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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編9】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

 ☆=Story【前編8】からの続きです、是非下欄【前編9】をお読み下さい=☆ 

 《ツインリング茂木サーキット》 Round 6  

 8月7日朝から ムゥとした暑さを感じる、何時ものようにヨシ子と海の公園でジョギングを終わり、互いに背中合わせに腕を絡み俺の腰を曲げた背の上にヨシ子を仰向けに持ち上げ何度か屈伸運動のストレッチを繰り返したのち、俺の背に海老反のまま乗ったヨシ子は苦しそうに話しかけた、

 「リュウ!今日から行くのね、気を付けて」 なおその体制のまま話を続けた 「フゥー・・・後から日曜に海斗君達と行きますからお願いね ・・フゥ・・ また寂しいなぁ」 息を詰まらせ話しかけるヨシ子を背から降し 「たった二日だよ、竹田君が日曜の朝7時に病院まで迎えに行くから必要な事は彼に遠慮なく伝えて」 なおも俺は 「それに何度も云う様だが 今日も蒸す様な暑さになりそうだから 充分気を付けてよ!・・・海斗何か心配だなぁー」 余りにも心配し過ぎの俺に腹が立ったのか

 ヨシ子は険しい目を向け 「リュウ!私は先生よ!信じられないの?それに院内カンファレンス(conference)も行っているのよ」 きっと自信なければこんなことはしないだろうと思うが 「そう云う訳ではないけれど・・ただ移動中に・・」以前 前の奥さんが 車で旅行中に突然心臓発作が起き 大事には至らなかったが大変な経験をした思いがあったから ついしつこくなってしまった、

 ヨシ子は慌てて自分の言葉を取り消す様に 「リュウの気持ち汲み取らずごめんなさい!・・充分気を付けますから」 俺も云い過ぎたと思い 「優秀な先生達と思っているけど 救急車ではないし病人を運ぶの初めてだから・・持ち物やエヤコンなど竹田君に指示してよ」

 こんどは明るい笑顔で 「解かったわ!必要な物は用意しますから・・ 心配ありがとう きっと海斗君楽しみに待っているわよ」。

 朝の軽い運動を終えマンションに戻り シャワーを浴び、ヨシ子の方針と言うのか健康志向の朝食は野菜ジュースと野菜サラダそれにソーセージやハム等お肉を加えたもの 何時ものように確り食べ ヨシ子は病院に出勤準備で忙しそうに 「リュウ! 今日と明日は実家の両親に話もありますから あちらに泊まりますよ」 「うん」

 軽く唇を合し 俺より先に出勤するヨシ子は 玄関ドアを開け俺に振り向き手を振って 「気を付けて行ってらっしゃい!」 俺がまだ家の中に居ながら 出勤するヨシ子から妙な送り出しをしてむらうが 何か不思議な気持ちである

 「 俺は 8時30分頃迎えが来るから、それに くどいようだが長い道程 病人を運ぶのだから充分気をつけてね」 「はい!リュウもね」 「じゃぁー 後で」 ヨシ子は後ろ向きのまま軽く右手を上げゆっくり手を振ってヨシ子は出勤した きっと俺に心配するなと云う事か。

 竹田君が予定どおりマイクロバスで家まで迎えに来た、ノンストップで茂木まで運転をする竹田君に向かって 「おはようー よろしく」 運転席に座り笑顔で迎えた竹田君軽く頭を下げながら 「お早う御座います」

 運転席のすぐ後に座った俺は笑顔で迎えてくれ運転を始めた竹田君に向かって 「竹ちゃん 久美ちゃんと旨く行っている?」竹田君はテレを隠すように左手を首筋に充て 「はい大丈夫です 有難う御座います」

 久美ちゃんのあの悲しそうな面影が浮かぶ 俺が余計な事をしてしまったからと後悔もあり 「まぁー 俺が云う事ではないが自動車レースの世界華やかな所だから 可愛いくてスタイルの良い子が大勢いるし 色々目に付く人は沢山いると思うが・・最終的に自分が本当に心から休める人だと思うよ」 「はい」 この何処とはなく曇った返事にはなんとなく竹田君の反発を感じ 俺の手前仕方なく答えたように思えた

 「人は其々だが 外見だけで取り返しのつかない事にならない様にしないと」「・・」 「時々疎ましい思う事が有るかも知れないが、久美ちゃんは 人に配慮が有るし気持ちが優しいし綺麗だし 押し付ける訳では無いが俺は良いと思うよ」

 竹田君は運転を続けながら、神妙な顔で 「はい 今回で尽くづく分りました 反省しています」 だが彼の心に響いてはいなそうだ 何だか口先だけに聞えた、まだ遊びたい時期だろう返事も上の空だ 俺は少しきつく 「何が有ったかは知らないが!中途半端は相手も自分も傷つくだけだよ、間違いはやり直す事が出来るが心の中の傷は一生消すことが出来無いよ」 強く言い過ぎたのか 「リュウさんも以前は・・」 全く彼の言う通りだ

 俺は空かさず 「だからこそ!・・・いや・・男だから解らない事は無いよ、それに竹田君の人生だから」 「・・・」 「でもね一つも良い事なんか無いと思うよ 互いに傷付くだけだよ」 俺の反論に逆らってはいけないと思ったのか 「はい解りました」 これは駄目だ!今は何を言っても聞く耳は持っていない様だ 口先だけの反抗的返事だった、

 解っていないな・・無理も無い曽ての俺もそうだった、自分に言い聞かす様に 「本当にそう思っているかな?」 「・・・」 それ以上追求はしないつもりだが これだけは伝えたかった 「俺もそうだったが人間は愚かだから経験して初めて判るものだよ、 まぁー その時ではでは遅いと思うよ」 その後二人だけの長い道のり運転も有るので 話題を変え新しいスポンサーを監督と心辺りを訪問しているとの事に話を切り替えた、

 今わ不況で中々良い返事は中々頂けないなど監督から竹田君も頑張っている事等聞いていることなど話が弾んだ、途中休憩を取り12時頃茂木サーキットに付いた。

もてぎbrick-img.jpg 時間どおり孝ちゃんが万遍な笑顔で迎えに出ていた 「リュウ 久しぶり」 得意のウインクを俺に向かってしながら 「車の準備出来ているから、それから監督からの伝言 午後からテストと調整走行1時から予約とって有るとの事よ、先ずお昼でもどうぞ」 俺は 「孝ちゃん 何時も良く気が付くね有難う」 孝ちゃん肩をすくめ 「リュウの為だものー」

 俺達はフードコートに向かいながら幸ちゃんに尋ねた 「1時からかテストか!あまり時間ないなぁー、監督は?」 「監督達お昼終わって、相変わらず井原さんとパドックで渋い顔をして話しているわよ」 孝ちゃん、演技抜群で両手の指を丸め眼鏡を作り顔に充て監督の顔を真似て顰めて見せるそれだけで聴く者を和ませる

 俺は他のチームの事が気になり孝ちゃんに尋ねた 「何処かのチーム来ている?」 「あーぁ、リュウは初めてだから知らないと思うけどぅー 他のチーム今回此のサーキット2回目になるからぁー 今夜辺りから準備に入ると思うわよ」 両手を広げ首をかしげてみせる、俺は竹田君と顔を見合わせ、孝ちゃんの相変わらずのオーバーアクションに苦笑い 「そうだよな!・・じゃー竹ちゃんと急いでお昼食べて直ぐ行くよ」 報告の終わった幸ちゃんも忙しそうにパドックに向かう、

 俺達は後ろで何時もより少し控え目に立っている竹田君と供にフードコートに入り、カフェでボリームの有るサンドイッチとコーヒーを注文、竹田君と他のチーム状況を冗談交じりに話しあいながら、昼食を済ませ急いでレーシングスーツに着替えて監督の待つパドック(paddockとはレース前の車の整備や準備をするところで各チーム其々区切られて並んでいる、レース中にタイヤ交換や給油修理など行い其処からレースコースに出られる場所)に急いだ。

 俺はパドックの監督と井原君に向かって挨拶、左手を軽く胸の辺りまで上げ 「監督!井原君!ご苦労様です」 井原君は笑顔で会釈、監督は相変わらずキビキビ手際よく予定をこなす、

 監督はマシーンを見詰めながら 「リュウ走行予約時間だから直ぐに乗れ」 井原君 油で汚れた手を拭きながら 「ご苦労様!」珍しく笑顔で積極的に俺に挨拶をし、コックピットの中への乗り込む俺を井原君は何時もの様に手慣れた動作で手伝い 「気候も暑いし極端なブレーキ箇所も多いから、もっと風が入り易い新しいブレーキダクトに取り変えて置きました」 とマシーンに手を加えた個所の説明を加えた 俺はレーシング マシーンに乗り込み 「本当に良く気が付いて助かるよ有り難う!」

 俺はドライビングシートに滑り込み楽な姿勢を確かめながら納まりの良い位置を決め、井原君を見上げもう一度改めて 「井原君の云う通り此処のサーキットはブレーキ使う回数が多いから助かるよ!・期待通りのドライブしなくてはね」井原君は ”大丈夫だよ!” と云う意味で親指を立てて見せた、車の調整の事は無論だが 何時も俺からの一方通行が初めて井原君が明るく俺に話しかけてくれた事の方が嬉しかった、例の如く孝ちゃん ヘルメットとグローブを俺に手渡しながら色っぽく 「リュウ気を付けてね!」と声をかけ何時もの様に井原君と共に安全ベルトを確り閉めてくれた この二人灰汁は灰汁を制すると良く云ったもので なかなか気が合っている。

 エンジンをスタートして快い排気音を残しピット・ロードを出た、サーキットのコースは普通の公道路面よりタイヤの接着率を上げる為 ヤスリの様な荒い路面になっている(モナコの様に公道サーキットは例外である)全面改造が無い限り 走るコース自体も変りませんが部分的補修により滑り易い所 食いつき易い所等 多少変化が有り縁石も修繕して変っている所がある、先ずはコーナー付近のチェックを兼ね 数回ゆっくりとコースを走り次第に全力走行に移った。

 監督から無線交信のチェックも兼ね 「タイトコーナーが多いから余り速度を落とさず 最終コーナーで少しでも早く立ち上がる様に」 監督は矛盾した事を言いやがって それじゃぁコーナー飛び出すよ! と思ったが ”出来なければ辞めちゃえ!” と言はれそうだ、一秒の何分の一でも縮める 其の挑戦がレースだ それに挑み乗り越えた者が勝利に繋がる。

 「交信OKです クリアーに聞えます」続いて小声で「本当!全く難しい注文だよ!・・やってみるしか無いね」 俺の皮肉が聞えたか聞えなかったか解らないが何の返事も無かった、あの監督の渋い顔と苦笑いが浮かぶ、コーストラック三周のチェック走行も終わり パドックに戻り 「井原君 だいぶコックピット暑さが薄れ 運転し易くなったよ、それと2速と3速のギヤー比を一つ下げて下さい コーナーでの立ち上がり少しでも良くしたいから」

 何処の業界でもそうであるが 営業と技術者の対立がある、ドライバーとメカニックの対立も多いなか 井原君は俺の一言々を静かにかみ締める様に聴いてくれた 「解りました 前のドライバーの好みのままで調整したので直ぐに直しておきます」何時でもそうだが自分

の好みやドライビング方法を的確にメカニックに伝える事が重要になる

 其々ドライバーの癖や好みが違う たぶん 俺も機械いじりが好きで論理的に相談するからだろう、井原君は本当に静かで 冷静沈着とは此の人の事を云うのだと思った、それ以上に最近は笑顔が見られ 技術的相談や彼自身の考えも打解けて お互いの考えのぶつかり合いもある そればかりか実際にテストで証明し合う様になった、 

 「ありがとう それと此処のコース直線が短く少ないからダウンホース前後とも少し気持ち控えて下さい、普通ならダウンホースを増しグリップを良くする所だが 俺の気持ち的に立ち上がりと短いストレートのスピード増したいから試してみようと思って 幸ちゃんごめんね」 孝ちゃん右手にラジェットスパナを握り空転させ胸の辺りでジーイジーイ音を立てながら俺に近づき 「普通はカーブが多く食いつき良くダンフォース加えるのにリュウはハッキリ指示してくれるから助かるわ リュウの為だもん 調整しときますー」話しながら俺にウインクする 俺は監督に向かい 皮肉と冗談交じりに 「監督から難しい注文だから」 監督も元レーサー俺の皮肉には乗らず指示が飛ぶ 「リュウ!今日はもうテスト時間が無いから明日だ、ゆっくり身体休めとけ!」 言葉はキツイが顔は笑っていた 俺は首を窄め 「解りました」また メカニックやチームのクルー達が笑顔で受け止めている 本当に良いチームだ 。

 俺は井原君の肩に手を置き 「井原君と孝ちゃん、後調整頼みます」 孝ちゃん嬉しそうに 「今回もキャンプングカーで寝泊りですよね?」 「あぁ・・そうだが?」 「一応窓を開けて空気入れ替えてベッドも特に綺麗にしたから」 俺に伝えながらウインクを送ってきた 「ありがとう、相変わらず孝ちゃんは気が利くね ホテルの部屋より 休まるよ」「変わり者だね でもリュウの為だもの」と笑顔で答えた 幸ちゃんに向かい 少しきつい様だが念を押した 「俺 結婚したんだよ!」 幸ちゃん両手を握り胸の処で拳を作り力を入れ、両手を小さく上下に振りながら小さなジャンプも加え 「もう!寂しい事云うのね!念を押さなくても解かっているわよ!」 「ごめん!」 何故かなんの理由もなく 幸ちゃんに謝っていた、こうした事には慣れているのだろうか すぐに笑顔に戻り 「あぁーそれに・・子供のレーシングスーツ置いてありますから」 俺は少し可愛そうと思ったが冷たく 「ありがとう じゃぁー 先に休むよ」とキャンピングカーに乗り込み まだ話足りなそうな彼を残し 車のドアーを閉めた 何か罪悪感交じりの息をフーと吐いた、

 奥のベットの脇の小窓の縁に俺のレーシングスーツと海斗の小さなレーシングスーツが並んで掛けてあった、これも孝ちゃんの配慮だろう 小さくても本物そっくりのスーツに思わず微笑んでしまった、大小並んで余りにも可愛いく感じ和みを感じ 海斗のレーシングスーツ姿を思い浮かべ 暫らく眺め寝る事にした。

 翌朝、キャンピングカーの外から監督の声が聞えた 「リュウ!起きているか?入るぞ!」 俺は眠気まなこでドアーロックを外した 「はい、おはようござ監督.jpgいます」 監督すっかり身支度を整え車に乗り込みながら 「おはよう、リュウ例の移籍の件本当に良いのか?家のチームでは故障やミスで壊してしまっても予備のマシーンも無いぞ」 余りにも単刀直入に訊ねてきた、これほど早く噂が流れていることに驚き 俺は途惑いながら

 「勿論判っています!・・迷惑ですか?」 俺は開き直る様に答えた 監督 真面目な顔で俺を見詰め 「リュウ! 冗談じゃぁ無く せっかくのチャンス何時でも良いんだぞ、俺だったら迷わず移籍するよ」 俺は確り監督の目を見て 「もう止しましょう決めたんですから 監督だって 同じ様な事が有ったら移籍出来ないくせに! お願いします、・・それと 子供服ありがとう御座いました」

 監督は俺から目を離し暫くボンヤリ窓の外を眺め適切な答えを模索しているようだ、それから俺に向き直り 「かもな よし 解かった!」監督は自分に言い聞かす様に「 もっとスポンサー見つけなければ・・・リュウ 10時からフリープラクテスだから ドライビングスーツに着替える様に、・・先に行って待っているよ」「はい、スポンサーの件 竹田君にも聞いています あちこちあたっていると聞きました、有難うございます」「あぁー なかなか見付からなくてな」監督はそれだけ云うと俺の肩をポンポンと軽く叩き行ってしまった 確かに監督はクリエーティブ(creativ-名伯楽)な人だが 今のご時世 中々スポンサーを見つける事は難しい 。

 パドックでは各チームも集り始め、俺は早速移籍の話のあったチームを訪ね其処の監督に移籍の件丁重にお断りした 一流チームの監督すでに其々の事情や他のチームの内情は調べてある事だろう、内心はどの様に考えているか判らないが 「龍崎君何時でも相談に乗るから その時は迷わず来なさい」話は聞き取れないだろうが 全員一斉に このチームの人達の鋭い目線を感じる 「はい 有り難うございます」 丁重に頭を下げ 我々のチームに戻った。

 我がパドックでは生徒達を全員引き連れ 北原監督は実戦教育に忙しく指導をしている、監督は俺が他のチームから戻った事を確認する様に俺を見つめた 俺は左手の親指を胸元で立て続いて無言でOKマークを示し 監督の了解の顔を確認し 忙しく働いているメカニック達の処に向かった

 メカニック達はマシーンのセットアップに 営業の竹田君はスポンサーとスクール宣伝のブースの準備に忙しそうだ、俺は彼らに軽く挨拶をして 気持ちを落ち着かせる為にコースの再チェックをすることにした、今日も朝から気温も湿度も高く暑いコーナーやタイトなカーブが多く ブレーキに負担が掛かりシフトチェンジの回数や加減速が激しく運動量が多くこう暑いと体力とドライバー技量が試させられる所だ!。

 いよいよタイムアッタクの時間だ、motegi.jpgパドックでマシーンに乗り込み、3回挑戦し一番早いタイムを取る、今日は路面温度30度それに加えて湿度が非常に高い、マシーンにも俺にも過酷だ!、井原君、幸ちゃん両メカニック、笑顔で揃って親指を立て発進準備よしの合図、何事も無かったかの様に冷静な監督からの無線通話 「リュウ聞えるか?締まって行くぞ!」 「ハイ!」 俺は答えながら手で準備OKの合図を送り、監督からのタイムアタック開始の合図がありパドックを出た!、

 ・・コースに出2周目から激しく挑戦、他のチームのマシーンもアタックが始まっている、やはりかなり過酷な暑さだ!レーシングスーツ内は汗が流れてぐっしょりだ、今回はマシーンの立ち上がりが良くなり好タイムが出そうだ、2回目のトライ1’35.347でスタートフニッシュラインを通過、それを見て監督 「よし!よし!リュウ2番手のタイムだ、良くやった」 3回目は暑さで集中出来ず少しタイムは悪くなった、マシーンを降りた俺は監督に向かい 「監督、ブレーキにもっと冷気が入る様に井原君に改善してむらいましたが、とにかく今日のこの天気、マシーンも俺も凄く暑くてたまらないす!集中力が途切れてしまいますよ」 何処のチームも同じだろうが、初めての俺の愚痴、監督は黙って聞いて厳しい顔を崩さず 「うん・・・!」とだけ考え込む様に答えた、俺は今朝の引き抜きの事を思い出し ”しまった” と思った、なんて軽率な態度に出てしまった事を少し後悔した。

 1回目のタイムアタックが終わり、スタッフ全員大喜び、孝ちゃん俺の手を取りピョンピョン跳ねながら 「リュウ、こんな事初めて嬉しいよねー」 「井原さんと孝ちゃん、夕べ遅くまで調整していたからとても乗り易くなったよ、ただ今日の天気暑くて最後までもつか心配だよ」 井原君下向き加減に一点を見詰めぼっそりと 「何とかするか」 俺を見てニッコリ笑った 「うん、又午後にたのむよ」 井原君手でOKマークを作りマシーン向かった、2時から2回目のタイムアタック1’33.977少しタイムを短めたがやはり、2番目だ、明日のスタート位置はトップラインの外側だ、明日はフリー走行が有るが 順位の入れ替わりがあるかもしれないがマシーンを温存する為直接本番決勝レースに望む事にする。

 一夜明け今日は決勝レースの日だ 予想通り順位の変更は無かった、海斗の来る日でもある 何故か今朝から小ちゃな恋人を待つように不思議とワクワクして心が躍っている!何がこんなに俺の心が躍らされるのだろうか?あの純粋な目で俺を信じ慕い、あの憧れの眼差しか?自分でも不思議に思う、・・長い道のり大丈夫かな?とにかく待ちどうしい!、午前中フリー走行が有るので朝コースの下見をしてメカニック達と食事を取った。

 孝ちゃん嬉しそうに 「リュウ、コックピットも暑そうだから井原さんと余り効果は期待出来ないが、もっと冷気を取り入れられる様に暑さ対策したよ」 たぶん監督からの指示だろ 「何時も二人共良く働いてくれて助かるよ、ありがとう・・監督は?」 「久美ちゃんと生徒達とで宣伝ブースへ行っているよ」 「じゃぁ、監督と打ち合わせに行ってくるよ、井原君!孝ちゃん!・・ありがとう!」 井原君照れ笑いをしながら ”解っているよ” との思いだろう、手を上げ応えてくれた 「マシーン頼みます、今日は特に暑いので少しでも効果ある事を期待しているよ」 これから行われる決勝レースの展開で無論このタイムならトップを狙える、無論その為の打ち合わせを監督とした。

 我がチームやスクールの宣伝に忙しそうな久美ちゃん達をからかいながら宣伝ブースの手伝いをして気を紛らせ海斗達の到着をまった、お昼少し前に孝ちゃんから、ヨシ子達が付いたとの知らせでサーキット内のレストランに向かった、

 車椅子に点滴用器具と酸素ボンベを付けた元気そうな海斗の姿見つけ、ヨシコと浩子さんの笑顔を見付けホットした、二人に会釈し車椅子の海斗に近づき 「海斗、来たか!疲れたろう?」 海斗は、あたりを興奮したような目で見回し 「リュウ、平気です凄いですね」 長い入院生活がそうさせたのか相変わらず言葉使いが丁寧だ 「そうか、冷たいジュースでも飲んでから案内するよ、とにかく暑いからヨシ子も浩子さんもレストランに入りましょう」

 ヨシ子はチームのロゴの入った帽子にチームのTシャツ・ストレッチスキニーデニムパンツ涼やかな目に大きなサングラス、機能性を重視したスタイルの良さと賓のある顔立ちは俺の自慢である、浩子さんは黒色に大きな翼にリボンの付いたスカラハット、ノースリーブで胸元が大きくV字開いたマーメイドラインとでも呼ぶのか体に添ったタイトで太ももまでスリットの有るロングドレスにその上派手な鏡の様に反射する黒のサングラスを掛けていた、弥が上にも人々の目を引くナイスボデイである、おもむろに辺りを見回し、レース場は初めてであろう、其々の目的の車や、用品、お土産、食料等を求めて賑わっている人々を見回し驚いた様に 「ビックリするほど沢山の人達ね、時々雑誌や写真みる事あるけど、こんなに凄いなんって!」 俺の方が浩子さんにはビックリ!しかしそれにしても妖艶な好い女だ! ヨシ子は得意げに説明をした 「ええ、この賑わい何時もなんですよ」 

 ヨシ子、浩子さんを横目に嬉しそうに 「リュウ 予選どうでした?」 「予選13台中2番目だよ」 浩子さん一つも聞き漏らさない様子で即座に質問してきた 「龍崎さんはそんなに成績良いのですか?ビックリしました」 ヨシ子得意げの顔で 「そうよ!一流チームから引き抜きが有ったのよ」 「もうー」気軽なヨシ子の言葉を制したが  「本当の事だから いいじゃないの!」 海斗は自分の事のように「リュウは絶対やると思ったよ」 「おぉ!海斗ありがとう、ヨシ子も浩子さんもお昼にして下さい 此れから忙しくなりますから」 俺はヨシ子に顔を向け 「ヨシ子!海斗大丈夫なの?」

 海斗を見守りながらヨシ子は竹田君にお礼の言葉を述べた 「大丈夫よ竹田君が気を使ってシートをリクライングさせ旨くベッドを作って寝かせたくれましたから助かりました、流石にレーシングスクールの皆さん運転お上手ですね、海斗君は少し興奮しているが病気も気持ちの持ち方で少しは左右する様で何にか元気になったみたい、でも充分気を付けるわ」

海斗ワー.jpg 各チームのパドックを車椅子を押して通り過ぎる 「ワァー!ほんものだ!すごいよ!」 「海斗、楽しいか?」 「はい」 「レースは何が起きるか解からないから最後まで見てちゃんと学びなさい、皆努力して勝利を掴み取ろうと頑張っているんだよ、後でリュウの乗るマシーンに乗せてあげるよ」 「ほんとう?嬉しいな早く見に行こうよ!」

 其処から車椅子をUターンさせ食堂に向かったが、海斗は食事より車や設備を早く見たそうにしていた 「海斗、お昼ちゃんと食べてからだよ一つずつちゃんと守らないと元気に成らないよ、リュウもお腹すいたから確り食べて力付けるから」 「はい」 ヨシ子は海斗の血圧や脈とり診察しながら何を思い出したのか、きっと以前俺が話しをした ”腹が減っては戦が出来ぬ・・と思うが” あの時の意味でクスクス笑って 「リュウはこれから戦が始まるからね」 と言いながら俺を見上げウインクをした、

 俺は浩子さんに向かって 「お口に合う物が有るかわかりませんが、夕食迄長いので十分採ってくださいね」 浩子さんハイと返事をしてヨシ子と連れ立って食事を選びにいった、やはり二人が立つと目立つ食堂にいた人々の目を奪っている。

 早めの昼食も終わり海斗に取っては見る物が全て本物、少し大分興奮気味だ、俺は心配になりヨシ子の顔を見た、俺の心配を擦し 「リュウ 心配しないで海斗君は脈拍も血圧も大丈夫よ」

 海斗の為に暫く休息を採り、俺のキャンピングカーでレーシングスーツに着替える事にした、海斗の驚きの顔を早く見たい気持ちで海斗を車椅子から抱き上げたが意外と体重が軽くビックリする!、海斗は何の躊躇いもなく手を俺の首に回した、何と暖かく柔らかく弾力が有る、こんな感触初めてだ嬉しそうにしている海斗の顔に思わず頬ずりがしたい思いに駆られた、何だろうこの気持ち?心の底から抱き締めたくなるが海斗が壊れてしまうだろう、その海斗を抱いたままキャンッピングカーに入った、

 海斗、見る物全て珍しくあちらこちら見回し 「わぁー これがリュウの居る所なの?凄いね!」 「そうだよ、これ俺のレーシングスーツだよ それにこの小さいの誰ーれのだ?」 車中のベッドに海斗を腰掛けさせ海斗に説いた、海斗は目を丸くして 「もしかして・・・僕のですか?」 期待を込め俺を見詰めた 「そうだよ、チームの皆からのプレゼントだよ」 「本当ですか?頂いても良いのですか?」 直ぐには信じられない顔をしていた 「海斗のだよ」 海斗の表情は一段と輝きその目は一層キラキラと輝きを増した 「リュウ ありがとう! 本当にありがとう!」

リュウ.jpg 俺はヨシ子と浩子さんを呼んで 「海斗を着替えさせて下さい」 浩子さんは不審な表情で俺を見ていたがヨシ子は以前スーツを注文した事を知っていたので意味が直ぐに判ったのだろう、ヨシ子は俺に了解の合図を送りキャンピングカーに浩子さんを招き入れ急かすようにキャンピングカーに乗り込んだ 「浩子さん、中に入りましょう」 海斗が嬉しそうな笑顔を見せ 「お母さん、リュウがスーツプレゼントしてくれたの」 浩子さんは珍しいのか不思議そうな顔しながら、海斗の小さなレーシングスーツに目を移し驚いた顔で 「龍崎さん、こんなに気を使って頂き有難う御座います」

 浩子さんは軽く頭を下げた 「堅苦しい挨拶はもう止しましょう、これチームの皆が協力してくれましたから」 ヨシ子は俺を援護する様に 「そうよ楽しみましょうよ、海斗君着替えるでしょう」 俺は車の中が狭いので 「じゃぁ、車狭いから着替えるまで俺外で待っているよ、着替えたら呼んで」

 俺は海斗の着替えを待っている間にも観客にサインを求められ応じていた、海斗の着替えが終わり浩子さんに抱かれて、得意げな顔で出てきた 「おぉー海斗!カッコいいよ決っているね!」 海斗テレているが嬉しそうな笑顔だ 「リュウありがとう」 俺は親指立て 「海斗 決まっているよググットだよ、今度は俺が着替えるからそこで待っていてね」 浩子さんと車椅子に戻った海斗を残し

 俺とヨシ子が交代、着替えに車に乗り込みドアを締め一歩踏み入れた途端 ヨシ子が俺の首に手を回し抱きついてきて軽いキスをして 「逢いたくて 寂しかったわ!」 家を出てそれほど日にちが経っていないのに 「実家で何か遇ったの?」 そのまま俺に密着し見詰め 「いいえ ただ逢いたくて、それとレースの後で報告があるの 着替えましょう手伝うわ」 「どうして後なの?」 「いいから心配しないで・・良いことよ」 俺は其のとき勝手に結婚式の事だろうと思い それ以上質問しなかった がヨシ子の態度が後で解る事になる。

 レーシングスーツに着替え、外で待っている、海斗と一緒にパドックに龍崎 健司.jpg行くことにした、海斗は俺と一緒に歩くと言い出した、俺は救いを求める様にヨシ子に目を向けた、以外にもヨシ子からOKのサインがあり 俺は海斗を抱き上げ 地上に立たせた 海斗は少しフラついたが大丈夫のようだ、それよりなんの疑いも躊躇も無く俺の手を確り握り懸命に俺に従い歩いた、

 俺の顔を嬉しそうに見上げる瞳は信頼に溢れて 見詰る瞳は青く澄んで喜びにキラキラ輝いている・・なんだろう? この小さな手から柔らかく暖かい何とも云えない温もりが俺の心を弾ませ じんわりと心に伝わる、何だろう この暖かさ この仄かな感激 説明が付かないが心がワクワク踊っている?・・そんな俺自身に戸惑い驚く!なんで?胸がこんなに熱く感じるのだろう?

 例の如く ファンにサインを求められ又囲まれてしまった、仕方なく海斗を抱き上げ車椅子に戻しサインに応じた、浩子さんもこの観衆や初めてのレース場の華やいだ雰囲気に興奮している様子 「龍崎さんて凄い人気ですね」 海斗も自慢げに嬉しそうに見ていた 5,6人サインをして 「皆さん御免なさい もう時間が無いので又後でお願いします」

 俺は後ろに振り向き浩子さんの耳元で 「・・・浩子さんの事も皆さん憧れの眼差しで見ていますよ」 照れ笑いをしながらも まんざらでもなさそうだ 「まぁ!龍崎さん お上手ね」 俺は追い打ちかける様に 「本当のことですよ」 実際にヨシ子と浩子さんが並んでいるとキャンペンガールやレースクイーンとは違い本当に男達は皆 場違いな場所に舞い降りた鶴でも見ている様に 二人の雰囲気に圧倒された眼差しで通り過ぎて行く

 海斗1.jpg車椅子を押し海斗をパドックに連れて行き、約束の俺達のマシーン(車)に海斗を抱き上げ運転席のシートに座らせて上げる、海斗が大喜びで 「リュウ、凄い、凄いよ!、僕も早く運転したいな」 感激の表情で俺を見上げる 「そうだよ、今度はリュウと競争だね」 「駄目だよ、リュウに絶対負けるから」 「どうして?まだ海斗は戦いもしないうちに、負けちゃうの、駄目でしょう!此れから海斗は元気に成りリュウを負かしてチャンピオンにならなくちゃ、リュウ悲しいな!さっきも言ったでしょう、何でも最後まで諦めては駄目と約束したでしょう」 「リュウ判った約束するよ」 「約束だぞ!」 「はい」

 監督も嬉しそうに俺たちの会話に目を細め来ていたが 「リュウそろそろ時間だぞ 準備に入れ!」 「はい、よし気合を入れて行くよ!・・海斗、交代だ!」 海斗を抱き上げ親指を立てた、海斗はリュウに笑顔で応え 「リュウ、頑張ってね!」 「おぉ」 そのまま海斗を浩子さんに抱き渡し、暫くヨシ子と監督を交え雑談をして気持ちを落ち着かせて、俺は無言でヨシ子に目で ”行って来るよ” の挨拶を送り、ヨシ子は俺の目を見ながら微かに顎を引き小首を振った、それだけで二人には全て心が通うじ合っていた、迎えに来たチームのグリッドガール(レースクイーン)に宣伝用ビッグ・アンブレラを差されスタートラインに運ばれたマシーン(車)に向かう。

 既にレースのスタート位置に運営委員やオフィシャル各チームのメカニックやレースクイーン報道関係者が集まっている、俺は気持ちを落ち着かせ大きく深呼吸をして予選順位順に並んでいる二番目のマシーンに乗り込んだ、例の如く井原さんと孝ちゃんに安全ベルトを確り締めて頂き、両側の脇から肩を叩かれグットラックの声を掛けてくれた、俺も親指を立てステアリング(ハンドル)を確り握り締めた。

 監督から無線チェックを兼ねた声がヘルメットの中に響いた 「リュウ落ち着いて行けよ」 「はい」 フォーメイションラップだ、エンジンが掛けられ全チームのメカニックや関係者達が立ち去る、先導車に従い全車順次走り出す、ウォーミングアップの為時々蛇行運手をしながらタイヤを暖める、油圧、水温のチェック、一周して先導車がパドックに入るがレース車両はそのまま予選順位の従い各スタートポジションに

      ・・・・ (ここからこの小説の冒頭に記したレース場面に入る)・・・・・

リュウヘルメット.jpg 俺は二番目のスタートラインに付く、外側の最前列だ、前には前車や遮る物も無いが、今度はやけに後ろが気になる、エンジン音が一斉に高鳴るがこの待ち時間は俺にとっては、毎回の事で有るが集中の為か何も耳に入らず静寂だ!俺の心臓の高鳴りだけがやけに大きく感じる、

 この緊張間、何回経験した事か全く馴染めない実際は数分の事だろうが俺にとって何と長い待ち時間、それに各コックピットに収まったレーサー達の目が爛々と輝き燃える様に迫る俺は彼らの威圧を緊緊(ヒシヒシ)と感じる、此のときばかりは皆、獲物を狙う孤独のオオカミ達であろう、最後尾のマシーンもスタートライン付いた。

 いよいよだ!スタート合図のシグナルランプがつき始める1,2,3,4,5全て付き、次の瞬間ブラックアウト全て消える、スタートだ!同時にクラッチバドルを放す、タイヤが白煙を上げ廻り始める、もう一度クラッチを引きながらシフトアップ、アクセルを床が壊れるほど踏み込み第一コーナーに傾れ込む、

 旨くトップを押さえインに付く、コーナーぎりぎりで今度は思い切りブレーキング、フロントのブレーキデスクが熱をおびて真っ赤に染まる後輪も真っ赤に焼けているだろう想像できる、すかさずギア(gear)をシフトダウン同時にエンジンブレーキと併用する、

 その瞬スタート事故1jpg.jpg間何か後ろから押されマシーンが回転し舞い上がった、空と地上が逆さに見えた瞬間 強い衝撃を受けそのまま意識が無くなった。

 後は関係者から総合的に纏め、第一コーナーのエスケープゾーンの砂地に真逆さまに着地したマシーンの下から駆けつけた係員とオフシャル(official)の人達の助けにより俺を引きずり出し、ちょうど其の頃監督とヨシ子が駆け付けた、

 ヨシ子は私は医師ですからと関係者に伝え、俺の脈を取り呼吸を確認してヘルメットを外し、頭、首、胸、腹、腰、手足を順序良く、手のひらでさすり押さえ負傷箇所の確認をした 同時に監督に救急車を要請した様だ 係り員が無線でレース場内の救急車を呼ぶ、

  ヨシ子の何時もより冷静を装う様な際立った声で 「何処にも骨折も出血は無さそうね 多分後頭部の強打により気絶と思いますが 無闇に動かさないで下さい!」それから常にレース中待機している医師と救急車いる事の知らないヨシ子は少し取り乱した様に一際高く「誰か近くの病院に連絡を取って下さい!」と叫んだ 待機していた救急車と救急隊員が直ぐに到着 ヨシ子先生はあまりにも素早い対応に驚いた様子だが直に理解した、其の後幸いコース上を外れていたのでレースを中断される事も無く、俺の事故車も取り除かれレース用のペース・カーも安全を確かめレースを中断する事なく続行した。

もてぎ観衆.jpg 事故を見ようと集る観衆、サーキット内の救護班も直ぐに到着し外科の専門ドクターも見え、ヨシ子先生の診断通りで茂木駅付近の整形外科の病院に運び込まれた。

 其処の整形外科医のベッドで俺が目覚めたのは30分足らずと思われる、母と思ったのはヨシ子の声の様だった、でもあの小ちゃな女の子は何だ!・・

 やがて完全に意識を取り戻した俺にあらためてヨシ子の確認の診察が始まった 「リュウ、深く深呼吸して見て、・・何処にも痛み感じない?」 「うん」 「はい!もう一度深く息をすって・・どう痛い所ない?」 「大丈夫だよ」 「次はお腹出して」 ヨシ子は俺のレーシングスーツのジッパーを全開に下げ、胸や腹をあちこち、手のひらの指先を揃え押して

 「痛くない?」 と真剣な表情で質問してきた 「痛くないよ」 「両足の爪先、動かして、痺れた所はない?」 ヨシ子に診察を受ける何って変な気持ちだ、つい 「しびれた処?ヨシ子先生にだよ」 ヨシ子は冗談と気が付かず 「うん!私ではなく?・・・」

 気が付いたようだ、すこし怒ったような声で 「リュウー ふざけないで! 冗談では無いのよ!、本当に危なかったのですよ!・・それで如何なの?」 「大丈夫だよ」 「次は両手握ってー・・開いてー どう異状ない?」 「どこも痛くないし・・普通にできるよ」 

 少し安堵の表情を見せ 「自分でレントゲン室まで移動できる?」 「あぁ少し痛いが 出来るよ」 此処の老先生だろう 「大丈夫か?自分で起き上がる事が出来るか」 此処の医院の寄り掛かったら倒れてしまいそうな痩せたお年寄りの先生の助けをかりたが意外と力があり助かった、レントゲン室に移り直ぐにX線の検査を受けた。

 首や背骨を重点的に、何処も異常が診られなかった改めて脈拍と血圧を測り 「良かった、此処の先生と首から下のレントゲンを検査をしたのですが何処も異常が無いようよ、まだどこか痛みがある?、体全体を診察ましたが今の所、内出血もなさそう、はれた処も無い様ね、異常を感じたら直ぐ教えてね」

 先ほどまでの甘えていたヨシ子ではなく完全にドクターだ 「先ほど横浜の私の所の病院にベッド予約入れましたから、今日は其方に泊まり翌日、頭と脊髄のMRIとCTスキャンをします、リュウ 解りましたね」

 何時もなら大丈夫だからいいよと云うところだが、おもわず!夢の中で金縛りの出来事を思い出し 「MRI!磁力が!」 「エッ!MRIやCTがどうかしたの?」 ヨシ子は不思議そうに俺を覗き込む!

 「CTは放射線・・MRIは・・磁気が・・」 「リュウどうしたの?・・へんな人 MRIは頭等に向いているのよ」 「いや!べつに・・判りました先生、それで海斗達は?」

 思わず先生と応えた俺とヨシ子の会話が可笑しく感じたのか先ほどまで心配そうな孝ちゃん笑いながら俺を見て 「先生か!だよね でもリュウには・・・それより・・」 引き続き俺の心を察し

 「海斗くんの事よね、・・大丈夫よ リュウが最後までレース見なさいって 約束だからってリュウの事心配でたまらないのに唇噛んでホントに動きそうも無かったですよ、多分リュウを見るのが怖くて かえってその方が私達に都合が良いので其のままレースが終わるまで浩子さんとチームの皆さんとで観戦して頂いています」

 「そうか、海斗はもうレースを見る機会が・・」 俺は軽率な言葉を慌てて飲み込んだ 「俺はどうやら大丈夫、海斗も大丈夫そうだから皆を待ってからにしょうよ、良いでしょう?ヨシ子」

 ヨシ子も今は落ち着いて 「ええ、そうしましょ浩子には海斗の緊急処置話して有るし、何かあったら電話する様に伝えてありますから皆さんが戻るまで暫らく此処に居ましょう」 此処の老先生に許可を求める様にヨシ子が見詰めた 「その方が良いだろう、ここで休んで居なさい」

 監督は安心した表情をみせ 「リュウ、大丈夫そうだから、サーキットに帰って後片付けに戻るよ!終ったら竹田をまわすから」 俺は頭を下げ 「監督!心配をおかけしました・・あと宜しくお願いします」 「心配するな!暫らく休め、レース終ったらなるべく早く竹田君と海斗君達を此処に寄こすよ」 と言い残し病室を出た

 孝ちゃん、唇の所に両手を合わせ静かに近づき 「リュウ、本当に心配したんだから、缶コーヒーとソーダ水置いていくよ」 「ありがとう、相変わらず気が利くね、コックピット涼しくなったか判らない内に終わちゃって井原さんにごめんと伝えておいて、皆にも大丈夫だから宜しく言って」 「伝へておくわ」 幸ちゃんは監督を追う様に病室をでた。 老先生も診察も済み今の所異変も無いことを核にして確認して続きの母屋へ戻った。

 暫らくは、ベッドの上の俺とヨシ子だけになった 「リュウ何処か痛みと腫れてきた所無い?」 ヨシ子が余りにも真剣な表情なので少しリラックスさせようと思い「痛みは安全ベルトの跡くらいかな、腫れてきた所は・・ここ!」 俺の股間を指差した 俺は先生の張り詰めた緊張をほぐしたかっただけだが、ヨシ子は呆れたように少し怒って見せた 「バカ!もう本当に心配したんだから、お腹とか胸よ 内出血が有ったら本当に恐いのよ!」 「ゴメン 大丈夫だよ 何も異常無いから」 もう一度 俺の体を調べながら 「何処も無いのね 良かった!」

 ヨシ子はやっとホットした顔になり、ベッドのクランクを廻し 俺を起し缶コーヒーの蓋を指先が痛そうに開け 俺に渡しながら 「本当に驚いたんだから 震えるほど恐かったわ、私の方が心臓止まりそうだったわよ!、駄目ねこんなに冷静さを失うなんて!・・さぁー コーヒー飲みなさい」 緊張が解れたのか缶コーヒーを渡す手が小刻みに震えていた、ヨシ子の手を握りながら 内心もう止めて欲しいと言いたのでは?それをじっと我慢しているかなと勝手に想像してしまい、美奈子の時の事が甦り またレースを辞めなければと 言い知れぬ不安が襲った!

 俺は自分の不安を打ち消すか様に 「有難う心配かけて御免!・・そうだ! レース前に話があるって?」 ヨシ子はベットの俺の膝辺りに頭を預け、俺の手を握りながら 「こんな時に告げたく無いけれど」 「いいから話してくれよ」

 暫く考えている様子で、思い切った様に顔を上げ 自身のお腹を擦りながら「・・リュウ 出来たの! ハッキリするまで言えなかったが 少し前から体調が変だったの・・で昨日 産科で調べていただき 3ヶ月だって、きっと最初の日か二日目にリュウと結ばれた時と思うわ」 嬉しそうに俺の顔を窺うようにしている、

 「出来たって?・・子供?・・本当かよ!・・夢の続きじゃ無いだろうな?」 一瞬そう思えた!、ヨシ子は不安そうに 「女にはなんとなく解るのよ」 ヨシ子怪訝そうな顔をして 「ゆめって 頭 大丈夫!」 俺は正直レースを続けられるか否か正直それどころではなかった、それに現実に目の前に赤ん坊がいる訳もなく如何のように表現してよいのか?  正直 他人事の様で驚きも喜びも感動も感じられなかった 多分 俺の想像だが若さが衰え何かを伝えたく思った時に初めて感じるのではないか? 他の男たちはこの様な時どの様に思うのか? 唯 当惑だけが残った。

Formura-RYy1.jpg この仕事をしていると 生きている実感が危険と隣合わせで肌で感じられ 今のこの様な事は まだ夢の中の出来事の続きではないか?本当に俺は目覚めているのか そんな錯覚に陥りそうだ!

 もしもこの俺が死んだら俺の子が生まれようが周りの者がどうなろうと、喜びや悲しみを感じる事もこの世の行方も全ての存在が無だ! この世の中が俺の世界から消えてしまう 一体俺の存在とは何んなんだ!夢の中のあの子に引き継がれるのか?

 今は亡き有名なF-1ドライバーの言葉を思い出す レース中に神を観た!と語っていた事があるが その事を思い出していた?、人によってはそれも有りうる様な気がする 何故この様な考えが浮かんでしまったのか 俺にも解らない?。

 ヨシ子は不安そうな顔つきで俺を見ている 「うん後で話すよ、さっき気が付く前に変な夢見ていたんだ!それで」・・「それより俺に子供?..何か実感がないよ! 如何して何時の時か分るの?」

 俺は子供と聞かされ、それほど戸惑いも無かったが ハッキリ云って他人事の様に感じ 本当に自分の子供に対しての実感は湧かなかった、それが俺達に取って重大な事は理解していた 俺が何を思うが受け入れ無ければならないと思った事も確かだった。

 大喜びする男もいるが そんなに嬉しく思うのか 今の俺には解らない?、正直自分の家庭や子供?そんな事考えも及ばなかったから まだ俺には遠い先の事と思っていた、

 俺の気持ちを察したのか不安そうに 「もっと喜ぶかと思ったわ!・・リュウ嬉しくないの?」 ヨシ子の実感だろう 本当は子供が出来た事を喜べば良い事は解っているのだが、

 俺はヨシ子に悪いと思ったが、今の本当の気持ちに正直に答えた 「嬉しいとか?嬉しく無いとか?本当に実感がないんだよ!」と俺もバカ正直応えたものだ! 「中には子供で繋ぎ留め安心するカップルもいるだろうが、俺はただへーそうなのと受け入れるしかないのが本当の気持ちだよ!」 

 ヨシ子は少し落胆した様であったが俺を非難したりはしなかった、直ぐに表情を明るくして 「・・男は実感湧かないよね自分のお腹ではないからね、皆 本音はそうだと思うわ、リュウは何時も本心で言うから心にも無い事を云はれるよりその方がいいわよ・・それより・・お腹触る?」

 「え?どうして」 と質問したが 慌てて訂正した 「うん」 俺は余り無関心ではいけないと思い慌て ”うん” と言い返した、 ヨシ子は立ち上がり 服の上から俺の頭をお腹にゆっくり引き寄せた、俺は耳をヨシ子のお腹に付け 暫く聞き耳を立てた、

 ヨシ子を見上げ「何も解からないし聞こえないよ・・?」 「フッフ!気が早いのね まだよ・・此れから少しずつ大きくなるの」・・「それにリュウは自分の夢を追っていて まだ夢を失っていないから、子供への期待も夢も湧かないのよ」ある意味ヨシ子に採って、俺も子供 私の子供が二人なったと思っているのが実感だろう。

  思わぬ事故に耐えているヨシ子を凄く愛しく切なく感じ その上今 子供の事を知らされて、以前の妻の事柄がよりいっそう甦りまたもレースを辞めなければならないかと急激に不安に駆られ 思わず俺はヨシ子を抱き締めた、何も言葉が浮かばず俺は・・只々、不安を押し隠す様に幾度となくヨシ子のお腹に頭を押し付ける事しか出来なかった。

 ヨシ子は 俺の不安を感じ取ったのか優しく俺を抱き締め 「リュウ、解かっているから良いのよ、何も云はなくて・・・解かっているから」 かえって、優しく慰められる様にヨシ子のお腹に俺の頭を優しくそっと押し付け

 「良いのよ、安心して私は大丈夫よ、此の子が出来たからと言ってリュウにレース辞めてとは言はないわよ」 何か不用意に発した俺の言葉を反省し、ヨシ子を此れほど、愛しく切ない思いを感じた事はないと思った、もっともヨシ子が俺と結婚を決意した中に子供を作る事が重要な目的でもあったのだろう、そんな事は俺も解っていたはずだ!でも余りに俺に取っては早過ぎた。

 ヨシ子はなおも明るさを装い 「それに体調の変化はあったが、子供の事、私にもあまり実感湧かないの、でもね此の子がリュウの事、確り感じていると思うから」 ヨシ子は俺にお腹を触らせる事で、無意識に俺達の子供を少しでも俺に意識させたかったのだと思う 「うん、子供に解かるのかなぁー?」

 「そうよ、リュウの子ですもの、少しずつお腹大きくなったらリュウも実感するわよ、リュウと出会った事も不思議なのに、リュウの事が堪らなく好きになり、新しい生命が生まれたのよ、その小さな細胞が二つになり四つになり八個になって徐々にDNAによって遺伝子が形成されてやがて二人の魂を受け継ぐのよ、性は生なの大切な命なのよ、リュウと出合った事も奇跡なのに、なんって神秘的なんでしょう・・・きっと此の子がリュウを守ったのよ」

 やはり、こんな時も説明が医学的だ、リアル過ぎるがそれだけヨシ子の真剣さがわかる、本当に俺の子供が出来たのだと!、俺に理解出来る様にの配慮だろうが俺にはピンとは感じず それより俺は夢の中での子供の出来事を思い出しそれを重ね合わせ 「本当に神秘的だね!」

 自分でも意味不明な事を口走っていた 「俺もそう思うよ・・と云うか、信じた方が俺とヨシ子とお腹の子が幸せにいられるよ、だからヨシ子の云う通り此の子が俺を守った事信じるよ」 ヨシ子は呆れた様に 「もう!素直じゃあ無いから、これは現実よ!もう!理屈屋なんだから!」 少し怒っている素振りをみせた。

 本当に実感は無く 「俺、形ちの無い物は信じられないが、今回だけは違うよ!そんな気がする きっと女の子だよ、あの夢もそうだから!」

 そうか、俺の何処かで子供は邪魔になりレースを辞めなければならなくなる恐怖があり、それがあの夢の赤ちゃんとなって現われたのかもしれないと思っていたが、又俺の潜在意識の中に子供は女の子が良いなと思っていたからなのか?、それにヨシ子を失いたく無いとの思いも強く有ったからあんな夢を見たのか?

 ヨシ子は俺が今回の事故に遭って、子供のことと混乱しているのではないかと思ったのだろう、優しく

 「今は調べれば簡単に子供の性別は判りますが、まだ男の子か女の子か聞いていないわ、フッフッフ、リュウの希望的観測ね女の子が欲しいのね」 「かもね」 そうか、もし子供が出来るのなら女の子がいいなと無意識に心の奥底で考えていたのかも知れない

 「ねー、リュウの見た夢って!詳しく聞かせて」 「俺も理解できない事が多くて整理して後でゆっくり説明するよ」

 「夢って理解出来ないそんなものなのよ、でも聞きたいわ後で話してね、リュウの心の奥底の潜在意識が見えるかもね、冗談よ」 「うん、何時だって全て俺の気持ち知っているくせに」

 「どうかな? 私、感じたのリュウの海斗を見る目お父さんの様だった、さっきほど後から見ていて浩子も感じていましたよ、海斗君があんなに懐き甘えて本当のお父さん見たいだって、将来のリュウの姿見えた様で嬉しかったわ」

 俺は海斗が懸命に俺に手を差し伸べる仕種を思い浮かべ 「何んだろうね?海斗・・何のためらいも無く其れが当然で有る様に何の躊躇も無く心から信頼して、俺の手を握って来るんだ、マジ俺、子供は煩くて嫌いだったよ、でもあの感触・・何とも云えないよ、小さくて風船見たいに弾力があり軟らかく温もりが有り笑顔で無心に俺を見詰める、全てを信頼し懸命に握って来るあの小さな手」 ・・あの感触を思い起こすように、俺は手のひらを眺めながら・・

 「ヨシ子とは又違った愛しさを感じるよ」 ヨシ子は嬉しそうに 「それだけリュウの心に余裕が出来たのだと思うわ、良かった!もう直ぐ会いに来るリュウと私の子供に優しく出来るね、私も確りしなくては今のリュウを選んだのだから」 ヨシ子はもう一度訊ねた 「ねー、気絶している時に見た夢ってなに?知りたいわ」 「うん・・・」

  暫らくすると、海斗の興奮した甲高い声が聞こえてきた、レースも終わり竹田君と久美ちゃんが、浩子さんと海斗を連れ戻った、浩子さんは心配そうに 「もしかして駄目かと思いましたが監督達に伺いまホットしました、本当に大丈夫なの?」 ヨシ子が医師の立場であろう自分のお腹を擦りながらそれに応えた 「今の所、この子のお蔭で奇跡的に何の異状もないようよ、横浜に帰って精密に検査しないと」 子供の事はレース場に来る時にでも話していたのだろう、浩子さんほっとした様に 「ヨシ子が付いているから大丈夫と思ったが、よかったー」

 浩子さんは車椅子を俺のベッドの脇に押して海斗の顔を真近に寄せた 「リュウ、やっぱり大丈夫だったね信じていたんだ!でも・・心配だったんだ、リュウが最後まで見なさいって」 海斗の中では、きっと俺はウルトラマンか仮面ライダーそんな何かだ! 「そうか、レース面白かったか?」 「うん、リュウが一番だったのに後ろの奴は汚いよ!」 「海斗!それは違うよ俺が後ろなら同じ事に成ったかも知れないよ」

 海斗は大きなめをもっと大きく見開いて 「リュウはそんな事しないよ!」 「海斗、俺も皆もレースをしている人は皆勝とうと思って戦っているのだよ、避けられない事も有るんだよ」 「デモ」 「海斗、デモはいけないでしょう、リュウの事応援してくれて嬉しいけど、相手の車もダメージを負ってしまい相手の人も死んでしまう事もあるんだよ、皆フェアプレイで戦っているから、さぁーお腹空いただろう?何処かで美味しい夕飯食べて帰ろう!海斗は何が好きかな?」

 竹田君久美ちゃんと心配そうに後ろに控えていたが 「キャンピングカーから龍崎さんの着替え持って来ましたから、それと久美子、龍崎さん達が心配だから一緒に横浜に行くそうです」 「ありがとう、ご苦労さんお願いするよ、着替えて直ぐに行くから車で待っていてよ」 俺はベッドから降りようとしたが、検査の時までは緊張で打撲の痛みを余り感じ無かったが痛みが出てきたようだ、滅多の事に痛いとは言はないが思わず「いたたた!」 ヨシ子思わず俺に手を貸し 「大丈夫?着替え手伝いますから」 ヨシ子が診察室に残り俺の着替えを手伝ってくれた、俺は海斗の事でフトと思い立ち ヨシ子に尋ねた 「海斗は自分の人生を重ね合せ あんなに怒っていたのかもしれないよ」「如何意味なの?」「どうーって 好んで病気になった訳でもなく不条理な自分の人生に重ねていたのかも・・それで・・怒りが」「解る様な気もするが リュウの考えすぎよ」「そうかなぁー?」「リュウって・・さー着替えよう」

 着替えながら海斗の事で世話になり、竹田君や久美ちゃん達の事もあって、俺は相談も兼ねてヨシ子に尋ねた 「竹田君達、今日朝から海斗君や今回の俺の事故事で大変だったから、何処か二人を横浜に泊めて上げようかと思って、どう思う?」 「二人一緒に?」 不思議そうに尋ねた 「あぁ、あの二人もうーとっくに出来てるよ!」 「それでしたら良いとおもいますよ」 「ヨシ子、二人の為に港未来のホテル予約取ってよ」 二人の事を話したばかり、ヨシ子は察しが良く 「分ったわ、一部屋でいいのですね」 「ああ、海斗君や俺の事で迷惑掛けたからお礼のつもり」 「リュウって、優しいのね、こんな時まで」 俺自身の事で大変な時にと思ったのだろう 「俺、監督に許可とるから連絡入れるよ」 携帯から監督に 「リュウですが」 「おぉ、大丈夫か?」 「はい、少し痛みますが大丈夫です、それとマシーン(車)どうですか?」

 「そうか、余り無理するなよ、井原君が調べた処やはりチャーシ(車体)に大分皹が入り駄目だそうだ、ダメージの個所の写真撮って明日リュウの診断書と保険会社に掛け合って来るから」 (皆レース前に車もドライバーもピットの中で働いている人達に普通の保険より、かなり高いが掛けてある、車が作業員の中に飛び込む場合もあり何処で何が起るか知れない)

 「そうですか、宜しくお願いします」 今後レースが続けられるか、不安が過ぎったがそれには触れず 「それに今回海斗くんや俺の事で大変で竹田君達遅くなりますから、今晩横浜に泊めていいですか?明日久美ちゃんと竹田君休ませて頂けますか?」 監督暫く考えている様子だったが 「そうだな、明日は事務所は休みにするから大丈夫だ、あの二人此処の処休まず働いていたからな、俺からもゆっくり休んで来なさいと伝えてくれ、・・それとスクール名で領収書むらって来いと伝えてくれ」

 「ホテル代は俺の気持ちですから」 監督変わらず低い落ち着いた声で 「そんな心配はいらないよ、今回事故でのリュウの付添経費の一部だから保険請求するから心配するな」 やはり経営者回転も速い俺には経営なんて無理だな!兎に角レースを中断する事が残念だった 「はい有難う御座います、やはりマシーン駄目ですか・・休みの件二人に伝えておきます、また後で」 監督は俺を気使ってか 「残念だろうが それより大きな怪我が無くて良かった 気を付けてな!」 ヨシ子もホテルの予約出来た様で、ここの医院の老先生に挨拶をすませ、俺達は横浜に向かった。

  途中で夕食を取り、海斗は、興奮してレースの話で夢中だったがさすがに疲れ、マイクロバスの倒したシート席でベッドを旨く竹田君に作って頂き、すやすや寝てしまった。

 海斗の母浩子さんは、今までに無い別世界を見その上、俺の事故、海斗の生き生きし輝き興奮した別の顔、全て初めて体験を一度に味わい、何から話して良いか戸惑いながら言葉少なく 「海斗が何時までも子供と思い気が付か無かったわ、別な面を知り、何時に間にこんなに成長して居たのかビックリしているの」 ヨシ子は自分の考えが正しいと確信したのか 「海斗君なりに、お母さんを自分の病気で苦しめて悲しませていると思い、反って浩子に気を使っていたのよ、今日、本当に浩子に甘えられる子供になったのよ、あれは駄目此れは駄目で浩子が悲しい顔ばかり見せていたから」 浩子は反省するように 「気が付かなかったわ・・・そうよね」 と ぽつりと洩らした。

 俺はなんの思いも無く、自分の過去の経験からヨシ子より浩子さんに助け舟を出していた 「もーう、浩子さん解かっているよ!、此れは長く看護した人しか判らないよ!」 ・・以前、俺もどんなに投げ出したく思った事が有ったか、誰に訴えてもお前の奥さんだろう、当り前と云はれるのが落ちと決め込んでしまった自分と重ね合わせ 「どんなに疲れても世間からは母親だからて、当たり前だろうって言はれ相談も出来なくなり、口先で ”分るわ” と言ってる人が本当に追い詰められた人をどれだけ解かっているのか?」 どちらでも無く俺の経験を愚痴を交え口走っていた・・

 「老夫婦が妻の痴呆症で疲れはて、何の助けにも成らない口先だけの言葉など要らなくなってしまい、しかも企業である程度高い地位にある人ほど、退職後尋ねる人も少なく、懸命に生きて来た人生はいったい何で有ったのか虚しくなりその上、看護で本当に疲れきり思考力も失い、相手に許しを乞い、泣きながら殺さなければならなく、自分も自殺してしまう、そんなニュース等聞くとどんなに惨めに苦しんだか、心が締め付けられ切な過ぎてたまらないよ・・

 ・・むしろ見た目は同じでも、感情を入れず仕事と割り切れ義務だけで看護出来る人の方が楽でしょう、これは長期に心から患者を思い愛し看護した者しか解らないよ、浩子さんの気持ちも解ります」  尚も俺は自分の事の様に喋り続けたが、知らず識らず俺自身の辛かった経験もありヨシ子を傷つけてしまっていた。

 「でもね、俺もそうだったが浩子さん一人で抱え込まず気軽に皆に話してみたら、ヨシ子は浩子さんに分って欲しく、医師という立場を超えて危険を冒しても力になれればと思ったからでしょう、もっと素直に苦しさをぶっつけたらいいよ」

 つい長々と俺の思いを話してしまった、浩子さんは海斗の寝顔を見ながら海斗の頭に手をやり 「はい、皆さんのおかげで、海斗がこんなに生き生きして、心から笑った笑顔何時見たかしら・・長い事見られなかったわ皆さん!ありがとう御座います、今日一日皆さんの暖かい気持ちが本当に嬉しく心に沁みました、何か気持ちが楽になったようです」 ヨシ子ホットした様に 「浩子、本当に良かったわね」・・「それに竹田君とクミちゃん、疲れているのに有難う」 竹田君も久美ちゃんも話に入り込めず 「いえ、仕事ですから」 と笑顔をみせた。

タッチおじさん ダヨ!.jpg フー!次に行くか!・・此処まで読んで下さり有難う御座いますStor【前編10】へ続きますクリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-23是非お読み下さる事お願いね
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コメント 8

mimimomo

こんばんは^^
いつもご訪問ありがとうございます♪
by mimimomo (2017-11-06 19:52) 

ふーみん

あけましておめでとうございます。

何時もナイスコメントありがとうございます。
タッチおじさんの小説 ますます内容が濃くなり
充実してますね。
今年もよろしくお願いいたします。
by ふーみん (2018-01-09 18:13) 

mimimomo

こんばんは^^
新年はどのようにお過ごしでしたか。我が家は昨日まで息子が11連休でいましていろいろ忙しかったです。老夫婦二人の時は結構暇がありましたが、息子一人増えると食事の買い物から支度まで、年寄りには堪えます(-。-
今年もよろしくお願いいたします<(__)>
by mimimomo (2018-01-09 18:37) 

mimimomo

おはようございます^^
今日は冷えますよ~昨日の方がもっと寒かったけれどいかにも寒中ですね。
ご訪問ありがとうございます♪
by mimimomo (2018-01-13 06:17) 

mimimomo

おはようございます^^
2~3日前から急に寒くなりましたね。
暖房と、ベッドへ湯たんぽを入れるようになりました^^
この先益々寒くなるのかしら。
お風邪など召しませんように、ご自愛くださいませね。
by mimimomo (2018-12-12 07:44) 

mimimomo

こんにちは^^
ここ数日はお天気も良くなく梅雨らしい日でした。
本日はまた雨も降っていて、何だかうすら寒い(><;
by mimimomo (2019-06-24 14:50) 

mimimomo

おはようございます^^
今朝も雨のスタートです。でも雲が薄くなってきているようで、止むのかな~
チラチラブログを読ませていただいていると、少し変えていらっしゃいますか? 前に読んだ時より長くなっているような・・・気のせいかな。
by mimimomo (2019-12-17 07:46) 

mimimomo

こんばんは^^
今日は凄い強風雨。窓を打つ音がうるさいほどです。
お元気でいらっしゃいましたか? 今、わたくし少し風邪気味。コロナではないと思います^^
by mimimomo (2020-04-13 18:18) 

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