサーと美奈子の事を知っていたのだ!・・「此れからリュウに皆さんの期待が掛かるのに、変なものね辞めるとなると少し残念に思うけど・・リュウが決めた事だから、でも本当に良いの?」

 世界に羽ばたきたかったが色々な条件から俺にはもうこれ以上先は望めない事は前々から判っていたのだが認めたくなかっただけだ、本当にもういいんだよと云う顔をして

 「幾ら期待が有っても、今より上は、奇跡が起きない限り望め無いよ..スクールには、インストラクターとして残るつもりだよ、ヨシ子には一番先に了承して欲しいから」

 「リュウ此処に来なさい」 俺の目を確かめる様にして 「本当に私や子供の為にでは無いでしょうね、それで本当に良いの、思いつきだけで云っていないでしょうね、後で後悔してほしくないの!良く考えてね....リュウは目的が無いとだめだと思うわ」

 「あぁ」 「私..まだ信じられない!何か新しい目的が有るの?」 「別に!、今は何も考えていないよ」 「..解ったわ!リュウ自身の事だからもう何も云わないわ、お風呂に入ってらしゃい」 「あぁ先に休んでね、ゆくり入るから」

 ヨシ子は俺が凄く落ち込んで悩んでいるとバス-2.jpg思ってか?もしかして子供の為に悩んだ上に辞めようと思っているのか?、きっと俺がカーレースに何年も打ち込んで来た事を知っているから、どの様に力になれるのか戸惑いの顔が明らかに感じた、 俺にもそれでいいのか正直判らない、兎に角風呂にでも入ろう。

 ウーンアーア..俺も年かな!こんな声が出るなんって!。 ..湯船に身を任せながら、普通ならレースを辞めるなどとは、やっと掴んだ物を此れから活躍出来、運良くスターになれるかもしれないのに。 だが..其れも、後1,2年の事だろう、もうそれ以上は奇跡が起きない限り世界には進めない。 何時までも此の位置にくすぶって居ても年を取るだけスポンサーも見つけられない、其のうち惨めに年取って忘れられ終わってしまうだろう。 美奈子(前の妻)との苦悩の日々を無駄に過した為か?。

 あれ程まで追い求めていた情熱が、十年前のいや考え始め十年以上、あのギラギラした目で獲物を追い求めていた俺は何処に行ってしまったんだ?。 途中で中断してしまって無駄に過ごした事が影響したのか、あの時レースを続けていれば?考えても時は戻って来ない。 それも、いや!俺自身が選んだ人生だ!、人として無駄では無かったそう自分に思い込まして居るのではないか?。

  あの流れてしまった日々、無駄に終わってしまうのか。 このまま皆を犠牲にして何も残らなかったら、本当に其れでいいのか?、俺が選んだ道では無いか!、此の小さい目標を達した満足感を求めた訳ではない!。 それほどまで追い求めた結果が此の脱力感と空しさなのか、何故こんなに寂しいのだ!。

 その上の目標が余りにも遠いからか?....まだ出来ない事は無いが、日本はレースに対し理解が少ないから。 年を考えるとぼろぼろになるまでやる人もいるだろうが無駄どころか犠牲が大きすぎる。 それで平気なのか?此れが挫折と言う物なのか!。 又不況がじわじわ遣って来る、其れより目標を達した途端、正直レースへの情熱が薄れてしまった。 いや挑戦する事が恐いからそう思い自分を納得させ様としている。 どちらを選ぶのだ!判らない!遊びではない!此れではもう勝てない第一こんな気持ちでは危険だ。

 次の目的が実力は勿論の事、それ以外の要素で動く事を十分知っているから。 それを切り開き乗り切るのもプロだ!。当然スポンサーに頼るほかは無い、益してや別れた人の父の会社をこれ以上頼るわけには行かない。 恥ずかしい話だが、此の俺を世界の一流カー・レーサーに育ててくれ!とスポンサーを求むのプラカードを持ち東京駅か横浜駅前にでも立つか!、いや!それも美奈子の父への当て付けの様で、それも出来ないしそんな勇気も無い。

 だが此れ以上は並みの資金では出来ないチームを移籍する?俺にそんな事が出来る訳がないし移ったからと云って保証される訳も無い!。 全てが絡みあってくる、俺の選んだチームへの後悔が残るだけだ!。 俺にはこれ以上の犠牲を家族に与える事は出来ないし、誰かを犠牲にして本当に喜べないヨシ子と子供の為にも辞めるべきだ!。

 今までだって恵まれた方だ、良い潮時だ!、そうしよう、もう決めたのだから!。 ヨシ子に遇わなければ、此のまま突き進んだのか?。 誰のせいでも無い、俺の力が無かったからだ、ヨシ子に惨めな思いをさせたくない、いや俺自身の為にも、俺の選んだ運命だ此の幸せを守りたい、もう俺の心の中で決まっていた事だ!。 ヨシ子を知り今の生活の中に本当の幸せを見つけたから?。 何故かレースへの情熱が少しずつ醒めてしまった事も事実だ!、何処かで自分に納得出来る機会を待っていたのかも知れない。

 遣るだけやったのだから!、これを挫折と思いたく無い俺が居るからか、素直に認めたく無い、だったら!愛する人を!皆を悲しみに巻き込み、スポンサーの事で肩身の狭い思いをさせてまで、ボロボロになり何万分の1%に賭けるのか?。 今更と思いながら..目まぐるしく浮かぶ、同道巡りだ!考えても結論など出ない!、何て優柔不断なんだ!俺自身に呆れる。

 久しく1時間以上お湯に浸かり物思いに耽った、以前にはこんな事は無かった、家庭を持つと云う事はこの事か、俺も優柔不断になった者だ、久々に長々と湯船に浸かった疲れもとれた様だ、俺自身に呟く 「さー出よう」

 ベッドのヨシ子を起こさぬ様に静かに脇から潜り込む、何時もなら俺が後ろから抱いて寝るのだが心配して眠れなかったのか、まだ起きていて向きを変え、俺を柔らかく抱き締めてくれた、俺を慈愛に満ちた優しい眼差しで 「本当にそれで、いいの?」

 俺はまだ迷っていたが 「大丈夫だよ、子供やヨシ子の為では無いから俺自身の問題だから心配しないで」 「解ったわ、良いのよ慌てる事は無いのよ、もう聞かないさーぁ寝ましょう」

 ..何故かヨシ子から憂いを感じる、初めて出逢った時の様にヨシ子の胸の中に、顔を埋めて..あの時の、安住の地だ、あの時から俺の牙は溶かされ始めて、こうなる事、予想していた様にも思えた..俺を確り抱きとめて、きっとどんな俺でも受け止めるわ..安心してと無言で伝えているかの様だ

 何度も、何度も、”これでいいのだ!”と心で呟き、この時が来ただけだ!まだ何年かあるのに..だが此の世界で上に這い上がるには遅すぎる、過ぎ去ってしまった歳月は取り戻す事は出来ない”老兵は消え去るのみ”のフレーズが浮かぶ、まだ老人にはほど遠いが此れが車のレースの世界、何故か悔しさも残念さも沸か無い空虚な中で、ただ移り行く歳月の無情さを感じる、寂しさか?。

 感傷的になり閉じた瞼から涙溢れていた、..”これでいいのだこれで..々”..十年余り俺にとっては壮絶な戦い、此の涙で洗い落とし終止符を打ち新たに静かな幸せを求めよう..

 ヨシ子が気が付たので有ろう、そっと俺の涙を拭き取って黙ったままそっと抱き締めた、まるで子供が母親に甘えて居る様だ、此の俺が今まで記憶のある限り一度も見せた事が無かった姿と涙で有った、益してや女性の前で少しも恥ずかしくなく出来た事が不思議だ!、目を開ける事もなく思わずきつく抱き締めて安堵の思い..そのまま、いつの間にか眠りに付いた

  《トラブル》

 基地開放.JPG翌日、横須賀ベースは一般開放日で沢山の人々で賑わっている、我が事務所もボランテアで駆出されバーベキュウ等に大忙しだ、此れからは俺もこの様な模様しにも参加しなければ成らなくなる、忙しそうに指示を与えているボスに向かい、レースで優勝を報告して、自分にケリをつける為に、カーレースを辞めるので軍の契約から日本政府から正式雇用をボスにお願いした、ボスは賑わいから少し離れた場所に向かい改めて確認する様に 「リュウ、優勝出来たのに?本当にそれで良いのだな」 俺もハッキリと「はい、お願いします」 と返事をした、

 ボスも俺に正式に勤める事を望んでいた、ボスは雇用を変える事は一存では決められない、部隊の上司の許可を得て書類の提出等あって日本政府の許可が必要なので、後日返事をするからとの事、前向きに考えて頂き有難かった。

 もうこれで、俺の気持ちを断ち切り後戻りは出来ない、どうも俺は走りながら物を考える様だ、これでカーレースと決別だ!、自分でも驚くほど対応が早い、未練を持ちたくない、いや未練が有るからこそ!、俺の選択が正しいか正しくないかそれは後にならなければ解らない、此れで良いのだ!此れで、気持ちにケリが付けられる!

 其の夕互いに仕事を終え、何時もの様に穏やかに夕食を摂りながら、ヨシ子にも報告した 「決めたら早いのね、今度はサラリーマンよ、リュウに勤まるかな~ぁ?リュウは型に嵌らない人だから、チョト心配だな!」

 「日本の会社とちょっと違うから、日本政府の雇用で管理はアメリカ軍、だから実力次第の評価だよ」 「良く解らないけど、アメリカ軍の影響が有ると言う事ね」 「複雑だけれど給料は日本政府から、派遣の様に米海軍に雇われているからね」 「複雑ね、その事は解ったわ..リュウレースの事、急いで決め付けないでもっと柔軟に考えたらどうかしら?、とにかく後悔の無い様にね」 「うん、解ったよ」 とは言ったが、もう諦めなければ成らない時が来ている、俺の心は半ば決まっていた。

 ヨシ子が病院での出来事を話始めた 「海斗君がね、レースどうなったかって?随分期待していたわよ、それで優勝した事話したの、自分のことの様に喜んで ”リュウなら必ずやると思ったよ” だって、リュウに会いたいなーぁて・・リュウ行ってあげてね、・・それと浩子、家庭裁判所に弁護士付けて離婚の申し立てしたわよ」

 「あーぁ行かなければと思っていたよ、離婚は二人の問題だけど、海斗がね」 ..海斗が何の罪を犯したと言うのだ..如何にも納得出来ないよ、此れが現実の世の中!

 ヨシ子寂しそうな顔で 「浩子さん達、壊れてしまった物は仕方ないけど そうね、いがみ合っていてはもっと海斗君に悪影響でしょう、..リュウは、まだそうやって愚痴が言えるだけいいのよ、離婚の事はともかく、私の立場では何も云えないし、可哀そうだからと云って海斗君を特別扱い出来ないのよ、それに治療方法..なんでもないわ」 「ごめん!ヨシ子の方が立場じょうもっと辛いね」。

タッチおじさん ダヨ!.jpg エエ!此処まで来たんだ、最後まで読むか!..此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【Story13】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-20是非お読み下さる事お願いね 

  尚、文中の東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福と、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げまるとともに一日も早い復旧・復興と、通常の生活に戻れる事、心よりお祈り申し上げます


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編10】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

       ☆=Story【前編9】からの続きです、是非下欄【前編10】をお読み下さい=☆

   《横浜の病院にて》

 横浜の病院に付き、俺はヨシ子からの要請で一晩病院に泊まり明日再検査をする事に、

 監督いや社長に竹田君と久美ちゃんの休暇願いが得られ、今晩みなとみらいのホテル予約が取れたから明日ゆっくり久美ちゃんと横浜見物出来る事を両人に伝えることにした、先ずは興奮している海斗を病室へ無事戻し、まだ興奮で話足りない様子だったが、俺もここで検査をする為に入院する事を伝え海斗を宥め、ここの病棟夜勤の看護師に海斗の状態の説明のヨシ子を待って俺達は院内の外科の一般病棟に向かった、

 ヨシ子は迎えに出た若い看護師さんに向かって俺の移動用旅行バッグを渡し 「夫です、お願いするわ・・我侭言ったらきつく叱ってくださいね」 丸顔でふっくらした癒し系の優しい顔立ちの看護師さん俺をチラリと見て笑いを堪え 「ウフ・・わかりました」 きっとヨシ子の仕草が子供に諭す様にでも思えたのだろう

 ヨシ子は俺に向き直り 「リュウ!私達帰りますから 今日はなるべく安静にしているのよ、こちらの移動用バッグにパジャマと洗面用具入れてありますから、足りない物が有ったら 下の売店に有りますからね」 「あぁ」 看護師さんは浩子さんに目を移しながら笑いをこらえる様にして俺を待っている 今度はヨシ子が笑みを浮かべ「リュウにはちょっと看護師さん危険だな!私も泊まろうかしら?」「はぁー なに云っての?」「冗談よ!私も疲れましたから帰ります・・明日ね」

 浩子さんは神妙な面持ちで 「龍崎さん 今日は本当にビックリ大変な事に成り心配しましたが 大事に成らず安堵しました、どうぞお体無理をせずゆっくり休めて下さい」 「いえ」 「海斗と私の為に今日は本当に有難う御座いました、御蔭で海斗の明るい顔も見られ随分と気持ちが楽になりました」 俺は看護師の手前もあり、少し大人びた言葉使いで 「浩子さん まだまだ此れからですよ、一人で抱え込まず何でも皆に話して下さいね」 「はい ありがとう御座います」

  俺はヨシ子や浩子さんの後ろに控えめに待っている竹田君と久美ちゃんに近寄り 「竹田君久美ちゃんご苦労様 明日一日君たちの休みの許可監督にお願いしたから 明日はゆっくり久美ちゃんと横浜を楽しめよ、今晩のホテルの予約 手配したから帰りにヨシ子に聞いて・・夜景が綺麗に見える所だよ!・・」

 竹田君は驚いた様に久美ちゃんと顔を見合わせ、嬉しそうに 「本当に良いのですか?」 「あぁ、監督に君たちの休みの許可を得たから安心して」 久美ちゃん嬉しさと恥ずかしさをミックスした様な複雑な顔をして 「本当!・・信じられない、嬉しい!」 俺はおどけた様に「ほんとうだよ」 竹田君は神妙な顔で「はい、有難う御座います龍崎さんもゆっくり休んで下さい、それでは失礼致します」 「運転気を付けろよ!」 二人は嬉しそうに 「ハァーィ」 の返事、仲良く軽くお辞儀をしてヨシ子達をまった、hospital.gif

 ヨシ子は担当の看護師さんに向かって、俺を押出すようにして 「リュウ、分っているでしょう、看護師さんの言う事聞いてね、じゃぁ明日ね・・看護師さんお願いします」 全く子供扱いだ、

 皆と別れ、担当の若い女性の看護師に案内され病室へ、先ほどまでは緊張の為だろう余り痛みも感じなかったが時間が経ち緊張も解れたのか体中が痛む

 「ウッ!アイタッタ!」 看護師驚いたのか少し太めの体を一層密着させ俺を支えた 「余り痛む様でしたら、先生に鎮痛消炎剤出して頂きましょうか?」 看護師は俺のバッグを持って俺に寄り添い、手を腰に回し脇を支えて静かに歩いてくれた 「いえ、大丈夫ですから、余り薬には頼らない様にしていますから」 やっぱり お年寄りの男の先生よりこっちの看護師の方が柔らかく弾力があっていいや

 痛みを堪え看護師の肩に少し力が入ったのか 「無理なさらない様に 時には薬も良いのですよ」 と俺を促す様に見た 俺は曖昧に 「ええ」 と応えた 看護師は俺を促す様に 「病室に案内します」 それほど歩く間も無くすぐに病室に着いた 「其処ですから」 「なんだ残念!もう少しこのまま歩きたいな」 「バカなこと云っていないで さぁーベッドは此方です」 「はい」 「荷物はこちらのロッカーに入れて置きますから」 ベットの脇の細く小さなロッカーを示した 「有り難うございます」

 六人部屋の病室、左側の一番奥の窓側のベッドに看護婦さんに案内され2、3の空きベッドが有り一つはカーテンが締めてあり誰か眠っている様子

 俺の向かいのベッドはカーテンが開いている、そのベッドに左足をギブスされ吊り下げられて横になっている若者に 俺は声をかけた 「ヨォー!宜しくね」  と挨拶、若者は俺にペコリと頭を下げ 小さな声で 「はぃ」 と応え軽く挨拶を交わした。

 看護師は不思議そうな顔で俺を眺め 「あのぅー? 龍崎さんは先ほど先生が夫って・・鶴見先生の?」 きっとまだ知らされていなく余りにも釣合がとれなく思ったからだろう 一瞬迷ったが直ぐに解る事と思い「ええ、結婚式は未だですが最近入籍しましたので」 多分まだ話してないのかな?まずかったかな!でも夫と云った様な

 看護師はまさかと思う様な顔で どのようのに私の妻を呼んでよいか迷いながら 「鶴見・・いいえ、噂で結婚した様な話がありましたので、先生とは病棟が違いますから」  「そうですか・・」 余りにも想像と違い もっと威厳のある年上の人と思ったのだろう、

 看護師は慌てた様に話を戻し 「明日・・朝食後 直ぐにCTの検査ですから、一応検温と脈拍・血圧診ますから 着替えて下さい・・何か異常が有りましたらこのボタンを押せば直ぐ来ますから」 と言い残し部屋を離れかけた

 あぁーなんて長い夜か 「眠れないな 缶コーヒーでも買いに行くか」と自分に呟いた 看護師は急いで俺を制止して 「龍崎さん 今日は安静にして下さい、酷い打撲だそうですね 後から何が出るか解りませんから」 俺は冗談まじりに 「まさか お化けは出ないでしょう? ただコーヒー飲みたかったから」 看護師は冗談には耳をかさず、すまし顔で 「冗談ではありませんよ!その時大丈夫と思って次の日亡くなった方もいるのよ ちゃんと安静を守って下さい!」 「そうなんですか?」 「だから先生が心配しているのよ」

 看護師はおもむろに、俺の腕を取り脈を計る 俺は又冗談を思いつき 「看護師さん、俺の脈速いでしょう」 「いいえ正常ですよ」 「おかしいな?こんな美人に手を握られて血圧も高くなっているはずだが?」

 看護師は少しも顔も崩さず、すまし顔で 「龍崎さん!冗談でしょう眼科に行った方が、目がお悪いじゃぁないですか?血圧も正常ですよ」  そんな患者が沢山いるのだろう、あっさり交わされてしまった 「いやぁーそんな事無いよ看護師さんが菩薩様に見えるよ」 尚も澄まし顔で 「はいはい!今日は静かに寝て下さい、それにこの体温計ピッピッピと鳴るまで脇に挟んでください、コーヒー届けるまでに着替えと検温して下さいね」 「はい、こうですか」 

 「ええ、私行って来ますからその他欲しい物ありますか?寝ていて下さいよ」 「看護婦、師さん!」 どうも言いなれないな 「え!何か?」 ベッドの上掛けを捲り開いた所をポンポンと叩き 「だから看護師さんが可愛いから此処に・・」 小銭入れを渡した、すぐに冗談と解り 「鶴見せん・・!奥様に言いますよ、今日は静かに寝てください、余りうるさいと注射しますよ」

 「注射は俺が太の持っているよ」 呆れたように笑いながら 「もう~セクハラですよ!本当に安静にしていて下さい、本当に鶴見先生の旦那様ですか?考えられない!」 「解りました、眠れそうにないから話したくて」 「周りに迷惑かけないように」 少し厳しい顔をみせ、看護師が部屋から出て行くのを見て

 向かいの若者がコミック雑誌から目を此方に向け 「クックク」  笑いを堪え 「お兄さん、やるじゃーん」 俺は若者の足を手で示し 「如何したんだ、其の足」 若者は悪びれる様子もなく 「バイクで転倒!やちゃった!」 「そう・・粋がって!無闇に飛ばすから」 「如何して分るんですか?お兄さんは、痛そうにして?」 説明が面倒に思い 「お前と同じさ、車だよ」 「なーんだ!えらそうに人の事言えないじゃん」 話し方から生粋の浜子だと感じた 「まぁな」

 そんな話の中、先ほどの看護師が缶コーヒーと薬はヨシ子が担当の医師に報告していったのだろう届けてくれた 「龍崎さん、痛むようでしたら、この炎症鎮痛剤当直の先生が指示された物ですから置いて行きます服用して下さいね、それと缶コーヒーです」 「ありがとう優しいね」 看護師さんに手招きして口に手を充て 「ちょっと耳かして」 看護師は中腰になり顔を寄せてきた、俺は小声で 「出来たらここに添い寝してくれる?薬飲むより痛み取れると思うよ」

 呆れたように少し声のトーンを高くしたが本当に怒った様子ではなく 「もうー龍崎さんわ!いい加減にして下さい!結婚そうそうでしょう先生に言付けますよ・・周りに迷惑掛けない様にして下さいね!」・・「今晩私当直ですから痛みが有りましたらこのボタンを押して知らせて下さいね」 「はい」 「おやすみなさい!」  「ありがとう、おやすみ」 返事聞き笑いながら出て行った、 暫らくは眠れず、ここ一ヶ月目まぐるしく過ぎた日々を考えているうちに、さすが疲れもあって何時の間に寝てしまった。

 翌朝不用意に何時もの様に活きよい良く起き上がり、足や肩に激痛を感じた、安全ベルトの跡が残る程の衝撃が有ったものと思はれ改めて幸運だったと思った、夕べの看護師が朝7時頃俺の病室を訪れ周りの仕切りのカーテンを開けながら明るい笑顔で 「龍崎さーん、おはよう御座います、如何ですか?何処か痛みますか?」 俺の手を取り脈を計る 「おはよう、少し痛みますが大丈夫です、夕べは泊りで大変でしたね一緒に帰りましょうか?」

 俺の馬鹿げた話を無視して表情も変えずに 「龍崎さんは此れからCTの検査です、担当の看護師が迎えに来ますから、分りましたね」  ・・今度は笑顔の顔を近づけて軽く肩に手を置き子供を諭す様に 「私、明けで帰りますが鶴見先生に叱られないようにね」 俺も神妙な顔を作り 「ハイ恐いからね!・・解りました、昨夜からご迷惑をかけ、どうもありがとう御座いました」 笑いながら部屋を出て行ってしまった。

 向かいの若者会話を聞いていたのだろう 「ハァハァハッ!又振られたね」 「まぁーな・・又は無いだろう!看護師さん照れているからだよ、本当は俺の良さが解かっているんだよ」 若者、呆れ顔で 「気楽だね 思い込み激しいんだよ」 俺は恍け顔でとぼけた様に 「そうかな?」 「ほんと!気楽人だね」、

 突然 三十代前半の 青白く切れ長の瞼 涼しそうな目をした清潔で頭の良さそうな秀才顔の 男の先生が病室の誰かを探すようにゆっくり ベッドの名札を見ながら、俺のベット脇で立ち止まり暫く立ち 名札確認、暫く睨み付ける様な目で見ていたが 何故か俺も対抗意識が湧き目を離さずその涼しげな眼を刺すように見詰た、男は慌てた様目を逸らし 小さな声だが俺に聞かすように ぼそりと 「此処ではないか」 と洩らし人を探している素振りで踵を返す様に出ていった。

 何故か俺の心が騒いだ、向かいの若者に 「何時も先生の診察何時頃だ!」 俺の厳しい言い方の質問に若者は少し驚いた様に目を見開き 「普段一時半から二時頃からだけど、あの先生は見た事がないよ如何かしたの?」 俺は言葉を投げ捨てる様に 「何でも無い!」 俺の異変に気が付いたのか、若者のそれ以上の質問はなかった、

 ・・何故か胸騒ぎを感じ、直感したきっとヨシ子の元彼だな、何故か変んな確信をした・・噂を耳にして俺を確かめに来たのかな!・・出来るなら会いたくは無かったが以外にも俺は平常心で何の怒りも感情も湧かなかったが、俺の感が違って欲しい気持ちもあった、如何見ても動物的な男では無く余り印象的では無い人だ、俺なら別れた彼女の男などわざわざ見には行かない、其れにしても少しも怒りを覚えない俺はヨシ子を改めて心から信頼しているからだと思った、俺も変わったな。

白衣の佳子1.jpg 余り食欲の湧かない朝食を大凡は残し向かい若者と冗談を言いながら検査をまった、9時頃になり別の若い看護師が検査室に案内をしてくれてCT検査も終わり、お昼少し前に担当の医師では無くヨシ子が病室に、久振りにヨシ子の白衣のキリリとした姿を見て、あの頃の事を思い浮かべ何か不思議な想いで迎えた、 真面目顔のヨシ子、照れがあったのだろう 「おはよう、でもないわね、其処のおバカさん」 と俺に呼びかけた

 流石に職場で俺の名前は呼びづらいのか、俺と向かいの若者が同時に 「はい!おはよう」 と二人でハモルように返事をした、 ヨシ子はテレ笑いを浮かべ

 「あら、其方にもおバカさんがいたの、今日は此方のおバカさんに用があるの」 と俺に振り向き若者に背を向け俺に向かって仕舞ったと云う様な顔して可愛い舌を出した。

 俺の周りのカーテンを引き 「リュウCTの結果異状無いですって、良かったわ」 「うん、そうだね、今日は営業用の顔?」 「も~ぅからかわないで、このまま直ぐに帰っていいそうよ、かえる?」 「海斗に会ってから帰るよ」 俺は先ほどの先生の事を聞こうかと思ったが、それほどの事ではない質問を控えた、 「私、まだ診察残っていますから今日はリュウ家で休んでいなさい、そうそう・・看護婦さんに何か言ったの?楽しい人だって!」 俺、首を振って 「うんうん、べつに何んにも」 「・・まぁいいわ」

 ベッドから降りるときに、足と太ももの付け根、両肩がベルトの後も残り赤く腫れて痛かった いたずら坊主でも見るように着替えを手伝いながら 「やっぱりね!思った通り太腿付け根少し鬱血していますね、此れなら直ぐに直ります塗り薬頂いてきましたから塗りましょうか?」 「いらないよ」 「だめです!見せなさい青黒く腫れますよ」  肩と太腿の付け根を塗り終わり、俺のお尻を軽くピシャリと平手打ち 「痛いなーもう」 「はい、これでいいですよ、・・今日急いで帰りますから、おとなしく家で休むのよいいわね!」

 「うん・・CT検査ヨシ子も診たでしょう?」 「如何したの?何か!聞きたい事有るの」 「うん、脳の中輪切りにして診れるでしょう」 心配そうに俺をみて 「ええ!どうして?」  「脳の中にヨシコ、ヨシ子って、溢れるほど書いてなかった?其れとヨシ子の裸写っていたでしょう」 あきれ顔で 「まったく!もうー心配するでしょう!・・そうだ!私の名前だけで無かったわよ、あやしいな?私のでは無く変な女の子の裸写っていましたよ」 俺のジョークが直ぐに理解出来る様になった 「そんな事無いよ!一本取られたな、じゃぁ後で」 「おとなしく家で休むのよ・・いいわね」 「あぁ」。

 俺は着替えをすませ、カーテンを空け向かいの若者に 「じゃーぁな!」 若者驚いた様に 「あのう・・先生の旦那さんですか?」 「ええ!そうですが何か?」 ヨシ子は頭を傾げ問いただす素振りをした、 若者は気恥ずかしいのか俺に向かって 「ええ!ありえないすよ、こんな綺麗な先生と!・・言ちゃいますよ!」 ヨシ子はチラリと俺を見て若者に 「あら、家の人何かご迷惑でも?」 俺は慌てて色々喋られてはと 「べつに何んでも無いよ!」 若者に向かって 「あんまり飛ばすなよ、お前だけでよかったが人でも遣ったら取り返しつかなぞ、親に心配かけるなよ」 「ハイ、分りました」 「やけに素直じゃないか、じゃぁーな!」

 若者は慌てた様子で 「ちょっと!・・あのーう、龍崎さんはレーサーなんですよね、記念に足のギブスに何か書いて下さい」 ギブスには仲間のサインや悪戯書きが大分あった、多分俺が検査のため部屋を空けた時にでも看護師に俺の事を聞いたと思われる

 「俺でいいのか?」 ヨシ子は笑いながら 「この人にサインたのんだら、また怪我をしますよ!」 若者マッジックペンを俺に渡しながら 「大丈夫ですお願いします、今度レース見に行きますから」 「無理するな!それより早く足治せよ、今回の事故で車使えなくなったから、多分この次はレースに出られないよ、出るのはその次辺りかな」 「必ず観に行きますから」 「あまり無理するなよ、じゃーな!」 サインを済ませ病室を出てヨシ子は仕事に戻り、俺は海斗の病室にむかった。

 海斗の病室を訪ね、病人に元気も無いものだと思いながらも、適切な言葉が浮かばず 「やぁー、海斗大丈夫か?元気にシテイルか?」

 「リュウ!リュウこそ大丈夫なの?もう良いんですか」  「おぉー、もう何でも無いよ」 「良かった、心配じゃ無かったが、心配だった」  何か分けの判らない言い方だが、海斗の気持ちは手に取る様に判り嬉しかった 「そうだよ、俺は大丈夫だが車壊れちゃった!次のレースに間に合わないかも」 「もう乗れないの?」 「そんな事無いよ、この次だけだよ」 「良かった!又、出るんですよね」 「そうだよ」

 ちょうど海斗の検診に来た年の頃25・6の女性の看護師さんに海斗は 「ねーねー、凄いだよ龍崎さんレーサーなんだよ」 看護師さん俺に顔を向け 「あのー、鶴見先生の?、確か以前4.5年前かしら?此方に来ていましたよね」 海斗は看護師さんの口調から何かを感じ取ったのだろう 「先生と結婚したんだよ」 看護師は海斗から顔をそむけ小さい声で自分に話かけるように 「ええ!知っているわよ先生ずるい」 俺は良く聞き取れず 「え!何が?」 看護師は慌てた様に 「いえ何でも有りません、海斗君良いお友達が出来て良かったね」 「うん、昨日凄かったんだ車ぐるぐるって舞い上がって落ちたんだ、でもリュウは平気だったんだよ」 海斗は自分の事の様に得意げに看護師さんに話している。

 ちょうどその時、浩子さんも海斗に会いに来た、目ざとく母を見つけ報告をした 「あ!お母さんリュウがきているよ」 浩子さんは海斗を優しく見詰め ”うん” 言う素振りで静かにうなずき俺に向きを変え 「昨日は有難う御座いました、龍崎さんお話が有るんですけど、少し良いかしら?海斗すぐ戻るからね」 海斗はつまらない顔を見せたが、俺は海斗に向かって驚いた様に肩を窄めあげて 「じゃぁー海斗また来るからね」 海斗にサヨナラをして浩子さんに向き直り 「お母さん行きましょう」

 浩子さんと病室を出た所で 「龍崎さんはお昼まだでしょう?何処かで何か召し上がりましょうか?」 俺は一瞬良し!と思ったがヨシ子の顔が浮かんだ事もあり、痛みと疲れていた事もてつだって 「ごめんなさい!、今日は疲れていますからここの屋上で・・」 浩子さん少し戸惑った顔をしたが 「ええ行きましょう」

 二人は無言でこの病院の屋上に上がり話を聞く事にした、俺は海斗の今後の事との相談と思っていたが.. 浩子さんはおもむろに話だす 「実は、主人とうまく行ってないの、此処のところ話もろくに出来ない状態なの」 突然の話にビックリしたが 「そのーぅ・・・夫婦間の問題は・・・」 浩子はすがる様な眼差しで 「お願いです!、他に話す人がいない者ですから、龍崎さん、一人で抱え込まず話しなさいって」

 俺は言ってしまった事を少し後悔した ”まいったなー" 「それは海斗の事で、そう言う夫婦の問題はヨシ子の方が良いと思いますよ」 「ヨシ子には話せません、出来るんならもう話しています」 何処かにヨシ子に対しライバル心でもあるのかな 「話だけでも聞いて下さい、話せば楽に成るって・・」   俺は疲れて早く帰りたかったが仕方なく 「話だけなら、でも何のアドバイスも出来ませんよ」

 浩子さんは悲しみを堪えるかの様に 「実は、主人が浮気しているの!」 又か!男は如何して?俺も男、分らない訳ではないが、こんなに綺麗で淑やかな良い女性が居るのに!何故?俺には夫婦の事は解らない?

 怒りを抑える様に浩子さんは尚も話続ける 「海斗の事も有って、お互い疲れ切って居たの、主人は会社の中堅で、上から命令され下から愚痴で大変でその上、海斗の事、逃げたくなる、気持ちも判らないでは無いのですが、私に辛く当たるだけで・・他の女の人に逃げるなんて私耐えられません!」 その苦悩の症状が男心を揺さぶる・・

 「そう言われても、貴方が決めることです冷たい様ですが他人には判らない事が沢山ありますから、もっと親とか相談出来ないのですか?」 「親は決まった事しか言わないし」 俺には彼女の言う事が痛いほど解っていた、なんって愚かな質問をしているのだろう、又彼女の言い分だけでは、何も確信に触れないし判断も出来ない

 今度はかなり深刻な様だ 「とにかく、結論を急がず海斗君の事でお互いギスギスして居るのでは?ともかく、もう一度旦那さんと冷静に話会う事です、希望をもってゆっくり考え多くの人の知恵を得る様にて下さい、事情は解かり過ぎる程解って居るのですが本当に何のアドバイスも浮かびません、ご主人の事も知らないし、今日は俺も疲れていますから又相談に乗りますから」 あんなに理解している様な事を言って、なんでその場しのぎ事言ってしまったんだろう 「御免なさい、ゆっくりなさって下さい、昨日は有難う御座いました以前より海斗も元気に明るくなりました」

 浩子さんと別れて帰りの道のりを俺も戸惑い考えながら歩いた、 自分も散々苦しみ誰より理解し解っている俺が、孤独になって行く彼女に助けを求めてられているのに!海斗の事で荒んで行く夫婦の気持ち、口では立派な事言ってもそんなゴタゴタには入りたく無い気持ちと何も助けられない無力の自分と純粋では無い俺の気持ちに嫌悪感さえ覚えた、もっと前からの知り合いであれば?いいや、言い訳に過ぎない!皆と変わらないな!

 其れとは別に俺の心の悪魔が囁き頭を擡げようとしている、心の底で相談される事を期待し願っているのでは、此の心のざわめきは?、日本的で妖艶な魅力で迫ってくる彼女が怖い!だが危険な物に触れてみたい何処かで期待をしてる、俺ってなんって奴だ!..この様な場面で世の男達はどの様にするだろう?と思った、それに生意気に竹田君に久美ちゃんの事を言えた立場で無いな、この胸騒ぎわなんだ。

夕マンション.jpg よほど疲れたのであろう昼食も食べずに、今日は何も考えたく無い!家でコーヒーをドリップするのも面倒だ、缶コーヒーを帰り道の自動販売機で購入、今日は何も考えずに、ゆっくりするか、家に着きほっとした、リビングのソファーで横になり、缶コーヒーを飲み干し、いつの間にか寝てしまった、どの位寝たか?味噌汁の香りで起された、俺に軽いブランケットが掛けてあった 「ウーン、ヨシ子帰っていたの?」 起きようと体を伸ばし 「オーォ!イタタタ!」 「大丈夫?・・良く寝ていたから・・夕食出来たのだけど、起き立て食べられる?」

 「ありがとう大丈夫だよ・・ねーヨシ子ここに座って」 手で俺の座っているソファーを示した、ヨシ子は怪訝そうに俺の横に座りながら 「リュウ、如何したの?」 俺は再び横になりヨシ子の膝に頭を乗せ 「まさか!こんな事起きるなんて、驚ろかせて子供に影響あるかな?」 「それは誰だって驚くわよ、本当無事で良かったわ!・・リュウの子だもの大丈夫よ・・ 如何したの?何か有ったの!リュウらしくない」

R & Y 膝枕1.jpg 俺にも解らない、以前こんな事は一度も無かったのに、これからの俺のレーサーとしての先行きの不安か、車が壊れ乗れなくなったからか?漠然と自分の齢か?、何人のレーサーが色々な事情を持ち夢半ばで消えて行った事か!、米軍基地に通い何と無くアメリカの不況を感じ取りスポンサーへの不安を感じているのか?子供が出来た為か?それに浩子さんへの邪心の打ち消しか?それともあの俺を訪ねた細身の医者のことか? ”いや、ないないそれは無い” と慌てて否定した。

 以前の結婚の苦い思い、美奈子さんの時の二の舞になりたくないから?、それとも俺の動物的本能に漠然と不安を感じ徐々に大きく襲い掛かり無性に不安で寂しくになっていたのだろうか?

 ヨシ子も俺の様子から感じ取ったのだろう、膝の上の俺の頭を子供の様にさすりながら 「如何したの?何処か痛いの?」 「ううん・・ただ少しこうして居たいだけ」 顔をお腹に付けて 「大事な子供が出来たのに、こんな事で心配掛けてしまって」 レースへの不安と子供への戸惑い、漠然とした将来の不安と寂しさが俺をそうさせているのかなと思う。 俺から事故へのショックか何か不安を感じ取ったのかヨシ子は俺の頬に唇をあて 「リュウの気持ち解かっているから・・夕飯食べよう」 本当は過去の事故の度資金繰りに幾度も挫折を味わってきたことか 「もう少しだけこうして居たいよ」

 お腹を擦りながら 「少しだけよ、ここのリュウの赤ちゃんがお腹空いたって言っていますよ」 暫らくそのままヨシ子は優しく俺の頭を擦っていたが 「さぁー、もう良いでしょ食べましょう」 お腹の子とは云わずにリュウの赤ちゃんか!貴方の子供がここにいるのよ ”確りしなさい!” と云われている様で心に突き刺さる 「うん、そうしよう」 ヨシ子は俺の頭が落ちないように膝をずらし立ち上がり、ダイニングに移った 「味噌汁冷めちゃった暖め直すわ、テーブルに座って」

 「さぁー食べましょう、リュウ!いったい如何したの!車の事?それともお腹の子供のこと?」 「その事では無いよ、何となくチョッと、もう大丈夫だよ」 鋭いな、初めはレースに影響すると思ったが、考えてみればそれは違うだろう 「それなら良いけれど、何でも言って下さいね」 「子供の事では無いよ、俺達が感動して愛し合って出来た子だよ、嬉しいに決まっているでしょう、ただ実感が湧かないだけ、将来への別の訳の解からない不安かな」 しばらく二人の無言が続き、

 知らず知らず子供の責任を押し付けている事に気付いたのだろう話題を変えヨシ子は重い雰囲気を打ち消すように話始めた 「 ねー海斗君以前より気持ち元気に成った見いね、もうレースの話に夢中よ」 「うん気持ちから体も元気になるって言うけど、そうなる事願うよ」 「ええそれと、生きる希望が生まれ良かったわ、それにより身体が反応すれば良いと思い、どんな事でもしても・・・」 ヨシ子は何か言いかけて、言葉を詰まらせ思い直したように 「時々海斗君に会って下さいね」

 「もちろん、其れより此れは浩子さんにヨシ子に内緒にして云われたんだけれど・・・」 ヨシ子は如何したの?という表情で俺に問いかける 「浩子さんの夫が浮気しているって、如何してヨシ子に相談しないの?」 「本当に?・・初耳だわ!私にも解らない、どうして私に相談しないのかしら?・・」 ヨシ子は考え込むように 「何か有るのかしら?解らないわ」 「俺に夫婦の問題聞かれたって・・俺自身散々迷走してヨシ子に救はれた、そうでしょう俺に解るわけがないよ、それに海斗君の問題これ世間で思うよりもっと深刻なことだよ、国が何とかしなければいけない事だよ」

 「そうねー、私たち病院も県や国に働き掛け努力しているの、まだまだ移植と云う問題は人権とか色々の不信につながる問題なのよ、其れと若い人の臓器中々無いの、とにかく浩子とは親友で中学から大学まで一緒だったの海斗君の事も有るしリュウの説得凄く適切で感心したよ、だけどあんなにも夢中になり心配しているリュウを見て少し浩子さんにジェラシー感じたな!」 俺は別に悪い事もしていないのに内心ドッキとする思いだった 「・・・」 ヨシ子は慌てて今の話を打ち消すように少し声を高めきっぱりと 「でも・・浩子の悩み聞いてあげてね」

 俺は子供が嘘を見抜かれた様に何故か慌て早口で 「ヨシ子の気持ちも考えずに ごめん!、俺 今云った様に 何もアドバイス出来ないよ」 本当は浩子に会うのが楽しくも恐くもあったがあの妖艶さ危険な物程近ずきたくなる、不謹慎は解っているが惹かれてしまう複雑な気持ちだ!こうやって俺も含め世の男性達は浮気に走るのか?

 ・・ヨシ子、俺の心の動きを感じたのか驚いた様に 「リュウも浮気するの?」 「なんで! そう思うの?」 ヨシ子は気まずそうに黙って顔を横に静かに振って 「・・・ううん、 何でもない ごめん!」 「・・・」 「リュウは そんな事ないよね!」 なんでわかるのかなー女って怖い!

 ヨシ子は自身の複雑な気持ちを慌てて打ち消すように 「それより浩子、誰かに話す事で気が楽になる事も有るからお願いね」 こんなに友の為に尽くしているヨシ子を絶対に裏切れない、こんなに信頼され安らぎを与えられているのに・・と自分に言い聞かせていた

 俺は話題を変え 「うん良いけど何も出来ないよ、それと海斗の処に来た看護師さん俺にヨシ子の事はっきり聞こえ無かったが ”ズルイ” とかって余り聞こえなかったけれど、何か有ったの?」

 「あーぁ あれね! 以前 美奈子さんの入院中、あの時 美奈子さんの夫がリュウだって確認取れたのね、それで私も今日 言われたの・・ 以前あの看護師さんリュウの事気に入って誘って見ようかなって他の看護師さんと冗談で話しているのを聞いたのよ、・・・あの時はリュウは美奈子さんと結婚していたし 弟みたいで守ってあげたかったから、 それに病院の立場もあるから冗談でも良くないわと注意した事が有るの、・・それで」

 「・・看護師さん納得いったの?」 あの時俺はレースの事が全てであった為 「もっとも、どんな女性に誘われてもあの頃はレースの事で いっぱいで 断っていたと思うよ」 「一様、説明したけど第一そんな問題ではないでしょう! あの時と今では状況がちがいますし 別に私 悪いことした訳も無いし・・」 「・・・」 「あの看護師は優しくて真っ直ぐで良い子よ、でも今回の事は見当違い彼女自身解っていると思うの、その内修まると思いますよ」

 ヨシ子はため息をつき 改めて俺を見詰め 「それより リュウ! いくら甘えても良いからレースの事なら続けて良いのよ、そんなリュウを見る方がよほど辛いのよ!」

 「うん、今日は疲れていたから弱気になったのかなーぁ、それと次のオートポリスでのレース多分マシーン(車)修理出来ないから間に合わないと思うよ、次はエントリー出来ないよ、後は9月26.27日スポーツランド・スゴウまで無いからね」

 とは言った物の、何故か何処かで予感と云うかこのままで良いのか?弱小チームの悲しさ予備のマシーンが持てない、頭の片隅で漠然と、しかし何か不安と共に確実に俺の心が動き始めたことを感じていた。

 「リュウ、スゴウで今年のレース終りでしょう、今年のレーススケジュールが全部終わった後私達の結婚式考えていたの、それから式場など決めましょうよ」 「10月頃だね、お腹大きくならない?目立たないかなぁー」 「人に依って違うけれど大丈夫と思うよ、確かその頃の犬の日に腹帯する頃かな」 「俺、子供の事何も解からないから、それとお父さんになれるかな?不安でごちゃごちゃだよ!」

 「初めてだもの、私だって誰もがそうよ・・お父さん!頼りにしていますよ!」 ヨシ子は俺を元気づける様に明るく振舞った 「お父さんの若葉マークの講習会は無いの?」 「フゥフゥ、車の初心者運転じゃあ無いのよ、判らないわ?、多分妊婦のお母さん達に説明が有るからその時一緒に聞いたら良いのかも、調べてみますね」 「妊婦に交じり俺一人なの?そんなの恥ずかしいよ」 「それもそうね」。

      《オートポリス (不参加)》round 7 (08/30) No entry 

 次の日から基地ベースに出勤何事も無く通常業務についていた、お昼近くにレーシングチームの久美ちゃんから電話が有り  「龍崎さんですか、先日は有難う御座いました、御かげでとても楽しかったです・・」 「そう、楽しかったの?良かったね」 「はい!あのうー監督が話したい事が有るそうですから監督に変わりますから」 監督に代わり、何時もの監督と違って語りかける様に 「リュウ?車の件だが、なんとか保険会社に掛け合い全額負担出来るようになったよ、竹田君が何回も足を運び話を付けって了解を得て来たよ・・ただ今回チャーシ(車体モノコック)が如何しても間にあわずAuto Polis のみエントリーキャンセルしたから・・其のつもりで」 「判っていました色々大変な事ありがとう御座いました、竹田君にも宜しく伝えて下さい」

 思った通りだ他のチームなら予備のマシーン(車)が有るのに!仕方ないよな、尚監督から 「スポンサーにはチームとして私から各社に出場出来ない旨、お詫びと報告して了解を得ているから、それにリュウが受けた前の奥さんのアルミの会社、社長に直接了解を得たから心配ないよ、それよりリュウの心配をしていたぞ!」 俺に採ってはそれが心の負担になる だが監督に言える由もない 「有難う御座います、あそこは俺からもこの後報告しておきます」 「そうだな宜しく伝えてくれ」

 次は今年最終の Sportland Sugo(スポーツランド・菅生) 9月26,27日で今年のレースは終わる、引き続き美奈子の親の会社に報告を入れた、社長は出かけていて、秘書に俺の体調の事も含めレースでの事を詳しく報告し、社長に宜しく伝えて下さいとお願いした。

 その夕、普通なら会社と言うだろうが、基地内からでは会社でもないし、仕事場よりとでも言うより無いだろう、いずれにしても、仕事から戻り 夕食の支度だろう肉ジャガの匂いが漂っているキッチンで忙しそうにしているヨシ子に 「今日チーム監督から連絡があり、やはり次のレースは車が間に合わずキャンセルだって、少しのんびり出来るよ、週末俺達のチームのレーシングスクール錦糸町の事務所に寄り、後 銀座かお台場に行こうか?」

 「はい、リュウ コーヒー入ったわよ・・そうね、今の内でないと中々行けなくなるからいいわよ」 「じゃぁそうするね、俺最新のデジタルカメラとレンズ購入したいんだ秋葉原で見ても良い?」 「本当はそれが目的でしょう? ええ、いいわよ楽しみましょうよ、私も事務所見たいから」 「うん」 「今夕食の支度で忙しいから、お風呂に入ったら?」 「うん、そうするよ」 

 こんな会話が当たり前に過ごして居る人には、この幸せを感じているのかわからないが? 俺は一日の終わりに、奥さんが料理をして互いを労り静かに話し合え、俺には凄く平和で穏やかで、こんなほんわかした日々を迎えた事が不思議に思えた、風呂場に向かいながら、思わず現実か?両手で頬を軽く平手打ちし確かめた 「イタィッ!」 このあたりまえに過ごす事が何って幸せの事だろうと心に沁みるほど初めて感じた! 「リュウ如何したの?」 「何でもないよ!・・お腹すいた!」 本当に大事にしなくては。

   《JRAスクール事務所》

 次の土曜日に、ヨシ子と二人、東京錦糸町のレーシングスクール事務所を尋ねた、この小説の冒頭に書き記した様な、会話を事務所にて行い、その後お昼も近所のレストランに俺とヨシ子も含め9人ほど事務所.jpgでテーブルを囲んだ、其々、好きなメニュウをオーダーして、やはりレーシングカーの新しい技術やエンジン関係・カーボン素材の進歩等に暫らく話が弾み、

 一段落した処を見計らうようにヨシ子は、忙しい最中 海斗君に対して皆さんに優しく接して頂いた事、生きる勇気を与えてくれた事、それに俺の事故へのお詫びと皆さんの心使い等お礼を述べた、また暫らく座談が続いた後、ヨシ子は 突飛な事を幸ちゃんに尋ねた 「孝ちゃん、女装とかはしないんですか?」 俺は慌て幸ちゃんを庇う気持ちで 「そんな事どうでもいいでしょう!」

 ヨシ子は平然と 「リュウ、疑問を持ちながら影で勝手な想像する事の方が、よほど失礼よ」 俺はやはり、こんな処は先生だと思った、 孝ちゃん笑い顔を作り 「いえ、良いんです変に気を使われるよりよほど良いですよ・・・どれが本当の私か?私も悩みました!、女性ホルモンを与へたりでも今は自然のままで良いと思ったの、此れが自分だって・・」

 ヨシ子は頷き レーシングスクール-5.jpg「孝ちゃん、今まで沢山悩んだのね、私素晴らしい考えだと思いますよ、自然に与へられたままに孝ちゃんでなければ出来ない事も沢山有ると思いますよ、無理に自分を変えても苦痛が伴うだけです、決して良い結果は得られませんよ・・リュウも話していましたが孝ちゃんはメカニックとして素晴らしい技術と勘があるってとても褒めていましたよ」

 監督も同調して 「そうだよ、スクール用の練習マシーン(車)も全部整備しているし、生徒達に女性にしか判らない様な指摘などユーモアを持って指導をしてくれるから助かっているんですよ」 尚もヨシ子はその場の全員をゆっくり見渡し、落ち着いた口調で 「リュウも言っていましたが、このチームの人達は本音で話しあってとても好きだって、私も監督はじめ皆さん素晴しいチームだと思っています」

 それに何時もと違って、その場を仕切るヨシ子に威圧と感じ迫力さえ感じた、やはり沢山の優秀な人たちと対等に意見を述べているのだなと改めて思った、尚もヨシ子は話を続けた 「それと、竹田君と久美ちゃんもう解かっていると思いますが、本当に安らぎを覚え、心休まる人を見失わない様にする事ですよ!、色々な人や物事を知ることはとても良い事と思いますが、一時の感情で大事なものを失う事になってしまってからでは遅いのですよ」

 竹ちゃんは突然自分に話題を振られ当惑しながら 「ええ、良く解りました、失いかけて初めて気付きました、久美子は余り身近すぎて、反って解らなくなってしまって・・・」 「これから2人、如何しなさいと云う事では無いのよ、ただ一時の感情で物事を決めないようにする事ね」

 やはり先生だ何時の間に主導権を取っている、久美ちゃんは見方が出来た思いだろう急に明るくなり 「時々ヨシ子先生のレーシングスクール-10.jpg処に伺って良いですか?」 ヨシ子は俺の顔を伺う様に 「休みの時には何時でも良いわよ、ねーリュウ?」 急に俺れに振ってきた、俺は相鎚を打つ様に 「ヨシ子さえ良ければ構わないけど」

 ヨシ子は俺の返事に少し迷惑しているだろうが澄まし顔で 「良いそうよ、何時でもどうぞ」 「はい、その時はお願いします」

 孝ちゃんは相変わらず俺の味方で 「リュウが来てから、もっと纏って来たと思うよリュウはハッキリ言ってくれるから」 俺は照れ隠しに 「みんな、監督の優しい気使いが有るからだよ、監督の仁徳だね!」 と話を振った

 ヨシ子はまだ個々にチームの主だった人に気を使い今度は井原君に話を向けた 「井原さんとは余り話し会った事有りませんが、監督が一番信頼して頼りにしているようですよ・・それにリュウも井原君にマシーンを任して置けば大丈夫と絶対的信頼を寄せていますよ」 俺もヨシ子の援護に 「井原君の人柄と思うよ、技術も素晴らしく本当に頼りにしているんだ」 井原君は照れ顔でやめて下さいよと言う様に手の手のひらを横に振った ヨシ子は改まり 「今までレース等ではお会いしましたが、正式に挨拶は未だでしたので、チームの皆さん これからもリュウや私しを宜しくお願い致します、

レーシングスクール-25.jpg 挨拶が遅れて今になってしまって・・リュウ共々宜しくお願い致します」 と立ち上がり頭を深々と下げた、

又席に着きヨシ子 「ところで監督さん、これはリュウの事故の事で思ったのですがスクールの練習も兼ね、心臓機能停止時の為にAED(自動対外式除細動器)の設置をお願いしたいのですが、どうでしょうか?」

 やはりヨシ子は凄い主導権を取っている病院でもそうなのか?別の面を初めて知った思いである、監督も感心した様に 「いやぁ、こちらこそ、早速手配しておきます、何か起きてからでは遅いですから、やはり良い所に気が付きますね」

 もう一人、新しくチームに加わったと思う人を手で示し 「森田君こちらに」 呼び寄せ 「森田俊夫君です、スクールの優秀な卒業生ですが、今度私の助手にドライブ、インストラクターとして加わりました」 俺は冗談混じりに 「おぉーライバル出現、恐わ!・・宜しくね」 森田君は真面目な顔で 「龍崎さんには全然追いつきません、まだまだですよ!、宜しくお願いします」

 俺は感じたままに 「監督、チームもスクールも少しずつ形が出来て来ましたね」 監督嬉しそうに 「竹田君が、頑張ってスポンサー集めに紛争してくれて、運営も機動に乗り始めて来ているよ、リュウの云う通りスクールの宣伝インターネットに乗せる事にしたよ」 「そうですか、此れからは効果が有ると思いますよ」 監督ちょっと不安そうに 「・・だとよいが」 監督との話も済んだので 「今日は俺達寄る所が有りますから、そろそろ失礼させて頂きます」 と挨拶を交わしヨシ子とレストランを出た。

 スクールの皆と別れ何か次のレースに出られず落ち込んでいる俺の様子を感じたのだろう、事務所でのヨシ子は少しでも俺の役にたちたいと考えたのでしょう、子供の事や私の事は気にしなくて良いのよと事務所でのアッピール、だから悩まず続けなさいと間接的に俺に訴えて居ることが俺には手に取る様に解り、愛おしく感じた事は事実だが、このチームでの不安は消えなかった。

 ヨシ子の気持ちが解っていたが 「事務所では有難う!心配掛けて俺なら大丈夫だよ、レースに追われずに丁度身体休めにいいよ」 「リュウ、私の勉強の為もあったの、気にしなくていいわよ、それよりカメラ見たいんでしょう秋葉原に行きましょう」。

 秋葉の電気店をしばらく観て歩いたが、余り購買意欲の有る物が無く 「帰ろうか?」 「本当にいいの?」 「うん」 「あのカメラ、子供みたいにじっと見ていたから買ってもいいのよ」  ヨシ子は優しく微笑んで俺を促した 「いいよ!只電気物や機械物の新機構を見るのが好きだから、でも、もういいや帰ろう!」 「ええ本当に良いの?私も家でゆっくりした方がいいから帰りましょう」 「じゃぁ帰ろう」。

 帰りの車の中でヨシ子疲れた様に  「私、家で静かにリュウと二人だけで明日の日曜も過ごしたいの、良いでしょう?」 「うんそうだね」 「真っ直ぐ帰りましょう、リュウの好きなステーキ焼いてあげますから、良いでしょう」 「良いけどこれから料理疲れない?お腹の子供に余り負担掛けてはいけないから」 「心配しなくても焼くだけだから大丈夫よ、誰にも邪魔されなく何も考えずにリュウの側にいたいの」 何か普段のヨシ子と少し違うなと思ったが 「本当に?嬉しいな!俺も同じだよ、じゃーぁ真っ直ぐ帰ろう」

スクールからの後1.jpg 車の中ではヨシ子も疲れた様に言葉少なく家に着いた 「あ~ぁ、此処が一番ほっとするよ」 ヨシ子急に抱きついて来て 「リュウ、大好きよ!」 突然のことに戸惑いながらも 「如何したの?急に!、十分解かっているよ!俺も愛しているよ」

 今度は急に後を向いて、今までの全ての不満を吐き出すように悲しげな声であらぬ方向にぶっつける様に 「解かっているわ!解かっているけど、リュウは皆に優し過ぎるのよ!浩子だって、久美子さんも、レースクイーンだって皆、リュウが目的よ!それにベースに行った時もパトリシアさんのリュウを見る目が・・」 

 俺はヨシ子の急変に驚き 「ヨシ子今日は、どうかしているよ!」 ヨシ子は聞き入れる様子も無く、それより自分の力ではどうにもならない事が起こり、俺の力に成れない事に苛立ちと悲しみが重なり、苛立ちが爆発したようだ!

 尚もキツイ声で 「一番許せない事は前の奥さんの美奈子さんの事!何時もリュウの心の中にいるのよ!時々寂しそうな顔をして美奈子さんの事を考えているんでしょう!だから浩子に説明した時も真に迫っていて浩子は解って頂ける人がいるのだと心が動くのよ!・・それにスポンサー・・なんでもないの・・、私の力ではどう逆立ちしてもレーシング・カーなんって用意出来ないし如何にもならない事解かっていても!・・私悲しかったの」

 こんな悲しげで怒りを堪えたヨシ子を見たのは初めてだ、女の人の感の鋭さに驚かされ何時も賢く賢明なのに、お腹の子供のせいでバランスが崩れたのかな?涙まで流して・・

  俺はどの様に扱ってよいか判らず、ただ俺は弁明に懸命だった 「ヨシ子!浩子さんに話た時だってヨシ子が心配して力になって云ったからでしょう、俺は協力しているだけだよ、それと俺が幸せを感じれば感じるほど・・其の通りだよ!美奈子の事が・・でも今の俺にはヨシ子しか いないよ!ヨシ子が一番知っているくせに!」 「やっぱり、そうだったのね!浩子の事はいいの・・・でもリュウは今でも・・美奈子さんの事頭では解かっているのよ!でも何故か寂しいの!私、間違っている?」 と問われても!俺には・・・

 ヨシ子がそんなになるなんて、以外過ぎて腹も立たず、反って愛おしくなり確り抱きしめた俺はただ 「ごめん」 だけの言葉だけ見つからず繰り返した 「ごめんね」 しばらくして落ち着き 「俺がどんなにヨシ子に救われたか、人に優しく出来る様になったのもヨシ子の御陰だよ、愛する事の素晴らしさをヨシ子が教えてくれたんだよ!」 とやっと説明した

 「うん、本当に頭では判っていたんだけど・・私、リュウを縛りつけてしまい!いやな女になってしまいそう」 きっと俺の事故、ヨシ子が一番心配していたのにも関わらず、浩子さんを気ずかった事と、美奈子?まさかスポンサーの件?そんなはずは無いと思うが俺の心の中に未だに美奈子がいる事が許せなく悲しくなったのか 「もう、分ったから!ごめん・・大丈夫?じゃないよね!」・・「俺の方が、今こんなに幸せで、愛しているのに・・」  続く後の言葉を飲み込んだ・・

 本当はヨシ子を失ったら多分狂ってしまうのに、甘え過ぎたのか!こんなに可愛いヨシ子を見た事がない、ヨシ子だってそうだよ、俺だって言いたい位だよ、病院での男の先生の見る目、男の患者、友達、俺だって感じているよ・・でも、違うな、俺はかえって、優越感を覚えるのに、男と女は違うのかな?・・後々ヨシ子が本当に悲しく思った、理由が解る事になる・・俺の心の中で目ま苦しく駆け巡っていたが、言葉にするものが浮かばなかった、只々抱きしめる事しか出来なかった。

 暫く泣いてスッキリしたのだろうか? サーロインステーキ.jpg「ごめんね、私、嫌な女に見えたでしょう?・・お腹すいた?、今焼くから自分でコーヒー入れてね」 俺は気分を変え様と 「あんなヨシ子を初めて見て、チョッとビックリしたけど、可愛いなって!思ったよ」 「・・・私は女よ・・リュウ解っていない・・」 なんって答えて良いか解らず 「・・・」 ヨシ子は気付いた様に 「ステーキ!リュウはミディアムレアーだったね」 「俺、生粋の肉食系だから一緒にヨシ子の美味しいお尻、レアーで襲っちゃうよ!」

 ヨシ子も俺の冗談が解ったのだろう 「本当?嬉しいわ!今襲ってよ」 俺のジョークに乗ってくれた 「そのお腹で大丈夫なの?」 真面目に質問した俺にヨシ子は答え 「人によって違うけど、優しく優しくしてくれたら?・・でも今は大事にしょうね・・リュウ、リュウは我慢しなくて良いのよ、何時でも言ってね」

 何か俺の事を全て見通しされている様で恥ずかしさの為ふてくされた返事をした 「解っているよ・・ ”求めよ、さらば開かれん” だよね」 本当はマタイ伝7章の ”求めよさらば与えられん” だが、どんなジョークを返しても俺の気持ちが解っているのだろう

  「バカ!リュウたっら!・・でも本当にそうしてね・・お願いよ、私だってそうするから」 俺の言った意味が解っているから軽く怒って見せ優しくサラリと言ってくれた、やはり先生だ男の生理も知っている一度も先生としてのプライドや鼻に掛けた事はなく優しさに満ちていて嬉しく思った。

 俺は気分を変えるためステレオのCDを変えに席を立ち ショパンのノクターン20番(遺作)を静かに繰り返し流した

 「リュウ、私も好きな曲の一つよ」 「だと思った」 「ねーリュウはブレッドより御飯の方が良いでしょう、それとサラダ、コースローにフライドポテトにシメジのバター炒めとマッシュポテト此れは私が好きなの、スープ作って無いから代わりに味噌汁、和洋折中で良いでしょう」 本当にヨシ子は最近益々料理も手早く味も美味しくなった、

 静かに曲を聞きながら俺は 「このお肉美味しいね、ヨシ子の涙で少しショパイかな? 俺達、何か問題が有ったら直ぐその時話合おうよ、後からお互い愚図々するのが嫌いだから」 ・・ヨシ子は言ってしまったら、サッパリしたのか・・ 「ええ、そうしましょう」

 暫らく曲に耳を傾けていたヨシ子は思いついた様に 「リュウ!明日ゆっくり海の公園を散歩しましょうよ、お昼のお弁当は私も手伝いますから、リュウの美味しいクラブサンド作って、ねーいいでしょう」 「いいよ、それにカスクルートも作ろう」 「カスクルートってなに?」 「フランスパンのバケットを立てに二つに割ってハムやチーズ等はさむサンドイッチだよ」 「うん、それも作って!」。

 海の公園ウインドサーフィン.jpg次の日の日曜日朝9時過ぎまで久しぶりに寝坊をし慌てて二人してランチのクラブサンドやカスクルートを楽しく作り 出かけた、

 海の公園で青く晴れ上がった空と微かに見える八景島のジェットコースターの骨組が見える、 互いの手を取りゆったり眺めながら砂浜を散歩する、 静かな細波(さざなみ)の上にはウインドサーフィンの講習会でも有ったのか沢山練習している人達がいる。

 ヨシ子は俺の手を引き寄せ互いの体を密着させ 「リュウ、昨日はリュウに当たってごめんね、余り私の仕事の事で迷惑かけたくなかったから病院での出来事耳に入れないようにしましたが、医師の立場で話せない事もあって、・・海斗君の事である先生達から公平ではないと非難されたり、むしゃくしゃしていたの!其の外の事もね、其れとスクールの事務所でね・・まあ、其れは良いけれど・・そんな時、リュウは無神経に前の奥さんの事、浩子に話してだから・・」

海の公園.jpg 「悪かったよ、ヨシ子の気持ちも考えずに、ごめん!、此れから気を付けるよ」 気持ちの上で何かヨシ子の助けにならなければと思い 「俺はね、医者の事や医療の事は何も解らないが、医者や患者や患者の家族の中にはやきもちを持つ人がいることも判るよ、だからと云って、何も特別扱いする訳でも無く出来る事を手助けして上げられるのに変な理由を付け何もせず助け無かったり何も遣らない事の方がもっと悪いよ、・・

 ・・医者でしょう少しでも助けられる望みが有るなら、出来る事を一人でも少しずつやってあげれば其れで良いと思うよ、ヨシ子の立場は解るが公平を保つ為に何もしないの?その人その人に合う事を遣れば良いと思うよ、自分の信念をもって治療に当れば良いじゃない俺はそう思うよ、ヨシ子は何も間違っていないよ、負けるなよ!何の為に医師としているの?何時ものヨシ子は何処に行ったの?」

 「本当にそう思って下さる?」 「当たり前だよ、自信を持ってよ、そんな基本的な事を忘れ’事無かれ’の偏見野郎、俺がグウの根も云わせないよ、行って説明しようか?」 あの時の白衣姿の先生が思い浮かぶが、顔は何故か余りハッキリ思い出せないが、何故かあいつだな!と思った 「大丈夫よ私がちゃんと説明するから、心配してくれてありがとう又リュウに教えられたね」 もしかして俺の直感当たっているのかな?そんな事どうでも良いけど、これ以上何か有れば俺が絶対許さない!と思ったR_yoshiko-2.jpg

 「俺に本当の意味での安らぎを教えてくれて本当に幸せだよ、いつもの自信持ってよ」 子供のせいで、少し情緒不安定な処有るのかな?

 ヨシ子は俺を縋る様に見詰め 「ねー、リュウこのまま時間が止まれば良いのにね、私何か意味もなく不安なの、恐い位こんなに幸せなのに・・リュウ大好きなの!愛しているわ・・何んでか涙が出てきちゃう変よね」

 俺はヨシ子の腰に手を回し引き寄せ歩いた、きっと年上の彼女が初めて責任も何もかも、捨て去り初めて俺に本当にぶっつかり甘える事が出来たのではないか、初めてヨシ子の力になれた気持ちがして俺は心から嬉しかった

R&Ybeach-sands.jpg 「ほら見てごらん、太陽も波もキラキラしてサファー達皆も楽しそうに笑っているよ・・お腹の赤ちゃんもお母さんの事心配しているよ」 「ええ、本当変よね?」 俺は話を変え 「俺のお母さんの家の近くに教会が有るけど、結婚式の事聞いてみようか?、それとも和式?」 「まだ決まってないのよ、リュウはどっちら?」 「此れこそヨシ子が決めてよ、着る物も有るから俺はどっちでも良いよ、俺には神様は一つだよ、山の神、ヨシ子様・・本当にどっちでも良いから」

 「私そんなに強くないし恐くないよ!」 「ごめん」 「ねーヨシ子、可愛いでしょう?」 その顔は普段、確り意見を言う顔ではなく、無邪気な子供のような笑顔を見せ俺の手を引き同意を求めた 「最高に可愛いよ」 「嬉しい!式の事リュウのお母さんの意見も聞いてから決めます」。

 それ以来ヨシ子の気持ちの乱れもなく以前以上優しくなった様な気がした、暖かく和やかな日々が続き・・・、

 お母さんと式場を決めに、何故か母とても気が合う様だ、電話で相談したり二人で出かけたり、母の知り合いの外人墓地の近くの山手エレン教会に決めた様で、本当に親しい身内と友人で静かに行いたいわ、とヨシ子の希望、後は港の見える丘公園近くのホテルでささやかな披露宴を行う様に、俺の母と進めている様子、全てヨシ子に委ねている。

 話は変わるが、車のダメージで次のレースの欠場を知りチーム事情が解かったのでしょう、他のチームから来年移籍のお誘いが2,3有ったが丁重にお断りした。 暫らくは新車(レース・カー)の調整で忙しく今年最後のレース、スポーツ・ランドSUGOの日が近ずき、新しいマシーン(レース・カー)も到着し富士に2回ほど調整とドライブの感触を確かめに出かけた、多分前のマシーンは以前何らかの原因でモノコック・チャーシ(車体)全体にダメージが有り、調整出来なかったのかも又リヤダンパーの新しい規定変更もあり、又エンジンは以前より立ち上がり回転やバランスも良くなり大分ドライブしやすくなっていた、後はチームが運送会社にお願いしSUGOのサーキットまで運ぶ手はずだけだ。

 その後ヨシ子からも海斗に会いに行ってと度々要請が有り浩子さんの事もあり少し躊躇したが、子供には関係ない、とにかく俺の話を聞き漏らすまいとあのキラキラ輝く目でつぎから次えと質問してくる・・大好きだ!、ベースでの勤務の帰りに海斗を尋ねる事にした。

 海斗の病室のドワー開け 「やー、海斗久しぶり!」  ちょうど夕食が終わった処、海斗に飲ませる薬の確認に先日の看護婦が来ていた、海斗嬉しそうに 「リュウ来てくれたの、全然来てくれなかったから心配したよ、ヨシコ先生に聞いてもリュウは今は新しいレーシーング・カーの調整で忙しいからって」 心なしか海斗は痩せた様に思えた 「そうか、俺も海斗如何しているかなって何時も思っていたよ」 看護師に向きを変え 「看護婦さん、少し屋上まで連れて行って良いですか?」 今は日も長く午後5時頃だというのに、まだ外は明るかった 看護師さん穏やかに答えた 「ええ、少しなら構いませんが」 「海斗、看護婦さんが良いってよ、行くか?」 また、つい看護師さんを看護婦と呼んでしまった

 「はい、行きたい!」 看護師さんが用意した車椅子に海斗は目もくれず、俺に向かって両手を出してきた 「リュウ、抱いてよ、ねー」 意外な言葉に驚いたが、余りにも要求するので、海斗を抱き上げた、思ったより軽い、俺の首に手を回し顔を胸に押し付けてきた 「如何したの?海斗!赤ちゃんみたいだぞ」

  今度は海斗が右肩にの顔を寄せて 「だって、全然来てくれないから海斗の事嫌いになったと思って!」 如何したのだろう海斗らしくない 「ばかだな、嫌いになる訳無いだろう、如何してそんな事言うの?」 看護師さんが、顔を横に振り目配せして、俺を制止した、何か有ったのか? 「よし、このまま屋上に行くか、海斗!」 頭を2回ほど俺の肩に押し付け微かに 「うん」  と合図した、看護師さんも他の若い女性の看護師さんにその旨を伝え、俺と車椅子を押して屋上に付いて来てくれた

 俺は海斗と海の公園の海を眺めながら 「海斗、ピッカピカ新しいマシーンが来たんだぞ!それで走って見て凄く調子が良いんだ!」 海斗 「ほんと!今度は一番に成れるよね!」 「だと良いが、やって見ないと分からないよ」 「なれるよ!リュウならきっと一番だよ、ねー看護師さん、リュウは一番早いんだよ」 看護師俺の顔見て 「そうなの、龍崎さんはそんなに早いんですか?」

 俺はテレながら  「アハハハ!バカですから、車で走ることしか出来ないので」 海斗、急に怒った顔で看護師さん見て 「そんな事ないよ、コンピューターで走り方とかメカニックに色々教えたり凄いんだ!」 看護師は訴える様な眼差しで俺を見て 「だって、ヨシコ先生が好きになった人でしょう、私以前から・」 俺は何か聞いてはならないと感が働きそれ以上喋らない様に遮る 「ヨシコ先生も今では俺のバカさかげんに呆れているよ」 今度は海斗に目を遣り 「それより海斗もっと元気になり先生の許可が下りたら俺と八景島の水族館に行こうよ!」 海斗は目を輝かせ 「ええ!ほんとう?連れて行ってくれるの、リュウ約束だよ!」

 ヨシ子が勤務も終わり屋上にやって来た、看護婦さんに向かって有難うと伝え後は私が診ますから、看護婦は頭を下げ海斗に手を振り立ち去った、

 海斗は嬉しそうに 「ヨシ子先生リュウが八景島に連れて行ってくれるって!」 ヨシ子は海斗に念を押す様に 「そうなの良かったわね、早く元気に成らなくては・・ね!」  海斗は真剣な眼差しで 「リュウも、そう云っていたよ約束だから!」 ヨシ子は嬉しそうに海斗の話を聞き俺に顔を向け 「リュウ有難う来てくれて、一緒に帰りましょう!」 海斗はヨシ子を睨むように 「だめだよ!リュウはまだ僕といるの」

 ヨシ子も海斗の異常に気が付いたようで 「いいわ私、先生 先に帰るから」 俺は頷くように頭を振りヨシ子に向かって 「さっきの看護婦に事情聞いてよ」 其れだけで全て理解した様だ、ヨシ子も頷き 「判ったわ、後で車椅子置いていきますから、頼むわね

 「海斗、重くなったよ!リュウの大事なハンドル握る手が痛んだら困るから、下ろしても良い?」 「うん降りる、でもまだ側にいてね」 車椅子に海斗を座らせ 「海斗如何したの?リュウも約束守るから話してくれるかな」 「うん..お母さんが、お父さんもう海斗に会いに来ないって..」 「なんで、お母さんはそんな事云うの?」 「お母さんがもうお父さんと一緒に住めないからだって」 俺は浩子さんに対し少し怒りを覚えた何の為に海斗に話したのか! 「でもね、一緒でなくてもお父さんは海斗のお父さんなの、きっと来てくれるよ」 「でもぅー、今は来てくれないの」

 こんなに小さい良い子が、こんな大変な手練を抱え何故?人の運命とは神とは何だろう!人々は皆公平だと綺麗事を言う生まれた時から差別あるのに、俺は言葉に詰まり 「今は、きっとお父さん忙しいだよ、お父さんも疲れて休みたいんだよ、きっと元気になり可愛い海斗に会いに来てくれると思うよ、だから海斗も先生や看護婦さんの言う事を聞き、一生懸命頑張って元気になってお父さんを助けてあげなければね」

 海斗は小さく頷き 「パパ疲れているんだ?」 「そうだよ、リュウだって事故して休んでいたんだから、海斗もリュウもお父さんも皆休んで又元気になるんだよ」

 何だか、俺はとっさで訳の分からない説明をしてしまったが、少しは納得しているのかな? 同時に海斗さえ元気であれば、と思うと両親の苦しみを今更ながら感じていた 「さー、部屋に戻ろうか?」 「リュウ、又椅子押して走ろうよ」 「今日は駄目だな!又ヨシ子先生に叱られるから」 「リュウ、ゴメン叩かれて痛かった?」

 あの時の事憶えていたのだ 「海斗が謝る事ないよ・・そうだよ!凄く痛かったよ思い出しただけでも、おぉー痛タタタ、ヨシ子先生強いから」 俺は自分の頬を擦りながら顔をしかめて見せ その手で海斗の頬をなぜた これが子供の肌なんだ!なんて柔らかく弾力があり 少し感動さえ覚えた 海斗は俺の表情が面白かったのだろ 「ハハハ、リュウも痛いんだ」 俺は海斗の唇を指で押さえ 「海斗、内緒だよ」 海斗は唇を結んだまま 「うん」 と笑顔で答えてくれた。

 海斗は少し元気を取り戻し俺と病室に戻った、まだヨシ子は看護師と話しているらしく見当たらなかった、しばらく海斗と車の話しをしながら待ち、暫くしてヨシコが戻り帰る事にした、海斗はまだ俺に居て欲しい様だったがレース前にもう一度尋ねる事を約束して家路に着いた。

 ヨシ子は夕食の支度をしながら 「リュウ、看護師に聞いたのですが浩子別れるそうよ、私、腹が立って、もやし炒め.jpg海斗君に何故話たのかしら?明日聞いてみるわ」 俺も初めヨシ子と同じにそう思ったが考えが変わった 「やめた方がいいよ、浩子さんがヨシ子を信頼して話をするまで」 ヨシ子は怪訝そうに 「・・どうして?」 「俺も初めはそう思ったが、もう壊れたものは中々修復出来ないよ、浩子さんは決意したのかも、いずれ海斗に解かる事だよ、何時かは話さなければいけないからでしょう」 「そうよね、リュウの方が大人ね・・さぁーご飯食べましょう、もやし炒めと鳥胸よパフリカで味付けしたの・・どう?リュウの方が美味しく出来るね、この次はリュウの作り方教えてね」 「大丈夫だよ、美味しく出来ているよ、本当に上手くなったね」

鳥胸.jpg 食事をしながら俺は 「以前は直ぐにカーとなったが、ヨシコが教えてくれたから、それと俺、前ほどレースに情熱が無くなったみたい」 ヨシ子は意外な俺の言葉にキョトンして 「リュウ如何したの?私の事なら良いのよ、そう言ったでしょう!」 「そう云う事では無いよ、ここ2,3戦でトップが見えて来て俺の驕りかも知れないが、途端に何か虚しくなり、事故の後あたりから家庭を犠牲にしてまで世界に挑戦しても何年かかるか分らないし」 「だから・・」 「もう来年は29歳だよ!レースの世界では遅いよ、若くて早いドライバーがドンドン出てくるよ、俺、廻り道しちゃったから、それと俺と同期のレーサー達が経済的問題で自分の実力を発揮出来ず夢半ばで何人も消えていった人も沢山知っているし」

 ヨシ子は少し考え込んでいたが 「美奈子さんの事ね、4年半か5年位のブランク?でも決して無駄ではなかったのよ」 「解っているよ!今日つくづく感じたよ、それも自分で選んだ人生、巡り遇わせ此れが運命、自分で運んだ風かも」 「私はリュウに巡り遇ったこと凄く嬉しく幸せに思っていますよ」 「でも・・海斗なんか誰もが望んだ運命ではないのに海斗は背おって生きて行かなければならないと思うと・・」 「それで、此処のところ変だと思ったの・・急にあんなに甘えたり、黙りこんだり!リュウの事解っているつもりだったのに、正直女性の事と思った時期も有ったのよ・・でも何か違うなって、リュウの事を信じる事にしたの・・いやだ! リュウそんな目で見つめないでよ!ごめんなさい信じているんだから!」

 そんな事を考えていたのかと、ヨシ子を見詰めていた、それがヨシ子に通じたのか! 「他の誰がどう思うと、俺にはヨシ子が一番いいよ」 「ごめんなさい、解っているけど・・」 俺も何か自分の将来について霧の中にいる怖さを感じていた 「今日、何かもやもやした物がハッキリしたよ、ヨシコに逢えなかったら、目標を失いぼろぼろに生っていたかも」 ヨシ子はビックリした様に 「リュウ慌てないでね、辞める事は何時でも出来るのよ、あんなに他のチームからお誘いが有ったでしょう、其れだけリュウを認めたからよ、今結論出さなくても後悔はもうしないでね」

 「うん正直、初めは戸惑ったが俺の子供を海斗の様にはしたくないし出来きれば、海斗を引取りたい位だよ」 ヨシ子目を見開いて 「リュウ!子供はおもちゃじゃぁ無いのよ!」 俺だって実際に引き取る事など出来る訳がない 「ひどいな!俺だって其れくらい解っているよ、だから言ったのに!」

 「ごめんね解っているわ、だから安心してこの子生めるの、責任感の強いリュウだから言ったのよ、だからこそ 其れも兼ねて後悔してほしくないの、解るわね」 なんだ、おふくろみたいだ、俺はまだまだ子供か 「俺はただ最近そんな風に考えている事をヨシ子に伝えたかったから」

 「解ったわ、とにかく過酷なスポーツ、あの暑さの中経験や勇気だけではやり直せない年ですから、後から又始め様としても出来ないのよ、G(加速度重力・遠心力横重力等)に絶えて反射神経や長時間の集中力、瞬時の判断力、体力や筋力(内臓を支える筋力等も含む)や目の衰えなど良く考えてね」 ええ!いつの間に、調べたの?、カーレースに必要条件を調べている、やはり先生だ・・

 「何時の間に調べたの?」 ヨシ子は愛しい人を思いやる様に 「大事な旦那さんですからね、当然でしょう、この前の事故で擦過傷、打撲、圧迫、切断、骨折、の緊急処理を勉強し直したの」 「へー驚いたな!、そんなに思ってくれていたんだ!」 「リュウは私が、そんな怖い事辞めなさいと、言いたいのを堪えているのではないか?と思っていたでしょう、それは誰もが思う事よ、其の通り私もそうよ、でもレースをしているリュウを好きになったから応援したいでしよう、するからにはリュウに勝って欲しいわ」 「夕飯美味しかったよ、ご馳走様、さー休んでよ、大切な時だから後と片付けは俺がするから」

 「そりゃぁーレースに出る限り勝つもりだよ勝たなければ意味がないよ、だから負ける為に走る人はいないよ、さっきのヨシ子の説明でたりない物があるよ」 「なぁーに?」 「もう一つ守りたい人が出来た事」 「だから!それは言ったでしょう?」 「いくら言われても俺の気持ちには変わりないよ、心配掛けまいと思う気持ち本当に嬉しいし有難いが、俺の心の中に生まれてしまったんだ、消す事は出来ないでしょう・・これだけは、ヨシ子に知って欲しいのは、前の人は守ってやらなければいけなかったが、今わ守りたい人の違いだよ!」

 「それと、これは重要な事、レース中そんな心配を抱えて走れないよレースが始まれば俺は闘争心の方が当然、勝るよ、決して守りには入れないよ、多分他のレーサーもそうだと思うよ俺は闘争心の塊となって絶対引かない、そんな俺自身が怖いんだ言っている意味解るでしょ?それからチームの誘いは他にもっと若く素晴しいドライバーが出て来ればお払い箱になるって事!そんなに甘い世界では無いよ!それと、不況になれば、真っ先に切られるよ」

 焦れんまで少し荒々しく  「俺はレース辞めたくないよ!何時までもレース続けたいよ!気力と努力と言うけれど、でも何の保障もなく劣れて行ってしまうんだ!・・ヨシ子に当たって駄目だよね」

 俺 「これは以前に経験していやと言う位苦しんで、俺からレースを取ったら本当に何も残らなくポッカリ心に穴が空いた様で虚脱感だけになってしまい、なんの気力もなく過ごした時期もあったが今は違うと思う、運命に身を任せる気は無いが矛盾に思てもこれも運命、ヨシ子に出会えた事だと思うよ」 本当は優柔不断な俺自身に腹が立っていたのだろう、だが何時も何処かでこのままレースを続けられない不安が頭の片隅から広がってくる、はそんな俺の不安がヨシ子には解っているのだろ

  ヨシ子戸惑い顔で 「そう言って頂いて嬉しいわ、リュウを傷つけてしまってごめんなさい!リュウの言う通りねリュウの性格は知っているわ意味も解っているし、人一倍正義感と闘争心が強いからね私も恐いわ、一人で考え込まないで之からも、話してねただ安易に言っている訳では無いのよ、本当に後悔のない様にねリュウに甘えられる事嫌いじゃないわよ、幾ら甘えても良いからゆっくり考えてね」。

タッチおじさん ダヨ!.jpg フー!次に行くか!..此処まで読んで下さり有難う御座いますStor【前編11】へ続きますクリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2010-12-11-1是非お読み下さる事お願いね


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編8】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

     ☆=Story【前編7】からの続きです、是非下欄【前編8】をお読み下さい=☆ 

    《居酒屋》

大田家.jpg 翌日何時もの様に其々仕事に出かけ、久振りに何時も忙しいヨシ子が珍しく定時に戻り二人して近くの漁師の居酒屋で夕食を取る事にした、夕方六時頃居酒屋のドアを空けた 「いらしゃい!」 相変わらず女将さんの元気なダミ声で迎えられる。

 何時もと変わらず大分混雑してざわめいている、奥の席から漁師仲間であろう 「なんだ リュウじゃないか! お嬢さんも一緒かい」 「ハイ 今度柴町に住む事にしたから 此れからちょいちょい寄らせてむらうよ」 「へぇー そうなんだ」

 釣り船屋の親爺 調理場の奥でビールのコップを上げながら 「何故 此方に住むの?」 俺はヨシ子に手を差伸べ 「先生の処に転がり込んで 居候だよ!」「ほんとなの?」「ああー だから この先の先生のマンションに越して来たの」 親爺目を大きく見開き 「へー!ビックリしたな 結婚するの?」 「まぁーね」 「リュウは当分結婚しないと思っていたよ、こんなに美人のお嬢さんとかよ!」「あぁ」 俺はだまって笑顔を作り ”はい” と云う意味で首を小刻みに縦に振った 親爺は本当に嬉しそうな顔を向けて 呟く様に「良かったな!」 俺はもう一度首を縦に振った、 帳場で聴いていた女将さん 調理場のカウンターで 飲みかけのコップを置き 刺身を切り揃えている旦那に向かって自慢げに 「家のは ”そんな事無い” と言っていたが・・やっぱりね! リュウが先生を此処に連れて来た時からそんな気がしてたよ」 今度は奥の馴染みの近所のお客さんや漁師仲間に向かい 大声で 「ねー皆!リュウが結婚するんだってよ!」

 騒騒していた人達が一兜焼きjpg.jpg斉に此方を向き、一瞬静寂があり 拍手と歓声が上がった、奥の席で顔馴染みの若者達が席を空け 「よう!リュウこっちに来いよ ちょうど鮪の兜焼きを頼んだ処だよ お祝いしょうぜ!・こっちこっち此処の席あけたよ」 皆この近所の漁師の息子や釣り船屋の息子等の集まりだ。

 空いた席に照れながらヨシ子と二人座り 「じゃあ邪魔するよ」 「リュウ、凄い美人で羨ましいねー紹介してよ」

 女将さんが酒とタバコで潰れた声で 「バカだねー、そんなにガサツに聞いたら、お医者さんの先生がビックリするだろう」 客の若い漁師の一人が 「へー医者先生なんだ、俺も診てむらいたいね」 女将さん若い漁師の頭を小突き 「頭でも診てむらいな、こいつの頭は取り換えても良くはならいけどね」 別の若者 「女将に遇ったらお前も形無しだな!」 「全くだ!」

 俺は二人の会話に口を挟む様に 「まぁーまぁー 紹介するよ! 横浜X大病院の心臓の先生で佳子さん」 ヨシ子少しは漁師達に馴れてきたのか 臆する事なく「ヨシ子です これから宜しくお願いします」 女将 話しかけた若い漁師を見ながら 「それじゃあおおこぜ.jpg前は診てむらえないね お前の心臓 バカが付くほど強いから」

 若い漁師自分の胸を軽く叩いて 「それは無いよ女将さん! 俺だってこんな美人に弱いよ 心臓バクバクしているよ ほら!」と言いながら むねを擦ってみせた、 お客さん皆一斉に大笑い、

 ヨシ子は直接こんなことを言はれたことは無く少し途惑い 「まぁー! お世事でも嬉しいわ」 若い漁師 「ホントにお世事じゃ無いすよ!」 ヨシ子 「ありがとう」。

 一息ついたところで女将さん 「先生 飲みますかー?」 「ええ ビール頂くわ」 女将さん 「先生はビールと リュウはウーロン茶で良いよね」 「あぁー 腹が減っているんだ あと何か煮付けと刺身それに飯お願い」 女将さん 「リュウは生臭い物が嫌いだから・・それじゃぁー オコゼの煮付けと刺身カワハギが有るから見繕うね」、

 ヨシ子 若者たちを見回して 何かを感じたのか 少し大きな声で皆に向かって 「貴方達 健康診断受けているの?」 釣り船屋の若い船頭 「俺なんか病気になった事無いから ・・でも先生だったら診てむらいたいよ」 またも皆大笑い!

 ヨシ子はもう雰囲気に慣れたのか 臆する所も無く 「皆なさんもそうよ 診断受けた事なさそうね 健康だからって安心出来なのよ、本当に安心出来るか調べて下さいね 突然倒れてからでは遅いのよ、病院紹介するから皆さん行くようにね!」 其の後、皆とそんな話しと冗談を言鮪すきみ.jpgいながら 楽しく呑んだり食べたり楽しいひと時を過した。

 支払い行くと 女将さんが俺の肩に手を置いて 「今日はリュウの結婚祝いだから料金は要らないよ」 俺は困った顔をして 「だめだよ ちゃんと取って」 女将 可愛い者を見る様に目を細め、片に置いた手を前後に力強く揺すった 「素直じゃないねー お祝いだから良いんだよ」 「はい そうですかありがとう御座います」

 ヨシ子は俺に ”本当にいいの?” と問いかける目で見ている、俺は心で ”うん” と呟く様に小さく頭を縦に頷いて見せた、 ヨシ子は安心した表情で女将に向き直り 「かぶと焼きやオコゼの煮付け珍しい物ばかり とても美味しく頂きました、今日はご馳走になりありがとう御座いました 皆さんも此れから宜しくお伝え下さい」 女将 嬉しそうに 「先生も此れに懲りずに時々来て下さいよ、帰り気を付けて」 その後 真っ直ぐ家路に着いた。

 俺達は部屋で寛ぎながら、この部屋に俺の荷物を運び込む日を考えて 「ヨシ子、8月8,9日モトギのレースまで何も予定が無いから 引越しや住所変更の手続するよ」 ヨシ子も考えていたのだろう 「そうね リュウの住所変更時に結婚届一緒に提出しましょうか?」

 「結婚式と一緒でなくて良いの?」 「両親と相談したり 式場やまだまだ時間が要るから、ちゃんと何か良い日を選んで先に届出をしましょうよ」 「うん!そうだね、俺の誕生日3月17日だから7月17日にしょうか?」 ヨシ子は驚いた顔をして 「えぇー本当? 私の誕生日も1月17日奇遇じゃぁない!そうしましょうよ、リュウが絶対忘れないから」 「え!本当なの?」 「本当よ!リュウは私の誕生日に興味無いのね」 「嫌味かよう?」 「そんなんじゃぁ- ないわよ! 年上だから 気を利かして聞かないで いてくれると思っていたわ」 「そんな事 気にしてたの? 関係ないよ!」 俺は他のチームから話しの有った契約の事も気になり

 「じゃぁー1月と3月の17日 語呂がいいね 17日に決まりだね・・それとねぇー来年のレースの契約、他の一流チームから話があったけれど 如何するか迷っているんだ? 今度のレースの時に返事聞かれると思うの 今までと違って全部チームがやってくれると思うが やはりスポンサーは個人に付ける事が多いから、でも次へのスッテプアップは見込めると思うよ それに契約金も桁違いと思うし・・・でもーね?」

 ヨシ子はやっぱり 俺が相談すると思っていたのだろう 「リュウの長年の夢が見え始め 手を伸ばせば届く処にいるのに迷って!・・ 自分の心の中では決まっているんでしょう? なのに迷うなんってリュウらしく無いわね」 「・・・」 俺は黙って答えを求める目付きでヨシ子を見守った 「私に相談して ”他のチームの方が良いに決まっているでしょう 移りなさいよ” って言われ それで表彰台に乗っても リュウは心から喜べないでしょう」・・” その通りだよ! なんだ 解かっているじゃん ”・・ 「・・・」 と思いながらも返事に迷い 更にヨシ子を見詰めた。

 俺の問いかける表情に答えるように 「解っているわ、リュウが恩有る人を捨てる事が出来ないで迷っている事・・こう言う答え聞々たかったのでは? ” リュウには そんな事出来ないから 今まで通りやりなさい! ” って・・そのとうりでしょう!」

 俺の考え手に取る様に解かっている、まいったな! 「多分皆も不安に思っているから早く結論出さなくては、もちろん俺には世界が望みだから 少しでも上を狙いたいよ・・だからと云って必ずしも成功出来るとは限らないし、それに北原監督に拾われたから 今の俺が有るし・・・うん此れで 決まった! 今まで通りのチームでいくよ!」

 とは言っても俺の中では揺れ動いていた だが何れ何処かで活き詰まる様な予感もある だからこのチームを選んだのかもしれない? 既に この時からと云うより俺の生き方が 俺の運命も少しづつ軌道を外れ初めていた事を知る由もなかった!

 ヨシ子は俺の座っているカウチ(couch)の横に立ち俺の肩に手を置いて 力付ける様に軽く押した 「リュウなら何処のチームでも大丈夫と思うよ、・・でもね私良くは解らないが、この世界余ほど確りしたスポンサーがいなければ生き詰まるような気がするの」・”勿論 痛いほど解っているさ!”・俺は心で呟いた「兎に角 リュウが後悔する事無く納得する様にしたら良いんじゃない」 確かに鋭い指摘だが俺には  ”じゃぁーさようなら”  とはいかないよ。

 ヨシ子は両肩を揉むようにして 続いて俺にたずねた 「それでね話違うけれど、前に話した事あるでしょう 私の患者の子供 海斗(カイト)君と言うのだけれどレーサーが夢なの、それで一度リュウの出るレース如何しても見させて上げたいと思っているのだけれど どうかしら?」 「どうかしらって そんな事して良いの?」 質問したがドクターに愚かな質問だ 訂正するように・・「俺はかまわないけど?」

 ヨシ子真剣な表情で 「海斗君 拡張型心筋症なの、心臓を提供してくれる(レシピエント)ドナーが見つからない限り 今の医療では直る見込みが無く体が成長する分 心臓に負担が掛かるの、今もどんどん悪くなっているの、・・それでね 部長には私が付いて行くからと話し 検討していただき、精神的に生きる意欲が生まれるかもしれないとのことで 両親にも了解得ているから」

 俺を覗き込みヨシ子の悲願する様な目と言葉から、何時もと違う何かを感じ 「決勝レースだけ見るだけだったら 時間的にも余り負担がかからないと思うけれど 片道車で約3時間半掛かかるよ、ヨシコがそんなに言うには訳が有ると思うから手配するけど」 ヨシ子は俺の両肩を揉む手に力が入り 俺は思わず 「イタタ・・痛いよ!」 と発してしまった、

 「あら!意外と凝っているのね・・海斗君の事ありがとう、車なら大丈夫よ 酸素吸入も点滴も出来るから、リュウは本当に優しいのね!これであの子と約束守れるわ」・・「あの子 車が好きで何時も私に話すのよ、それで先生の婚約者はレーサーなのって言ってしまって・・それであの子如何してもリュウを応援したいって聞かないの」・・「それに あの子の母親の方が私の中学から高校大学時代の親友なの、彼女の話では夫は商社マンで海外を行ったり来たりで 余り海斗君に会いに来ていないの」

 「ふーん」 「それでね お母さんが ”出来たら是非見させてやって下さい” ですって!」

 「解ったよ! じゃー明日病院へ行ったら その海斗君の洋服のサイズ聞いといて」 ヨシ子は不思議そうに俺を見て 「どうして?」 「うんプレゼント、俺達のチームのブルゾンでもと思って」 「リュウて だから皆好きになるのね! きっと喜ぶわ」 

 ヨシ子は結婚式も嬉しいだろうが、もっと自分を向上させる授業を受ける事と今の仕事を大事に思っていると思い、式の事はヨシ子に任せようと思った。

 ヨシ子は楽しそうに話を続けた 「それとリュウが居酒屋に連れていった意味解かったわ、今まであの人達の様にガラ悪い人達と話もしないでただ敬遠して居たけれど、皆素晴らしく本当は優しく愉快な人達 これからはああいう人達のお話も真剣に聞けるわ」

 「そうだよ皆良い連中だから解かってくれると思って」 「それと 高級料理だけが美味しい味では無いって、漁師の経験から新鮮さと其の物の旨さを引き出しているよね」

 「本当にみんな美味しかったわ! リュウって不思議? 色々な層の人と知り合いね、きっと私 鼻持ちならない人なっていたのかも、本当にリュウに逢えて良かった」 「それはヨシ子自身が変えようと思っていたからだよ、俺だってヨシ子ともう離れられないよ」 これは本音だ 「本当?嬉しい!」 本当にヨシ子は気持ちがいい 素直で率直である。

 翌日 会社(ベース)から監督に電話連絡し、ヨシ子との結婚 籍だけ今月17日に入れる事 又 心臓病の子供を次のレースに ツインリング茂木に連れて行きたい事 それに子供用のレーシングスーツ(オーバーオール)とジャケットをサイズは後で知らせるから用意して下さいとお願いした。

 監督の改まった声で 「リュウ 話は違うが・・ 他のチームから誘われて居る事 如何する?」 「ええ!知っていたんですか?」「それくらい この狭い業界直ぐに噂が流れるよ」「・・・ 今まで通り 監督と!このチームでやらせてください」

 監督の声が一段と高まり 「俺のチームで本当に良いのか? お前の夢叶えられ もっと上の海外レースにも出るチャンスだぞ! 俺に遠慮は要らないよ 本当にそれで良いのか?」

 本当は何処かでこの幸せを壊すのではないだろうか? その事のが怖く思えた 「ええ もう決めましたから、それと他のチームはビジネス化していて 少し成績が悪るければ直ぐお払い箱だから、監督!今ままで通り お願いします」

 「そうか解かった お前の強情で頑固なところ知って要るから、何時でもこだわらずチャンス有ったら良いんだぞ! 念を押すようだが本当にいいんだな!」 「はい!宜しくお願いします」 だが 言い知れぬ予感に襲われた これが最初の誤りだったかもしれない!

 監督 「・・子供服手配しとくよ、それからヨシ子さんに結婚おめでとうと伝えてくれ」 「有難う御座います」 

 それから俺の母にも連絡を入れた ”17日に籍だけ先に入れる事を” 母まったくもうと言うような声で 「ヨシ子さんから連絡ありましたよ、お前が頼りないから本当に確りしなさい!」 相変わらずだ 「もう同じ間違いを二度とするんじゃあないよ お前にはもったいくらいな人だよ、大事にしなさい」 の返事だった。

 その日の夕食前、ヨシ子から 「両家のお母さんに入籍する事、連絡しましたから、それに私のお母さんがリュウに何時でも夕食にいらして下さいと云っていましたよ、・あれから何か気に入ったみたい」

 俺は肩を竦めテレた様に 「ありがとう、俺もお母さんに連絡したらヨシ子から連絡があったって、宜しく云ってくださいだって、それと海斗君のサイズ分かった?」 「今六歳だけど、本当は学校に入れなければいけない年なの、やはり成長も遅く五歳位のサイズで良いみたい」

 「判った直ぐに連絡するよ、それと監督に今まで通り頼みますって話したよ、それと俺達入籍する事伝えたら、監督がヨシ子さんに  ”おめでとう”  宜しく伝えて下さいだって」

 ヨシ子は心配そうに 「大事な契約の事、電話でいいの?」 「其の方が良い時もあるの、長い付き合い感情が入らない方が良い時もあるの、俺の言葉で全て察しているよ」 「それなら良いが?」 全て間違った判断では無かったが、ここでも運命の歯車が回り始め一時も時間が戻らない事を後々痛感する。 

 ヨシ子との連絡後直ぐにスクール事務所に電話を入れた、久美ちゃんの気取った少し高目の声が聞えた 「ジャパン・レーシングカー・アカデミーで御座いますが」 「ああクミちゃん、監督は?」 久美ちゃんは途端に普通の声になり 「なんだ!龍崎さん?たった今!監督帰りましたよ」 「なんだは無いよ!・・それじゃぁ、監督に明日でも伝えてよ子供のレーシングスーツのサイズ五歳用でお願いしますって」

 何故か久美ちゃんの声が明るく弾んで聞こえる 「その話聞いていますサイズ五歳用ですね、明日メーカーに注文出しておきます、それと龍崎さん家のチームに留まって下さる事聞きました、本当に嬉しいです!」

 「まぁーな、これからも宜しくね、次のレース8月9日朝一にもう一度マイクロバスで家のヨシ子とそのレース用スーツの体の弱い子の母親と俺、四人ですから迎えに来て下さいと伝えてね」 「ハイ竹田に伝えておきます」 「それじゃぁ頼んだよ、それと竹田君と旨く行っているの?」 「ええ、おかげさまで仲良くしています」 「良かったね」 「はい」 「じゃぁー又ね」

 電話が終わるのをまった様にヨシ子が話しかけてきた 「リュウて本当優しいのね、有難うきっと海斗君喜ぶわ」 「当日まで海斗には内緒だよ」 「解ったわ、リュウレース前に病院で海斗君に一度合って頂ける、海斗君のお母さんにも?」

 「いいよ、それと今度金曜日17日半日に成らない?結婚届け提出の日、後二人だけで何所か食事どう、それともう一つ土曜日、両家で集ろうよ、確か能見台に予約制の懐石料理の店、確か電話番号控えて有ると思うから予約入れておくよ、どう?」

 「良いわね多分大丈夫よ、スケジュウル調整するわ、お母さん達に連絡しなくては、じゃあ私何人になるかお聞きします」 「今回の会食費用俺達の結婚の為だから 男の俺がレースの契約金の方から出すよ、少しはカッコ付けたいから 此れも必要経費かな?冗談だよ 両親に伝えてね」「でもそれって リュウの活動資金でしょう?困るじゃぁーない?」「うん でも今回はそうするよ」

 「本当にいいの? そうするわ、リュウて何処からそんな考え浮かぶの感心しちゃう」 「ヨシ子からに決まっているでしょう、ヨシ子ならきっとそうすると思って」 「まぁー!調子いいんだから、本当はお母様からでしょう?」

 「まぁね、これ全然違う話だけれど前から思っていたの、朝や夕食後の皿洗い俺がするよ、ヨシ子に少しでも勉強する、時間作って遣りたいから」 ヨシ子が突然抱き付いて俺をソファーに押し倒して来た 「リュウて、どうしてそんなに優しく成れるの?ヨシ子駄目になっちゃいそう!」 「ダメになったら困るよ、夕食まだだよ!お腹空いちゃた」

 ヨシ子は俺の額を突いて 「リュウは良いとこで、本当!お腹なんだから、直ぐ仕度するわ少し待ってね、 リュウ!心から愛しているわ!・・あっ!それに食器洗い機買いましょうよ?ね」 「良い考えだね俺も賛成だよ、それに腹が空いては戦が出来ぬって言うでしょう・・この頃のヨシ子の料理凄く美味しくなったよ手早く応用も良いし栄養バランスも良いよ、あったっま良い人は違うよ!」

 「リュウ、おだてないでよ!」 「本当だよ!」 「ほんとうに?・・嬉しいわ!フッフ・・男は戦なの?・・ラブ & ピースでしょう!急いで仕度します」 俺は何って素直で率直で可愛い人だと改めて思い笑って誤魔化した。 

 ヨシ子は夕食の支度をしながら 「リュウ、今朝楽しい事あったのよ、通勤途中と柴口の駅で、おじさん達に、先生おはよう、お仕事ですか?て皆に笑顔で言われたの、私の心も何だか明るくなるの」 「あぁ、きっと昨日居酒屋に居た人達と思うよ」 「ええ、私も何処かでお会いした人達と思ったの、何か毎朝楽しみになりそう、これもリュウの御蔭ね」。

やはり!.jpg 17日金曜日午後、横浜金沢区金沢文庫の市役所に結婚届けと住所変更の届けを提出して、役所の係員が事務的に 「お姉さんが代理ですか?」 俺は不満そうに 「生年月日を確認して下さい!」 係員書類に改めて目を通し、慌てて 「これは、大変失礼しました、おめでとう、御座います、お幸せに!」 バツが悪そうにお辞儀を繰り返していた。

 手続を済ませ役所を出、ヨシ子は自分に言い聞かす様に呟く 「やっぱり、年上に見えるのかしら?」 それほど腹は立てていない様子 「俺が、子供の様に見えたからだよ」 「リュウ、本当だから気にしなくても良いよ、でも余りにもあっけ無いね、此れで結婚!」

 「俺もそう思うよ、少し花火のクラッカーでパンパンパンと派手に、あそこに居る受付の人達だけでも派手に、おめでとうと言って欲しいよね、そんな祝福出来ないかなー、余りにもお役所仕事でセンス無いね、俺だったら受付に ”結婚祝いされたい方¥200円で受け付けます” それに離婚届けの書類もお渡ししますって張り紙でもするのにね」 「こら!リュウ少しおちょうしに乗り過ぎよ」 「だよね!・・・所詮紙切れだからね、まあ俺達の心の有り方だから」 

 「最近リュウに押されぎみ私の方が子供ね、私少しお金の事でイライラしていたの、其れなのにリュウ何にも云わずに受け止めてくれて嬉しかった!」 「良いんだよ解っているから、それと言い忘れたがあの契約金 余残っていないが結婚式に使ってもかまわないよ ヨシ子に全部任したんだから どう使おうとかまわないよ」

 「ありがとう 出来たら私達の子供の為に使いたいの」 「まだコウの鳥が来ないのに 今から余り子供を甘やかす様な事は良くないよ 少しは俺達の為に使おうよ」指輪.jpg

 気を取り直し、横浜元町まで足を伸ばし宝石店で二人の結婚指輪とペンダントを奮発し、プラチナシルバーペンダント.jpgにダイアを大小埋め込んだデザインの良いものを選び、内側にxx.07.17 for ever love Y&K(XX年7月17日 永遠の愛を ヨシコ&ケンジ)を刻んで頂き発注した。

 俺は宝石や指輪に興味はなく女性はなんでこんなに喜ぶのか解らない? 特に指輪は基本的に女性は男を縛り付けたいのか? それでも戒めを抜け 男は自由を求めさ迷いたいからか? 子孫繁栄の永遠のテーマ 不可解で解からない!?。 

 中華街に足を伸ばし二人で ささやかな祝いの食事をした、ビールと烏龍茶で 「結婚おめでとう、ヨシ子と俺の幸せの為に乾杯!」 ヨシ子がコラーゲンたっぷりの鱶鰭 ジュワジュワたっぷりの小籠包 海老チリ等をオーダーした、ヨシ子は今日一日本当に楽しそうに過し今最も輝き弾んだ声で嬉しそうに 「乾杯!私 お姉さんに見られるからコラーゲンで若返らなければね」 「十分若いし綺麗だよ」 「誰に云はれるよりリュウに云はれるのが一番嬉しい!」

 楽し祝いの食事を済ませ 帰りに俺の本牧のマンションによりデスクトップのPCやオーデオ関係を運んだ、空いたマンションは母にお願いして 何れ誰かに貸し家賃収入を得よと思っている。

    《海斗君との出会い》

浩子です.jpg 土曜日の朝、約束どおりヨシ子の病院にレーシング・チームの赤い帽子を手に海斗君に会いに出かけた、ヨシ子の友人の海斗君の母を玄関の待合所で暫らく待っていた、間もなく、海斗君のお母さんが見え 「始めまして、長崎(旧姓大平) 浩子です、此の度は自動車レースに連れて行っていただけるそうで、宜しくお願いします」 

 綺麗だ!やはり類は類を呼ぶではないが、中々の日本的美人で賓がありそうなうえ、妖艶な雰囲気を漂はせている、きっと着物が似合いそうだ 「此方こそ、よろしく」 ヨシ子は白衣を纏い俺に見せたあの甘える様な笑顔は消え澄まし顔が少し冷たく見えた 「さぁー、行きましょう」 俺は咄嗟に思いついた考えを説明した 「ねぇー二人とも、ちょっと待って!海斗君の部屋番教えて俺だけ先に行くよ、暫らくしたら来てよ、俺が誰だか海斗君に当ててむらうから」

 ヨシ子は苦笑した顔で 「リュウたら子供みたい、行きなさい海斗君驚くかな?私、浩子と話したい事ありますから」 とヨシ子は浩子さんを促す様に見た、浩子さんは表情を崩さず俺に了承の意味だろう、そっけなく 「私達におかまいなく、お先にどうぞ」 その、そっけなさが妙に俺の心をそそる!

Cap.jpg 俺は海斗君の病室の前で、帽子を解る様に手前に持ち直し部屋のドアを空けた、一番奥の窓側のベッドであろう一目で判った。

 帽子をチラつかせベッドの横に立ち 「オッス・・・海斗1.jpgよ!海斗君だね」 不振な顔しながら、暫く沈黙をし俺を見詰めた、直ぐに俺の持っている帽子を見つけ、緊張した顔が綻び 「はい!・・鶴見先生の・・龍崎さんですか?」 たぶん俺が来る事を聞かされていたのだろう 「そうだよ 正解!」 海斗の笑った顔が何とも可愛い 「だと思った、レーサーですよね、嬉しいな!」 余ほど車が好きでレーサーに憧れていたのかな?

 俺は帽子を差し出し 「これ、俺のレーシング・チームの帽子だよ、ほら・・海斗に!」 海斗は万遍の笑みを浮かべ 「龍崎さん有難う」 海斗の返事が余りにも仰々しく子供らしくないと思い 「なぁー俺も海斗と呼ぶから俺の事、リュウで良いよ」 「はい、解りました」 まぁーそのうちなれるか?。

 ちょうどヨシ子達が部屋に入って来た 「ママ、これ・・リュウ・・リュウから頂いたの」 浩子俺をチラリと見て 「なんですか!呼び捨てで、失礼ですよ」 俺は慌てて浩子さんを制止するように 「いいんです、私がそうしてくれと頼みましたから」 初めて海斗に会った時、死んだような目で俺を見詰ていたが俺がリュウだと解ると、途端に目に輝きが増した。

 この部屋の空気が何か淀んで居るようだったので、ヨシ子に向かって 「外の屋上に連れて行って良いの?」 ヨシ子、少し考える素振りで 「少しだったら」 ヨシ子の返事を聞いた俺は早速海斗に 「じゃぁー、海斗 行こうか?」 嬉しそうに 「ハイ!行きたい」 と目を輝かせた、

 車椅子をベッドの隣に置き、母親が手を貸そうとしたが海斗はその手を払いのけ 「自分でやるから!」 そんな、事を言った事は始めての様で、浩子さんとヨシ子は顔を見合わせて肩をすくめた、海斗は車椅子を支える手が震えながら、それでも自分で座り込んだ、車椅子を押しながら 「よし海斗、大丈夫か?行くぞ!」 「はい、龍崎・・リュウ」 俺を呼び捨てにすることが、慣れないようで照れ笑いを浮かべ、それでも嬉しそうに俺に振り返る 後からヨシ子達も付いて来る。

 俺達は屋上に上がり、初夏の日差しの中、東京湾を挟んで千葉房総半島の山々の上に真っ白な入道雲が見る、爽やかな海風が時折吹き抜け、左手に八景島が見え手前には青々した海が広がっている 「海斗、気持ち良いだろう?こうやって、鼻から息を吸い込み口から思い切り吐いてごらん」 俺がやって見せた 「はい」 と答え 胸一杯湾からのそよ風をスーツと吸い込む 「リュウ気持ち良いね、あの八景島の水族館に行った事有るよ

 「そうか、楽しかったか?」 「はい」 「今度はレース場まで道乗りが長いぞ!頑張れるかな?」 「はい リュウ!」 俺はアメリカ兵の間で流行っている握手で こぶしを作り 互いに相手の握った拳を上下にトントン叩き親指を立て握り合う、挨拶の仕方を繰り返し教えた、

 車椅子.jpg「よし!海斗はレーサーに成りたいのか?海斗の車椅子をレーシングカーの様に走らせるぞ、確り捕まっていろ!いいな!」 「はい リュウ」 俺は車椅子を押し走りだした 「リュウ 恐いよ恐い!」 海斗は驚いて頭を伏せ 目を閉じてしまっている 「海斗 顔を上げて確り前を見ろ!レーサーになれないぞ!」 泣きそうな声で少しづつ顔を上げ恐る恐る目を開いた 「はい リュウ前を見ています」 「ようーし!楽しいだろう?」 暫らくして海斗は元気に 「はいリュウ もう大丈夫です!ハァハァハ・・楽しくなりました、ねーリュウ もっと もっと 早く!」。

 屋上を一周してヨシ子達の処へ帰った、何か険悪な雰囲気!・・ヨシ子からいきなり平手うちが俺の頬に飛んで来た 「パッチーン!」 俺の左頬に見事に決まった、俺はとっさに避けようとしたが、あえて頬で受けたが 衝撃の強度で やはり加減しての事と判る、それは浩子さんの怒りを露わにした佇まいと刺すような目を感じたからだ 「リュウ!何と云う事をするの海斗君は心臓の病なのよ!」 ヨシ子の怒りの声が響いた、

 ヨシ子の立場も解かっていたから、ちょっと俺のやりすぎかなと思い 「ごめん、そんなに様態が悪いと思は無かったから」 とだけ俺は弁明した、 浩子さんの鋭い眼差しで俺を睨み 「なんって事する人なの!海斗に何か有ったら・・もう、貴男の様な人には頼めません!今回の話無かった事にして下さい!」 叱られているのに不思議なものだ、浩子さんの怒りに震える目付きに何かゾックする感覚を覚へ引き込まれる!・・俺って変だ! 慌てて目を逸らし神妙な態度をとった、

 怒りと蔑みの目で睨む様に俺を見ている、浩子を見てヨシ子 「浩子さん御免なさい!、私も迂闊だったわ、リュウに詳しく病状伝えてなかったの・・・あなた!リュウ下の玄関で待っていて下さい!」 寂しそうにしている海斗に分る様に俺は小さく手の平だけで手を振り、浩子さんに向かって 「驚かせ、危険なことをして失礼しました」 と云って頭を下げ病院の玄関ホールに向かった。

 2,30分位だろうか暫らくしてヨシ子が降りてきて 「リュウごめんね、痛かったでしょう、私は医師ですから少しでも安全を求めなければ成らないの」 「解かっているよ、だから避けなかったの、真ともに受けたから痛かったよ!」 ヨシ子は皮肉ぽく 「チュウー、しましょうか?・・浩子さんに冷静に説明したのだけれど、浩子、怒らせちゃった・・・アーァ!リュウ一旦帰りましょう」 今日は両家の夕食会だ、二人で家に戻った。

 俺は少し悔しさもあって 「あれじゃあ、安全より、もう海斗は死んでいると同じだよ!あれは駄目、これは駄目、可愛そうに、ただ恐怖に慄き死を待っているだけ、どんなに恐いか、大人だって耐えられないよ、それでも、海斗は親に心配掛けまいと懸命に良い子ぶっているのだよ、俺は多少の犠牲を払っても生きる喜びを知って欲しかった、レースの話で海斗の目が輝きだしたんだよ、ヨシ子が俺の目に感じた様に、俺解かったよ子供なんか嫌いで面倒だと思っていたよ、でも海斗に会ってキヤキラ輝く目を見て可愛い奴だなって」

 「リュウはそんな処、不器用だから人には中々解かって頂け無いのよ、実は私も医師として迷ったけれど、同じ考えだったからリュウにレース見せてってお願いしたのに、ごめんね、しかたないわね」 「俺も悪かったよ、そんなに心臓悪いとは知らなくて」 「もう、いいのよ忘れましょう」。

 懐石l.jpg夕方、能見台の懐石料理店で両親の会食会を行い、俺の処は母と兄夫婦、ヨシ子の処は父、母、看護婦、受付嬢、皆さん集った処で俺は 「えー今晩は、今日は両家の顔会わせと云う事で、宜しくお願いします」 着物姿の母は息子の俺の目から見ても知的で美人決まっているなと思う、その母、俺を手のひらで示し 「挨拶もろくに出来ない息子ですが、結納も兼ね末永くお付き合いお願い致します」 と丁重に頭を下げた。

 こんな挨拶から始まり母は熨斗袋を出し、俺は慌ててそれを制した ヨシ子は直ぐに察して 「お母さん、それはもうリュウいいえ健司さんより頂いておりますので」 母は俺を見て 「健司は何も話さないから、でも此れは私から佳子さんに」 ヨシ子が俺を見つめた 俺は相槌をする様に首を立てに顔を振り 「お母さんの気持ちだから」 ヨシ子恭しく 「では、有りがたく頂きます」 後は和やかに話が弾んでいた。

 特に俺の母とヨシ子のお父さんが話が合い、ヨシ子の母は兄と話が盛り上がり、俺は鶴見医院受付の奥村さんと、コンピューターの表計算やアプリ(application)色々なプログラム等、医院に合せ制作する事等約束し無事、顔合わせも終わる頃、

 ヨシ子の母が誰とでもなく愚痴をこぼす 「一人娘ですから、鶴見を継ぐ養子が欲しかったのですがね」 ヨシ子慌て義母を征し 「お母さん!話済んでいるでしょう」

 お袋は気を使ったのか、俺を睨み、義母に加担する様に 「健司さえ良ければ、本人の考えですから」 俺は慌て 「これから、なるべく伺います、・・・もう入籍終わっていますし」 本当は医者の家を継ぐそれなりの人が望みだったのだろう、ヨシ子はその場を何とか纏め一段落付き、ヨシ子と俺は、思わずほっとした。

 家に帰りヨシ子、先ほどの熨斗袋を出しながら 「リュウ、お母様にちゃんと言ってないから、これ、返して下さいね、お願いよ、お母さん(ヨシ子の母)の事ごめんなさい」 「いいんだよ、解っているから、お袋、何時までも駄目な子と思っているから、俺もビックリだよ俺から返すよ、安心して、それにヨシ子のお父さん何も言はなかったけれど、鶴見家跡取りが居なくなるから、俺って何も考えずバカだよな」 「リュウもう止めましょう、リュウは養子なんて嫌でしょう、それ以上言わないで」 「ごめん」 俺は変だなと思いながらもなんとなく謝っていた。

 此処のところ慌ただしく過ぎ、明日の休み(日曜日)ゆっくり家で休み、夕食は俺がパスタとラムチョプ作る事にした、初めての俺の料理の披露だ!力が入りそうだ。

 日曜日の朝、食事中にヨシコの携帯が鳴り、海斗の母浩子さんからだった 「昨日は御免なさい、海斗が昨日のお昼から食事を全然、取らないで困っています、海斗の言い分は龍崎さんに会うまで絶対食事を採らないって・・お願いですから一緒に病院まで来て下さい、お願いします」・・「との事だから、リュウ、いやでしょうが一緒に行って下さる?ごめんなさい」 と電話の説明した、

 「ヨシ子が謝る事ないよ、行くからと連絡して、それから初めに海斗と俺だけで話させて・・問題ないでしょう?」 ヨシ子は心配そうに 「信用しているけど、乱暴な言葉使わないでね」 「それくらい解っているよ!」

 二人は慌ただしく食事を済ませ、病院に駆けつけた、玄関に海斗の母、浩子さんが落ち着き無く行ったり来たりオロオロしながら待っていた、

 俺を見つけると慌てて走りより 「先日は・・」 と浩子さんは深々と頭を何回も下げた、俺は無視する様に 「そんな挨拶は良いから、俺が呼ぶまで海斗君の部屋に入らないで!男同士の話だから良いですね!」 浩子さんが戸惑いながらヨシ子に救いを求める目付きで見つめ、ヨシ子は頷き大丈夫よと言う様なしぐさをする、浩子は不安そうに 「はい、解かりました、宜しくお願いします」 と深々と頭を下げた。

 俺は部屋まで行き二人にドア外で待つ様に告げ、ドアを空けベッドの脇に立ち海斗に同情や憐みの態度はとらず 「ヨウ!海斗どうした?、何時までガキの様な事しているの?・・・うん・・何があったの?」 質問しながら海斗を覗き込んだ、 海斗は泣きそうな顔を堪えて 「だって!リュウさん」 俺に同情を求めた、俺は無視する様に 「だってリュウさん、じゃーないだろう、リュウで良いと言ったでしょう、それに ”だって!” は嫌いだぞ!ハッキリ云えない人はもう付き合わない!如何したいんだ?」

 海斗は俺を怒らせてはいけないと思ったのか、今度はハッキリと 「ハイ!リュウ僕は・・リュウとレースに行きたいのに!」 「そうか・・ありがとう、俺も海斗にレース見せたいよ、楽しみにしていたんだ・・それで?」 俺は海斗の意思の有るハッキリとした、要求を待った、海斗は涙目で泣きじゃくりながら 「ハイ!リュウと見に行きたいです!」 「わかった!」 今度は声を和らげ 「海斗、そんな事をしてお母さんに心配掛けて海斗も悲しいだろう?」

 海斗は俺の目を探る様に 「・・はい・・」 「だったら、お母さんに海斗はレース見に行きたいとハキリ言はなければいけないよ、そんな弱い子はレースやっても負けるし、レースやる資格ないよ、何が有っても諦めない最後まで戦うの、其れがレースだよ分かった?強くならなくてはレース出来ないぞ!約束だよ」

 海斗は目を輝かせて 「リュウ、解った解ったから!約束するから」 「そうか・・解った! お母さん呼ぶから ちゃんと話せるか? それと ご飯食べなければ元気になれないぞ レースだって出来ないから、ヨシ!あの握手できるか?」 グートントン グー親指たててから 「よし、いいね、お母さん呼ぶよ」 確りした口調で こっくりしながら 「はい 分かりました」 俺はドアを空けヨシ子と浩子さんを招き入れた。 

 海斗お母さんの顔が見られず下を向き 「お母さん 僕 リュウのレース見に行きたいの!行かして下さい、ご飯ちゃんと食べ元気になるから」 ・・浩子さん、海斗の手を握りながら 「はい 分かりましたよ 海斗はそんなにレース観たかったのね、お母さん気が付かないでごめんなさい 行きましょうね、龍崎さん宜しくお願い致します」 深々と頭下げた、

 俺は海斗に向かって ウインクを送り 親指を立てた手を小さく動かし 「分りました、海斗はレーサーになるだって なぁー海斗!・・ちゃんとお母さんの顔を見なさい」 明るい声で俺と母の顔を見ながら 「ハイ 頑張ります」 その時 また海斗の目が輝きを戻していた 俺は心に感じた この笑顔だよ! ヨシ子も海斗の輝きの有る顔を見て、緊張の解れた顔で 「ほっとしたわ 良かったー!」

 浩子さん緊張した面持ちで俺に向かい 「海斗があんなに逆らった事初めてです、私の気持ちだけ押し付けて 何も見えなく成って、海斗の気持ち全然 解かろうとせず 龍崎さんにご迷惑かけて済みません」

 嘗ての俺も前の奥さんで そうだったから、自分の立場で物を考え 其れが自分にも相手にも正しいと思い込み 肝心の相手の心を察し物事を考えられなかった 「母親だったら 子供の安全と少しでも健康になって欲しい思うこと当然です、気にしないで下さい ただ海斗君に生きる希望を持たせたかったから! 俺も子供の頃 冒険に心躍った覚えが有るから、それで母を心配やら困らせた覚えがありますから」

 浩子さん考え深い面持ちで 「そうですね、心では解かって居たのですが・・駄目ですね」 暫らく、雑談をしながら、海斗の食事に付き合った 「海斗、そんなに慌てて食べなくても 喉に閊えるよ」 海斗がジュースを飲みながら 「うん リュウ、海斗レーサーに成れるかなー?」

 「なんだよ! 成れるか?じゃぁー無いだろう レーサーに成るだろう、此れから一杯苦しい事や悲しい事沢山有るよ、リュウだって一杯あったが我慢して乗り越えて来たんだよ、海斗はリュウより強いよ 今だって戦っているんだからきっと勝つさ!そうだろう?」

 「はい リュウ 頑張ります」 親指を立てながら 「おぉそうだよ! リュウ何時も見ているからな」 同じように親指を立て万遍な笑顔で「はい」 浩子さんは俺を見詰めながら 「誤解していて御免なさい!ヨシ子が龍崎さんを選んだ理由分る様な気がするわ」 ヨシ子嬉しそうに 「でしょう凄く優しいの、幸せよ!」 浩子苦笑いで 「ごちそうさま」 それから暫らく海斗や浩子さんに付き合って、何故かほっとして病室をあとにした。

 夕食の食材を求めに近所のストアーに出向く、車の中で 「リュウ、さっきから黙ってしまって、如何したの?」 「うん、海斗の事考えていたんだ、昨日からずうーっとお腹が空いても何も食べずに、ハンガーストライキ、初めての抵抗だったんだね、あのか弱い小ちゃい体で俺との約束、自分の病気の為にお母さんの悲しむ顔、どうして良いか分らず、海斗なりに悩んでいたと思うと・・もう考えるのやめよう、ウルウルして来ちゃうよ」 

 「だから、リュウは優し過ぎるのよ、私よりリュウこそ、子供駄目にしそう!そこが好きだけどね、それだけでなく、今日の様に、子供の扱いから、電気の配線、電気品の修理、コンピューター、車、お掃除、それに料理、何でも便利屋さんみたい、私も甘え過ぎで駄目になっちゃうわ!頑張って、勉強しなくては!」 多分今回の引越しで、俺が整理整頓やオーデオやPCのセットや棚作り、ヨシ子の壊してしまった電機品の修理等手早くやったからと思う。

 前にもヨシ子に説明した、アサリのスパゲッティー(ボンゴレ)威張った手前、失敗出来ない、冷汗物だ、フライアサリのパスタ.jpgパンにオリーブオイルにガーリック弱火で加熱、いい香りがして来たら、ここでたっぷりの砂だしアサリを入れる事が重要、タカノツメ少々と黒コショウを擦り入れパセリのみじん切、白ワインを多めコップ三分の二位(これが男の料理だ)

 フタをして中火で、アサリが開いたら、バターを入れ、此処でお醤油ほんの少々振りかけ(此れがポイント)飾りの為3,4そのまま残し、あとは殻を外し身だけを残す(お店に出す訳で無いから成るべく食べ易く)後はパスタの煮汁を少し入れ缶のマシュルームのスライスとバターを入れ乳化させる(又は生クリームを加えても良い)残りのパセリのみじん切、を加えエルダンテに茹で上がったパスタを加える

 ラムチョップは8本、岩塩と黒コショウを擦り、ラムにすり込む、フライパンにオリーブオイルを惜しまず、ラムが半分位沈む位入れる(これは、ラム独特の臭みを取る為)先ずフライパンにオリーブオイルにガーリックとローズマリー入れ弱火で香りを出し、取り出し、ラムチョップを入れる、初めは少し強火で両面を焼き焼き色が付いたら弱火にして、赤ワイン入れ、じゅっくり数分蓋をして蒸す(これも臭みを消す為)

 後はブナシメジと舞茸等残り油で炒め、コーンの缶等盛り合わせて、出来上がり 「リュウ、コーヒー出来ているわ、少し休んだら」 「じゃぁー、テーブルにセットして」 盛り付けをヨシ子に任しテーブルにセットしている間、ヨシ子の入れたコーヒーを口にして、何かほっとして休む 「準備出来たわ、リュウも少し飲むでしょう、ロゼ(ワイン)開けて、頂ける?」

 二人席に付き、グラスを合わせ乾杯! 「リュウ 以前何処かのレストランで頂いたけれど、臭みが有って食べれなかったけれど このラムチョップ美味しいわ こんなに美味しくなるのね、それとボンゴレも凄く美味しいわ!、もしかして 逗子より美味しい!」 ワインのせいか食欲もある様だ 「よかった 何って言われるか心配だった、お世辞じゃあないよね!」 「本当よ とても美味しいわ お店出せるわよ!」 「だめだよ 材料ふんだんに使ったから 赤字だよ」 「今度 時々リュウに頼もうかな?」 

 「良いけど 台所めちゃくちゃにして、材料費が高く付くよ 安い食材で美味しく作るこれが出来なければ駄目だよ・・・今まで忙しく やっと二人で少しのんびり出来るね、ヨシ子と遭えて良かったよ」 「本当?嬉しいわ!もっと若ければ良かったのにね」 「いや!お互い今だったから 受け入れられたと思うよ、今のヨシ子だから 本当の俺で居られ 本当に休めるよ」 「本当にそう思っているの?」 「本当だよ それより ヨシ子は何年たっても同じ気持ちで居られるの?」 「そんな事誰にも解らなわよ 第一今が大事でしょう ヨシ子も 凄く嬉しく思っているわ!」

 暫く、ゆったりした食事の時が流れ、突然ヨシ子が 「ね~ 早く食べて 子作りしょう!」 ワインも手伝ってか?俺、思わず噴出してしまうほど可笑しかった 「何で そんなに可笑しいの?」 「ごめん 食事 中余りにも突拍子もない事言うから!」 

 「だって 早くしないと体力的にも 私齢だから リュウの子供欲しいの! ・・いけない?」 「そんな事ないけど、 ごめん 俺 自分の事で精一杯で子供まで考えていなかったよ、・・第一ちゃんと育てられるか心配だよ!」 「リュウ 結婚て・・」 「だよね!でも正直 子供の事まで考えていなかったよ」

 「リュウには躁急過ぎたのかしら?」 浩子や海斗を見てヨシ子の年を考え本当に子供が欲しいと思っていたのだ 「俺って考え甘いよね、それが自然だよね」 俺は話を逸らせ 「俺といれば 若くいられるよ」 「如何して?」 「ちょっと、耳貸して」耳元で「あれ!良いアドレナリンが出て、ホルモン、バランスが良くなり若返るよ」 「やっぱり そんな事と思っていたわ 一応先生ですから知っています、・・でもね女は年になると子供出来づらくなるのよ・・早く夕食 済ませましょうね!」

 なにか素直すぎて子供がお菓子を欲しがる様で、可愛く可笑しさが又込み上げた 「慌てなくても!俺は逃げていかないよ せっかくの力作なのに」 俺は言葉と裏腹に 一瞬不安が過ぎったが、幸せで楽しさに押し流されていた 「とても美味しいから 食べ過ぎて太ちゃうでしょう」 ヨシ子は甘えたしぐさで 「ねぇ~!赤ちゃんもリュウの力作 お願いするわ」 本当に拘りなく 明るく大らかな人だ、

 「それなら 明日から 少し早起きして軽くジョギングしようよ、先生から見本でしょう?」 「ええ 今までもしていたのよ やりましょう、リュウと一緒なら楽しいね、足は第二の心臓とも云いますから リュウに負けないように健康に成らなくちゃ」

 次の日から朝早起きして爽やかな海の公園を軽くジョギングし ヨシ子は栄養や健康には気使ってくれ、サラダとブルーベリーのヨーグルト 日差しの強い所でのレース 目の為にと果物は必ず欠かさず用意してあった、美味しく朝食を採り互い其々出勤

 俺はベースでボスに式は未だですがと、結婚の報告をした(marriage registration)、事務所の従業員が集り、ベース内のクラブで祝ってくれるから日にちを決めてくれとの事、アメリカ人は家庭のそう言った事は大切に考えていて、反って迷惑のときもあるが 帰ってから妻と決めますからと伝え、例のパトリシアは少し残念そうでしたが、直ぐに、「Congratulations!」おめでとう、と云って祝ってくれました、何時までもグズグズしなくて助かった。

 ヨシ子は学校の件 病院の部長に相談して、今の部署やめなくても大学のゼミを受けられる様に考えてくれるそうで、考えたよりスムーズに行けそうで嬉しがっていた。

 海斗君は、気持も落ち着き楽しみにしているとの事、ベースでの我々の結婚パーティーは今週の金曜日の夕がたに決まり

 パーティーの招待も基地内の将校クラブでバイキング形式で無事終わり、ヨシ子は米軍基地の中、全てが珍しく、英語も少しは通じ、特に外人男性は積極的で受け答えを楽しんでいた様だ、沢山外国のクッキング用品のプレゼントを頂きヨシ子は大喜び。

タッチおじさん ダヨ!.jpg  此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【前編9】へ続きますクリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-24是非お読み下さる事お願いね


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編5】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

ストーリー【前編4】からの続きです是非下欄【前編5】をお読み下さい☆

 

yoshiko-通勤上半身.jpg  翌朝 先生を最寄の駅前まで車で送る 先生は濃紺(deep navy)のスーツで四角い大きなエルメス バーキンの黒皮ショルダーバック 昨日とまるで別人貴賓さえ感ずる、

駅前広場の駐車スペースに車を止めると 運転席の俺の肩に手を置き 「レース頑張ってね!」 にこやかに車を降りた 「うん!先生も気を付けて」 「ハーィ」 と返事をしながら先生はその場に立ち止まり

 スマホで職場であろうメールの確認を取りながら おそらくここ二日間は外部や仕事など重要な連絡が有るだろうに、俺に悟られない様に心掛けていたのだろう、どれだけ先生にとって大切な時間を俺の為にと考えると内心嬉しく思った、

 俺は先生の気を解す為に先生に向かって声をかけ 「・・先生!今朝は営業用の顔ですか?」 先生は怪訝そうに振り向き悪戯坊主を叱るように 「もーぅリュウたら!・・それにリュウは私の常識を見事に壊してしまったわ」「それって俺が非常識って事?」「違うのよ 余り常識に拘ると 何の変革も生まれないって事・・それより気を付けて運転してね」「うん 先生も」

 一度駅の改札口のエスカレーターに向かっていた先生が忘れ物でも思い出した様に踵を返し 俺に歩みよりニッコリと まるで自分の子供でも送るように運転席の窓枠に肘を掛けた俺の手をとって 小声で 「ねぇ 何か二人って いいわね! 心が暖かく楽しくなるわ」 何だか母親みたいに思えた「フッフ・・・」 俺はただ照れ笑いを返した

  先生は確認を取る様に俺の手を確り握り「行ってらっしゃい! 本当に気を付けて いいわね!」 「うん!じゃー」

 車から見送る俺に背を向けて、朝の通勤の人混みに塗れ駅のエスカレーターを上がる先生の姿が見えなくなるまで暫らくの間見送っていた、

 俺はこの女性の包み込む様な優しさと暖かさをもっと感じていたいと痛切に思い初めていた。

 その足で本牧の自分の部屋に戻り 着替えやレースに必要な物を揃え、先生との事を伝える為 久し振りに母の所で一晩泊り翌朝富士に向かう事にした。

  俺の実家は横浜根岸の高台、記憶には無いが以前 競馬場跡付近にある、俺のマンション本牧からすぐ坂を上がった所で坂を下れば元町にすぐ出られ 左に下れば伊勢崎町 真っ直ぐ行くと港の見える公園と外人墓地。

 母とゆっくり夕食取りながら話す事は久しぶりである、

 俺は一息入れて 改めて台所で夕飯の支度している母に声をかけた 「ねー おかーさん」「うん!な~に?」 少し躊躇したが母に離婚した妻(美奈子)の担当医 鶴見先生にひょんな事で再会し親しくなり当時世話になっていた事など 料理の手を休め怪訝そうに聞いていた母に説明し

 少し改まった表情で「それでね」俺の次の言葉がないので不振顔で 「どうしたの?」 「うん・・俺・・まだ先生には確かめていないけれど 先生と結婚しょうと思ってるよ」 母は驚いた様に俺に向き直り 「エッ!結婚!」

 母はきっと複雑な思いであろう、不安げな顔つきで言葉を選び慎重に 「おまえが決めた事だから反対はしませんが・・住む世界が余りにも違うでしょう?・・女性は 男と違い傷つき易いのよ、もう泣かす事は絶対許しませんよ・・五つも年上の事考えて、一生この先 その方を責任もって守っていけるの?」

 「・・あぁ・・」  「二度と同じ間違いをしてはいけないよ!おまえは直ぐにその場の感情に流され易いから」 「・・」 「解っていると思うが結婚は其の方の人生に責任を持つ事だよ!・・だいいち その先生の気持ち聞いていないでしょう?」 「もう~ 解かっているよ!」 しばらく重い沈黙が続いた 「・・兎に角 近い内に其の方連れて来なさい」 俺は首を縦に振り「うん」母は口ではきついが受け入れてくれた様子だ、内心俺は ほっとし嬉しかった。

 又 これも言い辛いが 俺のレース再開と今週からビックレースにチャレンジ出来る様になった事を報告した、何れは判ってしまうだろうが 今は流石に別れた奥さんの父からスポンサー援助の事は話せなかった。

 母はお金の事も薄々気付いていたのかもしれないが その事には触れず諦めた様子で 「お前は誰に似のか?一度決めたら全く聞く耳を持たないから、あんなに安定した会社も辞めてしまって 本当は母も危険な事は反対ですよ、それに結婚を決めるのには相手の女性の事も考えなさい どんなに心を痛めるか 前の事で解かっているはずでしょう、とにかく! よーく考えて 気を付けてやりなさい」。

 叱られたが 一応了解を得た、やはり母特製の散し寿司と稲荷寿司 肉ジャガは美味い、まだ俺の部屋が其のままにしてあり いつもながらベットのシーツは洗い立ての糊のきいたものが用意されていた 

   《富士スピードウェイ》 Fuji Speedway round 4 (06/28)  

fuji.jpg 今年設立 開校したばかりのジャパン・レーシングカー・アカデミー(J.Rc.A)のスクールオーナーで有り 同校のレーシングチームの監督である北原から、今年のレースは全部で8戦、前半3戦は先輩レーサーがドライブしていたが、家庭の事情でレース活動を辞める事になり そのため資金難も有り急遽スポンサーの収得を条件に俺の起用となった。

 この第4戦6月から俺にとってはビックレースのデビュー初戦になる。 気持ちも高まり何時もの集中を取り戻し始めた、レース期間中はメカニックやチームクルー達はスピードウエイ内のホテルに宿を取るが 俺はパッドク裏に預けてあるチームのキャンピングカーの生活になる、ホテルでも良いが車の中の方が落ち着き気を使はないですむ それに経費の節約でチームに貢献になり、食事はレース場内のケータリングやレストランで何時でも取れ風呂やシャワーも何時でも使用出来る。

 レーシングスクール-5.jpg翌日朝、横浜海老名から東名高速をへて 監督とメカニック・エンジニア達それに手伝と実技のための生徒達 御殿場で ジェイ・アールシィ・エイ (Japan RacingCar  Academy)のマイクロバスと合流し例のメカニックが俺の車に移動 エンジニアの無口で考え深そうに俯き加減に挨拶を交わす井原くんに運転を変って頂き俺は後部席でサーキットまで休む事にした 処が孝ちゃんが何を思ったのか俺に寄り添う様に乗り込んできた、

 俺は思わず 「あーぁ」 ため息がでてしまった、 孝ちゃんは俺の顔すれすれにせまり 「何よ!そのため息!」 俺は笑って誤魔化し孝ちゃんの顔見て「今日は眠いんだよ」 「ふふっ 私が見守ってあげる」「これじゃー眠れそうに無いよ」「なんでぇー」俺は笑いながら「それが眠れない原因だよ」「もーリュウたら!」

 今週末の天候は余り芳しく無いがチームの皆 始めての俺の走りに期待を掛けて居る様で少しプレッシャーを感じつつ東名御殿場から富士スピードウエイに向かった。

孝ちゃんラブ2.jpg 車の中で 孝ちゃんが変らず明るく軽いトーンで話しかけてくる 「ねー リュウ? 毎回ビリで走っている人如何して未だ走るの」 始めは質問の意味がわからなかった 「?」と云う顔で孝ちゃんをみる 「いつも最下位で辞めようと思わないの?」 孝ちゃんはもう何年レースに参加している

 「う~ん 人其々考えが違うが 俺だったら何時かは必ずトップに立ってやると思ってやっているよ、少なくとも皆そう思って戦っているのでは?中には趣味でやっている人もいるのかも」

 「でも 明らかに実力に差がある事解らないの」 確かにお金に恵まれ そう云った人も いないでは無いが「おいおい!そこからが重要だと思うよ なにくそと思い相手の走りを研究して来る人 諦める人 幸ちゃんだってそうでしょう!、皆より俺が早く走れる様に調整研究して誰にも負けないメカニックを目指しているんだろう?」

 笑顔で 「まーね 私機械が好きだから それに機械は裏切らないからね」 「まーねって!孝ちゃんに俺の命預けているんだよ ネジ一本でも緩んでいたら俺オシャカ!だから頼むよ、・・何が有ったか知らないが俺だって初挑戦だし一番ビリになるかも?・・孝ちゃん脅かすなよ 頼むよ!」 孝ちゃん誰かに裏切られたのかな?

 孝ちゃん可愛い顔で真面目に俺を見詰める 「リュウの為だったら頑張れるわ 昔の評判聞いているわよ、ダントツの連勝だったってね ビリになる訳無いでしょう?・・如何して辞めたの?」

 孝ちゃんが怪しい目つきに変わって 俺は慌てて目をそらし車の窓から遠くの山並みに目先を移した「まぁー 勝為には車の改善に 個人の資金繰りも限界で色々ね、・・それより以前の車と今のでは全然パワーが違うよ! レギュレーションだってレースのクラスも今までより上のトップクラスでマシーンの性能も格段良くなっているから それに 俺このクラス初めてで不安だよ!」

 察しの良い孝ちゃん 俺が本音を打ち明けたと思ったのか 嬉しそうに それ以上は触れず 「まかしてよね!リュウの事好きだから 私も命掛けちゃう」 俺は苦笑しながら 「孝ちゃん 命掛けなくていいから、然りネジの締め忘れ無いように 俺の命守ってよ 頼むよ!」

 運転席の井原君も 俺が話しかけなければ自分から積極的に話をする人ではないが 言葉を一つ一つ選ぶ様に思案深くぼそりと話に加わった 「孝ちゃん!龍崎さんはミスの無いように 確り点検して欲しいと云っているのだよ」 孝ちゃんは丸く大きな目を益々大きくして 「それぐらい解っているわよ リュウが素敵だから 解るでしょう!」

 何時も黙って聞いている井原君珍しく 「又!泣く事になっても知らないよ!」孝ちゃん益々驚いた顔で「もう泣いているわよ リュウ冷たいから!・・もうー!リュウたら狸き寝入りしているよ」

 井原君何時もなら それ以上関心を持たないのに、今日は何か違う 「龍崎さん戸惑っているから困らせては駄目だよレース何処じゃなくなるよ」俺は可笑しくなり「俺 孝ちゃんの事好きだしマシーンの調整の技術力すっごいと思っているよ だけど ごめん! 俺女好きだけど俺の好みとちょっと違うな!」

 「もうー解ったわよ!好みに合う様にするから どんな女が好き?」 井原君 珍しく冗談で「こりゃ駄目だ!重症だよ」と井原君 何を云っても駄目だとの思いで 俺と見合った、きっと井原君も孝ちゃんをチームのメカニックとして認め大事に思っている事が俺には伝わってきた。

 時々並走する我がチームの他の車の窓からも お互い話が弾んでいる様子で楽しそな笑顔が見えている、そんなこんなしている間にもう富士スピードウエイ入り口のダンロップゲートが見えてきた。

クミちゃん.jpg 俺らの弱小チームでも監督兼オーナー(北原)メカニック兼エンジニア(井原君&孝「コウ」ちゃん)この二人のマシーンの調整能力は他のチームに負けないくらい素晴らしい、それにマネージャー権雑用の竹田君(通称タケちゃん)紅一点 白のダブルボタンで少しショートのシャツ セクシーなへそ出しにパンツルック 事務兼タイムキーパーや雑用などをこなす久美子(クミちゃん)計6名、その他監督が経営しているレーシング・スクールからの体験を兼ね生徒のボランテアの6人 後はスポンサーからのレースークイン3名 チーム全体では略12、3名位になりレース当日にはスポンサー関係者などでけっこうな数になる、

 他の一流チームはレースードライバー2名 レースカーの予備も含め3~4台 従事する従業員に其々作業割り当てが有りスポンサーの数も多く大チーム俺らの余に3倍から4倍以上の人員である。

 富士スピードウェイに木曜の夜には各チームが集まってくる大型トレーラー3・4台でマシーン(車)や工具 テント 椅子やテーブル等スポンサーの宣伝用商品まで持ち込み、金曜朝には各チームごとに決められたパドック(発車待機所)で準備を整える為に大忙しだ、当然俺達も準備に追われケータリングのお弁当を取りよせ 準備が一応終わったのが夕方の7時を過ぎていた、皆 準備やマシーン調整に疲れた様で早々にシャワーを済ませ疲れの為か余り会話も無く食事が終り それぞれ宿舎に戻った。

北原 監督あ.jpg 翌金曜 街中と違い少しは標高が高い為か朝靄が立ちこめていたが清々しい朝を迎えた、場内のレストラン朝食はバイキング 我らのチームクルーも他のチームも続々レストランに集まって来た

 我がチームの人々が集まった中で監督の挨拶が有り 「皆さん おはよう 今回から皆も知っての通り新しく龍崎君がドライバーを務める事になりました、今まで通り力を合わせ戦いましょう、龍崎君挨拶を」 やはりチーム監督だ!渋めの顔で挨拶、長い間ファクトリーチーム(factory team)の所属で経験と知識が滲み出る話し方である、チームの皆の引き締めになる 挨拶の最後に予想すらしていなかった 俺に挨拶を振られ戸惑いと何を話してよいか 頭が真っ白になり 暫く無言が続き 監督の催促の目が痛く感ずるばかりだ

 俺はこの様な場面わどうにも苦手だ 俺は少し照れ笑いでごまかしながら首に手を当てながら少し下向き加減で挨拶の言葉を探すが気の利いた言葉が浮かばない、それでも俺は言葉に詰まりながら 「はい・・えぇー これと言って改めて無いのですが これから ”リュウ” と呼んで下さい、何分にもFJレースは始めて 何もかもが始めての経験になりますので 至らない処は遠慮なく注意して下さい、もう一部の皆さんとはコミニケーションが取れていますが 新しく参加してくださった皆さんどんな仕事であっても 将来役立てる事が出来ると思います、チームが一つなる様に頑張りましょう!、どうぞ宜しくお願い致します」 食事に集まった他のチームや以前からのレース仲間から祝福の拍手や野次があちこちから飛ぶ、

 監督とは何時も電話かレース場 又は出先のスポンサーの会社で商談時に待ち合わせていたが 未だチームの事務所に訪ねた事は無かった、

 そんな訳で 我がチームであるのにクミちゃんとは電話応対の声だけで タケちゃん(竹田君)に至っては初対面である、そんな両人が顔見せと挨拶にやって来た、クミちゃんは話し方も優しく大企業の受付や秘書の教育を受けた様に確りした受け答えであり 二十歳を過ぎた位で顔も色白で面長の美形でスタイルも中々 特にヘソ出しルックが目を集めた、

 タケちゃんは良い意味での青年くささが残っているが 何事にも真面目に取り組む姿は好感がもてる 俺より少し年は若いと思われるが 俺と違って中々の達弁である、臆することなく俺を褒め倒す様な挨拶を交わすが 話が面白く何故か憎めない奴だ、監督がタケちゃんを採用した理由が解った様な気がした、続いて我らチームのスポンサー達やレースクィーン、キャンペンガールやその他監督の知り合いであろう女性も交じり10・1・2人ほど挨拶を交わす

  食堂に入った他のチームの人達も このクラスでは新人レーサー興味深げに視線を受ける 大半は以前からの仲間や知り合いも沢山いて ”ヨォ!リュウ戻って来たね 頑張れよ!とか お手柔らかにたのむよ!” 等の声援があり 皆さん拍手で歓迎してくれた、俺は照れ笑いをしながら軽く手を振り頭を下げ答えた 少し気恥ずかしい思いをしたが一時の事、皆の歓迎がとても嬉しく思った、

龍崎ハイ.jpg 合わせ向かいに座った監督 ファクトリーチームの経験とレースへの情熱が眼鏡の奥でキラリと光り俺を圧倒する様に見詰め 「リュウ! 食事終わったら運営役員と各チームの監督に挨拶だ」 「あ!はい どうも苦手だなぁ~」 「リュウ! 行かなければ だめだ!」 孝ちゃん慌てて口を挟み 「私リュウと一緒に行ってあげる」

 空かさず 監督の声が響く「孝ちゃんは井原と挨拶がてら他のチームの偵察だ、何か新しい事が有るか勉強がてら何気なく聞いて来い 遊んでいる暇はないぞ! お昼は弁当になる 各人何にするかクミちゃんに注文をしとけよ」 孝ちゃんは不満そうに 膨れ顔で 「は~い」 俺と監督は各チーム監督に挨拶廻りし、もう俺の噂は大分流れている様だ それに以前からのレース仲間や知り合いもかなりいて励ましの言葉を掛けられ意外と挨拶も楽に終わった。

 俺は事前に イメージトレーニングの為にノートパソコンに取り入れたコース取りの再チェクを行い もう一度 気分転換も兼ね1時間位実際のコースサイドを歩き確認を取る、コースはドライ 路面もまだ新しく悪くは無い例によって各コーナーでのブレーキングポイントとクッリピングポイントの目標チェックと最速コースの再確認を行う (実践では他の車があり理想のコースを取ることは かなり難しいが常にベストコース採る事に努める)

  パドックに戻り昼食をチーム・クルー達とお弁当を食べながら雑談後、マシーンの調節を手伝う、その頃、我がチームのスポンサーで営業の人達や監督のスクールの生徒達も研修も兼ね見学に集まって来て我がチームのピットも賑わっていた、其々挨拶を交わす

 井原君が真面目そうな顔をして 聞き取り難い低い声で 「前のドライバーの人は乗る時まで全然顔も出しませんでしたよ、それに比べるとリュウさんは的確にマシーンの状態を伝えて 調整し易いので助かります」 孝ちゃんも慌て同意するように 「それに リュウに命に関わると云われ、ネジや孝ちゃんタイヤ交換3.jpgナットの一本まで気を入れてチェックし締め直しましたからね」

 俺は癖でコックピット辺りを手の平で2,3回押しながらマシーンを軋ませ 何を確かめる訳ではないが そうする事で何か安心を得られるから 「井原君!孝ちゃん!大変な作業ありがとう」 孝ちゃん唇を突き出し両目を同時に閉じる不思議なウインク 「ウッフン!リュウの為だもの」 俺はこれからも皆に沢山のお願いも兼ねて 「俺も機械物が好きだからね!それと この方が気持ちが静まるよ まぁーこれからも迷惑でなければ勉強の為に手伝わさせてよ 二人とも何時でも声かけてね」

 本当は機械も好きだが、このマシーンを自分の体の一部にする為の俺の儀式の様なもの..機械に接する事で愛着を感じるのだ..それに此のクラスになると、決してドライバーの技量だけで勝てるものでは無い総合力だ、

 監督の張りの有る声で 「今日から 一日目のフリー走行(practice)が始まるぞ リュウ時間だ! レーシングスーツに着替えて来い」 何か一瞬に緊張感が走った 「はい」 ピットの後ろに駐車してあるキャンピング・カーでレーシングスーツ(オーバーオール)に着替える 俺は毎回儀式の様に車内にセットしてある 鏡の前で着替えた服装をチェックし 大きく三回ほど深呼吸し身なりのチェックを行なってピットに戻った

ピット.jpg ”さーぁ やるぞ 気合を入れて行こう!” 誰ともなく吐いて、マシーンに乗り込み、タケちゃんと孝ちゃんに6点式シートベルトを肩に食い込ほど思い切り締めてむらい、二人にポンと肩を叩かれ 両者から親指を立てながら ”グットラック!” と声をかけられた

 「なんだよ孝ちゃん 英語かよ」 「今はこの掛声が一番合っているんです リュウがんばってねぇ~」 「おぉー孝ちゃん その声なにか力抜けちゃうな」 俺も親指を立て挨拶した「もう~ リュウたらぁ~」 「分ったよ ごめん 宮ちゃん 孝ちゃん、昨日から徹夜に近い調整作業 有難う 頑張るよ!」 宮坂君と孝ちゃん二人とも頭をうんうんと振り指で VサインやOKマークを示した

 ・・さー いよいよだ!、初めてのマシーン 冷静に行こう..ヘルメットを被りドライブ用グローブを指先一つずつ確かめながら確り着用、メカニックの宮ちゃんが予備バッテリーを繋ぎokサインを出す、俺は目を閉じ大きく鼻から空気を込み口からゆっくりと息を吐出し目を開き、マシーンのスイッチのカバーボックスを上げ開き 祈る様にスタータアーボタンを押した、

 ”キュルキュルキュル・・ヒューフホォーン、フホォーン、ヒューンフホォーン” 腹に沁みるレーシングカー特有の高回転高圧縮の甲高いエンジン音が快く体に響く、待ちに待ち望んだ恋人に逢う様にステアリングを愛しげに握り、逸る心を押さえ しばらくエンジンのサウンドに酔い痴れる、宮ちゃんが乱れの無いエンジン音にホットした顔でバックミラーにOKサインを送ってくる、俺は右手をわずかに挙げ了解のサインを送り 心の中で愛しいマシーンに向かって 「機嫌良く たのむよ!」 と語りかけ静かに目を閉じ俺の闘争心も徐々に高まってくる。

 話は違うが今 F-1の世界ではこのエンジン排気流まで空力リヤーウイング(DRS・ドラック・リダクション・システム)に使う凄ましさ、又ブレーキを併用して発電(KERS・キネマティック・エナジー・リカバリー・システム、運動エネルギー回生システム等、今では省エネでターボチャージャエンジンに電器モーターを併用MGU-Hして鎬を削っている)に使いその力を動力として利用する世界だ、  

 これはバレーやダンス等に使われる言葉だがカー・レースでも使う足の指先と踵でブレーキとアクセルを片足で同時に操作しシフトダウンやアップのときギヤーをエンジン回転とシンクロさせるが今では全てコンピューターで管理されていて”ヒール& トゥー(heel & toe)”は過去の物になり始めている、マシーン開発に凌ぎ合う物凄い世界だ! FN(フォーミラー・日本)では日本のカー・レースの底辺を広めようとチャーシ(ボディー)の規格を一定にマシーンの開発費等を抑えF-2.gifているが、開発の速さは日進月歩、まだまだ変化が早くコストがかかり大変だ。

 大会の運営委員のゴーサイン合図で 我が監督の手が上下に振られた スタートだ! 俺は右手を上げ監督に向って親指を立て合図を送る、ステアリングに配置されているピットレーンリミッターボタンを押しステアリング・バドルでギヤーを入れ慎重にクラッチバドルを押し込みアクセルを踏み込む

 マシーンはパドックをゆっくりと走り始め、ピットレーンを安全のため規定速度にて通過、レースの本コースに入りリミッターを解除し第一コーナーへ始めの周回はRPM(エンジン回転数)ダイヤルをバーンアウトにセット慣らしとタイヤを適正温度まで上げ粘着度を高める、タイヤの空気圧も適切に上がり 監督との無線通話も先ず々、コース取りの確認を頭で描く ステアリングボタンで通常ドライモードに戻し ステアリングパドルで序々にシフトアップをする、水温 油圧 のチェク異常なし、最終コーナーをアクセルを踏み込み徐々にスピードを上げながら直線に向かって立ち上がる、確かに今までレーシングカーとは明らかに違う強烈な馬力だ! 監督からの予選タイムアタックの指示がイヤーホンから聞こえる

 よし!いよいよだ 最終コーナーをアクセルを床に張り付くほど踏み込み 速力を増しながら立ち上がる、長い間 檻に閉じ込められた狼が今までとは異次元のパワー得て 解き放たれ獲物を追うかの様に、軽快な排気音を残しスタートラインを全速力で駆け抜けるマシーンと俺に取ってのベストラインを各コーナーぎりぎり フロントタイヤが縁石をはみ出すまで攻める、

 頭で描いたライン通り正確にコーナーを攻め最終コーナーでは 今までの体験より増した 最大横Gが俺に襲い掛かる マシーンが遠心力で外側に流れバランスが崩れた! 微妙にステアリングで調整 緊張と集中時だ!アクセルを緩める事無く何とか立て直し通過出来た、初回としては まずまず ピットに入り タイヤの内外側の減りや温度を見ながら再度メカニックが足まわりの調整、

 今度は集中して最終コーナーのラインを少し変え再挑戦 二度目は最終コーナーでブレる事無く走りきる ”アジャスト アンド アタック” を三回行い、ベストラップを見る1’27.66秒、13組出場中5番手だ、監督はじめ皆 大喜びルーキーとしてはかなり良い成績だ、明日は他のチームも本気でアタックして来る 安心は出来ない。

 俺はこの期間が一番好きだ、レースで勝つ事も大事だがチーム全員一つの目的に一丸となって 心の底でぶつかり合い 喜び 悲しみ 怒り 互いの心をぶっつけ 寄せ合い 分かち合う 一つの家族の様に、主役が何人も居る大チームでは 其々の思惑も有り そうも行かないと思う、久々にヨシ子先生との巡り合いもあり、長い間 死似体だった俺は今この世に この世界に生きている!、実感を強烈に感じていた やっと俺が生き返った やはり俺には この世界が一番 帰って来て良かった!

 俺は 「監督はじめ!昨夜からメカニックやヘルパーの皆さん徹夜に近い作業と努力 感謝しています、有難う御座います」 俺は嬉しさを隠さず在りのまま感謝を陳べ皆に向かって頭をさげた  それを聞いた監督 「リュウ これからが勝負だ! 皆の期待を裏切るなよ!」 俺は照れ顔で 「監督プレッシャー!掛けないで下さいよ」 口の重い井原君が珍しく笑顔で 「リュウちゃんは 機械にも詳しいから、適切のアドバイスで調整し易く助かりますよ」 俺は本音で「レーシングマシーンは本当に其々異なる動物の様に性格が違うから、馬のように調教して自分のものにしなければ 俺はその過程が好きだよ」孝ちゃん得意げに 「だからリュウは熱心だよね 私的にサァー リュウのドライブ癖解ってきたわよ」 俺は驚き顔を作り 「凄いね 何だか恐いよ! 心まで見透かされている様で」 「だってリュウの事 好きだもん 全部解ちゃうわよ」 「おい!おい、有難いが俺 女好きだよ!」 「よく云うわよねー!..解っているわよ それでもいいのよ!」 皆大笑いでチーム全体を和ませている、

 俺は孝ちゃんの話をかわし 「クミちゃんは彼氏いるの?」 クミちゃんとタケちゃんが顔を見合わせる 「はぁーはぁん 竹田君か?」 タケちゃんが頭を掻いている、コウちゃんが 「リュウの事だから もう目を付けたのね、手を出してはダメよ! タケちゃんに頭から水掛けられちゃうから」 まさかそんなことはないだろうが 本当にチーム全体を和ませる奴だ、監督何時もの渋みのある顔に益々重さを増した声で 「サァー 明日は最終公式タイムアタック 他のチームも真剣に来るぞ!これから もっと大変だ 引き締めて行くぞ! 皆 今夜は早く休みなさい」

  《富士スピード・ウエイ予選/決勝 round4》

レースクイン1.jpg 翌日、メインスタンドの後ろには各メーカーの出店ブースにTシャツやワッペン、カー用品、フイルム、デジカメの記憶チップ等々や食べ物屋が沢山出揃ってコンパニオン キャンペンガール レースクイーン等で賑わい始めている、我がチームも一画のブースが与えられ、竹田君とクミちゃん ボランテアの車好きとスポンサーからのレースクイーンが集まり 宣伝ディプレイ等飾りつけで大賑わいだ。

 パドックでは新しく加わったスクールの生徒達 レースやメカニックの体験学習も兼ねタイヤ交換等の指導や練習に大忙し、流石に車好きの生徒達学習能力も高くスムーズに運ぶ、

 他のチームでは常時その倍位のメカニックは揃えている、二日目の公式タイムアタックではコンマ何秒か短めたが他のチームも頑張り一台下がり六番目のスタート位置になってしまった、前回までは十位前後だったようだ 初出場では良い成績と監督に言われ少しほっとした、二日目の夜はチーム全員で夕食会、

 監督はチームの皆を集め 「さー明日はいよいよ本番! 皆さんも力を合わせ頑張りましょう、ご存知でしょうが 今回からドライバーに龍崎君を起用致しました」監督は俺に手を差し伸べながら「リュウは改まった挨拶が嫌いな様なので 其々始めての方は食事を取りながら 互いに紹介を行ってください、では明日の検討を!」

 天気の情報が入りどうやら 明日は雨の様だ、初のデビュウで雨か!" あーぁ 附いていないよ ”、少し不安になるが条件は皆同じと話題を変える、俺は生徒達1人1人に握手と冗談交じりの挨拶を交わし チームの仲間意識を高める事に努めた、

 我らチームに集まった皆さんを隈なく挨拶に回り 最後に馴染みのメカニックの横の席に腰を下ろし リラックスするため井原君に話しかけた 「井原君には彼女いるのですか?」 孝ちゃん 得意げに 「井原さんは結婚しているのよ すごく可愛い奥さんよ なんで私には聞かないの?」 俺は彼しか彼女かわからず 考え込む様に 「う~ん いるの?」 孝ちゃん 「何よ!その聞き方 いる訳無いって顔して..いないに決まっているでしょう! リュウ 一筋だから、もう分っているでしょう」 何だ!俺に振って 「だから! 俺はダメって云ったでしょう」 「解っているわよ! もうリュウは女好きのスケベなんだから、目がレースクイーンにばっかりに行っているんだから ダメよ!」

 生徒達や我がチーム皆大笑い 監督 言葉とは裏腹に笑い顔で 「孝ちゃん あんまりリュウを困らせちゃダメだぞ」 孝ちゃん膨れ面で抗議する様に 「もう監督まで 解っていますよ、明日雨の様うだから締まっていかなくちゃね」 本当に彼の御陰で皆和やかになり 纏ったチームになりそうだ、

レースクイン7.jpg スクールの生徒の一人が俺に質問してきた 「龍崎さんのライバルは誰ですか?、其れと何方のチームですか?」「まだこのクラス 俺は新人だよ 全員 他の全チームがライバルかな?」生徒 「新人って事は無いでしょう 前に噂良く聞きましたよ」「此のクラスになると全員それにこのレースで俺は新人だよ!誰と言う訳では無いよ まあー何時だって自分がライバルかな、先ずは一秒でも自分に勝つ事だよ!」 生徒は驚きを見せ 「凄い!それでは目標のライバルが居ないと言う事ですか?」

 俺は苦笑して 「違うよ!解っていないな!少しでも早く走れる様に 自分との戦いだよ、それに何時だって全員がライバルだよ!、只 レースになったら何も考え目の前の獲物を追い詰めるだけだ! それと他のチームの事は余り気にならないよ 気にしても変えられないだろう、自分のチームに与えられた環境を最大限に生かす事 後は監督のレースの組み立てだよ もちろん俺もそうだがチーム全員で戦っているんだよ」

 生徒不思議そうな顔で何か納得がいかなそうに 「そう云う物ですか?」「他のドライバーの考えは 知らないが、現実はそんなに映画や小説のようにドラマチックな物では無いよ、・・・そうだなぁー 与えられた物や環境を最大限に生かし目の前の獲物を追うハンター  其れが俺にとって一番の魅力かな」 生徒は少し期待外れの答えに考え込むようにして 「そうですか!・・でも何か解る様な気がします」 「まぁー 人それぞれだよ・・ライバルを作りそれを目標に戦う事もいいんじゃないかな」 「ですよね」 きっとこの生徒もいろいろな人の助けがあって戦える事にきずくだろう

 いよいよだな! 日曜日 本番決勝日、夕べは流石に興奮して寝つけなかった、朝食を済ませ 小雨が降っていたが、俺は傘を差しコースの再チェックに出かけた 水溜りや滑り易い所を目標に見立て特に頭に入れコースを点検し歩いた、有り難い事に雨にも関わらず 観戦者が合羽や傘を差し続々集まっている、

 念入りにコース一周しパドックに戻りかけた時、孝ちゃんが息を切らし走って来る 「リュウ お客さんだよ、物凄く綺麗なお姉さんが尋ねて来てるよ」 「誰だろう?スポンサーの人かな?」 孝ちゃんと歩きながらパドックに戻った

ヨシ子来ちゃった.jpg 驚いた事に女医先生が待っていた!先生は俺を確認したとたんに、険しい顔がパット明るくなり俺に近寄り 「リュウ 来ちゃった!..だってリュウの大事なデビュー戦でしょう!」 まだヨシ子と云いずらく 「先生!びっくりしたなぁー!ありがとう この雨の中か大変だったでしょう?」 俺はまさか来るとは少しも思ってもいなかったので本当に驚きと嬉しさでいっぱいであった!

 先生は 霧深くなれない場所への一人旅、緊張した顔で 「ええ 横浜駅から国府津 御殿場まで電車乗り次いで其処からタクシー 周りには人影も無く山道を雨と霧で景色も見えなくなり フロントガラスの水滴を取り除くワイパーの単調に忙しく動く音だけ 何か凄く不安で寂しくなちゃった!」

 「だよね 心細かったよね 本当にありがとう」 俺は本当に嬉かった やっと先生に笑みが戻り 「リュウ 私がハラハラしたり恐がると思って 何も知らせなかったのね?」「 ごめん! 来れるとわ思なかったから本当に嬉しいよ!」 先生は声を潜めて「リュウは二度と前の奥さんの様に・・ごめんなさい でも云わせて! ハラハラドキドキ あんな思いさせまいと思い 私に観戦して欲しいとは云へなかった事 解っていたわ ・・私は大丈夫よ!」 俺は何故か ドキとしながら 「そんな事 考えもしなかったよ、仕事が忙しくて 来てくれると思っていなかったから 本当に嬉しいよ」「ほんとに?」俺は孝ちゃんが興味深げに聞いていたので 曖昧に頭を”ウンウン” 縦に振る、

 ピットに戻り チームの全員の痛いほどの視線を感じた 先生と一体何を話しているのか? 興味ぶかげに眺めている、俺はあわて手のひらを先生に向けて 「皆さんに紹介します、鶴見 佳子(ヨシコ)さんです エート・・・」 戸惑い言葉の詰まった俺を察したかのように 「紹介に預かりました、龍崎の..」  俺の顔を見、少し躊躇いがちな表情で  「・・婚約者のヨシ子です 龍崎共々宜しくお願い致します」 挨拶の後 即座に俺の耳元で小さな声で 「リュウ 勝手にごめんね、これで良かったかしら?」俺はエッエ想わず先生の顔を見直す 真直ぐに俺の顔を見つめる目を見て 先生は結婚を決意した様だ 駄目出しの理由もなく頭を小さく立てに振った、俺は続けて 「そう云う訳ですので、此れから宜しくお願いします」 と二人して頭をさげた

 そうか..なんって大胆で自信のある人だろう! 俺の煮え切れない気持ちを知っていたかのように いずれ話そうと思っていたのだが もし俺が違うと云ったら如何するつもりだったのか? 俺の気持ちを全て知っていたかの様に 驚きも有ったが先生は結婚するつもりなんだ、本音の処 助かったが母の言葉の様に俺は責任が持てるのか?今後のレースに影響するのではないか?別の不安が頭を過ぎる、

 俺達がこんなに急激に進行してしまう何って思いも因らなかった いずれスポンサーの耳に入る事は当然だろうと不安が過ぎったが・・何も悪い事をしている訳ではないと居直る事にしたら落ち着きを取り戻したが 次には先生の為に以前俺の義父の処にはもう次回はお願いは出来ないなぁ と不安が残った。

 監督初めスタフ全員拍手で歓迎してくれ、コウちゃんが目を丸くして 「綺麗な人!この人がリュウの好みの女なのね!・・・メカの鈴木 孝三です、残念だけれど..おめでとう! ねぇーヨッちゃんって呼んで良いかしら?」 「えっ!」 先生は目を見張り俺を見 確認を取り 「はい! ヨッちゃん・・ねぇ 考えて置くわ?」 孝ちゃんは察し良く手を出し「とにかく よろしくね!」先生に握手を求めた、俺も先生がヨシコと呼べと言うから困ってしまったが ”ヨッちゃん” なら呼べそうな気がしたが 余好きではない様だ。

 監督の顔も綻び 先生に握手しながら 「北原です 婚約おめでとう! 龍崎君は何も話していなかったので驚きました、此方こそ宜しくお願いします」付け加えた様に「龍崎君には期待しています」 監督の挨拶に先生は思はず自分の言った言葉に照れを感じたのか 俺の顔を緊張し探るような眼差しで俺を見詰めている、俺は監督に向かって示す様に手を差し伸べ 「俺のチーム監督でオーナーでレーシング・スクールを経営しているよ」と紹介し なお続けて「以前からレースの大先輩で監督と同じチームで走った事が有り、間もなく監督はレーシング・スクールを開設し声を掛けて頂いたもので..」 そんな経緯をへて監督の世話になる事などを説明した、ちょうどお弁当の時間 皆其々自己紹介をして和やかに過ごした。

 監督が気を利かして 「リュウ! ヨシ子さんと一緒にレストランに行って来なさい、スタートは一時半だから一時までにレーシング・スーツを着て間に合う様に」 孝ちゃんふてくされた顔で 「リュウのお弁当頂いちゃうわよ」と俺に投げかけた「いいけど?食べすぎで肥るよ!いいの?」少しは気持ちもわかるが突っぱねた 孝ちゃん外人の様に肩をすくめ 両手を広げ「もー ヤケ食いよ!」相変わらず皆の笑いを集めていた、俺は少しホットして先生を誘いレストランに向かった

 俺達はサーキット内のレストランで昼食を取りながら 先生は 「リュウごめんね、リュウの了解も得ないで とっさにあんな事言って でも私の本当の気持ちよ! ・・リュウ本当にそれでいいの?」 何か先生の意気よいに押されても 悪い気はしなかったが 俺が同意しなかったら如何するつもりだったのだろう そんな事とは裏腹に  「いい(良い)に決まっているよ! それに初めからそのつもりで俺を誘ったんでしょう?」「ええ! ちょっと心配でしたが リュウさえ良かったらって」 「正直ほんとに驚いたよ でも助かったよ! 俺 挨拶が苦手で そのうえ急に俺に振られ 何も言葉が浮かばなかったよ、・・でも驚いたな!本当にそんなに簡単に 俺でいいの?」

 「そうよ初めから決めていたの 以前にも云ったでしょ! 私もリュウが きっとそうしたいと勝手に思って、それに何事にも慎重な私なのに 普通お互いを知るために もっと期間を得てからと考えるのに 自分でも不思議だわ・・何故かじっとしていられず 待っていられなく此処まで来てしまったの!」・・「だから思わず あんな大胆な言葉が出てしまったの・・云ってから自分でも驚いたわ」

 今考えれば母に打ち明けた事態 レースやスポンサーの事も考えずに 自分でも不思議に思った「うん・・俺からも何れ先生に結婚の事話そうと思っていたんだ、俺此に来る前におふくろに合って 先生との事話して来たんだ」 「リュウ 有難う本当にいいのね お母様驚いたでしょう」 「何時もの事だから それほど・・そうだ!近い内におふくろに合ってくれる?」

 「ええ そのつもり心配しないで大丈夫よ、リュウが私にレースの事 云えない気持ち解るけど、一緒に考えましょうって云ったのはリュウでしょう、責める気は無いけれどリュウが前に言った事と同じに一人だけで待っている事の方が辛いし寂しいのよ・・レースは恐いわよ でもリュウを苦しめる事になるから、リュウと同じ夢追うの いいでしょう?」

 ヨシ子良かった.jpg「あぁー これからそうするよ 強いんだね」 「ちがうわ 此処へ来るのだって 霧が出て回りは見えないし雨は降るし 本当に寂しくなったし心細く不安で恐かった、本当は弱いんだから!」 俺の肩によりかかってきた 「分かったよごめん、さ食事して着替えなければ」 「それと さっきコウちゃん こうぞう? 男みたいな名前ね ”残念だけれど” って、どう云う意味?」 「あぁーあれね、アハハ後で分かるよ 気にする事ないよ」 やはり先生も孝ちゃんを女性だと思っている

リュウ横顔.jpg 食事を済ませキャンピングカーに向かい車内で軽くキスを交わした、レーシング・スーツ(ツナギ服)に着替える、先生が手伝いたいと背中から腰に腕を回して来た 「それでは着替え出来ないよ 帰ってからね」 「はーぃ!今大切な時だよね でも寂しかったのよ、リュウの気持ち確かめられ良かったわ、・・さぁー着替えて」 防火用耐熱アンダーウエア上下(厚手の耐熱タートルネックのシャツとタイツ)先生が後ろから手を貸してくれとても楽に出来た。

 「リュウ お守り鎌倉の鶴岡八幡宮で宮司様にお払いを受けて頂いて来たのよ 何処か身に付けて神主.jpgね」 俺は余り神頼みはしないが、お守りの絵柄は流鏑馬だ きっと馬と車を掛けての事だろう、先生からの初めての心からのプレゼント本当に嬉しかった 「ありがとう嬉しいよ 付ける処無いから大事にポケットに入れとくよ」。

 これは蛇足であるが 俺は無宗教だ、これは日本人の良い所だと勝手に思っている 俺だけかな? 人は弱いもの困った時の神頼み それで良い 自分の都合のいい心の神にお願いする事だ、他の人や他の国の宗教を批判するつもりは無いが、そのために争い殺し合い 又人の心の弱さに付込み それを利用するカルト集団まで出てくる始末、単純に考えても何か間違っているが 群れなければ生き伸びれない人間の性なのか?俺は各々の都合の良い自分なりの心の神に願えば良いと思っている、俺は今勝利の女神に祈るだけだ。 話をもどそう、

 ソックスも防火用 その上に此れも防火耐熱お守り.jpg繊維で出来た アンダーウェア上下とオーバーオールのレーシングスーツそして車に乗る時、頭から覆面レスラーの被るようなマスクにグローブこれも防火耐熱用 此れだけでもそうとう夏には暑いそれにレーシングシュウズとヘルメット

 「リュウ 凄くかっこいい! 中に沢山着るのね ROLEX daytona Na116523-1.jpg知らなかった」 「安全の為だよ でも夏はかなり暑いよ」 俺の外した腕時計デイトナを受け取りながら 「本当にカッコ良い!ねー!リュウのこの腕時計 私に頂戴!」

突然の先生の要求に驚きが有ったが「エー!これ俺がレース始めた頃どうしても欲しくて高かったけれど 無いお金出してアメリカの基地に働いている外人に頼んで取り寄せてむらったものだよ、アメリカ国内でも兵士や家族は免税と普通は外国から日本に入る時は品物に税金がかけられるがアメリカの兵士は免税で名目上は俺にプレゼントした事にしているの だから俺にも買う事が出来たの」・・

 「それに男物でゴツイし外側のケースは普通は板をプレスして加工した物のだが、オイスターと言って分厚いシルバーゴールドを刳り貫いて作った物で重いよ 裏に俺のイニシャル入っているから」俺はこの腕時計に関わらず 技術と匠の技の芸術が凝縮された物に愛着感じ先生の要求に戸惑う。

 「だからなのよ! リュウが大事にしていると思ったからこそ頂きたいの! 代わりにリュウの欲しい時計買ってあげるから お願い!」 何故か先生の真剣な眼差しが突き刺さる様に気になって、何か従わなければならない様に思った 「うーん じゃぁーいいよ、代わりは今のところ考え付かないから 要らないよ」 「嬉しい!いいのね、ありがとう!リュウだと思って大事にするわ 欲しい変わりが見つかったら云ってね」俺を意味有りげに鋭い眼差しで見詰め もう一度確かめる様に「本当にいいのね!」 「うん いいよ・・本当に大事にしてね」

 先生は嬉しそうに、自分のカルティエ・パシャ・クロノの時計を外し 付け替えた 「うん大事にする有難う、これ患者の脈拍 計るのにも秒針が見えてとてもいいのよ」 まだ俺に未練が有ったのか 「先生の時計だって値段高いし 脈計れますよ」「小さいから判りにくいのよ これがいいの・・ね!」嬉しそうに腕に付けた時計を左右に廻し眺めている 突然俺の首に腕を巻きつけ 頬にキスをして 「大事にするわ ありがとう! それに この雨大丈夫なの?」「俺にもわからないよ 皆も同じ条件だから」

 「まだ少し時間あるでしょう?」「あぁ 何?」先生は助手席を指さして 「リュウここに座って!」座った俺の両肩に手を置き 真剣な表情で俺を見つめ「リュウの左右の手を重ね太腿の上に静かに置いて 姿勢を良くして 顔を少し下に向け」俺は云われる様に静かに従った「そう そうよ! そのまま静かに目を閉じて、いい 何も考え無いで三分ほど瞑想するの」「俺には雑念や邪心が一杯有って とても瞑想なんて出来ないよ」先生は真剣な表情で真っ直ぐ俺を見て「いいから 目を瞑って 静かに意識してゆっくり呼吸を整えるの・・そうそよ 意識して呼吸をすることで 他のことは忘れてしまうの・・そう そう! はい 初めて 呼吸を意識して! 三分経ったら知らせますから」

 俺は 何かヨシ子から先生に戻った様に思えた それから 静かに目を閉じ待った、なるほど 呼吸に意識する事で他の雑念も忘れてしまった 先生の「ハイ!三分立ちました」と云う声で静かに目を開けた「何か気持ちのせいか 頭がスッキリしたみたい だよ」「でしょう!これからレースのスタート前にやってね 約束よ」「うん そうだね ・・あ!もう時間が・・ さぁーそろそろ時間だ 行こう!」。

 キャンピングカーを出てパドックに向かう途中、子供達のサイン攻めに会う、五、六人サインをし 「ごめんね  もう時間無いんだ また後でね」 「リュウ 人気者だね」 「彼ら誰でも良いんだよ レーシングスーツ着ていたからね、それとレースのプログラムに顔写真載っているから、でもね あの様なファンがレースを支えているから、大事にしなければ」先生にとってはなにもかも珍しく 感心したように「そうなんだ・・一人ずつ大事にしなければね」。

 「このクラス初戦でね 予選で六番目からだよ まぁ 真ん中位の所かな 気合入れて行かなければ!」 「フーンそうなの? ・・ねー この雨でもやるの?」 「大抵は このくらいの雨ではね だいいち こんなに集まって頂いたファンや観戦者に申し訳が立たないよ」 「でも・・滑りそうで恐く無いの!」 「皆に聞かれるが 恐いと思ったらもう乗れないよ」 本音は時として少し恐いと思うが、其処に飛び込まなくては向上は無い自分を信じて走るだけだ、本当に恐怖を感じたら体が動かなくなり危険である もう車には乗れなくなる、 

 幸い少し空が明るくなって来た、我がチームのピットに戻り ヨシ子を久美ちゃんに預け

FujiRyu.jpg グリッドガールにスポンサーからの宣伝用ビッグパラソルを差され、皆からデビューと婚約を祝福と励ましに肩や身体を叩かれ テレながらコース上のレースシングカーに向かい乗り込む、

 井原君や孝ちゃんに安全ベルトを確り締めてむらい 大きく息を吸い込む、誰しも感じる事だろうが この時間が一番嫌いで長く感じる、他のドライバーが百戦練磨の強者に見えるが俺が一番早いんだと自身に言い聞かせ、目を閉じてステアリングを確り握り暫く精神統一し雨のコースを心の中で復唱し 他の不安要素は考えない事にしている。

 いよいよメカニックはエンジンをスタートさせる為のバッテリーを繋ぐ 本番エンジン・スタートだ!、けたたましく全車一斉にエンジンの排気音が響く、多分耳元で大声話ても何も聞き取れない位のけたたましさだろう 俺にはヘルメットと耳栓替りのイヤホンをしても微かに聞こえる、この時ステアリングのボタンの確認や操作の確認は色々有り一番忙しい ダッシュボードに並んだボタンからレインポジションにスイッチ合わせる、メカニックやレースクイーン・グリドガール達がパドックに引き下がり 安全を確認したのちグリーンライトが点灯 前日予選で決められたスタート順位順に各車 ペースカーに従い走り始める、

 初めの周回はフォーメイションラップ 雨の中お披露目とウォームアップ走行が始まり、水飛沫で前が見えない 俺は前車の微かに見えるテールランプを追いながら走る、雨の場合は危険を避ける為にローリング・スタートになる、通常は先導車が判断してスタートの混乱をなるべく防ぎ事故を起こさないためレース・カーを予選順位に走らせながら安全を確認し先導車が退きスタートを切る、

 雨飛沫が視界を遮りコースの下見所ではない、普通はフォーメンションラップは一周で終わるが 今日は雨がひどい為3,4周 様子を見ながらスタートを待ちながら先導車に従い走る、今は天候の悪化 雨が強くなりコースアウトする車が多く 一旦 全車ピットに戻り 運営委員より一旦スタートを見合わせ、中止か続行か様子を見 判断する波乱の幕開けとなった 、

雨スタート.jpg 暫くそのまま天候の回復待ちで、雨が小降りなり空が明るくなり始め 再スタートに決定だ、俺達チームは監督の指示で燃料を満タンにする コックピットを降りた俺に向かって「リュウ これで給油無しで走りきるぞ 無闇にアクセルを踏み込むな」 不思議に思ったが 「分かりました」燃料が少ない方が車体が軽くなりスベリ安くなるが 惰力は弱くなる 一方車体が重ければ一旦すべり始めたら惰性が増し止められない?どちらにしても 危険はぬぐえない!

 俺は慌てて井原君に向かって 「ウイングを元に戻してよ」少しでもマシーンを抑え込む事が必要だ 「はい!雨で滑り易くなったから元よりもう少し立てます」 「あぁ!そうして」 後で監督のこの作戦が当たる事になる、タイヤも冷めない様に再びウオーマーで暖め再スタートを待つ 天候は回復に向かって再び各車ピットロードを走りスタート位置に並ぶ

監督&ヨシ子・ピットにて1.jpg グリーンライトが点き 再スタート、コース上から先導車に従い 本来は温度を上げ路面との粘着度を高めるがその必要は無い レーンタイヤで水捌けを良くする溝が有る為に状況による、

 スタート位置に付く前に一台コースアウトし最後尾からのピットスタートになる 自動的に一台繰上げ五番目位置だ、

 此れまで何回スタートを迎えた事か スタートシグナルが付くまでが心臓が飛び出す位高鳴る、俺の記念すべき再デビューは最悪の雨か前後左右のドライバーが超一流の強豪ドライバーに見える、きっと皆俺と同じだと不安を断ち切ろうと思うがそうもいかない 全ての不安を打ち消す為大きく深呼吸する、

 マシーンを雨用スタートポジションに操作、シグナルが青に変わりローリング・スタート先導車の後に予選順位順に緩やかに続き戦列を作る、雨も小降りになり たぶん一週でスタートだろう コースの終盤 最終コーナーで前車との間隔をつめる、先導車がピットロードに退く 予選一番の車両(FJマシーン)がスタートラインを過ぎた時点でレースの始まりである 最終コーナーを速度を上げながら立ち上がる、

 さーぁスタートだ! ”おちつけ!” 前車に集中する!クラッチバドルを静かに放しクラッチを繋ぎ ギアーを一段上げ徐々にスピードを上げる、

 スタートライン通過! 何時もより静かにアクセルを踏み込む 雨でタイヤがスリップしない様にだ、前車に離れない様に上出来のスタートを切ることができた この時すでに俺の不安は消え獲物を追う狼に変わる、水飛沫で前が見えないが前車に襲い掛かる様に第一コーナーに飛び込む 前車を捕らえた!、横に並び込む 此処が勝負処だ!

 雨.jpg少し相手よりブレーキをギリギリまで遅らせ同時にシフトバドルを二回素早く握り返す2段跳びのシフトダウン、エンジンブレーキを併用し 微妙な車体の動きも逃さずブレーキング勝負を掛けた!、車体半分位の競り合いタイヤのスリップが起きない事を願いながらステアリングに集中しアクセルを静かに踏み込む、何とか前車を交わし前に出る事ができた、慎重にテアリングを操作しコーナを抜け よし! このまま落ち着いて行こう、そのまま抜き去った後続車を押さえ 少しずつ離す事が出来 何週か前車との距離を短締め様と焦りと不安で心が折れそうになり 車が安定しなく 真っ直ぐに走る事さえ一層困難になり前車との間隔がなかなちぢまらない 焦る心と直のコースでの油断を招き コース上の水溜りに乗り 瞬間 車が思わぬスピン! ガードレールが目の前に見え 景色が霧の中を流れる コントロールする間もない  ”あぁー此れで終わり!” と思ったがコースをはみ出す事も無くコース上に一回転、幸い走る方向に立ち直ってくれた  ”..おぉ!ラッキー助かった!”

 幸い後続車に抜かれる事無くそのまま進むことが出来 ホットする、あせるな!自分に言い聞かせ神経を研ぎ澄まし バケットシートから尻と背中に伝わるマシーンの微妙な挙動を感じ取る事に一層集中する 反射的にアクセルとステアリングに反映し何周か走る、

 カーブもなるべく前車の轍に沿い乾いた所を選ぶ緊張感で何時もの倍以上の神経を使い疲れを感じる監督から無線で燃料を持たせろの指示 余りアクセルを踏み込むなの意味、

 途中 又雨がひどくなり何処かで事故が有ったのか?コース脇に立つ競技マーシャル(marshal)により追い越し禁止の旗が振れている 処理の為ペースカーが入り追い越し禁止 少し気持ちを休め緊張をほぐす、

 監督より「雨でスリップ2,3台コースから飛び出した様だ リュウ!慎重に我慢して走れ いいな!」 うるさいな こっちも必死だよ! 俺はコンピューターを動かすアルゴリズムじゃぁー無いよ監督!と言いたかったが監督は冷静で正しい グッと気持ちを抑え出る言葉は違って

 「はい 監督!」全車ペースカーの速度に合せペースダウン 前車に近ずくが後ろからも真後ろに迫って来る、スタート直後状態に各車が犇き合うが規定により其の時の順序を守り抜く事は出来ない 6周回後事故車を片付けコース上がクリアーになりペースカーが退きレース再開だ、

 各車一斉にスピードアップ あせるな!あせるな!自分に言い聞かせ、アクセルペタルをおもきり踏み込み速度を上げたいが我慢 我慢 一瞬のミスで全てを失う ステアリングに集中する、バックミラーに後続が写し出され迫って来る 焦る気持ちを抑え慎重に水の溜まっているコースを避けマシーンを宥める様に走行する、

 監督から連絡 「前の二台がスピン コースアウトだ!、二番手だ!そのまま燃料をセーブしろ!」 「解りました! 前が見えない」 監督「皆同じだ!あせるな!」又もペースカーだ、雨の滴で後続車が歪み擦れてバックミラーに見え隠れするまで迫ってくる 後続車を意識しながら走り続ける、4周後にペースカーが退く アクセルを静かに踏んだり緩めたり、なるべく水の少ないコースを選びスピード慎重に上げ走る、

 後続車と距離とるヒヤヒヤだが相手も慎重で仕掛けて来ない! 周回が長く感じる 後何周あるのだ 「監督!後 何周ですか?」 「後8周 我慢しろ」俺の気持ちは痛いほど解っているのだろう、 長い!レースがこんなに長く感じた事はなかった 雨F.jpgほとんど前が見えなくなった、ヘルメットのカバーバイザーの汚れた最後のステバイザーをむしり取り投げ捨てる、さぁーもう少しだ気を抜かず行くぞ! 後7周、良し一周過ぎた後6周....5..4フーゥ! 何とか燃料をもたせ最終ラップまで来た よし後続車も見えない後一周だ! 高鳴る気持ちを抑え慎重に走り切り 待ちに待ったチェカーフラグだ! ゴールラインを過ぎ思わず 大きくため息が出る ”フー!終わった..まったく! 雨でハイドロプレーニング、氷上との戦いの様だった レースと言うより綱渡りの様な曲乗りと我慢比べのようだ 通常のレースより数倍疲れた” それでも 片手を大きく上げ 我がチームの前を通過!

 監督からリュウ良くやった二番だ! 無線の声がやたら大きく聞こえ喜んでいる様子が解る、この雨でも観客が多く熱心に声援を送ってくれる、俺は手を上げ拍手に答えながらゆっくり一周ゴールの指定場所まで走る

 チームクルーと喜びを分かち合い手を握り合い 「ありがとう、ありがとう」繰り返すしか何も浮かばなかった、先生も涙ぐみ喜んで俺に抱きつき「リュウ!こんなに興奮して歓喜し感動した事なかったわ!」痛い位に俺の首に巻き付いてきた「うぅ!先生苦しいよ」「ごめん つい興奮しちゃった」「 ありがとう! 先生のお守りのせいかな」としか言葉が出てこない、走りきった感動で頭の中が真っ白だ! 孝ちゃんは俺に向かって「先生は両手を合わせ額を押し付け祈り通しだったわよ」と興奮気味に俺に報告してくれた、

 先生は監督やメカニックと俺との無線のやり取りを体験して、まだ興奮した様子で 「レースって監督やエンジニアの井原くん孝ちゃん皆さんの助けがあって 成り立つのよね」まだ興奮気味に話を続けた「改めて本当にリュウの事 宜しくお願いします!」 まるで息子を気使う母親の様にクルー達に何度も頭を下げていた 俺は照れくさくもあり 「先生! 皆 解っているから、もういいよ・・皆!本当にありがとう」

 ラッキーにもデビュー戦で表彰台に立つことが出来た、案の定インタビュウー 苦手だ、俺は ”ただ々我慢のドライブだった、監督の作戦とクルーの皆さんの努力に感謝する” とのべ 早々に退散した、

 この後 全チームと関係者のパーティが有る、ここでは車で帰る人など居るのでお酒は無理に進めたりしない、各チームの交流会が目的で この時ばかりは和気藹々、他のチーム監督から良いドライバー見付けたなの連発、監督も鼻高々の様子だ、

 俺は ”偶々運が良かっただけですよ、 皆さんのチームのドライバーさん凄く早いですよ、俺なんかまだまだです、それに教えて頂く事沢山あります” 宜しくお願い致しますと挨拶廻り、本来なら 自分を売り込むチャンスの場であるが俺の性格余りそうした事をしたくなかった、

 一段落付いた処で俺は監督に ヨシ子さんは明日仕事が有りますから、先に送って帰りますので 後の事お願いして帰る事にした、チーム全員に送られ なんだか気恥ずかしい思いであった、

 帰りの車の中、言葉少なくなった俺を心配したのだろう「運転疲れていない?代わりましょうか?」「平気だよ、先生の運転の方が疲れるかも」と冗談ぽっく云った  先生はカッチンときたのか「馬鹿にしないで!」多分先生は運転に自信が有ったのでしょう 俺は慌てて

 「ごめん 先生だからって事ではないよ、この道はもう数えきれないほど通った道だがら」 先生はつい言い放った言葉の間違を訂正する様に「リュウだったら運転技術に格段の差が有るから 私もほかの子の運転恐い時があるから もっともだと思うよね 」

 先生は何気無く話題を変え 「リュウ 今日のレース 水飛沫であれでは何も見えないでしょう? どうやって走るの」

 「どうて? コースは熟知しているよ 其れに前の車の轍の跡とテールランプそれにブレーキランプ、後は俺らのクラスの同等腕前の人をだから信頼するしかないね、後はー 微かに横の景色かな 雨のひどい時にはハイドロプレーニング現象が起こりコースはアイス・バーン(氷の上)状態に成る時も有るよ、そんな時は中止になる場合が多いかな」

 先生はレースを思い起こす様に前方を見詰めたまま 「とにかく ひやひやものよ もう夢中で手の平の汗でびっしょり、あんなに興奮した事 何年振りかしら リュウが夢中になる気持ち判ったわ、表彰台に立ったリュウ素敵だったわよ」

 「ありがとう たまたまだよ そんなに甘くない世界だから、皆凄い人ばかり! 今日は本当にラッキーだったよ、前車がつぶれ早い人がリタイヤしたからね 走って痛感したよ、やっぱり凄い人たちだね 全然追いつかなくて」

 「それでもかっこ良かったな..それと孝ちゃん?面白い人ね!、あの人 GID? ごめん云直すわね..性同一性障害? リュウの事 好きなのかな?」専門用語なんか出る処なんか先生だね 「・・俺にも本当の処 解らないよ! 孝ちゃんの云っている事 本気か冗談か 解らないよ?・・とにかく良い奴?・・奴と云っていいかな~ぁ? その辺は孝ちゃん自身解っていると思うよ そうやって世間と戦って来たんだ、とにかくチーム全体を和やかにしてくれるし 車の調整技術は抜群だよ」

 「そうよね 彼なりに苦しんできたのよね、皆良い人達で気を使って頂て今日一日で皆さんの好意感じ 好きになったわ、皆と話せる様に車の事もっと勉強しなくちゃぁ・・」内心ただ楽しんでくれたら良いのに と思った「・・」「リュウ それに沢山の綺麗なレースクイーン?に囲まれちゃって少し焼けちゃたな」

 「大丈夫だよ! 先生の様な優しくて綺麗な人いなよ!あの脳内メーカーで調べれば 俺の頭の中は全部ヨシ子ヨシ子で墨の処に少し車かな?ほとんど思考力ゼロになっているよ」

 「ほんと?冗談でも嬉しいわ・・・少し眠くなったみたい」 「本当だよ!朝から大変だったから 今日はありがとう、お守り仕事終わってから鎌倉に行って来たの?」「そうよ! 八幡宮の神主さんが居るうちに 急いで大変だったのよ」「そうなの ありがとう!」先生は凄く眠そうであった「・・シート倒して寝なさい!、もう家まで後一時間半位かかりそうだから」

 暫く無言が続き助手席の先生に目を移すと 微かに寝息が聞こえる 「..zzz」「もう寝ているのかな・・」本当に疲れていたんだ、昨日だって仕事で此処へ来る事だって大変な事だったし

 先生の寝顔を見て朝から電車を乗り継ぎ 雨の中あんな寂しい山へ、俺のデビュー戦だからと一生懸命 俺の選んだ世界を知るために違った環境の人達と懸命にコミュニケーションを取って 初めての経験と興奮 本当に疲れてしまったんだ・・なんて可愛いんだ! 前とは違った意味で先生を守らなければ 今度は俺達の為に心からそう思った。

 先生と俺は似たような環境で育ち 俺は世間と教育者の親に大好きな故に矛盾しているが反発を覚え、道を少し外れてしまって ようやくたどり着いた処が先生であり 又先生自身のこの生き方が 何か違うのではないかと疑問を持ちながら 俺にたどり着き きっと俺だったら お互い心の底から全てを分かち合えると感じたのではないか、

 無事 富士のスピードウエイから到着!マンション駐車場 助手席で眠りに落ちている先生の肩口を優しく揺すって起した「あら! もう着いたの? 朝出かけた時より全然楽で早くついたわ、リュウの運転安心出来たし」優しく俺を見つめ 「 ・・今日泊まって行くでしょう?」「エッ!・・はい」「こんな気持ち生れて初めてだわ もうリュウ!が居ないと毎日が寂しくて!・リュウなんか車の事で 私の事など忘れていたでしょう?」 「そんな事無いよ!有る訳無いでしょう」 「本当に?」「うん そうだよ! とにかく荷物降ろそうよ」 俺はあわてて話題を変えた!

 女の人は何て感が鋭いのか 見抜かれているようで少し戸惑った、確かに先生が来るまで考えもしていなかった 多分先生に関しては安心していたのかもしれない

 「リュウ!洗濯物沢山有るでしょう?持って来て」 「いいよ 帰ってから擦るから」この部屋に入り 自分の家に帰った様に何かほっとした、

 先生は部屋に入った途端振り向きざまに 俺の首に腕を巻きつけて 「リュウ 此処に移って来ない?あれから毎日 会いたくて寂しくて寂しくて眠れなくて 夕方毎日ジョギングしていたのよ」そんな 忘れ方もあるんだ!と思った 俺はそんなに直ぐに図々しくしていいのかと思っていたので「いいの?良かったらそうするけど、明日久しぶりにバイト先米軍基地に行こうと思って、仕事終わったら本牧の俺の処から取り敢えず必要な物持ってくるよ・・本当にいいの?」

 本当に年上とは思えない様な 子供の様に嬉しそうに万遍な笑顔を見せ「うれしい!・・良いに決まっているでしょう、じゃぁー夕食用意して待って居るから リュウはお肉好きだからハンバーグで良いでしょう?

 ..あぁ、俺に優しく待っていてくれる人がいるのだ!愛する人の元に返れるのだ!..幸せの中にどっぷり浸かって それが普通の出来事と思っている人には解らないだろうが これほど嬉しく安らぎを感じた事はなかった、 先生と俺は何と波長が合うのかと思った..昔ならレーシングクルー達と勝利の美酒で一晩中騒いでいたが、今は俺も変った、普通なら何所か高級レストランで二人の出発を祝いたいはず でも誰にも邪魔されず全て手作りで二人の門出を祝いたいと思ったからだと思った、俺には最高のプレゼント!

 「いいね、明日楽しみに帰ろう」 「余り、料理した事、無いから美味しく出来るか解りませんよ、それと遠慮しなくて良いのよ 洗濯物出してね、明日 洗って置きますから」「うん」 「はい、コーヒー出来ましたよ」「有難う リビングで飲んでいい?」

 先生も缶ビールの蓋を開けながら 「どうぞ 私もビール飲んで良いかしら? それとリュウのレースのスケジュール教えて」先生としての一面だけ知っていたが 家の事は何もしないと思っていた 意外と家庭的で驚いた、

 「うん 予定書いて冷蔵庫の扉に張って置くよ、取り敢えず次は鈴鹿で7月11,12日だよ」 「そう じゃあ来週土日 空いている?」 「うん」 「じゃあ 私の両親に会って頂ける? 連絡しておきますから」 「はい 日にちはどっちでも良いよ 俺何か緊張しちゃうな!」返事をして気が付いた おぉ!ついにダメ押しの要求がきたか!これで俺もがんじがらめ! 少し不安を感じるがこの先も先生と一緒に過ごしたいと思う気持ちが強くあった! 「大丈夫よ 心配しないで、じゃあ明日 両親に連絡取っ手おきますから」缶ビールを高く上げ「それと 改めてリュウのデビューと入賞 おめでとう」 先生ビールを一口 「あぁー 美味しい!」俺はコーヒーカップを上げ 「ありがとう」と素直に受け取った。

横須賀基地.jpg  翌朝先生は病院へ、俺は横須賀米X軍基地( FLEET ACTIVITIES,YKOSUKA(通称、Base-ベース)に休みのスケジュールは前もって定出、了解を取って有るので心配は無い、勤務するオフィスに入り俺のボス 大柄でデブでとにかく明るいMr: Samuel(サミエル)通称サムにレースでセカンドポジションで在った事を報告、

 外人は大げさだ、オフィス全体聞こえる大声とアクションで"congratulation"皆も拍手で喜んでくれた、リュウ仕事が溜まっているぞ! 同僚に仕事のスケジュウルを聞き 改善するPCプログラム変更や日本人の事務員の表計算等のPCのアップデートを行う、一通り終わり事務員と雑談中

 「Hi! Ryu, Long time no see you. Do me favor for check my PC?(ハイ!リュウ 長い間見えな かったね、私のPCもチェックして下さい)」 「ハイ ミス パトリシア元Tボーンステーキ.jpg気していましたか?あなたのPCは外人サイドですよデイブに頼んだら?」

 「ちょとだから お願い見て下さい」 PCの画面を見ると、I miss you so much!..invitation to T bone steak dinner at military officer's club..(逢えなくて寂しいかったわ 今晩ベース内の将校クラブ・レストランで Tボーン・ステーキご馳走するから行きませんか?) とタイプしてあった

 とっさに 「So sorry, I have an appointment today, I must be going to another place. If you like next time. ごめん、今日は他に約束があるから帰らないといけないから 次の期会いにね」 ちょと残念そうでしたが 「OK! Next time that.. feel regret」

-、 軍の将校の娘さんで 綺麗で可愛い 時々俺を誘ってくる、同僚の平井君が察しているのか 「デートしたら良いのに! 何かと将校の娘さんだから有利になるよ」

 俺は内心 損得で恋愛出来るかよ!と思ったが 「俺はダメだよ 平井君誘って見たら?」「私ですか?ダメですよ相手にされないすよ」俺は空かさず「なんなら 俺 話してみようか?」平井君は右手を振り「ダメダメ!だめですよ 止めて下さい」 「そうか?、男と女解らないよそのうち誘ったら」 間もなく退社時間になったので、今日は急いで帰り支度をして 

タッチおじさん ダヨ!.jpg有難う御座いますストーリ【前編6】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-28是非お読み下さる事お願いします


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編4】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

    ☆=ストーリ【前編3からの続きです、是非お読み下さい=☆

     《金沢八景島》

  翌朝六時少し過ぎに目覚めシャワーを済ませた、 今日は夕べからの雨も上がり 近くの海の公園から八景島への散歩に行く準備を整え 今日のブランチのお弁当アメリカンクラブサンドを作る事にしクラブサンド.jpgた、 昨日買い揃えたベーコンと鎌倉ハムとスモークチキン(本当はクリスマスの時に使うターキーを使うらしいが)を少し分厚くきり1cm位バターと黒胡椒で軽く炒めておく 次に溶いた卵に これも黒コショウを軽く振り フライパンに流し込み全体に伸ばし厚めに折り返し半熟位にして二つ折りにする 後はレタス トマトとタマネギの輪きり水に少しつけて置く ピクルスなど乗せ合わせ、サンドイッチ用パンもトーストして軽くバター 粒マスタード等塗り重ね合わせ楊枝で押さえ三角や長方形に切る、あとはリンゴやオレンジをランチバケットに入れ準備終了。

 朝のコーヒーを入れている頃 先生が起きて来た「リュウ!おはよう 久しぶりに良く眠れたわ」「おはよう・・」 不思議そうな顔でキッチンの俺を覗き 「何かお肉の良い匂いに誘われて起されたみたい、何しているの?」 「今日は八景島まで散歩しようと思って ランチのサンド作ったから・・行こうよ!」「へェーリュウが!」「俺だって出来るさ」 先生は調理台のサンドイッチをのぞみ込み「美味しそう それで良い匂いしたのね、解ったわ でも・・」

 「なに?・・駄目なの?」 先生は顔を横に振りながら、少し照れた様に 「うんうん、リュウたら前回と違い別人の様に 凄いだもん!」 「・・・」 「まだ体がだるくてジンジンして 余韻がのこっているみたい・・・意外とリュウは女の子と遊んでいたんでしょう?」

 俺は何故か少し同様して「そ・そんな 先生 ”メチャメチャになりたいって” 昨日云ったでよう だから!・・何かあったの?」「・・・ウーン まぁ~ね 久しぶりにリュウと家でゆっくり出来ると思っていたから それにリュウは嘘へたね 直ぐ解るわよ!」 「だから違うって・・・男の本能だよ!・大好きな人の全てが欲しいから」

 改めて俺を見詰め照れ笑いを隠す様ー に 「ホントかな? でもリュウ素敵だったわ!」エッ!そうだったんだ 内心安堵したが照れも有って「また!そう云うと俺が喜ぶと思って・兎に角 冷たいオレンジジュースでも飲んで シャワー浴びればシャッキとするよ!」「うん そうする 」

 そのまま先生はバスルームに消えた・・ 俺は先生に聴きとれないほど小声で 「・・まったく!開放的で何んでもはっきり云う人だ・・」でも嫌ではなく寧ろ爽やかに感じた、俺は何か別に用事か仕事でもあるのではないかと心配したが ホットした、 

 リビングの窓越しに 穏やかな朝日を浴びながらコーヒー豆をゆっくり擦り 優しくお湯をまわし入れ "美味しくなれ" と念じ暫らく蒸らし ドリップしたコーヒーの入ったコップを改めて鼻先に上げて香りを楽しみ おもむろに一口飲んで思わず 「ウ~ン・・うまっ!」 と一人洩らして海辺の砂浜眺めた、

 ・・だから俺も安心出来るのかな・・久し振りに揺ったりとコーヒーの香りと共に 今までと何処か違う罪悪感もなくゆったりとした幸せ感を味わった。

 間も無くシャワーを終えた先生が 「疲れが取れるから」 とバナナと生卵 蜂蜜少々でミルクをコップ二杯ほどミキサーに入れたミルクシェークを二人で飲み出掛ける事にした。

海の公園散歩道-1.jpg 先生はボーダーチェニックにスエットパーカを着て二人してランチバスッケトを持って出かけた 「今日は香水変えたの?、少し爽やかな匂いだね」 「リュウ、鼻も良いのね、これは以前と同じメーカーのミツコと云うの」 「女の子はTPO考え大変だね」 先生は俺に振り向き「普段職場では付けれ無いから楽しむの・・いいでしょう?」俺に同意を求める と云うより自身に言い聞かせている様だ、

 柴町の海の公園の駐車場に車を止め そこから歩く事にした、 夏には海水浴も出来る海辺と砂浜 それと平行に森林の有る遊歩道(ジョギングコースも有る)が八景島までつながっている、東京湾を挟んで千葉房総半島に夏の様な入道雲が浮かぶ 雨上がりの清々しい初夏の柔らかい日差しと風が気持ち良い。

ヨシ子夕べ.jpg 駐車場で朝作ったサンドイッチと先生が皮を剥いてくれたリンゴなどデザートの入った 竹網で出来たランチボックスをさげ車を降り 森林に囲まれた遊歩道を二人してゆっくりと歩きながら「リュウ! 今日は家でゆっくり休もうと思っていたが リュウのいう通り出かけて来て良かったわ・・気持ちいいね!」と語尾をあげる 俺は横に並んだ先生を笑顔で見て「だろう!」

 先生は少し頬を高揚させながら 自身でも夕べの事に余程驚いたのだろう 同意を求める様に 「リュウ夕べは有難う・・凄く安心感があったから、心から裸の自分に成れて・・自分でもびっくりする様な凄い変化を・・・」

 先生は素直と云うのか 少しは知っていたのかもしれないが自分の変化に余程驚きがあったのだと思う 俺はあまりにも率直な話しに戸惑いと照れを感じながら「うん解かっていたよ 先生って何でもストレート云って・ 其の方が俺も好きだよ」

 少し顔を赤く染めながら「リュウだからよ!リュウには何でも話せるし 私の全て知って頂きたいから、それが本当に私達に取り安らぎを与える事に成るからと思うのよ」 「俺 大分遠廻りしたが無駄ではなかったよ・・互いにやっと安心して休める処 見付けられたね!」 「ええ リュウといると安心して自分で居られるの」

リュウ黒T優しい.jpg 「初めの夜る 先生が俺に気を使っている事 凄く感じていたよ、先生の優しさと心からの安らぎが嬉しくて あんなに感動し安らぎを覚えた事なかったよ」「・」「本当に先生に逢えてよかった!」

 「ほんとうに?・・最初の時 前の奥さんの事も聞いていたから 本当はリュウが何も知らないのかなと思って 物凄く恥ずかしかったのよ、でもリュウは繊細で傷つき易い人だからと思い本当に顔から火の出る思いって・ あの事よ!」

 「うんごめん 知っていたけど あの時凄く嬉しかったの、あんなに心から休めた事無かったから 先生の優しさの中に何時までも浸っていたかったから、俺!本当にあんな幸せ感じた事はなかったよ」

 「本当に?」少し首を傾げ疑う様に俺を見つめた 「うん 本当だよ!」 先生の顔がパッと明るくなって「それなら良かったわ..それと私、昨夜 初めて 本当に自分がどうかなってしまいそうで・・思い切りリュウにしがみついても あんな凄い!」「うん」とアイズチをして 先生は初めて余程びっくりする程の体験をしたのだろう 俺は慌てる様に先生の言葉を遮ってはずかしい思いをさせまいと話を変えた

 「世の中の夫婦下手に気取っていないで お互いが欲しく求め会った時を思い起せば離婚は少なくなると思うよ、そのくせ人にはその行為を下品とかいって 子供作っているし・・矛盾しているよ、マリヤさまで無い限りどんな人でも父と母の愛から生まれたんだから」

 ・・「動物みたいに、ただ子供作る為の考えの方が余程不純だよ・・愛が強く有るから相手の全てが欲しくなり知りたくなるの・・先生は そう思わない?」 先生はどのように答えて良いか戸惑いの表情をみせ 「リュウ 意外と語るのね・・うん今はどう答えて良いか・・何でもない続けて!」

 語るなんて言われ事初めてだ!面白いと云うより知性をかんじた それを期に俺は堰を切った様に話始めた

 「人は色々だからって言いただろう..もっと単純になればいいじゃぁない!、人には心が有り愛があるから、自分達にとって寄り良い方法を考えるのが当然、皆環境と育ちや顔も違うし 考えかたも違って当然・・頭を使う人ほど想像力豊かでそれぞれ違いがあると思うよ、食べ物にしてもそれぞれ好みが違う様に」 「・・・」 先生は無言で話に耳を傾けていた

 「本当に向き合って話合う事が大切だと思うよ、それと一方だけを押し付けず二人を認め合い尚、出来れば共有趣味を持てたら良いね、・・ なーんって云ちゃって!」 「・・・」 「旨くは言えないが 俺に似合わない理想なんか言って」

 何故か今までこんな事を話した事が無い 俺自身に驚きと言葉に照れを感じてしまった、もっとも 人のことは云えないけれど、前の人とは散々話し合ったけれど 一旦出来てしまったイメージを如何しても変える事が出来ず 俺自身の全てが壊れてしまうような気がして何も出来なかった まぁー 他人に話す事でもないし 況してや他人の事など云えないが と思い

 俺は 「人って 何千年 何万年 繰り替えされて来た行為なのに何故 素直に話し合えないのかな?それとも余り開放的でも 刺激が薄れる事を考えてかな~?・・・・だから秘め事と言うのかな?」

 先生は これほど話す俺に驚ききも有ったのか 少し途惑いがちに 「フッフッフゥー、秘め事って何か危険な香りがするよね リュウって変わったというか面白い見方をするのね・・・」”先生だって そうとう変わっているよ” と思いながら

 俺は尚も 先生なら俺の気持ちを受け止めてくれるのではないかと思い、俺は初めて自分の存在やこの世界についての疑問をぶっつけて見たいと 俺の考えを話し続けた

 「俺は人間やこの世の中で、この宇宙で生きている生物が生殖を繰り返し、他の生物の命を奪いあい 時には人間どうし命を奪いあいってまで生き延びる それが全生物の宿命かも知れないが?意義がわからない! 況してや人間同士の殺し合いが無かったら人は増え続けこの地球から溢れ出てしまい、地球を食いつくし飢えた人々のもっと悲惨な殺しあいが始まる そんな事に目を背け どんな頭の良い学者や著名人でもそれを解決した事がない!

 子孫を残し続け何億万年後、何時の日か此の宇宙を支配するためか?其れが 俺にとって何の意義や意味が有るのか?、何故俺が此処に居るのか? 俺の存在にどんな意味が有るのか何も解からないよ?・・俺が死んだら どの様に発展しようが 此の世界は消えてしまう、全て無意味ではないのか?自分が聞いたり観た範囲の事しか解らない・・俺の知らない世界で何が起きようが無意味な事だ!

 誰が何かをしてもどんなに立派な事をした人でも 俺の世界の中だ、だから自分だけは特別だろうと思ってしまう!、俺だけは この世の建造の神から何か特別な使命を与えられたと思い 自分の価値を認めたいが為に?!

 本当は何も解らないし 況してや生きている意義など解らないよ、この宇宙や自然はそんな個人的感情や営みには無関係に変化して行き 余りにもちっぽけな存在だから、尚更この世にとって俺とはなんなんだと思うよ!、

 元々 誰が為の価値か?誰が価値を決めるのか?、評論家がもっともらしい価値観を述べるが果たしてその人に価値があるのか?価値観の本当の意味が解っているのか! 生きる為に腹が減るから何の思いも意味もなく他の命を食べつくし、一体何の為に誰に認められたいのか?動物の本能ように他の人より生き伸びる知恵を知る強い男で有ったら、良い女に認められるのか?、いったい基本の価値とは何なのか?、何も無い価値を俺だけは特別だと思いたいだけか..

 でも、そう云う俺も現実には、先生に強烈に引かれ、俺の価値を認められたい為の煩悩だらけや矛盾だらけの俺がいるよ!。

 存在理由も解らない俺が何故?少しでも優秀な子孫を残したいのか?今は生きたいと思い凄く愛されたいと思っている、愛さずにはいられない本能が頭の中を渦巻いている俺がいるよ、全く矛盾だらけで、何の価値も無い煩悩に苦しむ俺が何故生きているのだ?と思うよ

 なんだろう、普段無口な俺がこんなに理屈っほい話、気恥ずかしく普段はとても出来ないのに不思議だ まるで何十年も話さなかったかのように、今までこんなにペラペラ喋り恥ずかしくもなく自分の言葉に酔って興奮している こんな事は初めてだ、俺を理解出来る人に出合ったからなのか!

 先生は優しく包み込む様な瞳で黙って聞いていたが、まるで子供を諭す様に 「神は天地創造を五日間で成し遂げ、先ず天地を創造され 次に光と闇そして7日目に安息とされたと云われているそうよ」

 きっと生きる意義を説明するための聖書の話だろう、その先の話が有るだろうが俺は遮った 「きっと  ”六日目の話だろう、神をかたどった男女を作って産めよ増えよ、そして実を付ける草木を全ての生き物に与える”  だろう そんなご都合主義 俺れには解らないよ!」

 先生は何か言いたげに 「でもね・・・・何でもない 続けて!」 何かを話かけたが説明を避け俺の話に興味を抱いたのか?俺に話を続けさせた

誕生.jpg 「俺は科学的解明により、この世界が出来たビッグバーンで この銀河が出来、太陽との距離がちょうど良く微惑星の衝突合体により燃え盛る星が約46億年かけて、こんなに綺麗な水の星 地球が生まれ、流れ星や彗星の様な箒星が撒き散らしたアミノ酸やバクテリア(aminoacid)に因って生物が生まれた事なら理解出来るけれど、神など信じられないよ!」

 ・・「でも如何してアミノ酸が出来たのか解明されていない、その解らない部分を神の領域としたのか?・・・でも今では化学が進みそうのような意味で神の領域を侵している様な気がするよ」 「・・・」 先生は尚も無言で俺の話を催促する様に顔を傾け問いかける眼差しをした

 「しかもこの宇宙の何億万年のほんの一部でしか無いのに何故、世の中こんなに不条理に出来ているの?ましてや自然は無情だよ!」

 「・・でもね 時々ちゃかり 神様にお願いごとする事あるけどね、俺のは自分に都合の良い神様だけど、自分でも話している事がごちゃごちゃで解らなくなるよ アハッハ!」

 先生は俺を否定するでもなく 「フッフフなにか リュウって ”神は死んだ” の哲学者みたい、何となく納得させられるけれど、私はこの世の創造 ましてや宇宙の事など不思議な事ばかり解らないわ、だからこそ神に委ねるのかも知れないわね」・・「それにリュウが云う様に 宇宙の時間では瞬間な出来事だからこそ 精一杯生きるのよ!・・それで少しでも自分が生きた証しを長く子孫に伝えていくのよ」

 何故か全てを理解して包み込む様な眼差しで受け止めてくれる先生に出遭い嬉しかったが、それとは違って出る言葉は

 「おだてないでよ ”ニーチェやソクラテス” ではないよ、ただ屁理屈屋の ”阿呆イズム” の人だって云いたいだけでしょう!俺は物知り顔の哲学者や評論家が大嫌いだよ」・・「そういえば、俺と同じにニーチェ自身が神の様な強さが持てなく闇の世界をさ迷っていたのだと思うよ」

 「面白い事言うわね、ニーチェの心の中までは私には解らないわよ!」 「・・」 「 ニーチェのアフォリズム(aphorism) をかけたのね・・リュウをそんな諷に思っていないわよ!」 「・・・」 「何でも解っている様な顔をしてリュウの様に悩んでいる人をセセラ笑っている人の方が大嫌いよ!」

 ・・先生は俺に問いかける様に俺を覗き込み 「でもね!今のこの幸せは事実でしょう?」 「あぁーそうだよ!」 俺を確かめる様に 「でしょう!良かったわ!・・それに他の生物は解りませんが ただ生殖を繰り返すだけでは無いの 人は一人では寂しくて生きていけないのよ・・今の元気なリュウには解らないでしょうが!」 「・・・」  「私がこんな事を言って良のか・・兎に角 医療に携っているからこそ不可思議で神秘的な事に沢山出合っているのよ、まるで神の力のような出来事が有るの!」

 たぶん職業がら、お年寄りに限らず孤独に去って逝く人や奇跡的に生き延びた人々を沢山見て来たからだろう 

 先生は力を込め俺に確認を取るように 「リュウ!リュウだって、たった今幸せだって云ったでしょう!一人で感じたり、分かちあったり、する事が出来る?」 俺を覗き込む様に訊ねた 「うん、先生を知った今は幸せだよ!そう思っている」

 「私もよ! 現実にリュウに遭え 切ないほどいとおしく愛してしまった事に感謝するわ、そして今最高に幸せよ!・・愛は人を特別な存在に変えるのよ それだけじゃぁいけないの?」 俺は同調するように 小声で 「うんうん・・・嬉しいよ」 合い槌を打った

 「リュウ・・この世の全てに存在に意義があると思うの、..リュウの云う通り宇宙の力は底知れない物よ、でもねリュウはその様に云いながら  ”俺の命俺がどうしょうと俺の勝手だ”  と自分で生きていると思っているでしょう?」 「・・・」

 「でもそれは違うと思うわ私達は生きているのでは無く 生かされているのよ、そのうえ意味は解らないが地球上の生物達は競って子孫の繁栄を求めているの、それが定めなの!、だからこそリュウや私が此処に存在するの・・

海の公園-1JPG.jpg そして 命は各々与えられた時間、その中で与えられた定めに導かれ この巡り合いの奇跡に ただ感謝し素直に受け入れば良いでしょう..リュウ!」 「・・・」 俺の考えは少し違っていた ”先生それは きれい事だよ!俺は生かされて居るのでは無く生きてる実感が欲しい!” と心の中で思っていた、先生は俺の気持ちも知らずに話続けた

 「私達のこの不思議な巡り逢い想像できた?解明できる?・・」 俺は黙っていては解らないと云うおもいで 「・・うんうん・・」 と首を横にふった、

 「それもこの世にリュウのお父さんとお母さんの愛があって、又その父と母が存在して そうして皆に愛されリュウが生まれたのよ!例外はあるけれど、私もよ同じ様に愛され生まれてきたの・・其の上 リュウと私が偶然再会した事 不思議でしょう?、リュウ説明できる?」 「いや・・・」 俺は首を横に静かに振ってその先の言葉を待った

 「・・それでね先ほど話したように此の与えられた時を大切に伝え生きなければならないの」 「・・そうかも知れないよ、俺も先生に逢え最高に幸せだよ」 それは事実だ!そう思っている

 それに無闇に否定せず俺を確り受け止めてくれる、やはり先生は現実的で何時の間に説得されてしまう、凄いや! 「幸せに思う心、其れが大切な事よ、与えられた命に悔いの無いようにね・・その中で自分なりの意味を見出せばいいんじゃない・・

 それでリュウ、話を戻すはね、少なからず人はね日常の生活の中で性に対して罪悪感を植えつけられて居るの、それはね、愛情も無く性だけに溺れ、子供が出来てしまう事を恐れ、戒め、防ぐ為と思うわ」 ・・・「リュウもう少し話して良いかしら?」 「うん」

 「逗子の海岸で話した時、納得いかない様だったから、リュウの言葉を借りるのなら、この地球上の生物全て、理由は解らないが子孫を残し繁栄させ様として争っている、そのとおりだと思うわ、人でも動物でも子孫を残す為に、心とは別な処で勝手に反応が起きるの、それは健康な証拠、決して悪い事ではないわ、それより正常の若者がそんな気持ちが起きない方が病気か異常よ!・・

 ・・人の本質を見ないで、理論や知識だけを押し付ける大人達が偏った変な道徳を押し付けて、青春期を迎える子供達が戸惑い、悪い事と思い隠してしまうから、歪んだ考えになってしまうの、人が生きて行く上で最も重要な事を避けているの、その時期にちゃんと向き合って話す必要が有るのよ」

ryu & yoshiko 海辺.jpg ..内心、嘗ての俺、心が痛むよ.. 話題を変えようと思い 「海辺に出よう!」 「ええいいわね、行きましょう」

 二人は林の中の遊歩道を抜け波打ち際の砂浜に向かった八景島入り口に続く大橋を目標に、海辺の波打ち際の寄せ来る波と時々遊びながら楽しく歩いた、時々吹く爽やかな風が優しく通り過ぎて行く、俺は悪戯心で先生を波打ち際に押しやった

 「フフ、波が来るよ」 「キャー、リュウ押さないでー濡れちゃうから」 時々大きく寄せる波を楽しげに大げさに避けながら、俺に一層寄り添い先生は話の続きを始めた

 「それでね、こんな話子供じゃないし誰でも知っていると思っているでしょうが、皆疎かにしがちです、リュウはウンザリすると思うが聞いてね」 「・・うん」

 「今では学校でも教える様だけど、先生自身が偏見を持ち本当の意味を余り理解出来ていないと思うわ、だから、教わる者が理解出来ないのよ、理性を教えることは、其の行いを偏見無く見つめ理解した上で説明すべきよ、動物達には自分で育て無くて、子供自身が生きる能力を持っているから、ただ子供を生み続けて強い子孫を残す事が出来る物と・・

 ・・人間はそうは行かないわ、子育てを必要とする動物達もね、子供が物事に耐えれる身体が出来上がるまで親の手が必要なの、其れには子供に愛情を持ち夫婦で助け合い、自立するまで育てる必要が有るの、経済的にも、子供に社会で生きて往ける善悪を身に付けさせなければいけないの、そこでここからが大事な事よリュウ確り聞いて!」 「あぁ聞いているよ!」

 「お互いがただ感情や欲望だけに身を任してはいけないのよ・・・今までのリュウの様な刹那的生き方では本当の愛は決して生まれはしないわ」 「そんな事は無いよ・・・すくなくとも今は」 「本当だったら嬉しいわ・・カーレースが悪いとは云ないけれど・・リュウはレースに逃げているのよ」 「だから!そんな事は無い!と言っているでしょう」 まるで以前の俺を知っているかのように内心、心の中をズバリと突かれた思いであった。

 俺は堪らなくなり、もう一度、先生を波に向かって、軽く押した先生は笑いながら 「もうーリュウたら、だめよ!リュウはそんな事、知っているよって顔しているけど、さっきも云ったけど、疎かにしがちなの!大事な事だから!ちゃんと聞いて」 「うん!」

 「若い時はどんなに駄目だと言っても、沢山恋愛するでしょう相手を好きになる事も大切で自然だが、欲望を愛と勘違いしているの、本当の愛や愛情は互いを慈しみ、その結果を・・其処まで考えなければいけないの、それが正しいと思うけれど・・

 ・・リュウは、行き過ぎ、純粋過ぎるほど純粋の事が、返って人を傷つけてしまう結果になってしまうの、時として、愚かなのも人間よ、..”結婚は一方だけでは無く、自身の体も心も受け入れ、其の上で相手の事を考えなくてわ”..旨く説明出来たかしら」

 やはり先生だ確り自分の意見を述べる たぶん以前の結婚の失敗が何故か教えたかったに違いない、其の場の気分ではなく 確かな愛で家庭を作る責任を求めていたからだろう、よほど子供に見られたのか リュウ愛し合う事は父親になる事よと念を押されている様で何かたまらなくなり

 「 そんな事解っているよ!、・・人を好きになるのに理屈や理性ではないよ!」 「確かにリュウの云うとおりだと思うわ、だから大事なのは其処からなのよ!リュウ解るでしょう?」

 「もー子供じゃないよ! さんざん苦しんだから 建設的なバランスと責任でしょう、こんな時も先生はシュール(surrealisme:f) 超現実的だよね」 流石 先生だね相手が解かる様に説明する事、当時も病院での説明や態度に感銘して尊敬し 本当に信頼出来る人と思ったよ、本当は俺自身 身を持って痛切に感じた事を解ったのであろう

 「ごめん!解っているのよね 説明する事も無かったね、責任感有るし それがリュウの素晴しい処でもあるのにね」 なにか責任を押し付けられたようだ!

 先生は俺の目を真っ直ぐ見詰め 決断した様に「それで 昨夜の事だけど私話す事躊躇ったんだけど リュウに私の全部を知ってむらう事が良いと思い..なんて云ったら良いのか..初めての経験よ! 自分が自分で無いような、ほら、大学生だった頃友達の頼みで女の人が足りないからと浅草で、お祭りの御神輿、担いだ時にアドレナリン(adrenaline)がどんどん出てハイになった時のような、少し違うかな、とにかく今まで感じなかった感覚!..真っ暗な海へ何処までも落ちて行く恐さに、リュウの腕にしがみ付き快感と不安の中で漂っている様な、それが物凄い耐え難い快感になり」何だ!結局俺に話したいのか!

 又、先生は少し恥ずかしそうに言葉を探し話を続けた 「それからも とどまる所が無く襲ってきて、身体中の肌に電気が走り体の奥底から全身の一つ一つの細胞に血潮が沸き上がって一つづつ弾け軈て 絶え切れない物凄い快感が押し寄せ意識が霞んで行く中、別な生物が勝手に動きだして死んでしまいそうな快感の波が寄せては返し何回となくとどまる事無く押し寄せて来る感覚・・薄れて行く意識の中で、貪欲にも、もっと もっとリュウと溶け合い一つ成りたく もっとリュウが愛しく欲しいと思う気持ちで、本当にこのままリュウを感じながら死んでも良いと思ったわ、反面 自分の体が悪魔に支配された様で恐くなったの!」

 「俺だって一緒だよ、なんて素晴しいかと感じ絶対離さないと思ったよ」 先生は少し頬を染め俯きかげんに「本当に?恥ずかしいわ..私、淫乱のようになって・・理性を失い..軽蔑しない!・・・でも本当にリュウ子供が欲しいと思ったわ」

 そうなのか 男と女の違いなのか?俺には正直 子供などの実感が無かった、只々先生の全てを知り全てを俺のものにしたいと思ったからだ

 「馬鹿な事云うなよ!意味が違うでしょう、こう云う事 理性を持ってしている人の方が気持ち悪いし恐いよ、やっと理性を取り払い開放される事が出来、お互い本当の自分なれ初めてこんなに安らぐ事が出来 先生は普段でも美しいのに女性の究極の美しさに初めて触れた思いだったよ、お互いの全てを知ろうと心まで裸になれ一つに溶け合い求め合い何が悪いんだよ こんな巡り合い二度と無いよ、出来る事なら先生のすべてを自分の身体の中に取り込みたいよ、・・なんで卑屈になっているの、俺初めて素直に感動したよ なんて素晴しい人だ!と思ったよ もっと大事にしなくては先生が教えてくれたでしょう? たまには全ての束縛から解放されても良いと思うよ、悪魔では無くそれこそ天使でしょう!」

 俺は先生との空白の時間を少しでも取り戻し、先生の全てを知り尽くしたかったからかも知れないが為に激しく求めたのかも知れない。

紫陽花八景島.jpg いつの間にか海と島を繋ぐ 八景島入り口の広く長い大橋を渡り、正面の大きなメリーゴーランドを過ぎ 丁度季節的時期であろう見事に咲き誇った紫陽花が綺麗である、なだらかな坂道の両脇に紫陽花の咲き誇るあじさいコースを歩いていた、時折 ”綺麗!” 俺を促すようにささやき同調を求める眼差しを俺に向ける、俺はただ頷いてみせる。

 先生は思い起こすように、顔をほんのり赤らめ

 「リュウ やっぱり、あれは悪魔よ!、あの耐え切れない苦しさの中で痺れる甘美さと快感、まるでドーバミン恍惚の嵐中に迷い込んでしまって、嵐の渦に巻き込まれ光を失った暗闇の淵深く限りなく落ちて行き自分が破壊されてしまいそうで恐かったの」

 「それで良いと思うよ 其れに先生はそんな事は無いよ、今だって冷静で自分を分析しているでしょう、もうオキシトミンが出ているよ それとエンドルフィンかも知れないよ、たまには普段のストレスを開放してくれる場が必要だよ、脳は危険を感じると自然に制御する物質を出すんだよ」

 「如何して、医者でも無いのにそんな事知っているの? それに付け加えるなら精神的に健全で健康が条件ね」

 「まあーね、コンピューターでロボット作りたくて 頭の構造の事少し知りたく感情の事も勉強したの、ドーバミン・ニューロン(Dopamine-neuron)とか 神経伝達物質など、それと苦しさとか痛みも快感に繋がるんだよ」 「そうね それで・・本当にそう思っているの?」

 「当たり前でしょう!先生自身が教えてくれたんだよ」 「本当に?..リュウは悪魔よ、もう虜になってしまったわ」 「そんな! めちゃめちゃにしてーって!」 ・・そう云えば、先生の体全体がうっすらと汗ばんでいたな・・ 先生は俺を見詰め 「モゥ~ リュウったら!  其れくらいリュウは 私に悪魔の魔法をかけたのよ!」

 「だから解かっていると云ったでしょう、裸の自分を受け止める此れが本当の愛だよ!本当に先生素直で清清しい位 なにも心配する事では無いよ むしろ素晴らしい事でしょう、女性だって顔が違う様に生まれ持った能力や感じ方も違うじゃぁないの?相手の人が良ければそれでいいんじゃない 俺はなんて幸運な男かって思っているよ・・

紫陽花八景島2.JPG ・・それと頭の良い人ほど想像力があり 高い常識との葛藤があり それが外れたからより強く感じられたのだと思うよ、俺達 長い時を架けやっと出会えたの」だよ、..本当に先生の事可愛いなって感じたよ!」

 先生は俯き加減に目を伏せ 頬をなお更赤らめて 「本当に? うれしい!ありがとう・・こんな事 話せたのリュウだけよ」 「本音を話し本音で接っしようて言っていたの・・先生でしょう!それとその事知らなかったの?」

 「私は婦人科では無いわよ、だいいち婦人科でもそんな事教えないよ 知る訳け無いでしょう、自分の体が恐いような本当に複雑な気持ち」・・「リュウに生意気な事言えないね、私自信心の偏見が有ったのかもしれないわね・・・でもねどんな事が有っても やはりリュウだけにしか話せないわ」

 先生は改めて確認を取る様に俺を見詰め 「ただリュウに喜んでむらえるなら幸せよ」 俺は黙ってコックリと頷いた、 それを確かめた先生は遠くにぼんやり目を移し自信に呟く様に 「この世の中で何人の人がいるのかは判らないが 幾千もの瞳がとめどなく交差する そんな巷でふと見詰め合いたちまち恋に魅せられ運命と言うか選ばれた二人が組み合わされ」(You & I destined soul mate, Fated deepest love that is meant to last)

 また歩いて来た海辺を振り返り俺に向かって 「よし子とリュウの様に これ以上在り得ないほど深く深く とても深く!、これ以上の愛は無いと思うほど!私達は愛し合っているんだと!、本当に嬉しいし喜びと感激と想像を絶する快感の中で このまま全てが永遠に止ってしまえば良いね、この大空に舞い上がる様な精神的開放感 これで本当に良かったと思ったわ! こんな幸せが有るなんて!」

紫陽花-1.jpg 多分、みなと未来での俺達の出会いの事を詩にしたのだろうか?それとも俺に強く訴えたのか?。

 「先生って凄く不思議? 現実的なのにこんなに詩的な処もあるんだ!、何かを我慢すれば何時か亀裂が起きるよ おれ自身が体験してきた事でしょう、誰に迷惑掛けるわけでも無いし お互い苦痛で無ければ助け合うのが当然でしょう、夫婦ってお互い裸の心で助け合う物でしょう!、其れが心から休める事 先生自身が教えてくれたんですよ!」 つい俺は怒りではなく理解されたくて、声が荒くなってしまったのか

 「私だって女よ!こんなに幸せで、詩的になる時もあるのよ、リュウの云う通りそんなに力説しなくても良く分ったわ..それでね 私が年を取って自由が利かなくなったら、下もの世話リュウ以外してもらわないわ」 「それは大変だ!男の方が寿命短いよ 俺がしてむらうよ」 「だめよ、リュウに一生愛されリュウに見守られて一生終わりたいわ、おばーちゃんになっても愛していただける?」

 「ハッハァ!長生きしないといけないな、やはり先生は現実主義だ」 「そうですよ、私寂しがりやだから一人で生きられないわ、本当にお願いするからね 本当よ!」 やはり先生という立場、そうしたいろいろ沢山の人を見てきたからだろうか?

 やっと、俺の曖昧な説明でも 先生は安心し先生自身を受け入れたようだ、..「きっと自分でも解っていない心の奥底で眠っている物が安心観の中で素直に呼び起し解放されたんだよ、もう何処かで不満も感じられないと思うよ もう何も心配すること無いよ..本当に俺はラッキーマンだ、誰かに叫びたいくらいだよ」

山紫陽花.jpg  先生は確りした口調で 「それと、私の周りの世間と云う牢獄と私自身を巻きつけていた鎖を、リュウ 貴方はいとも簡単に解き放し開放感を与えてくれたわ、結婚している世の中の女性 皆こんな幸せを感じているのかしら?」 「さーね? 意外と自分自身の中にある物だよ、一歩踏み出し心を開けば簡単だったりするものだよ」 これは俺自身にも言い聞かせる言葉かも知れない

 先生は本能的に何時も何か掴みきれない心の奥底から湧き上がる物、それがたとえ悪魔?であってどんなに恐くて不安に晒されても知らなければ収まらなかったのでは?常識を超える恐さであっても知りたいと感じていたのでは..そして余りにも自身の変化に不安を覚え話さずには居られなかったのではないのか..そんな話をしている中に穏やかな風に送られ八景島のシーパラダイス付近に来ていた、

 紫陽花が昨日からの雨上がりに一際綺麗に輝き咲き誇っている..まるで先生の様だ、其の時々で色が変り華やかに ある時は清純な真っ白やブルー・シアンの清楚で有り又妖艶で怪しげな紫に雨を求め雨に打たれる度に一層輝きを放ち、やがて真っ赤に燃え上がる情熱的タンゴの調べの様に..俺はヨシ子に時折降り注ぐ雨になり 時には輝く光りになり 紫陽花の様に..先生を!..

 「リュウ 如何したの?急に黙り込んで」 俺は何か見透かされ様で少し慌て戸惑った 「うんうん、紫陽花が、綺麗だな~ぁって」 あじさい祭りも有ってか沢山のカップルが楽しそうに行き交っている、見事な花が咲き誇る あじさいの滝と名前の付いた階段を下り

八景島シーサイド ミージアム.jpg 「あの楽しそうなあのカップルも こっちのカップル達も色々楽しさも悩みが有ると思うよ、・・お腹空いたね! 何所か据わる処決めようよ」 「リュウって突然 話がお腹に行くのね、ネエ~あそこの水族館(八景島シーパラダイス)の入り口近くのサービステーブルにしょうよ」 「じゃぁー そこの空いているテーブルにしようよ、俺 何か飲み物 自動販売機で買って来るよ、何にする?」 「なににしょうかな ジュース? お茶が良いかな..こんな事 今まで無かったわ 後でソフトクリーム食べたいな! 何かリュウと居ると子供に帰ったみたい

 朝準備した、サンドイッチを食べ 「リュウ こんなに近い処なのに私し久し振り、今まで沢山高級なレストランやホテルの会食に行ったけれど リュウと一緒だと全然問題にならない位楽しいし・・凄く凄く幸せ!・・、サンドイッチ凄く美味しいから沢山戴いちゃった リュウと一緒だと太りそう」

ヨシ子解った.jpg 俺は少しニヤ付き 「屋外だから美味しく感じるかも 大丈夫だよ 今晩 俺が運動させてあげるから..、今日は色々考えるのよそうよ 楽しくしよう」 「ウッフ! リュウの云う意味解かる様になったよ! さっきリュウが紫陽花見て あんなに慌てて リュウの考えていた事解ったわ..フフ 今夜一杯お願いしようっと」

 俺は自分で きっかけを作ったのに なにか恥ずかしさもあり「パカ!」と云って先生のおでこを指でつついた、まあー当らずとも遠からずだ「アハァ リュウ赤くなって照れてるよ 図星でしょう」「まあーね もっと意味深いよ」 先生は首を傾げ覗き込む様にし「どんな事どんな意味? そうそう!紫陽花って変化って意味もあるけれど、移り気の花言葉もあるのよ」 意味ありげに俺を覗き見た。

 俺は何故か慌て 「そんなんじゃないよ!」 何処かに罪悪感が残っている俺と違って なんって明るい人だろう。

  先生は言い過ぎたと思ったのか話題を変え 「ねー 水族館でイルカショー見ようよ」 俺は余にも突飛事にしばらく答えに戸惑った 先生はもう一度訊ね 「どうするの?」 「あぁ!水族館なんって俺には関係なく想像も出来なかったよ、子供達が沢山だね」俺は少し迷い「 いい機会だから入って見るか」「私もよ 一人では何か入りづらいでしょ」「だよね」。

 俺は少し気恥ずかしかったが 先生と切符売り場に見知らぬ子供達と並び戸惑いながらキップを求めた、売り場の女性の説明を聞いたがさっぱり判らない、暫く迷っていると 隣に並んだ子供が何を求めたら良いか解らなく思った俺をみて 得意げに大人びて「お兄さん、アトラクション等セットになった方がお得だよ」 母親と何回も来ているのであろう 「あ!そうー 有難う」売り場のお嬢さんに向かって「じゃぁーそれ下さい」 何とか焦りながらキップを手にした、

 その子のお母さんと顔が合い 思わず互いに苦笑していた、俺の戸惑いをみて「フフ!リュウの困った顔見ちゃった!」 子供の様に素直に楽しく喜んでいる先生を見て、連れて来て良かったし そんな先生が居てくれ幸せに感じた

  入り口のお姉さんにチケットを渡し蛍光塗料のスタンプを手の甲に押され 思わず二人して子供の様な笑顔でお互い手の甲に押された蛍光インクのスタンプ見せ合った、入場すると中は薄暗く真正面に見上げる様な巨大水槽に沢山の珍しい魚が群れを作り元気に泳いでいる 左右の壁にはそれぞれの水槽に熱帯魚や海の動物達があちこちに見えた、

 俺はふと思いつき 美しい派手な模様の熱帯魚に見入っていた先生に尋ねた「ねぇ先生 何所か旅行したくない?」「そぅーね リュウ今は駄目なの病院のスケジュールも有るしね、それよりね今はリュウと云う心の大陸を旅をして新しい自分探すの、始めリュウはアメリカ大陸かなと思ったけれどヨーロッパ大陸だね 時々見知らぬ女の子が出て来たり..?」

「そうか そのうち行こうよ ね!如何してヨーロッパなの?女は無いよ!」「そうね、始めリュウはアメリカ的と感じてただ野生的で大ざっぱな人と思っていたけど、リュウと言葉交わし接して以外と繊細で多面的な所が有ると思ったから」

シーパラダイス.jpg 館内の放送でイルカショウが始まることが告げられ、子供達の興奮した ざわめきと共に押出されながら 巨大水槽のトンネルの中をエスカレターで移動し頭上を鰯の大群が銀色や青く光り エイや鮫など泳ぐ中を感動しながら 大きなプールの有る会場に着いた、

 何段もある大観覧席のちょうど中ほどに先生と並んで席を取った、孫と一緒のお婆さんや若いお母さん 子供達ばかりで何か場違いの所に迷いこんでしまった様だ、ちょっと小恥ずかしく思う、

 やっと落ち着き先ほどの話の続きを始めた「やっぱり先生だね 云う事が違うよ、又先生って云ってしまった ごめん」 「リュウに云はれたらくすぐったいね、いいのよリュウが蟠り無くなるまで..今はね リュウと出会い何か新しい自分を見つけられそう!、全てが新鮮で子供の様にワクワクしているの..もう歩き始めているわ、私の中で リュウが導いた新しい出会いも有ったし、少し角度変えて見れば色々見えて来たのよ みんなリュウからの刺激よ」

 「俺、褒められているの?先生の生きた世界と俺の世界が余りにも違うからでしょう」 「そうよ、だから自分以外の世界は認めなかったのよ、それをリュウが変えてくれたの 本当の人間的な暖かい物をね」

そんな会話の中でも 時折ふと見せる悲しげな表情が気になり 「先生!、如何したの心配事でも..?」 「なにか 余り幸せ過ぎて不安で恐いの! このままリュウを駄目にしてしまうのでは無いかとか、リュウがいなくなってしまう様な 時々頭を過ぎるのよ、幸せなのに変よね!」 「先生 俺なら大丈夫だよ!、それより俺の方が先生の人生を狂わせてしまうのでわって」 とは云ったものの、俺自身の方がレースへの不安が過ぎった

 「ちがうわ 私が変えようとしているの、今になって解かったわ 前の奥さんの事持ち出すの嫌でしょうがリュウのレースの事よ、毎日心配になるわ あの時は冷静に考えられたのに、誤解しないでリュウの夢は消したくないの、それと世間の目 もっと強く成らなくては」

 時々ショウの歓声で聞き取りづらい 白いイルカに乗ったおねーさんの演技が大喝采を浴びていた、俺達二人だけが観衆から取り残された様にぼんやり見つめながら 二人の話にのめり込んでいた、

K-ryu.jpg 「確かに危険もあるよ でも普段の生活でも危険だらけだよ、況してや戦場カメラマンや救命隊 登山家 いっぱい居るよ」 「そうだと思うけれど」 「もう会社務め嫌なの 互いに足の引っ張り合いや本心で話さず影での中傷等」「何処の世界でも有るのよ リュウは最と大人だと・・ごめんなさい 今の取り消すわ」俺の険しい顔を感じ取ったのか?「だよね!俺も何度も」俺の後の言葉を遮る様に「ごめんなさい!心無い事を云ってしまって」「誰も同じ事云うよ もういいから!、車の話しょう」

 先生の答えを待たず「レースはね 単純に見えるが 色々戦略も有るけれど全ては自分との戦い、影での汚い工作も無く実力勝負・・走り切った達成感と結果が直ぐに判る事だと思うよ、俺単純だから」 「ま~ぁ、謙遜ですか?リュウは複雑でなかなか解らないわよ」「そうかなー?」 「リュウの話は解っているわ、でも理屈では無いの リュウがレースに取り組んでいる時の輝いている目、そこが好きなの!でも恐いの!」

 「もう走り初めているんだよ、前に進むしか無いよ」 「そうよね幸せすぎるからリュウを失う事など出来ないわ!、リュウの云う様に進むしかないよね」

 「ねーぇ帰りに鍵屋によって私とリュウの家の鍵作りましょうよ 良いでしょ」 「うん そしよう又明日から1週間会えなくなるから」 「リュウ 会いたい時には何時でも来て良いのよ、私だって会いたくて寂しい時有るんだから気を使わなくて良いのよ」

 「ありがとう そうさせてむらうよ、明日から今週末俺のビックレースのデビュー戦の準備も兼ねて明後日辺りから富士に行くから」 「じゃー今晩は私の処に居てくれる?」 歳上のせいも有り、本当にハッキリ自分の気持ちを言う人だが決して押し付けではない所が流石 「先生が駄目と言っても側にいるよ」

 観覧席の人々が立ち上がり席を後にしていた周りの気配を感じた先生が 「あら!・・リュウ!ショウは終わったみたいよ」 俺もイルカ達の演技用大プールに目を移し 「本当だ、俺達も出ようよ」 ・・暗黙の内に此の出会いが、長い時を経なくても、二人を結婚に導く事を予感していたかの様だ・・。 

  金沢文庫の鍵のショップで二人の鍵を作り、駅の近くの喜多方ラーメン店で夕食を済ませ 先生のマンションに帰り俺のレースの経歴を先生に伝える事にした、

  始めは小さなクラブのレースから初じめ本格レースの登竜門富士フレシュマンレース・スカイラインGTRのレース仕様車で出場、その年ラッキーにも優勝 それからランクアップしながら数々のレースに出場かなり良い成果でしたが、

 始めの就職はある電気メーカーの商品開発技術部に配属されたが、 妻が入院それに妻の会社を飛び出した事で資金もままならずレース活動中止に至った事、レース関係者に何とか継続出来ないか相談が有って残念がられました、

 俺の気性に合わなかった事とカーレースに魅せられ、別れた妻と出会いその父の会社に転職したが知っての通りそこも飛び出しレースも出来なく悶々としたあげく、将来海外のレース活動や英会話も含め良いと思い、

 日本政府経由の条件の方が良かったがレース活動も自由に休みが取れないので、交渉して横須賀X軍基地にその時は休ませて頂ける条件で米海軍に直接パートで就職させて頂き、日本従業員の為のプログラムと日本語用PCの設置扱いの指導等を担当等々・・・後は先生に話したとおり

タッチおじさん ダヨ!.jpg 此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【前編5】クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-29》へ続きます是非お読み下さる事お願いね


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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編2】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

      ☆=ストーリ【前編1からの続きです、是非お読み下さい=☆

  《逗子海岸》

 BMW5.jpgラウンドマークタワー横の地下駐車場の俺の車の前で「先生、こんなトラックの様な車に乗ること初めてでしょう?・・ちょっと待って下さい」 と先生を手で制止、

 俺はレース用の車と違い普段愛用している車には余り性能やスタイルにも無頓着で、沢山荷物を運べ力強くオフロード(off-road)も走れる車で在れさえ良く余り清掃もしてないが定期整備はしている

 BMW X5 xDrive30i silver の助手席ドアの脇で先生を制し 俺は慌て助手席に乗り込み散らかしたCDや雑誌等を後部席に投げ入れ手箒で埃を払い 「どうぞ」 と あらため先生を招きいれた、

 先生はにっこりして 少し高めのステップに足を掛け俺に振り向き 「私だって知っていますよ BMW4WD(四輪駆動)とか多目的スポーツ・ワゴンとか云うんでしょう」  女性のわりには良く車の事知っているな助手席に座り込むのを見届けドアを閉めフロント側を回り運転席に付いた

 「ワゴンと云うよりメチャメチャ汚れていますからトラック見たいな物で、 先生! 俺はこの車見たいに多目的で便利ですよ どうぞ何時でも御利用下さい」 ようやく少し落ち着き何時もの俺に戻ってきた様だ! 

 微笑を浮かべた顔で俺の目を覗き込むように 「そうよね 此れから色々お願いしようかな?」 余にも率直な返事が戻ってくるなんて その上覗き込顔が優しく美しい! 予想も出来ずドツキとして俺は返事に詰まり前方に顔を向けた「・・・!」

 ヨシ子は龍﨑の横顔を何気なく見つめ 時折見せる横顔が余にも寂しく愁いを帯びていることに改めて心が動いていた そんな俺の戸惑った顔に反応するように  先生は「冗談ですよ!」と明るく答えた 俺は慌てて訂正する様に 車と俺自身を兼ねて 「いえ!こんなので良いのなら何時でも」 「有り難う・・・・」 先生の屈託の無い素直な返事にホットする

 先生は暫らく移り変わる景色に目を移していたが 先生自身に問いかける様に「ねー ・・何故か?貴方と同じ匂いを感じるのよ・・弟の様な! 私に弟はいないんですけどね」 躊躇する様に話終わりに 初めて俺を伺う様に顔を向けた きっと俺に興味を持ちどんな反応をするか知りたかったのだろう

 多分先生にとって単に別世界に生きている生き物に興味を持った位のものだろうと思い 俺は澄まし顔で 「へー俺! 先生の様に爽やかな鈴蘭の様な素晴らしい香りはないですよ 汗と油の匂いです、それと時々オナラもね」 今度は先生 益々目を丸くして 「ちっ違います!・・その匂いではなく」 俺は してやったり! と顔を綻ばせて 「解っています 冗談ですよ! 人としての感覚や物の考え方がでしょう ・・でも先生とは違うと思うな」

 先生は悪戯坊主でも叱るように 「モゥー 貴方って人は!」 ・・・落ち着きを取り戻し 「いいえ 奥様が入院中少しの期間ですが おおよそ五ヶ月間 貴方を視て話をしたのよ!少しは貴方を理解していると思うわ・・・ それにこの香水 職業上普段は付けられませんが これは私の好きなゲランの夜間飛行と云うの・・どう?」 先生は五ヶ月間と言ったが 会って話したのは数回だったと思う 俺の匂い発言で気になったのだろうが

 香水などに縁の無い俺 どのように応えて良いか解らない 「どう?・・って云はれても!・・爽やかな良い香りですが・・何かむらむらするような」 「バカね!」 その見つめた目は 何か母に似た優しさに包まれ 私に安堵と安らぎを与えた、

 俺はなお失礼の無い様に付け加えて 「先生のは程よく良い香りですが ・・時々 特に外人や中には日本人にも 噎せ返る強烈な匂いの香水付けている人がいるが 俺はたまらなく嫌ですね」

 先生 俺を覗き見るように 「私は大丈夫?」 と当時院内で自信に溢れた対応とは思えぬ不安そうに俺を見つめる顔がとても可愛いらしい 「俺 先生の匂い好きですよ!」 「本当に?」香りと云はず匂いと思わず洩らしてしまい なにか生々しく獣のようで 先生の顔も見れずに前方見つめたままハンドルを握って頭を縦に振り 小さく「はい」と答えた「良かった!」 先生の屈託のない明るい声が聞こえ何かほっとする。              
 
かもめ.jpg みなと未来から本牧に向かい首都高速本牧インターを入って通称横横(横浜横須賀高速道)で鎌倉へ、鎌倉の切通しで有名な一つで朝比奈インターを降り、

 突然今までの景色が一変する様に日差しが遮られ大木が立ち並ぶ薄暗く奥深い緑の急勾配に曲がりくねった対向車とのすれ違いが少しきつく狭い山道を鎌倉霊園まで安定した4WD (four-wheel drive)の素晴しさを味わいながら駆け上がり鎌倉に向かって曲がりくねりながら又坂を下る、

 やがて鎌倉鶴岡八幡宮の正門、左右の車道を挟み中央に腰の高さほど一段高くなった桜並木の歩道が大きな鳥居に繋がている、当時 頼朝の権力を示す 何処までも真っ直ぐ長く海岸まで続く 両脇には沢山の老舗が門構え大きく建ち並んでいる 何時も変わらず観光客で賑っている鎌倉のメイン道路沿いに由比ガ浜海岸に出る、今までの圧迫された景色から開放され何処までも真っ青に大きく広がる湘南の海辺を眺めながら左に折れ材木座海岸をへて逗子へ向かう。

 車のウインドウを下げると海特有の磯風が飛び込んでくる、 穏やかに揺れる波がキラキラと光を乱反射し 水平線の彼方まで何の障害物も無く 何処までも青く広がる波間の先に帆が閃く、
 何時もなら遠く感じる道のりだ いつもと違い何処か浮ついていたがやっと平常心を取り戻した様でジョークなどまじぇ話している間に 意外と早く着いてしまったように感じられた。

 予約時間より実際に早く逗子に着いたので 先生の同意を得て車を海岸沿いの駐車場に止め、石原慎太郎 太陽の季節の小説と岡本太郎の太陽をモチーフにした記念碑のある階段から砂浜に出ることにした。

 時々海岸の砂を巻き上げる海風が強く吹き荒れ 所々溜った砂で段差も隠れてしまった階段を踏み外さないように海辺に降りるが・・

逗子海岸1.jpg 「あっ!」 突然先生の小さな悲鳴、

 砂に足をとられ少し滑ったようだ 俺は思わず 両手を広げた先生の右手を咄嗟に掴み体を支えた 先生も確り握り返し 少し俺に体をあずけながら何事も無く階段を下り砂浜に互いに無言のまま出る、

 ほっとしたのか、俺は急に恥ずかしくなり 慌てて先生の手を振り切る様に放した。

 「ありがとう」 と云って、俺を見詰めた先生の顔が余りにも近くにあり 其の上ドッキとするほど色気を感じる。 途端に俺の脈拍が上がる、何故か返事に戸惑い 「いえ」 がやっと出た。

 「レーサーなのね、反射神経が鋭く咄嗟の反応が速いわ」 その様に話しかける先生の優しい瞳が眩しく 慌てる様に目を反らし 小声で 「ええーまぁー」  と応えた俺の顔が赤らむのが分る 一体如何した事か? その途惑いになおさら動揺する。

 先生は歩きづらそうにして 「靴に砂が入ってしまったわ」 誰に訴える訳でも無く呟いた、

 俺は先生の前にしゃがみ込み 俺自身の戸惑いを打ち消す様に 意思を込めて少し言葉を強めた 「先生!俺の肩に掴り靴を脱いで下さい」 躊躇している先生を催促する様に下から見上げ 「さぁー!」 と強めに声をかけた、

 先生は恐る恐る俺の肩にそっと手をつき、砂で汚れた高級そうな黒の革靴パンプスとでも呼ぶのか すんなりと伸びた足を 今度は大胆にも無造作にパンツを膝辺りまでたくしあげ  不安定に躊躇しながら俺の膝の上に差し出した、

 不思議なもので街中をショートパンツで太股露わに闊歩する女性を見てもそれ程心揺さぶられることは無いがそのアンバランスの仕草と 一瞬パンツの隙間からその魅力ある脹脛(緋)の奥にチラリと見え張りのある太股に目が釘づけになり異常に胸が躍る!

 俺の気持ちを見透かされまいと慌てて眼を移し そのきゅっと締まった足首を優しく掴み靴を脱がせ クチャクチャになったハンカチーフを尻ポケットから出し 足裏の砂を払う、 きっと こそばゆかったのだろう 「キャハァ!」 言葉にならない小さな悲鳴を発し慌てて足を引こうとしたが 俺は無視する様にかまわず足首を強く握り足裏の砂を払い その足を俺の膝に戻し 靴の中の砂も取り除いた、

 靴中の下敷ラベルには”ferragamo”と記されていた ”へェーすごいな イタリヤのフェラガモ高級品だ” 勝手に下心が有るのではないかと思われるのではないかと思い 顔をも見れず無言で靴を戻した。

 長い間だ忘れていた女性の柔らかで微かに暖かな手や足を握った感触が生々しく、急に恥ずかしくなり言葉につまった、

 先生は改めて 「有難う助かったわ!」 俺は取り澄まし 「いえ」  と言う返事をする事がやっと出た

 俺達は暫らく人々と長閑な海をぼんやり眺めながら歩き しばらく無言の時が過ぎた 俺の胸の高鳴りも静まり 何か会話をしなくてはと思い 少し遅れて歩く先生を振り返り 気持ちを整え 「あのうー・・・ そのイタリア製の高級な靴で砂浜歩いて大丈夫ですか?」 先生は笑顔で 「意外と優しいのね、気にしなくていいのよ!静かに歩くから」 多分靴の砂を払いのけた一連の行動の事だろう 俺はジョーク交じりに 「意外と ですか?」 先生は無言で笑顔で応えた、何と答えて良いのか 意外に話が続かないものだと少し焦りを感じていた。

zusi.jpg 此処逗子は長閑に日差しも柔らかく、爽やかな風が時おり吹いて、大きく緩やかに湾曲した遠浅の砂浜 ウインドサーフィン(windsurfing)や 何時もは沖合にいる小型ヨット(sailboat)でセーリングをしている舟が珍しく砂浜に、幼い子供の兄と妹で有ろう 兄が夢中で何かを妹に説明しながら砂山を作って遊んでいる、それに恋人どうし や ゆったりと散歩を楽しんでいる人々が見える、

 何かこの湾の砂浜に降りた直後 今までの生活の騒音も消え、現実の世界から切り離され 寄せては返す規則正しい穏やかで心安らぐ潮騒(1/f の ゆらぎ)を耳にしながら 平和なゆったりした時が流れ 安らぎさえ感じる別世界に入り込んだ様だ、

 互いに靴に砂が巻き込まない様に静かに足を運び、俺の焦りも知る由もなく 先生は安らぎをくみ取る様に 暫く無言でそんな人々をボンヤリ眺めながら波打ち際をゆったりと歩いた、

 それが数分であったのか どれほどの時が過ぎたのか俺れには長くもあり短くもあった、俺は焦りを覚え 何か会話を交わさなければと 落ち着く為に大きく息を吸い、 何故か離婚した妻 美奈子との経緯を話し始めた 「俺たちが結婚して・・・」

 先生は遠く海の水平線をぼんやり眺め当時を思い浮かべる様に 俺の話を遮る 「海に来たの久しぶりだわ!こんなに気持ちがスッキリ するなんて!」「・・・」多分 東京湾内の海と太平洋側の海とは全然違っているのだろう 「ごめんね話を逸らしてしまって・・その話 奥様から聞いています」 突然!俺に向き返り 「・・あっぁ!もう奥さんでは無いですね、とにかく離婚の件と静養を兼ね軽井沢に移る事で、あちらの病院に診断書を添えて上げました、・・・この様な話しをしてよいのかしら?」

 先生は自分に問いかける様に暫く考え込み無言が続いたが 「・・でも・・そうね、事実を話した方が誤解が無く良いと思いますので お聞きするのですが」 ザァー・・・ザッザァー沈黙に耐え切れない様に一定の間隔で押し寄せる波音が微かに響く。

 尚も躊躇している様だ、暫く沈黙があり、俺は堪らなく聞かずにはいられない気持ちが沸きあがり 「途中で止めたら気になるよ、何でも聞いてよ!・・・先生!」

 先生は意を決した様に話始めた 「貴方!何処か身体が悪いのですか?」 「いえ何処も?あ~ぁ!頭は悪いですが?」

 「そう云う事ではなく、ハッキリ質問するわ」 なんだ、此の先生冗談も通じないのか 「それで・・何か?」

 ・・・先生は意を決した様に俺を見詰め 「貴方方は結婚している事に関わらず一度も男女関係は無かったのですね」 エッ なんだ!この先生!上品そうな顔をして顔色一つ変えず無表情、余りにもギャップの違い 何の動揺も無く冷静な普段の会話、まるで医者の講義用の話し方だ、

 もっとも医師である事は間違いないが 俺もハット気付いた 余りにもサラリと云ってくれて 本音はホッとした、それに食事の誘いに応じたのは 俺が離婚した事実を知っていたからだろう。

 先生は尚も冷静に 「それに以前奥様が五ヶ月余り入院中 貴方は一日も欠かさず夕方から翌朝まで奥様の横の借りベッドで泊っている事も知っていました、そんな貴方の暖かさと優しさ それとあの時の貴男は..何かの目的の為に悲壮的な激しさ さえ感じました、それ程愛が有ったのに何故? 奥様が心臓病だったからですか?それとも貴方・・・ED(erectil dysfunctin)障害?」

 俺は体の怪我や病気か精神的か判らず 先生の質問の意味に戸惑った  「・・・!?」 

 俺に対しての説明が纏まったのか又先生は改めて俺を見詰め直して 解り易く  「もしかして何か肉体的障害か精神的障害が有るのですか?」

 俺はどの様に説明してよいのか解らず 「どの様な意味ですか?」質問の後で気付いたがなんと答えて良いか迷ってしまった、先生は何故か目をそらし伏せ目がちにし 「・・解らないの?相互的にと云うか一般的に・・・」 俺は改めて先生の顔を覗く様に見直し応えを探した

 俺は内心少しの驚きは有ったが たぶん心臓病の患者や家族から そんな相談を受けているのかも知れない、医師として純粋な質問に応えなければと感じ  

 「いいえ 正常と云うか 人一倍と云うより欲望の塊のような危険な男ですよ!」 後半は冗談交じりに誇張して答えた 先生は無表情に無言で 尚 俺に何故と云う表情で俺を見詰めた

 ・・まったく!全然冗談が通じない こんなに綺麗で可愛い顔して上品な先生が、会って直ぐだと云うのに意外な言葉に少し当惑したが ”まったく!なんて事云わすのだよ” と思いながら不思議なもので咄嗟に出た言葉は人並みで無く人一倍だった・・一体 俺は何を強調しているのか、

 他の男達がどれ程のものか知る由もないのに益してや普通の男なら曖昧に答えるだろうが、長い期間の禁欲生活がそう云はせたのか?先生を驚かせたかったのか 心の中で笑えて来たが 俺の悩みを真剣に受け止めてくれる先生に真面目に答えなければと思い、

 「確かに先生の言う様に異常だったかも知れないが結婚当初そんな生活が俺には全く気にはならず本当に楽しく過ごし!・・こんな俺でさえ泥沼に咲く睡蓮の様に彼女(美奈子)に接する度に心が洗われてしまう人なんです、彼女はそうした汚れの無い人で決して汚す事なんって出来ない天使なんです!・・でもそんな事が長く続くはずもなかった!時が経ちその異常な事に気が付いた時には もう遅かった!」 「・・・」 「今更 俺には如何する事も出来なくなって互いに傷ついて・・行き場を失ってしまった・・」

 先生は俺の説明に驚きも無く冷静に 俺自身の事に触れてきた 「辛い過去に触れますが医師としてはっきりさせて置かなければいけないから、それに貴方に間違った見解をしない様にね」「ええ」「先ほど車の中で香水にむらむらとおっしゃいましたのと確かカーレーサーでしたね、それで正常だと思いましたが はっきり確かめたかったの」

  医者って其処まで聞くのか?それも本当に必要な事かも? このとき俺は感じた職業的質問だと、やはり先生だなと・・それに先生はレーサーに対しどんな判断をするか気になった

 「先生!あの時レースを辞めてしまって、今また再トライしようと思っていますがレーサーだと何故?」「そうね・・質問の答えになっているのか解かりませんが、一概に当て嵌められないのですが男性的で攻撃的でなければ競争心が生まれないでしょう?」「俺が攻撃的!?」・・当時の俺はその通りだったのかも知れない 多分そう感じさせていたのだろう、先生は慎重に言葉を訂正する様に

 「今の女性も競争力が強い人もいますが それに貴方が攻撃的かは判りませんが競争心が起きる事は決して悪い意味では無いのよ、・・人間にはアンドロゲン(androgen)とテストステロン(testosterone)というホルモン(hormone)、今の男性は少なくなっているようですが 女性にもエストロゲンとプロゲステロンは有り重要です 一生に作られる量はスプーン一杯位だそうです、其れに男性も女性にも両方のホルモンは有るのよ ただ割合が男女少し違うの、ホルモンは其れだけでなく体内の色々な処で役割別に作られているのよ 詳しい事はともかく・・それから?」

 可愛く先生は首を傾け俺に話を続けさせた、俺はなおも経緯を話し続け逗子海岸.jpg

 「それで・・ 彼女の病気もあったのですが 俺の中で勝手にイメージを作ってしまい、こんなに汚れを知らない素直で優しい心の持ち主をと思うのは俺だけでは無いと思 彼女に接した人なら誰しも思う事でしょう、

 あの頃荒みきっていた俺にはイノセントワールド(innocent world)何所か別の惑星からの天使が場違いな所に降りてしまったのでは、なぜ俺なんだ!

 俺の様に汚れた手で穢してしまってはいけない、今までの肉欲を捨て 此れが俺を変える試練だ 何がそうさせたか解らないが?、その不思議な純粋な魅力に何時しか取り込まれ 俺が守らなければと勝手に自分の中で作り上げてしまって 変えることなど決して出来なかった。

 其れと彼女の病気を治して頂きたかったのは おれ自身の全てを賭けた夢 カーレースを続けたい為でも有ったから、俺の出場するカーレースかなりの集中力が必要で其のたび妻を気使っていられない、

 多少のアクシデント等のショックに堪えられる体に戻って欲しくレースなど続けられる状況ではなく、況してやあの頃は子供など邪魔であって子供を作る事など以ての外 其の上子供を生む事に耐えられる体ではなく、そんな事は如何でもよかった 全てそれ以前の問題で只々心配でたまらなく・・

 こんな事話しても誰も奥さんが病気だから当たり前でしょうと言われてしまうし・・、何所にいても救急車のサイレンを聞くたびにドキッとして慌て確認の電話を入れたり、そんな状況でカーレースも出来なくなり、何時も不安で其れが長期に続くと看護疲れも重なり心と肉体がばらばらになり 当り前では済まされなく 疲れ果ててしまい、駄目なもので入院していた時の方が本音 ほっとして心から安心して休めたよ。

 ・・其ればかりか、このまま永遠に病院に預けられたらと妻の幸せも考えられなくなり、そんな悍しい恐ろしい事まで考える様になり!・・俺は只々、彼女を守りたかった!それだけで良かったはずだが!それが足枷になり・・そんな事を少しでも考える 俺に嫌悪感を持ち俺自身をどう扱ってよいのか自暴自棄になっていたよ」

 俺は今までの苦しみを吐き出すように先生に一気にぶっつけた!

 黙って頷いていた先生を見て、俺の愚痴を聞いている先生はつまらなのではないかと 「こんな話つまらないでしょう?」と尋ねた

 先生は顔を上げ俺を見詰め 催促するように 「いいえ!お伺いしたいわ、どうぞ続けて下さい」 この人は初めて俺を理解してくれるのではかと思い初め話を続けた

 「先生だって知っているでしょう、彼女がどんなにピュア(純真で汚れのない)で人を非難したり傷つけたりする事が出来ない人だと! もしこの世に神がいるのならなんで俺なんだ!脾肉な事をするのかと思いました..かつての俺を知る人は、そんなの、うそだ!何故結婚する必要が有るの?と、信じてむらえず、子供のママゴトじゃぁ無いんだよと失笑され!その上逆玉を狙ったんだろうと、ましてやレースなど遊びであってと軽蔑され職業では無いと理解してむらえませんでした」 「・・・・」

 「だからこそ、なお更貫き通し汚す事が出来なかった 彼女が先生に相談していたなんって!、・・心に閊えていた事が、やっと一人でも事実だと知って頂き 俺が間違っていたのかも知れませんが そんな愛し方もある事を・・・・何か救われた気持ちです!」

 先生は暫く考えていたが、力強く 「確かにその通りな、心優しく汚れの無い人と思いますが、それは違います、男の勝手な妄想です! どんな女性も人として愛と安らぎを感じたいのですよ、それと何故、信頼できる誰かに相談しなかったのですか?」 余りにもハッキリと否定され  

解っていない.jpg つい俺は声が荒くなり 「正常な結婚で無い事など解っているよ!・・理屈じゃないよ!何故こうなったか?俺にも解らない・・だから・・」 

先生はすまなそうな顔をして 「ごめんなさい、貴方を傷つけるつもりはないの 人はそれぞれ違うのにね、それに如何にもならない事ってあるわよね!」 俺は以外に思った 普通なら俺に怒りを感じるだろうに そう思いながらも話し続けた

 「うまく説明できないが・・先生は男の気持ちが解っていない!、現に美奈子に会うまでの俺がそうでした、本当に愛してしまったら あの純粋で穢れなく子供がそのまま汚れを知らずに大人になった様な人を絶対に傷つける事が出来ないよ!

 彼女は何かが違うんだよ!自分の欲望に走れる訳がない!俺が守らなければ誰が守るんだ と思い・・只々 守ってあげたかった!」 「・・・」 先生は黙ってうなずき俺の次の言葉を求める様に俺の目を見詰めて待った

 「今でこそ 冷静に考えれば 俺に出来る訳が無かったのに・・・何故なのか其処に陥った人でなければ 俺の心など解らないよ! そうしてやる事だけが随一俺が出来る事と思い ・・幾度となく妻と話合い 時にはそれが妻にとってどんなにみじめな事か 妻から俺に抱きつき迫っても ますますそれを受け入れる事が出来ず、

 その都度二人で何回も傷付き涙し ジレンマとの戦いに疲れても、 俺にはなんとしても自分が作り上げた汚れを知らない妹の様なイメージをひたすら守り 何故か壊す事が出来なかった!

 出来れば 聖人君子でもない俺が疲れ果て何時か壊れ 他の女性に走る前に俺を殺して欲しいと幾度となく考えたことか」。

 先生は両手を前に出し下に向けて押さえる様に振り下げ 俺を制しながらも優しく 「少し冷静になって! 落ち着いてねぇ・・ 落ち着いて下さい」

冷静に.jpg 「すみません ただ先生だけには 解って欲しくて! ・・今だからこんなに冷静に話せますがどんなに苦しかった事か、俺だって男だよ!女が欲しいとどれだけ思った事か!、又 俺の為に妻がどれだけ勇気を振り絞り、羞恥心に身を震わせ心を震わせた行為か 痛いほど解っているから、尚更痛ましく苦しく切なく侮辱した行為か!知っていても如何する事も・・、本当に疲れ切てしまい」。

 如何したのだろう今までこんな事は決して無かった、自身の心の底を素直に開き真剣に思いの数々の全て話せ、しかも此れほど理解されたく訴えている、・・そんな優しい目と軟らかく抱き締める様に受け止めて、なんの気取りも無く何時でも本音で話してくれる・・俺は何の拘りも無く、今までの溜りに溜まった全てを一気にブッツケ吐き出している・・何故だろう、不思議だ?なおも俺はサーファーの人達をボンヤリ見詰め砂浜をゆっくり歩きながら話を続ける。

ウインドサーフィン逗子.jpg 「そんなある日 妻が置手紙をして実家に帰ってしまった、貴方を自由にしたいから 貴方の夢を叶えて下さい、どんな時でも貴方は私の為に飛び返って来てくれ どんなに疲れていても私の傍に一晩中看護していてくれていた、

 貴方が私を想って大事にしてくれて本当に涙がこぼれるほど嬉しかったか、そんな貴方に何も答えられない自分が辛く悲しくやりきれなく感じていました、貴方が思うほど私の心は美しくありません これ以上は互いに傷つけあう事になり兼ねませんし それに私もこれ以上の負担や重荷を背負わせる事に耐えられません、

 これからは貴方は誰にも邪魔されずに好きなカ-・レ-スに夢を駆けて下さい・・・・あと細かい事は省略して・・・

 貴方は野菜あまり食べないので、料理が嫌でしたらコンビニエンス・ストアーに一食分の野菜サラダ有ります必ず食べる様に心掛けてください、それにアンダーウエアーは箪笥(chest)の何処にあるとか、まあそんな事が書き記してありました」 

リュウ&ミーコ思い出1.jpg その時の事は 先生には話せなかったのだが

 部屋は何一つ普段と変わらなかったのに静寂の中、何か強烈に冷たい風が吹いているような、狭い空間がやけに広く 妻の暖かさを今更ながら感じ手紙を持ったまま崩れ落ちしばらくそのまま床にしゃがみこんで北国の真冬の荒野の中に取り残されたように動くことが出来なかった、あれだけ心配をかけ疲れ切っていたのに・・ほっと するどころか物凄く侘びしく苦しく、

 お互い憎んで別れたのなら こんな寂しさは起きなかっただろう、何故か妻の楽しそうな笑顔だけが思い出され、今更ながら悲しさと虚無感を強烈に感じた。

 「それから暫らくして彼女の母親から手紙と離婚届けの書類が送られてきまして、どうか何もしないで下さい 貴方の声や手紙を見るととても悲しそうにその上心乱れているのがわかります、本当に貴方が娘を大事に愛して下さった事 良く解っています、以前から貴方に負担が掛かりますからと申し上げて来ました、今まで本当に辛い思いを掛けましたね 本当に有難う御座いました。

 美奈子もやっと決断出来た様です、娘は油絵が好きなので 静養方々軽井沢の別荘に行かせます、何時でも貴方が決断出来ましたら その書類に印鑑を押して定出して下さい、と記してありました。

 何処か俺の心の奥で、そんな日が来る事を望んでいたのかも・・ただ俺の考えを曲げたくなかった、意地に成っていたのではないか?もう続かない事を知っていながら認めたくなかった!何処かで自分対しての言い訳を探していた、本当は疲れ切っていて、そうなる事を望んでいた!・・色々な思いが有りましたが、その全てを断ち切る為にもサインと印を押し送り返しました。

イギリス南部田舎.jpg それで暫らく何もかも全てを忘れる為、又これから先の進み方を示してくれる道標を探す為に、改めて好きなカーレースの名門校(JimRussell's British Academy of Motorsport/Racing Drivers School)にイギリスへ留学、(現在はアメリカとカナダのみ)三ヶ月ほど行くことにしました・・・でもどんなに新たな刺激に夢中になりレースカーをドライブしょうと、環境への変化、外国人の刺激を受けようとも、(イギリス南部の田舎町サーキト以外何も無い所ですがレンガ造りの古い家並等、風情が有り素晴しく綺麗な所です)ジムラッセル.jpg私の心の灰色の影は消えないまま、帰国しました、生徒は全て外国人、アメリカ・ドイツ・フランス・イギリス・イタリア・ブラジルそれは国際色豊かでしかも中には 大富豪の御曹司等 言葉も間々ならない中で皆同じ目的、性格も違うが、それなりに意思の疎通は出来た、

 中にはそのままイギリスに残り ヨーロッパF-3に参戦する人も、其処で成績を認められF-1に進む事も可能だ、出来る事なら俺もそうしたかったが世の中そんなに甘い物ではなく 皆さんそれぞれ何処かの国の大企業のおぼちゃん達 俺はと云うと貧乏学生 資金を集める技量も顔も売れていない その上支持者もなし 俺は諦めざるを得なかった。 帰国後 悶々と二年半、先生に偶然お会い出来たしだいで今こうしています」 少しおどけた話し方をした。

 先生は表情を硬くして 「茶化さないで!それで大よそ理解出来ました・・どう考えても一方的で貴方が悪いわ!如何して結婚などしたの!」

 「如何してって?! ・・そんな事云われても計算なんか出来ないよ!・・だからこそ・・もういいよ!」 先生はハットした表情で すぐさま 「ごめんなさい!心無い質問をしてしまい・・」 先生には俺の気持ちを解かって欲しかったのか 怒りを込めて「俺は青かった!て事ですか?」・・そんな常識的答えは言たくわないが、汚れの無いこの子(美奈子)を守らなくてはと思い..俺が自分への償いか何かを守り通したかった。

  これは先生には説明出来なかったが・・ただそれだけでは言い尽くせない経過が沢山有った、・・其の当時 俺の荒み切った生活の中で偶然彼女と出会い探しているお店を一緒に探したのがきっかけ それから彼女から又お会いしたいと何回も会う内に楽しく明るくなって行く俺を感じ、逢う度に心が洗われ俺自身浄化されて行く様で嬉しく思った、だが これ以上逢ってはいけないきっと傷つけてしまうからと、何回も断ったが彼女の気持ちに絆され負けてしまった。

 ・・先生には出会いを話せば長くなるし知る必要も無いと思い話す事は止めた・・ しかし 無駄な事だと思いつつ どこかで自分を正当化し 認めてむらいたい気持ちが働き、

 ・・目の前のサーフィンを懸命に教えている親子をぼんやり眺めながらその子に目を移した時、ふっと思い出しそれに重ね話し出した、

 「それと 此れだけは言っておきたいのですが、小学校に入り立ての子供の頃 可愛くて綺麗な女性の先生が居て 皆の憧れだった ある日先生が手洗いに立った時 俺の友達が あの先生はお便所になんか行かないよって泣いて否定したんだ、彼に取ってその先生はどんなに天使の様に美しく 彼の心が清らかに膨らんでいたのか、 だが俺は心無く 俺のお母さんも先生だが お便所に行くよって云ってしまった、

 彼は"リュウのお母さんとは違う!絶対 絶対違うんだ!"て、誰もが彼の聖域を犯す事は出来ない 何れ解る事だが一笑出来る物では無いと思います、 又その時誰が説明し納得させられただろうかって?」 先生は無言で俺を促す様に俺の次の言葉話待った

 適切な例えや言葉が浮かばず二人の間に暫らく気まずい無言が続いた

 このままではまずい!何かを話さなくては・・思いつくまま俺は又話を続けた 「今の俺の場合はもっと始末が悪いよ 全て解っていてそれ以上に完全に弩壷にはまってしまって、・・美しく綺麗な物への憧れと 俺の心の救いに せめてもの償い!..何時の間に如何する事も出来なく・・」

 先生の無言は続いた!「・・・」  俺の言う意味が解ったのか?解らなかったのか?先生は無言で考えている様子であったが 冷静に答えを探しているようでもあった。

逗子1.jpg 如何して 意味もない弁解じみた事を言ってしまったのだろうか?先生に良く思われたいからか?

 ..良くは解からないが心では母親一人で育ててくれた感謝 厳粛な生き方の母への反発 自慢の母に無条件に愛されたい 俺に振り向いて欲しい 何がそうさせたか解らない又そんな環境への反発そんな自分への反発と葛藤、そんな時に妻の純真な心に触れ心洗われる思いと償い?、

 そんな複雑な思いでなぜこうなったか一口に説明が付くものではない、理屈では無くこうなってしまい適切な言葉が思いつかず、少しは理解されたのではないかと思い又予約の時間もあったので・・

 まーぁ!良いか 「それに俺は以前、完全な人間を求め偽善者とまでは云わないが、澄まし顔で綺麗事を言って手を汚した事の無い人が嫌いだった、その人達の心の奥の化けの皮を剥がして遣りたかったし、酒を飲んで愚痴やしたり顔で批判ばかりする人も許せなかった、でも今では 心や精神だけで人の営みが出来る事ではない、人は生きていく為には色々な欲望と共に生きている事が嫌と云うほど解りました、全て俺がいけなかった・・後悔はありません」

 先生は黙って俺の説明に耳を傾けていた、俺の怒りとも付かない愚痴が、先生の穏やかで優しさを佩びた眼差しを通して、俺の遣り切れない怒りや不満が引いて行く波の様に此の広い砂浜に沁み込み全て吸い取られてしまう様に思えた。

 「貴方は悪ぶっているが 本当は純真過ぎるほど純粋な人よ、結果的には人を傷付けてしまったが それが解っただけでも成長したのよ、大半の人のは結婚前に逃げ出していますよ 人の心には悪魔も住んで居るのよ、人にも自分にも許す事も覚えなければね 何時かは折れてしまいますよ それに人はそれぞれ傷を抱えて生きているのよ」

 先生からもっと否定的な冷ややかな言葉を浴びせられると思ったが以外であった、まるで本当の姉の様な口調でした・・何故か!この人とこれからも此れで終わらず長く関わる様な気がしたと云うよりも、これで終わりたくなかったのかもしれない。


   《逗子海岸 Restaurant Tony》
トニー店.jpg そんな話で予約時間が近ずいたのでレストランに向かった、トニー(restaurant Tony)の看板の玄関を開け奥のカウンタまで進む 「ハーイ!トニー元気だった (Hi! How are you Tony?)」  「リュウちゃん 待っていたよ(How doing Ryuchan!can't wait ..Oh! How charming & sexy! Miss' behind) 後ろのミス..お嬢さん 凄くチャーミングでセクシーねイントロデゥース(introduce)ね!」

 先生から 「鶴見 佳子(よし子)です!今日は宜しくお願い致します」俺はこの時初めて先生の名前を知った、 トニーは万遍な笑顔で「今日はリュウの好きなスペァーリブをメインに私トニーにお任せコースでよろしいか? ミス ヨシコ!」

 「おいおい! 俺には聞かないの?」トニーは白人とは故 逗子の海岸の太陽の下 浅黒く焼けた精悍な顔で先生を席に案内しながら「レディーファーストね それとリュウの好きなオニオンローフ付けるから」と俺に向かってウインクをした 俺は改めて外人なんだと認識した思いでした、

 先生は笑顔一杯で「おまかせするわ」やはりイタりア系アメリ人 笑顔でウインクを先生に送り 「じゃー今日はトニーのおごりで(is to be my treat)美味しい赤ワインで乾杯ねミス、ヨシコ飲めますか?」俺にもウインクをしてジョーク交じりの笑顔を作り「リュウは子供で飲めないからスパークリング・ジュースね」  車で来ているとき俺が絶対にアルコールは口にしない事をしっているからだ ヨシ子は嬉しそうに「はい頂くわワイン大好きです」

アペタイザー オニオンローフ.jpg 俺は得意げに「このバベキューリブとアペタイザーオニオンローフ(appetizer onion  loaf オニオンリングをビルデングの様に積み重ねた様な前菜)は、以前 私とトニー達とで銀座のトニーと同じ名前のアメリカンフード店トニーロマのオジリナルメニューを私達が気に入り海辺のサーファー達に喜ばれるだろうとトニーがオリジナルレシピで造りあげた物です」と説明もまじえテーブルにセットしてくれた、 俺は揚げ物だったので少し心配になり 「先生にはカロリーが高過ぎ くど過ぎませんか?」

 トニーは慌てた様に口をはさみ 「リュウ 大丈夫だよオリーブオイルだから、それにトニースペシャルのボンゴレ ビアンコ(あさりのパスタ)用意するよ それとイタリアの家庭料理でトマトとレットオニオンの冷製サラダ(トマト、レットオニオンは半分にし又それを八切かザク切りにしてソルト少々の水を加え 乾燥バジルと生スイートバジル少しでオリーブオイルたっぷり後は冷蔵庫で少し寝かすと良いよ)とても簡単で美味しいよ、

  俺は「このサラダ!本当に凄く美味しよ」よと付け加えた 尚もトニーは「これはね 年代物のバルサミコちょと高いが美味しいよ」と言いながらサラダにかけてくれ「ブレッド(a piece of bread is dunk in dressing)に浸して食べて」 とまた先生にウインクを贈った

 先生早速フランスパンをちぎってトマトサラダのドレッシングの中に浸し 「ほんとう!こうするととても美味しいわね・・ヴォーノ(buono)!」 と云って何処で覚えたのか自分の頬を指刺した トニーは俺と先生の間の席に座り 「 嬉しいね それにお嬢さんは ヴォーノではなくデリッィオーゾ(delizioso)の方が似合うよ」

 「ありがとう デリッィオーゾね 覚えておくわ それにトニー!バルサミコとワインビネガーと どの様に違うの?」

 トニーは彫りの深い顔で表情豊かに得意げに説明を始めた 「日本の酢と同じでお米と葡萄で作る違い それにワインのmature ジュクセイ? 熟成方と熟成度agingの違い、ワインビネガーは主に調理に使うと思って良いよ..バルサミコは葡萄果汁を煮詰め濃縮させた物を木の樽で(is wait for the grape-juice  to mature inethe cask)12年以上熟成良いものでは20年30年以上熟成させ樽の香りが程よく付き主に最後の仕上げの調味料に使うと思って良いの、安い物でも使う前に鍋で半分位煮詰めて酸味を飛ばし使ったら良いよ」

 先生は興味深げに 「そうなんですか!初めて知ったわ..龍崎さん知っていた?」なんでリュウでなく突然 龍﨑さんなんだ!「詳しくは 知らないよ!でもオリーブオイルとバルサミコでパンに浸して食べる事は知ってたよ」 「へー リュウの事 見直したわ」 なんだ 今度はリュウか!それ程俺は物知らずと思っているのかと少しムっと来たが! どうもそのの様な意味で言ったのではないと思ったが なぜかムカつく!

  トニーは尚も得意になり「もう一つ教えるね、ボンゴレ・ビアンコとロッソが有るよ ビアンコはオイルソース、ロッソはレッド・トマトソースね」

 「俺 初めて教えてむらったよ! やっはりトニーは女に甘いね」何だろう 今までにこんな気持ちを懐いた事は初めてだった、ジェラシー!? 俺が?妬みの様な気持ちが上がってくる 俺には初めて感覚 一体如何したのだ! そんな俺自身に驚きを感じ戸惑うばかりだ!、

 トニーは持ち前の明るさで 「イタリアの男は 普通のことですよ」トニーは俺を見詰めニッコリ 全て解っているよ と言うようにウインクを送ってきた、

 俺は何故かトニーを静止する様な言葉を吐いていた 「トニーどうしたんだよ!いつもと..」 咄嗟に出てしまった言葉を見透かされたかの様に急に恥ずかしくなった、何故だ!昔どんなに俺が付き合っていた女性に迫る男がいても何も感じなかったのに何故だろう?こんな気持ちが湧きあがるなんって!

 トニーは何時もと違う俺の何かを感じ取ったのか 「リュウ 嬉しいんだよ!エックス・ワイフ(ex-wife)別れた妻以来 三年almost three year)初めて女性を連れてきて しかもこんなにチャーミングでセクシーな人!」俺に全て解っているよと云う様に”ウンウン”と顔を俺に向かって小刻みに縦に振り 「今度はミス ヨシコ何時でも一人で来てね!」 冗談交じりに繕った 

 そんな気持ちが沸いた俺が恥ずかしいとおもう 本当に心配し喜んでくれ嬉しく思った、国が違っても人には変り無く友達は出来るものだが 出た言葉は!「またまた!イタリアの男は女性が好きだから!奥さんに云うよ」 そんな自分を恥じながらも つい出てしまった、

 トニーの奥さんは日本人で 以前 横浜本牧に米軍基地が有った頃から遊んでいた仲間の一人だ 「Oh!No! 奥さん恐いよ! リュウ シークッレト シークッレトね!・・・リュウ&ミス ヨシコ アナザーカスタム(another custom)ね、ちょっと失礼するよ」  ちょうどお客さんが5,6人入ってきてトニーはそちらへ向かった 

 俺が初めて感じたジェラシー そんな戸惑いの気持ちを知ってか知らぬか 突然先生が俺に尋ねた 「龍ちゃんと呼んで良いですか?」 なんだよ!俺をどの様に呼んで良いか迷っていたんだ 心の中で少し恥じらい  「そんな!ちゃんなんて!  龍・リュウで 良いですよ 皆にそう呼ばれていますから」 「リュウ・・なのね これから そう呼ばせてい頂くわ」

 「頂くなんって!そんな者ではないですよ、それより本当にこんなに油ぽいカロリーの高い物で..」 先生は嬉しそうに俺の言葉を遮り BBQスペアーリブ.jpg「たまには食べてみたかったのよ 後で運動するから!」

 「先生 このBBQ・Rib バーベキュウ・リブはホークやナイフを使わず 手でガブリと行って その方が旨いですよ」

 先生の悪戯顔を始めて見た 「ヨーシ やってみるわ! 何か野獣になった見たい!」小さく ”ガーォ” と声をはっして「ウーン美味しいわ!」 本当に楽しそうに 「リュウちゃんは沢山良い友達がいるようね!」

 ワインのせいか 立続けてしゃべりだした 「私達の医学会議が終わった後に良く高級レストランやホテルのレストランに先生達と行くのですが 少しも楽しく無くほとんど先に帰っています、こんなにリラックスして楽しく過ごした事 無かったわ」 先生はトニーのワインのすすめも有って少し酔って来た様だ!

 「リュウ!先ほどの話しなんだけど 女性だってたまには自分を全てを忘れ 心を休めたい物なのよ! 人は中々聖人君子にはなれない者よ 皆寂しく弱いのよ!」・・「全ての束縛から解放されたい時もあるの・・・現にリュウ!貴方がそうだったでしょ・・」

 「先生!先生!..酔っているんですか? 先生も何か有ったのですか?」 「もちろんよ!私を幾つだと思っているの」 「失礼ですが 年を聞いても良いですか?」

 「かまわないわ もう三十三よ!..運転免許証見る?」 運転免許証をハンドバックから出して見せた!俺より五歳上なんだ 先生は俺の年知っているはずだ 「リュウは二十八歳でしょう? 私 女として・・もうオバサンよ!」 案の定以前別れた妻の診断書に俺の年齢も書き込んだはずだ 憶えていたのだろう、何か病院での少し冷たそうな先生と違い年上だが可愛い人だと思った

 「判りました免許証おとすといけないからしまって下さい」・・「先生はそんな事有りませんよ全然若いです」 一つ位上かな?本当に若いし綺麗で魅力のある人だなと思った 嬉しそうな顔で 「ありがとう、リュウに云われれば嬉しいわ」

 本当に少し酔ってしまった様だ良くしゃべる 「リュウに初めてお会いした時 精悍で瞳がキラキラ!輝いて、その澄んだ瞳で見つめられて 私・・体中の細胞が目覚め本当に ”ゾック” としたわ!」..「今もよ 少し肉付き良くなったみたいですが其の目その顔 その純粋な気持ちで私に問いかけるところ少しも変っていないわね、そのうえ人を惑わせるその仕種 優しさが感じられ人の心を引き付けもっと魅力が加わり・・いけない人ね!」 語尾を強めた!

 先生はかなり酔ってしまった様だ 意外な言葉に少し途惑いを覚えたが 別な姿を見られ 正直な人でその仕草に少し可愛いいなと思え 何か先生に近ずけた思いであった・・俺は笑って誤魔化しながら

 「またまた お世事が上手いですね! 酔っているんじゃないですか?・・此処の所USネイビー基地内のアメリカのジャンク・フード(ファストフードの事)とにかく カロリーが有る物ばかり食べていたから少し太ったみたいでトレーニングしなければ」

 先生は少しトロンした目で俺を見詰め 「お世事なんかじゃないわよ、その澄んだ瞳で見詰められると 其の目の中に引き込まれてしまいそう 本当ですよ!」 酔いであろう 良く定まらない指を俺の目に向け 「..だめだめ!・・随分話したわー久しぶりにこんな時を過す事が出来 本当に楽しかった・・少し酔ったみたい お腹も満腹になったし すごく楽しかった!・・そろそろ帰りましょうか?」

 普段の仕事が余程ハードなのでしょう 先生は其のままテーブルに顔を伏せてしまった..俺も久しぶりに楽しく、いつの間に大分時間も過ぎていた

 「そうですね」と返事をしたが 先生はもう聞き取れない様子で 大声で「トニー!」 マスターを呼び 「トニー 今日はありがとう、be satisfied with food お腹フルね!美味しかったよ 奥さんに宜しくね!」 「今日は店に来られなかったがマイ ワイフもリュウの事 心配していたね、あれから(離婚)元気ないってね、早く前の様なリュウちゃん戻ったらいいねって、今日リュウの明るい顔、見られて本当に嬉しいよ」

 今度は先生に向けて 「ミス ヨシコ!リュウの事頼んだよ 何時でも来てね 待っているよ!」 両手を広げ先生を軽くハグ 先生は少し驚きの表情を見せながら 大げさに両手を広げ応え 「今日は本当に楽しかったです!料理もとても美味しくついお腹一杯頂きました・・此方こそ有難う 又伺わせて頂きますわ」。

 帰りの車の中で先生はけだるそうに 「本当に楽しかったわ ついワイン飲み過ぎ少し酔ったみたい、リュウ 本当に良い友達たくさんいるのね 良かった」 そんな話をし 横浜X大病院の付近とだけ云って無防備にも酔いのせいかすやすや寝てしまった 仕事が忙しくきついのかな?

 当時の先生からは思いも寄らない言動に少し驚いたが、先生にも悩みや大変な事が有るのだなと思い何か親しみを覚え同時にとても可愛い人と感じた、

 「先生!病院近くですよ」 と揺り起こし 「家は何処ですか?」 

 先生はキョトンした表情で 「う~ん・・あら寝てしまったようね、やはりプロの運転ね 安心して・・もう少し先のシーサイドライン柴口駅の近くの柴町のマンションよ、・・私の実家は金沢区の能見台で個人病院を開いているの 病院まで交通が不便でしょう」 そんな話をする内に先生のマンションに着いてしまった 

 「今日はとても楽しかったわ!コーヒーでも入れるわよ・・寄っていく?」 「いえ! 今日は夜遅いので帰ります、じゃぁーおやすみ!」 「そう! 運転気を付けてね・・プロに可笑しいわね、其れじゃぁーお休みなさい」 まぁー 社交辞令と思いとあっさり帰ったが 何か心残りで先生の言葉通り家に寄ればよかったなと思い少し後悔したが 俺とは 全てが大分かけ離れていて これで良いのだと思うことにした、それよりスポンサーを探す事の方が気になっていた。                                                                                                                                       

 それから一週過ぎ先生はもう俺の事などすっかり忘れている事と思っていた、

 金曜日 突然先生から連絡が入り この前は楽しかった事、 お礼に今度は先生が招待しますと言われ 戸惑いも有り 一応断ったのですが それでも先生が是非との事、久しぶりに楽しい時を過ごした事を思って ”じゃぁー明日土曜日に” と云って受けてしまった、

 あれから本音はスポンサーも気になったが、不思議なものだ心とは裏腹にそんな暇はない駄目だと思うほど一時も先生の事が頭から離れず 一層逢いたいと思う心が深まることに戸惑いを覚えた、今までカーレースに夢中で こんな事一度もなかったのに 如何したんだ 気になって仕方ない あぁー逢いたい!

  《東京、スポンサー探し》

 話はレースのビジネスに戻るが、あれから思い当たるスポンサー交渉に奮闘した バブルが弾けその上長いオイルショックが続き 長い経済停滞の最悪の時期でもあり 燃料やオイルを無駄に使うレースなど支援する事など出来ないと大凡の企業に受け入れられず、チーム監督と共に心当たりを尋ね回り 又 俺個人でも心辺りを当たり 思案の甲斐なくこのままでは絶望的だ!、一時はスポンサーを求むの看板を掲げ横浜駅前に立つ事も考えたがそれも障害があると思い留まった、元々人に束縛される事が大嫌いだが迷いに迷い葛藤が有ったが レースは何としても続けたいその思いが強く、

 本来はこんな時だからこそ イノベーション(innovation)が必要で燃費を減らし力強く長く走れるかで レースに勝つ事が出来る、そんな開発に日々努力しているカーレースを支援すべきであると思うのだが なかなか日本の企業に受け入れられず 最終的に万策尽き行き詰まった俺は何時の間にか離婚した妻の父の会社(以前の義父)に足が向かっていた丸ビル.jpgアルミニュムのインゴット(塊)を製造している国内では大きな会社 東京駅近くの本社事務所に久々に訪ねた、

 葛藤も有った 後ろめたい気持ちと頼ってはならないと思いつつもレースに復帰出来るチヤンス 如何してでも逃したくはなかった、ただ義父の知り合いの会社を紹介して頂きたく 東京駅近くにオフィスが有るビルディング前で足が止まった、

 改めてビルの前で暫らく躊躇して立ちつくし悩んだがサーキットで走る俺の姿を想像し諦め切れなかった、受付で社長にお会い出来るか尋ね 了解を得る事が出来ホットした。

  しかし 後々 俺の心に思いも因らない重圧になってしまうとは、多少の不安があったが その時は少しも知る由もなかった。

 社長秘書に見慣れた社長室に案内され 大きな社長用デスクの前に豪華な接待用カウチがセットされている 「如何した!久し振りだね あれから元気にしておるかね?」 「はい お願いが有って伺いました」 「そうか!それで・・」 「はい カーレースを続けたくスポンサーを受ける会社を紹介して頂きたくて お願いに伺いました」 「そうか!この不況だ、・・きっと君が尋ねて来ると思ったよ・・君達が離婚後 娘から達ってのお願い・君の力になって下さいと頼まれている・・まあー掛けたまえ」 と言った言葉は優しかったが やはり大企業の社長何処か威厳と迫力があり俺を圧迫する、

 秘書がお茶を運んできて黙ってテーブルにセットしてもどった、その後娘(美奈子)と俺に関する事には社長は一切触れなかった。

 大きなデスクの電話の受話器を取り上げ、カメラや精密機械の会社やエンジンブロック・アルミホイールの会社に取引があり3・4社 その場で連絡取って頂き、私を紹介し訪ねる事を電話なのになんの利益にもならない俺の為に頭を下げ了解を受けていました、俺は立ったまま頭の下がる思いで電話の話に聞き入って今更ながら有り難さと恐縮の思いで 頭が下がりました、 だが心とは裏腹に娘からのお願いと聞き、訪ねた事を強く後悔し初めていた、

 それにも増して義父の会社がスポンサーを引き受けてくれた、俺は驚きと共に慌て言葉を選びながら慎重にそれを強く断った「あのー!お願いに上がって厚かましくも生意気に失礼な事と重々思いますが・・この社のスポンサーや社長からの直接の援助は受けられません!」

 義父は疑問を帯びた顔を向け 「何故だね!それは君が未だに美奈子の事にこだわり過ぎだからだよ」 「しかしそれは・・」 義父は俺の話を遮るように 「健司君!私個人はともかく我が社がスポンサーにならず、他社に頼めるのかね?、そんな虫のよい事が出来るのかな?」まだ俺に商売の基礎を教えてくれている

 と強い口調で一括されてしまった、君はそんな甘い気持ちで私を尋ねたのかね!と言う様な目で睨まれてしまった、俺はただ 「はぁーすみません!」 と返事をする事だけで精一杯だった、

 社長から見れば何てなんってガキなんだ!と思はれているのだろう 甘い気持ちで尋ねた俺を悔やんだが、此処までして頂きもう引く事が出来なかった。

 結婚当時は良く会食に高級ホテルや料亭等に同伴したものだ、私の会社に来ないかね?とよく誘われたが断って来た。 

 恐縮していると 低音だが力強い声で 「健司君! 近いうちにこことこの会社を尋ねなさい 力になって頂けると思うから」 社長の名刺の裏に各社宛の簡単な紹介状が其々記されている名詞を俺を改めて見詰め 「元気そうで何よりだ 君は人より危険な仕事 充分体には気を付けたまえ」 と言いながら電話だけではなく、その名刺を渡してくれた。

 俺は感激と複雑な思いで言葉も浮かばず ただ 「有り難うございます」 と頭を下げる事しか出来なかった、社長はソファーに向かってを差し伸べ 座るように即したが俺は座る事も出来ず慎重に

 「はい 有難うございます・・それで・・美奈子さんは?」 語尾は自然に小さくなってしまった「心配は無いよ 軽井沢で絵を描きながら、自分の作品を飾る画廊とまで行かないが 喫茶店と言った方が良いかな、お手伝いさんと静かに過ごしとるよ、余り気を使わずに良いから たまには私を訪ねて来なさい」 社長は席を立ちながら 「食事でもどうかね?」

 「はい、今日は私達のチームに吉報を報告したいと思いますので・・すみません」今の俺に食事など 喉を通るわけがない「そうか何時でも訪ねて来なさい、後で我が社の営業の者を君のチームに出向かすよ」「有難う御座います」 と言って 頭を深々と下げる事しか出来なかった。

 感謝が重くのしかかりたまらずお礼もそこそこに あわて社長室のドア閉めたので事務員が不振な顔で見つめていた、少し前までは義父だ何も云わずとも解っているだろうと語りかけているようでした。

  この人の家庭で育った妻だったのだと新ためて思いました、芸術や文学など興味がなかった俺にその度優しく解り易く説明してくれた美奈子の姿がが俺の心に何か強烈に圧し掛かり、勝手な物で頼ってしまった俺自身を許せなく胸に痞える後悔の思いが増してビジネスとして心から喜べなかった。

 無論 社長の会社にも大分沢山の援助して頂き大いに助かり、翌日チーム監督権マネージャーの北原と共に社長に紹介された会社を訪ね 各社契約を取り付け何とかチームとして運営出来る様になった。

   《二度目の食事》   

 スポンサー等の件で女性関係でのトラブルが気なった いったいどうしたと云うのだ 全て捨てたはずなのに!危険な物に触れては成らない憧れと奇妙な衝動に突きうごかされ 逢うだけだからと自分に都合よく問いかけていたのだ、

 抑える気持ちが仇になり待ちに待った土曜日が来た、その朝 先生から電話が入り 午前中先生は急に病院へ行かなければならなくなり午後2時半位に先生のマンション前で待ち合わせをする事にした、待ち合わせ時間から1時間ほど遅れやはり縁がなかった スポンサーの件も有りこれで良かったと思い 車のエンジンをかけ前を見た ”おぉ 来た!” 、

 急いで来たのでしょうか 薄っすら汗をかいて先生は急ぎ足で息を弾ませながら 申し訳なさそうに マンションJPG.jpg「御免なさい!急に患者の様態が変わり 処置していた物ですから、もしかして帰ってしまったかなと思ったり心配でした」俺を見つめ改め頭をさげ「・・ごめんなさいね」  「大丈夫です車の中で休んでいましたから、それで もう大丈夫なのですか?」 諦めかけていたので内心とても嬉しく思った

 「ええ、後は当直の医師がいますから、・・それより横浜山下公園前のホテル・ニュウーグランドでフランス料理と考えていたのですが、着替えもしなければいけないし時間もかかるから、能見台にある焼肉店でよいかしら?とても美味しい所よ」

 「はい!」 凄い格差だが 仕事で疲れいた事もあるが多分俺の為を思っての事だろう、時間も遅くなり お腹も空いていると思い気楽に腹一杯食べさせたかったのかも知れない。

 「その方がかえってリュウも沢山食べれるから、そうしましょう?」 「えぇー、何処でもかまいません」 「私 シャワー浴びたいから、部屋でコーヒーでも飲んで待っていただける?」 それだけ俺に確認を取るとセキュリティ完備の最上階の部屋に向かった、横浜金沢八景島や海の公園の砂浜が見えるナイスビューの4LDKでリビングが広々している。

 部屋に招き入れられ 「へー 凄く良いところですね」 先生はリビングのソファーを手で示し 「そちらで休んで」 と云い残し直ぐにキッチンに入り お湯を沸かしコーヒーをドリップしながら 「リュウ、コーヒー好きのようだったのでブルーマウンテンを焙煎してむらったの すぐに出来ますから」

 暫らくするとコーヒーの香りが漂い、キッチンカウンターにコーヒーの入ったカップが置かれた 「さぁー飲んで見て!」と心配そうに俺をのぞきこむ 俺は少し照れながらコーヒーカップを手にとり、先生は付け加える様に 「美味しくなる様に おまじない を掛けたのよ」 と何処かで聞いた様な話だが そうやって最初に少しお湯を注ぎ少し蒸し時間を取るのだそうです  普段論理整然としている 先生がと思うと少し滑稽に思えた「へェーそうなの じゃぁじっくり味わって飲まなくちゃぁー」

 俺は味わう様にゆっくり一口に含み飲み込んだ 先生は心配そうに俺を見つめ 「いかが?」 と更に俺を覗き込んだ 「確かに香り豊かでまろやか とても美味しいよ」 その言葉を聞き ホットする様な無邪気な顔を見せた

 先生は俺の顔を窺う様に見て 「良かった!・・じゃぁーシャワー浴びてきますから、退屈だったらテレビでも見てて」

 何だよ 俺を男として見ていないのかよ と思いながらも、何か胸はドキドキいったい俺は何を期待して何を考えているのだ、冷静に冷静にと自分に言い聞かせ、コーヒーカップを持ち立ち上がり窓辺からの海の景色に心落ち着かせていた、

 東京湾を挟んで向かいに広がった千葉の房総半島が黒く霞んだ山並に真っ白い綿飴の様な入道雲を抱え、空は動物を連想させる夏雲が所々に浮かび青々と澄んでいる、目の前には横浜金沢柴町の海の公園が良く整備された砂浜が広がっている、海は湾内の為か波も穏やかである。 

 暫らくするとシャワーも終わり着替えが済んだ先生が 「お待ち同様!さ~ぁ行きましょうか?」 ジーンズにTシャツ、ずいぶんラフでもスタイル抜群ピッタリ決まっている 「先生は何を着ても、似合いますね、スタイルも良いし特に足はすらりと真っ直ぐ長く、お尻の形ち良いですね」
 少し怒った顔を作り 「バカ!何言っているの!子供のくせにサァ~行くわよ」 「でも、スタイルいいし綺麗だから、今日のシャンプーの匂いも好きですよ」 「もう!・・解ったわ!ありがとう」 「・」 「さぁー行きましょう!」 全く子ども扱い無視されている。

能見台駅.jpg 京浜急行能見台、此処は東京にも40,50分国道16号線を挟み両脇坂になっている、静かな高級住宅がある駅近くの焼肉店はテーブル5,6、席と畳の2席、2組のお客さんがいた、私達は奥のテーブルに座った。

 女将さん風のおばさんが 「いらしゃい、お嬢さんずいぶんお見えにならず病院のお勤め忙しいのですか?お父様も近頃見えないので、・・今日は何に致しますか?」 「はぁーそうなんですか?父に伝えて置きます・・取り敢えずビールを私に、リュウ!なににするの?遠慮なく沢山食べてね」 俺はとっさに気取って 「僕は車ですからお茶で、それから?・・メニュー見せて下さい!」 「はい」 と云って女将は奥に。

 先生はにっこり笑顔を見せながら 「へー、僕ですか?」 俺は照れながら 「からかわないで下さい、先生に気を使ったビビンバ.jpgのに!」 「ごめんね ここは私達家族が私の子供の頃から来ていたのよ、私の家はねこの坂の上へ歩いて5分位な所なの」・・「父は看護婦と事務員一人の小さな開業医しているのよ」 「へー凄く近いんですね、先生のご両親は元気なんですか?」 「ええ 元気ですよ」

 女将が注文を伺いに来た 「リュウ 決まった?何でも遠慮なくね」 「じゃぁ 骨付きカルビとロース、ユッケ、生センマイ、ご飯、サンチュで又後で注文していい」 「ええ 遠慮なく食べてね リュウは生肉が好きなのね、私は石焼ビビンバと・・クッパはリュウの分と二つね それにリュウ私しビール飲んで良いかしら?」と俺が酒類を口にしない事を知って 小首を傾げ尋ねた そんな事まで了解を得る先生に俺は少し戸惑い慌て「どうぞ お構いなく」先生は女将に向かって「それで お願いします」 と注文した、

 ”きっと俺は先生に取って野生動物に近いのかも 何かに束縛されたりする事が大嫌いだ" と思っているのではないかと勝手に決め込み 何故か俺は先生の事が好きなのに 先生とは全然違った世界に住んでいる事を強調して俺自身に歯止めを掛けて様としている俺自身が解らなくなっていた。

ユッケ.jpg 「私ねーリュウと居ると 何故か自分になれて落ち着くの、あれからずーうとリュウの事が頭から離れなかったの、如何してか判らないが気になって!気になって!仕方なかったのよ」  余り素直な先生に俺も本音が出てしまった 「俺も本当は直ぐに先生に逢いたくて 俺もこんな事初めて、何時もなら車の事考えたら忘れるのに..会いたかった!」 

 「本当?嬉しいわ!・・年の事考えたら 考えられないし、私 どうかしている!、食事に誘うの止めようと何回も考えたけれど 考えるほど逢いたくなるのよ!」 「年なんて関係ないよ、すごく若く見えるし」..とは云った者の余りにも職業の違いや 地位 立場が違う!..でも其のことには触れていないが.. 「始めは皆そう思うのよ、現実はそうはいかないものよ 分別の有る女がって非難されるだけ、でも この気持ちどうにもならないの!」 本当に此れほど素直でストレートに自分の気持ちを伝えられた事はない、何の気負いも無く素直に清清しくさえ思う、きっと伸び伸び素直に育ったからと思う 「どうにもならない事考えても仕方ないよ!俺の事子供扱いして!」

R & Y 焼肉1.jpg 「違うのよ、こんなに悩んでいるのに!リュウたら生意気の事云うからよ」 「俺 子供扱いされ駄目なのかって、でも良かった すごく嬉しいよ」 「本当に?」

 「あぁ 自分の気持に正直になろうよ 悩んでも始まらないよ、これからそのつど解決して行こう、サァー目の前の問題から片付けようよ..」 ちょうど焼き上がった肉に目を移し 「美味しそうだよ食べようよ先ずは此れからだよ」  ちょうどお肉の焼け具合が良い頃だったので、少し先生は笑顔に戻った 「そうね お腹空いたでしょう 戴きましょう」  

 「女将にコチジャン有ったら、お願いして」 「どうして?」 「サンチュにコチジャン少し塗って寿司くらいの大きさのご飯乗せてカルビをのせ 手巻きすしの様に食べるのが好きだから、先生もトライして」 「リュウは、食事や料理の事 色々しっているのね」

 多分先生はその食べ方知っていたと思うが、笑顔で聞いていた 「あちこち、友達やレース仲間で食べ歩いたから、今わ楽しく食べようよ」 「そうね!リュウの云う通り、台無しにするところね、食べましょう、遠慮無く沢山食べてね」 深刻な話しをているわりには、俺は良く食べた、女将に挨拶をして、店を後にし、

 帰りの車の中で、心にも無いことを聞いた 「先生、実家に寄らなくて良いのですか?」 どんな返事が返ってくるか?もし先生が家に行くと答えたのならば 俺は一体どう応えていたのか? 「今日は止めておくわ」 やっぱりね と思いながらも 内心安堵した 「じゃあ、マンションに送ります」 

 先生の所まで車では意外と近い マンションの駐車に入ると先生は俺の膝の上にさりげなく手を添え 「部屋に寄っていきます?」 と問いかけた 俺は一瞬ビックと硬直し 慌て 「エッエ!  ありがとう でも遅いから!」 「まだ話したい事有るのよ 聞いて下さる?」 「はぁー 何でしょうか?」 「兎に角 上がって!」 何か先生に押し切られてしまった と理由を漬け 「ではそうさせて むらいます」 本音は俺もまだ帰りたくないと思っていた!

 よし期待通りになったと思う心と今後のレースやスポンサーに対して非常に不安に襲われてしまう心が交差していたが 何処かで先生を失いたくはないと思う心が強く有るからだろう

ヨシ子ブラウスねー.jpg 先生に押されるように部屋に上がり、先生はシステムステレオの前に立ち俺に振り返りながら 「普段はジャズを聞くのが好きなんだけれど今日は映画音楽を聴いていから続きで良いかしら」 と云いながらCDとアンプのスイッチを押した、始めに流れたのがフランス映画の男と女のフランシス・レイのテーマ曲でお馴染みのダバダバダ、ダバダバダ~が流れてきた

 この曲を聞きながら先生は 「古い映画探して観る事が好きで、偶々良く行くレンタルショップで見つけたの、この映画印象深く残っていたから・・台詞も少なく、大人の恋愛の苦悩と美しさが良く出ていたわ、リュウも何時か見てみたら」 「・・」 主役がレーサーで有ったので俺もレンタルビデオで見たことがあるが余りレースの事は出ていなかった 全体にボサノバが流れていたことを思い出したが 見た事を黙っていた「お茶でものむ」先生が少し酔った口調で尋ねたので「いいです」 と顔を横に振って 暫らく音楽を聴いていたのですが、

リュウ横顔あのさ1.jpg 沈黙に耐えられない様に先生と同時位に 「ねー」  「あのさー」 「リュウから話して!」  「俺は、いいよ、先生からどうぞ」 「リュウから・・・」 「じゃぁ 俺から話すよ、なぜ俺なんかと! もっと先生に相応しい人がいるだろうに」 「リュウからそんな言葉が出るとわ思わなかったわ、私に相応って 誰が決めるの!、私自身が決める事でしょう」 

 「そう云われればそうだけど、俺もそう思うよ ただ 迷ったり後悔して欲しくないから、先生さっきもそう云ったでしょう 迷ってるって 俺だって世間のそう云った考え嫌いだけれど それに打ち勝つ気持ちが無ければいずれ駄目になるよ、先生を大事にしたいから」 ..俺は如何したんだろう?今まで口にした事の無い言葉が、本当はこのまま感情に任せたいよ、必死に抑えているのに..先生を失いたく無い..不安が大きく広がる、こんな気持ちになった事今までに無い初めてだ!、

 俺はこの時ラウンドマークタワーで出合った時の衝撃が解かった様な気がした、顔や体の綺麗な人に沢山出合ったが、先生の様に内面から醸し出す、エレガントな動作、知性や情熱、繊細な心に引き込まれて行く、今までの反動か俺の性的欲望が怖く又傷つけてしまうのではないか、初めて感じた不安!

 姿形では無く、何処か母を思わせるあの慈愛に満ちた眼差し、云い返ればこれ以上進む事が凄く怖くなった、でも失いたくない!一体俺は如何したのだ!心とは全く違う言葉が!戸惑うばかり、

 全てを捨てやっとカーレースへの復帰が叶うのに、俺は何をしているのだ手足纏になるに決まっている、だが心とは裏腹にどんどん、のめり込んでしまいそうで戸惑いを覚える

 「リュウ、ごめんなさい..リュウが病院に通っていたあの頃、私、貴方みたいに健康で自由で破天荒な人に遇った事が無く、毎日会えると楽しみになって、其のうち、弟の様になっていたの、あの頃のリュウだったら、そうするだろうて判っていたの..でも感情に此のまま流されたい気持ちもあったのよ、リュウの方がよほど大人ですね、何か恥ずかしい気持ちよ、でも..ありがとう、もう少し考えるわ」

 「ごめん!俺、今日は帰ります、気持ち決めたら連絡下さい、待っていますから、今日は楽しかったよ、じゃーね」 俺は先生が怒ってしまうのでは無いか、不安で有ったが、飛び出す様に部屋を出た! 

 帰りの車の中俺はどうなってしまったのか、”俺の方が感情の赴くままにしたいよ.. 男の方がもっと辛いよ!でも先生の方がもっと辛いかも、女性からの、 俺ってバカだよなー.. 俺と全く違う、知性や繊細な心の動きの出来る、先生を本気で好きになったのか?!”・・・”上手く行く訳無いよ!きっと駄目になる!恥をかかしてしまったから・・出来るなら失いたくない・・いや本気で失いたく無い!”

 どうして、こんなに胸が痛むのか初めての気持ち、この俺が!一体如何したんだ?、何でこんなに切ないんだ?うぅ..なんなんだ!いけないと思う心が逆に俺を煽ってしまう

 まだ先生に話して無い事があった、結婚前、世の中、斜に構えていた時期で、母の愛情、家庭への反発で遊び回っていた、その頃は生きる事の無意味さ、口先だけで善人ぶって平気で人を裏切る人等、人間不信に落ち入り、何時も冷めきって人の裏側で見る事しか出来ない自分を虐め、自暴自棄になり、それも俺の弱さである事も知っていた、レースに興味を持ったのも暴走族やグループに入らなかったのは人間不信の俺にとって群れる事が大嫌いだったからだろう、

 その寂しさを満たすため女に溺れ、何の愛情も無くただ自分の欲望のまま罪悪感をかんじながらも何もかも成り行き任せ、其の頃は結婚など考えも及ばなかった、そんな刹那的無責任な生き方しか出来なく命の尊さなど少しも感じなかった俺は何処かカーレースに人を傷つけなく自身の戦いと実力だけの共通点を感じスピードに魅せられのめり込んで行った、

 男の身勝手と云うより俺の身勝手とても人を批判する立場で無いが欲望を満たした後の空しさと嫌悪感が増すばかり。

 何でこんな事に無駄な時間を費やしてしまったのかもう顔を見るのも嫌になって避ける様になってしまっても俺の弱さ、又何人も同じ繰り返しをしてしまい、もっと自身が傷つき互いに傷つけ悲しく辛い思いをさせてしまった。

  天罰であろう、中には俺自身のめり込み悲しい別れをした事も、そんな自分が嫌いで美しい愛を求める自身の仮面の下に眠っている肉欲やエゴイズムなのに、身勝手の話だが益々男の性がと繰り返す自分に精神と体の欲望のバランスが取れないままに闇の中で俺は傷ついていった。

 そんな時、天使の様な彼女(別れた妻)に合った。

  この子は絶対汚してはいけないと強く思うと言うより俺が浄化される、そんな気持ちが働いていたのかもしれない。 その結果がこれだ、そんなトラウマの様なものも有り、今度のケースもスポンサーに対してだけではなく、いざとなると欲望のままに進む俺が怖かった、又大事な人を傷つけてしまうのではと恐くて逃げ出したのが本音。

タッチおじさん ダヨ!.jpg   *此処まで読んで下さり有難う御座います、前回申請の順に戻りながら物語が展開します*

又は下記、URLより次のペイジ(申請の古い方)に順次物語が進みます枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編3】)→クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-10-1是非お読み下さる事お願いまで


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