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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編11】 「Fictoin Story」 [小説〔Story〕]

☆ストーリ【Story10】からの続きです是非下欄【Story11】をお読みください

    《今期最終・スポーツ・ランドSUGO》 

 レース前に必ず海斗に会う約束をしていたが別な意味で心が揺れていた、だが約束を破る訳にもいかない。 いよいよ今期最終のFormula Nippon(フォーミュラ・ニッポン)レースSUGOの開催日も迫り、

 今朝、家を出る前にベースの勤めの帰りに約束の海斗君に会い行く事をヨシ子に告げた 「チョット待って!」 キッチンからのヨシ子の声で玄関先で立ち止まりヨシ子を待った、俺の前に立寄ったヨシ子は、急いで着た俺のジャケットの捩れた襟を直しながら

 「浩子さんや以前のリュウ事御免なさい、もし浩子さんに会って相談されたら聞いてあげてね、お願いよ多分そんな気がするの私も会えたら話しをしますが今日は定時にリュウを待たずに先に帰りますから」 女の感?それとも長い友達としてか?それに何か俺の心の底を見透かされた様で気まずかった。

 俺は何処かに後ろめたい気持ちがそうさせたのか、意味も無く誤魔化し不機嫌を装い 「解ったよ!もし会ったらね、じゃぁー行って来るよ」 ヨシ子、知ってか知らずか機嫌よく手を振って 「気を付けて行ってらっしゃい」 と笑顔で俺を送り出す、いや、たぶん俺の心を見越してしての事だろう、何を言われた訳でも無いがそれとなく釘を刺された思いだ、心の疚しさで拘っているのは俺の方かもしれない。

プラモデル・フェラーリ.jpg 基地ベースでの仕事が何時もどおりそれとなく終わり、海斗の居る病院に向かう帰り道の途中、スーパーストアーのおもちゃ売り場に立ち寄りF-1フェラーリのプラモデルを購入して急ぎ海斗の待つ病院に向かった。

 俺は幾分心なし弾んでいた、それは海斗に会える事だけではなく、ヨシ子をこんなに愛しているのに何故だろう!済まないと云う気持ちが有るにも関わらず、何処かで浩子さんに会えるかも知れないと思う期待が有るからだ。

 着いたのは夕方6時を少し過ぎた頃であった、海斗の病室を期待と良心の狭間に揺れながら訪ねた、本当にヨシ子の感が当たっていた、何故こんなに俺の心がときめくのだろう!。

 たぶん海斗に病室の外に行きたいとせがまれ、ちょうど院内を車椅子で海斗と共に散歩して病室に戻った所であった。 俺は浩子さんを意識したのだろう、浩子さんを無視する様に海斗に向かって声をかけた 「よ!海斗」 此方を向いた海斗は、俺を見つけ目を輝かせて 「あ!リュウだ!こんにちは、お母さんリュウだよ!リュウが来てくれたよ」

 浩子が静かに振り向きゆっくりと頭を下げた 「先日は色々有難う御座いました、又何時も海斗に気使って下さり本当に有難う御座います、・・ヨシ子は1時間ほど前に帰りましたよ」 俺は何かよそよそしく 「あぁーそうですか、俺、海斗との約束が有ったものですから、もう気使いはよしましょう。俺はただ海斗が好きだから来ているだけですから」 何故かこんな、言い訳じみた言葉を発したのだろう 浩子さんは黙って見詰め返した 「・・・」 全て見通している様な瞳で、

 俺は意味も無く慌て 「あぁーそれにこれ海斗に」 何故か言い訳を・・彼女に!か、いや俺自身にかもしれない?何か落ち着かず、海斗を利用しているのではないかと後ろめたい気持ちがあったからだろう。 hiroko-kaito-1.jpg海斗にプラモデルを渡した、海斗は無邪気に 「リュウありがとう!、ワァー、フェラーリこれ欲しかったんだ!ありがとう」。

 浩子さん何か思いつめた顔で 「海斗良かったね、お母さん龍崎さんとお話があるの、少し良いでしょう?」 海斗は素直に 「うん・・、ねーリュウそのまま帰ったら駄目だよ!」 「判った後でね」 海斗をベッドに戻し、前髪をそっと掻き上げ横から俺を見上げる浩子さんにドキッとするほどの艶めかしさを感じた 「龍崎さん、何処か食事に行きましょうか?」

 きっと浩子さん一人で食事をする事が寂しいのだろうと思ったが、俺は何故か浩子さんを直視できず、海斗に目をやりながらかろうじて 「いいえ、ヨシ子が夕食待っていますから屋上に行きましょう?」 ヨシ子の悲しい顔が浮かぶ、心が踊る俺自身が恐く無意識に歯止めをかけたのだろう 「そう、解ったわ行きましょう」。

 夕暮れの屋上に上がり、向かいには、東京湾を挟み千葉の房総半島の明かりが微かに瞬いて見える、海からの風が肌に優しく時折通りすぎる。

 浩子さん真っ直ぐ俺を見詰め 「知っていると思いますが、私、離婚する事に決めました」 その悲願する様な眼差しに何故かドギマギするが、俺は負けずと見返し 「海斗から聞いて知っています、あなた達の都合で海斗に ”お父さんに会えないわ” は無いと思います、何があろうと海斗にはお父さんですから」

 浩子さんは意外と素直に 「はい、先ほどヨシ子と話してきました、反省しています、以前私達学生の頃から何時も一緒に行動していてヨシ子は知らないのですが、結婚前私の夫はヨシ子の事大好きだったのです、それで夫はヨシ子の気持ちを聞いて欲しいと私に頼んだのですが、私は其の当時夫の事が大好きで一緒になりたくて、つい夫の希望をヨシ子に伝えないまま、おそらくヨシ子のタイプではないし、勝手にヨシ子が嫌いと言ったと夫に話してしまって、それで夫はヨシ子を諦め私と・・、だからヨシ子に夫と二人して相談出来なかったの」

 少し驚いたが平静を装い 「その事は解りました、それまでして結婚したのですから何故ですか?・・もう本当にやり直す気持ちは無いのですか?こんな時ほど助け合わなければ・・あっ、つまらない質問してしまいました」 散々苦しんでの事だろう俺が言うまでもないだろう 「ええ、もうお互いに修復は出来ませんわ、実はヨシ子には話してないのですが、私達 別居していますのよ」

 俺は動揺したが、かろうじて理性が働き 「・・でしたら、今後の事、海斗君の事もありますから弁護士にお願いしたら如何でしょうか?・・市の相談室に行けば無料の弁護士も、有料でもっと良い法律事務所を紹介してくれますよ、訪ねてみては?」 「・・・」 「それに海斗君の看護疲れもあることでしょう、介護の問題や経済的問題は国がもっと考えるべきですよね」 「・・」 「もっと早く相談していたら多分こうにはならなかったと思いますが」 何か勝手な理由をつけてしまった。

 「ええ、そうしてみます」 「ヨシ子とは長い付き合いと聞いています、もっと気軽にヨシ子に相談しては?俺も経験が有るから思うのですが一人にならず話をすれば多分少しは気が楽になりますよ」 浩子は俯いたまま 「はい、ヨシ子にもその様に言われました」

 今度は徐に顔を上げ、訴える様に俺を真っ直ぐ見詰め 「でも私、如何して良いか・・・もう疲れてしまいましたわ、何もかも忘れ消えてしまいたい!」 突然、浩子さんが俺の胸に飛び込んで顔を押し付けてきた!余りにも意外な行動に動揺し突き放す訳にもいかず、ただ呆然とそのまま立ち尽くすしかなかった。

 一体何のつもりだ?俺はその場に固まり返す言葉も見当たらず慰めてあげる事も出来なかった。 仄かに香る香水に俺はしだいに変な期待を懐き二度目の強烈な動揺を覚えた!・・・悲しみを堪え震えて縋り付く浩子さん 「御免なさい!しばらく此の侭にして下さい」

 彼女も理性を捨て、全て壊し現実から逃避したかったと思う、 余程苦しい事が有り悩み続けた事であろう、俺にも其の苦しさが良く解っていたから優しい言葉を投掛けたかったが、出る言葉は違っていた、何故か諭す言葉が閊え

 「こっ!これだけですよ!」 喉が渇き何故か声が上ずっている、浩子さんにではなく俺自身に応えた思いで有ったのかもしれない。

 暫くしてなんという事だ!俺の方が邪悪の心に負けそうだ助けてくれ!、妖艶と思える表情と悲しみに打ち震える姿に愛しさを感じ此のままだと危険なほど心が乱れ欲望に押し流される、 これが背徳の味か!旨い事を言った人がいるものだ、悪魔の囁きが聞こえる!

 ”この腕を背中にまわせ!" 簡単な事ではないか ・・ 尚も悪魔が囁く・・  ”ほらお前が望んだ事だ!何を愚図々している!”  強烈な欲望が襲ってくる・・違う!違う!俺は違うんだ!俺はヨシ子を愛している!・・心の中で叫ぶ!。

 辛うじて本能的に俺は防御に入っていた、素直に受け止められないのは俺だけか?このままだと駄目だ!やっと逢えたヨシ子にせっかく与えられた愛と安らぎを!あの優しく包む様な眼差しのヨシ子の悲しみの顔が過ぎる、・・泣かす事など絶対出来ない!それに海斗に何って云うのだ!この平和を壊す訳にはいかない!欲望の渦から、かろうじて踏みとどまる、 「さー、浩子さんもう良いでしょう」 浩子さんの肩に手を当て押し戻した。

 男って動物は、ヨシ子を愛しているのに、なぜ?こんな気持ちになるのか?それに女性は子供の前で冷静に居られるのか?・・人間の複雑な本質を強く感じる・・。

 俺自身に念を押す様に 「浩子さん、もう良いですね!、俺なんか何の支えも力もありません、もっと確りしたアドバイス出来る人が沢山いますよ」 浩子さんも何かを感じとったのであろう危険からかろうじて俺が回避した事を!甘えてはいけないと思ったのか 「もう大丈夫です、本当に御免なさい!」

 其の苦しさ、悲しさ、不安が、わかるだけに俺は優しい言葉を投げかけてやりたかったが、俺の邪悪の心に対しても敢えて 「浩子さん、まだまだ離婚の事も海斗君の事も戦いは此れからですよ、悲観的な事ばかり考えずに一つずつ解決しなければ、確りして下さい!」 冷たく言い放った。

 浩子さんも正気に戻ったのか、戸惑いながら 「はい、ごめんなさい、もう大丈夫です・・・」 さぁー俺はゆらぐ心に、安全地帯に一刻も早く戻らなければ心の中で呟いた、俺は自分に念を押す様に 「海斗が待っていますから戻りましょう」 「ハイ、少しさっぱりしました」 二人は病室に向いながら 「学生からの友達でしょう、此れからはヨシ子に相談して下さいね、俺より余程頭が良いですから」 浩子さんは黙って頭を下げた、

 海斗の病室に戻り、暫くプラモデルの作り方を海斗に説明をして、解らない事が有ったら男の先生に聞きなさい、そんな会話をして帰る事にした 浩子さんの沈んだ顔みて 「今度ヨシ子と三人で何処か美味しい物食べに行きましょう?」 「ええありがとう、其処まで送りますわ」。

 浩子さんが病院の玄関まで見送りに来て、後ろめたい気持ちが涌いたのか 「今日の事はヨシ子に言わないで下さいね」 「別に、話すつもりも有りませんよ」 話せる訳が無いだろう!俺は其処まで云う必要がないと思ったが、敢えて俺自身に言い聞かすため 「ヨシ子は大事な人です、愛していますから」 「ヨシ子は幸せな人ね」

 「いえ、俺なんかと関わってしまってヨシ子は戸惑っているみたいですよ」 きっと何処かでヨシ子が羨ましく俺を誘惑する事で、何処かで勝ちたい気持ちが働いたのかも知れないのかな?・・いや純真に相談したかったからだ!邪推はよそう

 「生意気な様ですが、きっと楽しい日々が送れる時が来ますよ」 俺は明るく装い手を振り 「それじゃぁ、海斗に宜しくね」 自分でも歯の浮くような言葉を気取って良く云うよ!人を非難出来る立場かよう!下心見え見えの俺自身に少し嫌悪感を覚えた。

 何故か気まずい気持ちで家に帰り、ヨシ子に浩子さんと海斗の事を報告した、流石に浩子さんが泣いて俺に飛び込んで来た件は伏せた 「ありがとう、で!浩子どうでした?」 俺は一息入れ 「本当に別れるって、それで弁護士に相談しなさい、としか考えつかなかったよ、浩子さん悲しそうな顔をしていたが、何にもアドバイス出来なかったよ、後はヨシ子と相談しなさいって・・」 俺の話になんの疑いも無く真剣に答えてきた 「そう・・きっと皆に話す事で浩子自信が決着つけたかったと思うわ」 俺はどの様に答えて良いか解らず沈黙した。

 翌日、ヨシ子は職場の病院で浩子が訪ねて来て、話をしたことを事を俺に告げた 「今日、浩子が夫の事、私に話をしたの、まだ浩子と結婚前、夫が私に好意を寄せていて私に伝えてくれと頼まれていた事、初めて知ったの・・・例え知ったとしてもあの当時、彼の事なんとも思っていなかったから・・、それにもう浩子別居しているそうよ、今まで知らなかったわ」

 ハハァーンきっとヨシ子に相談できない理由も俺に話していたから俺の口から漏れるなと思ったのかな?それでヨシ子に俺はヨシ子にもっと解かり易く説明した

 「多分、ヨシ子に対してでは無く浩子さんの夫に、嘘を言った事がヨシ子に知られ、それで話が噛合わず夫に知られる事が恐かったのだと思うよ、ヨシ子に彼が(浩子の夫)相談して、彼から当時ヨシ子を好きだと伝えてくれと頼んだ事が伝わらなかった事が知れたら浩子さん困るでしょう・・初めはまだ、浩子の夫と別れる気持ちが無く、その事が知られ解ってしまう事が怖かったと思うよ、でも離婚を決めた今は違うでしょう」

 ヨシ子は少し驚いた様に 「それで変だと思ったわ、浩子だけが相談に来て ’旦那さんは?’ と聞けば何時も出張だからって言って、私も鈍感ね」 「これからは浩子さん、もっと相談に来ると思うよ」 「リュウがいてよかった、私って世間知らずねリュウの御蔭できっと浩子も少しは救われたと思うわ、ありがとう」 本当に助かったと云う面持ちでキッチンに向かい席を立ったエレン教会.jpg

 やはり、俺の邪心も知らずに少し後ろめたさを感じ!ヨシ子の後ろ姿に向かって 「そんな事ないよ、ヨシ子は自分に素直だし教養もあるし、優しいし、可愛いし、俺幸せだよ」 ポニーテルが遠心力で平らに上がる活き良いで俺に振り向き 「リュウ急にどうしたの?変よ」 鋭いな!咄嗟に 「改めてヨシ子で本当に良かったて、そう思ったの」

 今は問い詰めても仕方ないと思ったのか、素直に 「本当!リュウ嬉しいわ!本当にリュウに巡り逢えて良かったわ..安心して自分で居られるの、何か、定めに導かれた様で、私も幸せよ..あ、そうそう、肝心な結婚式、10月17日土曜日に例の港の見える丘のエレン教会に決めたの、17は私達の記念日」 「・・」 黙ったままコックリと頭を小さく縦に二度ほど振った 「ねーぇリュウいいでしょう?本当に身内だけにしょうよ」

 きっと結婚が二度目の俺に気を使っての事だろう 「あぁ、良いね、それで進めてよヨシ子に任したから」 ヨシ子は甘えるように 「本当はね、リュウと一緒に行って決めたかったの、きっともっと楽しかったのに」

 「ごめん、車の事で忙しかったから」 「解っているわ、お互い仕事ですから心配しなくて良くってよ、今年の最後のレースでしょう私25日金曜日から28日月曜日まで休み取ったから一緒に行けるわ、帰りに仙台の松島に連れて行っていただける?、ねーぇ、良いでしょう?」 「本当に?、俺もゆっくり仙台見物したこと余り無いから、良いけど、体、お腹大丈夫なの?」

 「嬉しい!、そんなに、心配し無くても病気では無いから、激しい運動さえしなければ良いのよ」・「・・リュウ!レースクイーン達に手を出せないね..冗談よ」 「ワァー残念だな!なーんてね、・・本当に俺嬉しいよ!、行ってから体調悪かったら我慢せずすぐ知らせてね、医者の不養生って言うから、じゃぁ松島の良いホテル予約してね」 「大丈夫よ心配しないで、素敵なホテル、ネットで調べて予約しておきます」 本当に素直な人だ。

   《スポーツ・ランド・SUGO》 Round 8 (Final 09/27)

  いよいよ今年の最終戦sugoへチームクルー達は前日車で出発、俺とヨシ子は28日金曜朝7時に横浜金沢文庫駅を出、横浜、東京へと乗り換えJR東北新幹線ハヤテ8:28分発で仙台へ 「俺達二人だけの電車の旅、初めてだねそのお腹で疲れない?」 ヨシ子は子供の様に楽しそうに 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、何か新婚旅行みたいでワクワクしちゃうな・・ネーネー美味しい駅弁知っている?」 「よく知らないよ、今まで旅はほとんど車だから駅員さんに聞いたら」 ・・ヨシ子が余り期待して落胆しないよう予防をした 「サーキットは、まだ先の宮城県の田舎のど真ん中で回りは畑だよ」

 「大凡のサーキットは騒音で人の生活しないところに在る事は知っているわよ、でもリュウと一緒なら何処でも楽しいしサーキットで歓喜と熱狂の瞬間をリュウと一緒に感じていたいの!私の方がレースにハマッテしまったわ、場内は人々で一杯になり、其々の熱い思いと願いが伝わって来るの」 「そうだよね、一人より皆で分ち合うほうが楽しいよね」 「ところで新婚旅行、体調心配だったり楽しめないから子供が生まれてからにしょう、取り敢えず温泉も良いし箱根が近いから、どう思う?」 「そう、リュウが休み取れるならゆっくりしようか、リュウも休み無しで働き過ぎだから休んだら?」 「好きな事しているから大丈夫だよ」

暫らく流れさる窓外の景色を眺めていたが俺の席の隣に移り 「リュウ随分熱心にPC見ているのね」 電車の中でノートPCでサーキットコースの最速ラインの復習で何回も頭に叩き込んでいた 「あぁ此処のコース初めてだから・・」 ヨシ子は暫らく俺と一緒に画面のSUGOのコース見ていたが俺に寄り添い肩に頭を預け目を閉じて休んでいる日頃の勤めがきついのか寝てしまったのかな?

 そんな中、仙台駅に到着した、ここで又JR常磐線・原の町行に乗り換え名取駅に着いた、ここからチームの竹田君がマイクロバスにて出迎え、宮城県のスポーツ・ランド菅生まで11時少し前に到着後休む間も無く練習だ、

 俺にとって初めて走るサーキットコースとマシーン全て新しい、少しでもコースに慣れる為に練習と調整に休む間も無く午後1時より一般に混じり1時間コースを借りて馴らし運転である、 笑顔で監督とメカニックの二人井原君と孝ちゃんが待っていた、後続隊は明日の夕刻に着く予定だ、

 監督、俺の肩に手を置いて、諭す様に俺とヨシ子を交互に見詰めながら 「リュウ、ヨシ子さん、ごくろうさん疲れていると思うがお昼食べて、今回からソフトタイヤの使用が出来る様になったから、それも兼ね午後から新車のテスト走行、頼んだよ」 「解りました」 監督の話を確認する様に俺はメカニックの二人に振り返り 「井原君、孝ちゃん、お願いします」 二人は笑顔で解かっているよと云う様に応えてくれた、

 監督嬉しそうに優しく 「ヨシ子さん疲れたでしょう、お昼を食べたらお部屋を案内しますから、ゆっくり休んで下さい」 ヨシ子神妙な顔で 「宜しくお願いします、リュウと一緒の部屋ですか?」 「ええ、その様にしてありますよ、それと以前言われました、救急用AEDの件、FJ委員会で扱って頂ける様になりました、元々サーキットには有るのですが、格チーム備える様になりました」 ヨシ子 「そうですか良かったですね、チームの為だけでは無く一般観客にも使えますから」

 孝ちゃんが話に割り込み 「そうよね、これで一人でも助けられたらいいよね、リュウ、スーツやヘルメットは何時もの様にキャンピングカーに有りますから」 ヨシ子すまなそうに 「孝ちゃん、何時も、リュウの世話お願いしてごめんなさい、本当に助かっているわ、ありがとう」 孝ちゃん、ヨシ子に手を差し伸べ「そんなにあらたまられると、照れるじゃない!」

 俺は慌てて話題を変えた 「何時も、ありがとう、助かるよ、ノートPCで何回も学習してコースは覚えたが、初めてだから、孝ちゃん宜しくね、とにかく腹へった、何が美味しい物ある?

 孝ちゃんは、そんな所はちゃんと調べてある 「カフェテリアに、ラーメン、お肉類、カレー、ピザなどありますから」 俺はカツカレーをヨシ子はサラダとピザを急ぎ食べ、ピットに向かう 「ヨシ子、監督に部屋連れって行って頂きなさい、ヨシ子を促がし、俺はキャンピングカーでレーシングスーツに着替え、井原君と孝ちゃんとテスト走行に向かった」road_09.jpg

 早速ピットからニュー・マシーンに乗り込み、孝ちゃんと井原君にコースや新しくなったマシーンの説明を受けスイッチ類の確認、セット方法等復習等沢山ある覚えておく必要がある、また井原君と幸ちゃん二人に安全ベルトを締めてむらい、親指を立てOKの合図 エンジンをスタートさせた、ゆっくりとステアリングに手をのせた なんだろう? 今まで感じた事のない戦慄と云うのか 何故かあの青白く不気味に輝く抜き身の名刀を目にした時の様に体中がゾクゾクと感じた!

 何かの異常を感じたのか 幸ちゃんが声をかけてきた 「リュウ!どうかしたの?」「いや!何でもないよ」「ならよいが?」「本当に何でもないよ」 軽く手を上げアクセルをゆっくりと踏み込んだ 軽快なエンジン音と共にPLリミッターで速度制限してピットロードをゆっくり立ち上がりコースに出 リミターを解放した、

 先ず1・2周目はコースをイメージしながら第一コーナーより各箇所のブレ-キとクリッピングポイントを確認し、流し運転、孝ちゃんと通信機能の確認取り俺は井原君と孝ちゃんに連絡を取った

 「次の周回からテスト開始だよ、やはりニューはエンジンの噴けもいい、アクセルの反応も数段良くなったよ」 連絡を入れた”フケとはエンジン回転の反応の立ち上がりの事である”、きっとこのマシン乗り込みエンジン音を耳にした時 何故かあのゾクゾク感を感じ 操作する前から何か性能の良さを感じ取ったのかもしれない? 不思議に思えた!

 監督とヨシ子もピットに戻り指示に入った様だ無線から微かにきこえる 今度はハッキリ孝ちゃんから心配そうに 「リュウ、ハリキリ過ぎて壊さないでね、出来立てのニュー・マシーンよ、まだ処女の様な物だからね」 俺は本気モード開始 「OK!了解」 幸ちゃん「何か心配なの!」「ありがとう! もうー事故の事は大丈夫だよ このマシーン気に入ったよ 俺好みに育てるから!」幸ちゃん 「それでどうなの?」「少しオーバーステァだがギヤー比は良さそうだ、エンジンも前に比べレスポンス(response反応)が良く噴き上がりが早いよ 少し攻めて見るよ

 それから ラン、アンド、ピットを繰り返しスイッチ類の動作確認、リヤダンパーの規定変更の為のダンパー交換や調整それに今回よりソフトタイヤの使用許可でのタイヤのチェックや温度、足回りの調整を繰り返した、1時間半位だろう最後にタイムアタックを3周してベストラップは1’08.341初日にはまあまあだ、

 俺は気になる足周りを指摘しその他細かい点を伝え 「井原君と孝ちゃん 後の調整は頼みます 後は少し休みますので」 井原君、俺の背中に手を沿え「今日は早めに休んで頭と体すっきりさせて下さい」 「有難う俺、初めてのコースだからゆっくりダブルチェックに歩いて来ます それから休ませてむらうよ 後一時間位掛かりますから、・・ヨシ子の事頼みます、退屈だろうと思うからピットガレージに呼んでマシーンの調整見せて上げてね、邪魔だったら遠慮なく言ってください」

 何故か井原君、頬を薄赤く染めながら照れ笑いをして 「いいんですけれど、マシーン整備退屈しませんか?」 ヨシ子に好意を感じているのかな? 「何でも興味持つ人だから運転席コックピットに乗せてあげて下さい、頼みます」 俺は例により歩いてコースのカーブ等、先ほど運転し気になった点を重点的に、目標を定めながら歩いた、一時間ほどでガレージに戻ると

 YoshikoR2.jpgヨシ子が何やら楽しそうに監督やメカ達と竹田君を交え話をしていた、ヨシ子は俺の尻を見ながら 「おかえり、リュウのお尻意外と小さいのね」 「どうして?」

 何か得意げの顔で 「リュウのレーシング・カーの運転席窮屈でやっと入ったの、リュウのヘルメットまで被りリュウの匂いで一杯だったが、写真まで撮って頂いたのよ記念に取っておいて、・・リュウ見る?」 「あぁー」 「竹田さんリュウに見せてあげて」

 竹田君が俺にデジカメを渡してくれた、5・6枚撮ってあった 「ヘー!俺より決まっているね、まるでプロの様だ!とても可愛くて良く撮れているよ、それで俺に見せたかたんだ!後でノートPCにダウンロードするよ

 「でしょう!凄いでしょう!地面に座っているみたいに低いのね、あんな寝る様な姿勢で良く運転出来るわね、でもハンドル握ると何かわくわくして来ちゃう・・走りたくなったわ」

 俺は笑いながら 「止めてくれよ!ヨシ子が走ったら何処に飛び込むか解からないよ!それより動くかな?」 俺の言葉に怒る訳でもなく、頷き 「そうね、でも走ってみたいなぁー、もっとリュウの気持ち解かるでしょう」

 「今は赤ちゃん居るから駄目だけど、一度ハコ型GT(二人乗り)のレースカーでヨシ子乗せて走らせて見たいな、ジェトコースターより凄いと思うよ、高速カーブでは凄いGが掛かり先生だから知っていると思うが、遠心力で耳の三半規管に影響があり平らな地面が斜めに見えるよ」 子供のように目を輝かせ 「わくわくしちゃう、乗って見たいわ」 「其の内ね」 「約束ね」

ヨシ子背1.jpg ヨシ子は孝ちゃんに向き直り口を尖らせ頬を膨らめ 「孝ちゃんたら、私がなかなか座れないから、お尻が大きいからだって!」 ヨシ子お尻に手を沿え振り返り見つめていた、 俺は其の仕種が可笑しく笑いながら

 「運転席のシートがピッタリ俺に合わせてあるから、車と路面の状態が解り運転し易くなるの、それと此れはね無駄なスペースが全然無いの、重量が嵩むし空気抵抗が増えるから」・・「それに乗るときは、両手を座席の両側の淵で体支る様にして滑り込まないと、座れないよ、馴れないとなかなかね」

 孝ちゃん慌てて 「冗談に決まっているでしょう本気にしないで、ヨシ子さんのお尻小さくキュウッと上ていて足も長く格好良いわよ」 ヨシ子笑いながら 「いいのよ、私赤ちゃん出来たからお尻大きくなったと思って心配したわ!」 俺は幸ちゃんに向かって 「孝ちゃん!余り俺をいじめるから、からかわれたんだよ」 

ほっぺを膨らませて 「もうーリュウまで!」 と云いながら驚いた様子で 「あかちゃん出来たのですか?ヨシ子さん!」 ヨシ子に目で確認を取り・・「リュウおめでとう!」 その場に居た井原さん、竹田君と監督は、笑いながら 「本当ですかヨシ子さん!」 「ええ」 監督自分の事の様に満遍な笑顔でヨシ子の手を掴み振るようにして 「おめでとう!良かったですねー本当に良かった!」

 ヨシ子嬉しそうに 「はい、ありがとうございます!、リュウどう?お尻大きくなった!」 「毎日見ているから判らないよ?変わらないと思うよ、孝ちゃんは女の子のお尻見たって何にも感じないよ!、皆が冗談言うから」 「本当なの?孝ちゃん!」 「私だって綺麗なお尻位解かるわよ!リュウのお尻は魅力的よ」 皆大笑い!? 「俺にトバッチリが来ちゃったよ」

 ヨシ子も和やかに皆に溶け込み、レースカーが状況やサーキットにより色々な調整が或る事を知り、改めて驚いていました 「ねー、リュウ!エンジンって心臓と同じね、弁がバブルでピストンが心室のポンプ機能、肺が過給器と燃焼機関人間と同じね過激に使うと病気なったり止まってしまうのですね」

 「少しの間に良く覚えたね」 「まだ、あるのよ、空気抵抗とか足回りの事とか」 夕食の時も、メカニックに質問の嵐、井原君も堪り兼ね 「リュウは良く知っていますから、もっとRyu.K3jpg.jpg丁寧に教えてくれますよ」

 俺は慌てて手を横に振りながら 「だめ!だめ!、井原君や孝ちゃんの方が解かり易く教えてくれるよ、何にせプロだから」

 ヨシ子真剣な表情で 「ねー、皆さん私うるさい?その時は遠慮なく言ってくださいね」 井原君何か慌てるように  「そんな事無いですよ、むしろ感心しています先生に成る人は違うなと思って」

 孝ちゃん大袈裟な手振りで 「少しでもリュウの役に立ちたくてよ、本当リュウは幸せよ、焼けちゃうわ!」 「又、俺かよ!本当にもう」 監督真面目顔を崩さず 「リュウ、尻の話だけにトバッチリだね」

 さすが監督、すまし顔で落ちを言いそれがアンバランスで妙に可笑しい、皆大笑い、俺も笑いながら 「監督!うまく、纏めましたね!」 俺はヨシ子に向かって 「ヨシ子、明日から本番だからね、皆んなの邪魔にならないように久美ちゃんに聞いて」 俺は久美ちゃんを見ながら 「そうだ!タイムキーパが良いよ、俺の走りチェクして・・監督いいですか?」

 監督ヨシ子を見ながら 「ヨシ子さん、リュウの走り甘くならない様に、確りチェック頼みます・・孝ちゃんの言う、リュウの美尻を叩いてくださいよ!」 皆吹き出すほどに笑った、監督はすまし顔で久美ちゃんに向かって 「タイムの計り方教えて上げなさい」 久美ちゃん、ストップウオッチが三連に並んだタイムボードを持ちヨシ子に示し 「これですね、後で計り方教えます」 ヨシ子神妙な顔で 「お願いね」 久美ちゃん嬉しそうに 「はい」

 俺は冗談交じりに 「監督!まだ俺の尻にこだわっているんですか?」 監督慌てて 「こだわって、いるのは孝ちゃんだよ」 孝ちゃん 「もーう!監督!」 皆、大笑い、本当に笑いを交えた和やかな時を過ごせ改めてこのチームで良かったと思った。

 その後俺達の部屋にヨシ子とクラブハウスに戻り 「皆、本当に良い人達、リュウがこのチーム大事にする事良く解ったわ、明日はリュウの大事な日、解かっていますが今日は何時もの様に私を抱いて寝て下さいね、リュウを確り感じていたいから、ベット少し狭いけどいいですか?」 俺は何時もヨシ子に添い寝をする様にして眠る、

 何時も自分の気持をはっきり云うヨシ子を快く感じている、多分何時別れが来ても後悔の無い様にだろう、ヨシ子の瞳の奥に、強い意志が感じられ訴えるものがあった 「大丈夫だよ、何時もそうしているでしょう?」 そう云えば俺がレースに出かける日には必ず俺の顔が見える真近で見送ってくれた、ヨシ子は無邪気に嬉しそうにして 「うれしい!、レースの時は眠れなくなるといけないかな?と思ったから」 「大丈夫だよ、俺も其の方が最近馴れてヨシ子がいないと寝れないから」 「良かった!」

 俺はヨシ子と知り合ってから何時もこんなに自分の気持ちに正直で素直で有って、俺に押し付ける事もなく本当に可愛い人だと思っていた、そして、今は一人でレースをするのでわなく二人で、いやお腹の赤ちゃんも入れ二人半かな?と思え、しかもスポンサーの事もあり、レースを続ける事にやはりこんなヨシ子を悲しめてはいけないと云う気持ちも湧いて一層気持ちが揺らいだ

 改めてヨシ子が話だした 「私ね、何時もリュウを愛し恋していたいの!それには夫婦の間に我慢や少しの嘘が有ってはいけないと思うの、それが積み重なる事で大事な家庭に孤独を感じたり、不満が積み重なり冷めた家庭になり破局に繋がると思うの、それに子供が生まれたってリュウに私の事をお母さんって呼ばせませんよ、何時までも恋人ですからね」

 「解っているよ、ヨシ子の気持ち素直に云ってくれる事可愛いと思っているし、俺れもそう思っているよ、大事な事と思うよ」

 「私、今回浩子さんと話し合いで考えさせられたの、大半の夫婦がお互い不満を持ちながら伝えられず最後には耐えら無くなり爆発してしまうと思うの、自分だけの思い込みで、こんな事ぐらい解るだろうとか自分の都合だけでその人に採っては大事なことなのに、話を聞かなかったり自分自身に原因が有ると思っていなくて相手に不満をぶっつけているだけなのよ、どんなちいちゃな事でも積み重なれば大きく成ってしまい、だから隙間風が吹き休める処が無くなってしまうの」

 「以前リュウが話した通り、簡単な事なのよ痒い処掻いてむらえば良い事なの、夫婦の基本なのにね、子供が親に甘えられるのは全てを知られているからなのよ、その上何時だって味方してくれるから、そう行った小さい事が大事だと思うわ、結婚してから甘えられるのは夫であり妻で無くてはいけないの、其れ以外誰であってもいけないのよ、その為の夫婦でしょう」

 クー!痛い所つくな 「俺もその通りだと思っているよ」 「其の点、リュウは本心で云ってくれるから大好きよ!、試合前の大事な時にごめんなさいね」 「いいんだよ、俺が一番甘えられ本当に安らぎを感じられるのはヨシ子だけだよ」

 「私もよ、リュウには安心して身も心も裸の自分になれ甘えられるの、駄目な事はいけないと言ってね、押し付けている訳では無いのよ..愛しているわ! リュウ私のお腹に触って!、少し大きくなったみたい」 やはり、そうだ何時又事故が起こり別れが来ても後悔の無いように、又赤ちゃんが成長する過程を母親だけでなく父親の俺にも実感させたく思っているからだ

 いとおしい人だ、俺だってそうだよ、口には出せないが心残りはしたくないよ、直接ヨシ子のお腹を手で触り 「本当だね!少しやっと、この中に俺達の子供がいるだと思える様になってきた、頭で解っていてもこの中で別な命が息きずいていると思うと神秘的で不思議だね!」 だが俺は子供が出来たと、大喜びする父親の様には、今どうしてもなれない俺は自己的で冷たい人間なのか!どうしても余り実感が湧かない、

 「何時もリュウに抱いて頂き、きっとこの子は、何時もお父さんの暖かを感じていると思うわ」 「そうだと良いが..」 「きっとそうよ!解るものなのよ」 ヨシ子は確かめる様に呟いた、俺はヨシ子を後ろから抱きうんうんと頭を振り応えたが子供をもった親父の実感はどうしても感じられない、俺が子供なのか?それではヨシ子にどれだけ悲しませるか、分っているが、何時もの様にヨシ子に触れ温もりと安らかな寝息を感じ、俺も安心出来たのか何時の間にか眠りに入っていた。

Sugo.jpg 翌日サーキットは朝5時頃から賑わい始めていた、各チームのレースカーやメカニック、ヘルパー運営委員、宣伝用商品の運び込み、販売員、華やかなコンパニオン、キャンペンガール、レースクイーンなど続々と集まってくる、皆忙しく動き廻っている、この田舎町昨夜の静けさは嘘の様に活気に溢れている!我らチームも久美ちゃん森田君がスクールの生徒達を引き連れ朝8時に到着、今日は午前10時から1時間フリー走行タイムアタックもあり重要な時だ、各チームの緊張間が伝わってくる、

 我がチーム全員雑談でざわめきながら朝食を取り、監督から例の如くスケジュールや仕事の説明や指示を受け、それぞれ役割に付いた、

 俺はインストラクターの森田君とレースコースのチェックポイントと指導に出かけ、基本的最速コースの採り方や主だったポイントを説明しながら俺自身レースのクリッピングポイントを確認し、森田君に向かって

 「タイトコーナー等を攻める場合は時により内輪を縁石よりコース外に外して走る場合もあるよ、遠心力で内輪は浮き上がっているから、落ちて前輪が引っかかることはないし余りショックは無いよ、前車を抜くタイミングにアウトを攻める振りをしてインを突けるよ・・

 ・・複合コーナーでは最終出口を如何に有利に一秒でも早く抜けられるか、最終コーナーでの立ち上がり、例えば、コーナーを80Kmと100kmとの違いで立ち上がた場合、100m先では20mの差が出来てしまう、実戦では100kmのままではなく110,120と加速も早く、もっと差がつくよ、如何に速度を上げ次の直線に繋ぐかが重要で其れの繰り返しだよ」 と説明、

 森田君は真剣な眼差しで 「スクールで説明されなかった事が沢山有り驚いています」 「スクールは基本、これから実戦で学ぶ事が沢山有るよ、早い人の走りを良く見て違いを早く学び、基本に沿って自分と車の個性と云うか癖に見合った最速コースを見付ける事だね、それと何処を犠牲にするか、何を伸ばすかマシーンと語りメカニックに伝え調整する事だよ、それも限界が有るからね」

 森田君は感心した様に何回も頷き 「はい、良い勉強になりました、此れからその様な目で見ます」 俺はこの子は伸びるな!と思った、いよいよ一般観客も入りだし賑わい始めた様だ、

 ガレージに戻り、ヨシ子に着替えを手伝ってむらいレーシングスーツを着パドックに入った、午前10時からの一回目のフリー走行の始まりである、天候は晴れコースはドライ、ヨシ子からのハグを受けタイムは確り測定しますから、と送られマシーンに乗り込んだ、井原君と孝ちゃんからシートベルトの締め付けと確認を受け、ヨシ子に投げキッスを送りヘルメットを被りグローブに思いを込め感触を確かめながらゆっくりと手を挿し込んだ、

Yoshiko & FJ-1.jpg 無線で監督からの指示 「今年最後のレース思い切り走れ、2~3周回った処でタイムアタックだ準備が出来たら合図をよこせ、よし!リュウ時間だ!」 「はい、思い切り飛ばします!」 井原君と孝ちゃんに両脇から肩を叩かれ、親指を立てグットラックの声を掛けてむらった 「良し!行くぞ!」 俺も親指を立て送り返した、もう俺らには一種の儀式の様な物、

 改めてステアリングを握り締め、メインスイッチを入れスターターボタンを押した、”キュルキュル..フォーンフォーン”腹に沁み込み耳を被うな高回転のエンジン音がアクセルを踏み込むと同時に身体に響き、俺には快く官能的にさえ感じ、野生の血が騒ぎ掻き立てられ戦闘態勢に入り込む・・予備バッテリーが外され監督のスタート合図を待つ、

 マシーンに乗り込んだ俺の前に立つヨシ子の姿が何時もより張り切っている様で眩しく凛として映り気持ちが引き締られた、右手の人差し指と中指の二本を立て敬礼を送るヨシ子も手を上げ左手に抱えたタイムボードを指差し送りだしてくれた、

 ステアリングに気持ちを込め新たに確り握り締めた、続いてピットレーンリミッターのボタンを押す、監督よりスタートの合図だ、ステアリングのクラッチパドルを静かに放す、ピットロードをゆっくり抜けコースに出た通常モードに戻しピットレーンリミッターを解除、一周目はコースの確認や温度、油圧などのチェックをしカーブのクリッピングポイントやライン取りの確認、徐々にスピードを上げて行く、

 今ではマシーンの状態はコンピューターで送られる、前回の事故の後遺症で恐くなってしまう人もいる様だが、俺は幸い恐怖心も起こらない様だ、此の新しいマシーンは俺にピッタリ、フットする二周した処で、タイムアタックの指示を監督に送る 「次行きます」 ”よし!行くぞ” マシーンに語りかけ、最終コーナーからスピードを徐々に上げメインスタンド前ではアクセル全開ピット前の直線を全速力で走る、コーナー毎にブレーキデスクが真っ赤に染まる、激しいブレーキングとギーャチェンジを行い足まわりとマシーンのバランスをチェック一周しピットに戻る、

 井原君にまだ少しオーバーステヤーである事を告げマーシーンを降りずにダンパーの調節を受け再出発、再アタックだステアリングをポンポン叩き ”今度は頼むよ” とマシーンに語りかけていた、今度はコース幅一杯にクリッピングポイントを正確にコースを飛び出す位に責めベストタイムは1’06.679秒午前の走行ではトップタイムだ前回までのマシーンよりエンジンの立ち上がりも良く新しいボデイのバランスがいい、ドライブし易い此れはいけるぞ!と密かに思った、

 監督も同じ事を感じていた 「リュウやったぞ!トップタイムだ、これなら行けるぞ、午後は無理するな!」 孝ちゃん解っていたよと云うような素振りで 「リュウなら、やると、思ったよ」 森田君も感心したように 「凄いですね、何か尊敬しちゃいます」 井原君は嬉しそうに 「何か他のチームに対して鼻が高いです」

sugo.jpg ヨシ子少し興奮して 「目の前を アッ!云う間に駆け抜けて行くリュウを見て、おもわずストップウォッチ押し忘れるところだったわ、何か胸がキュンとして改めて凄いなって、・・・処でリュウ、前に何が見えているの?」

 俺はヨシ子の質問の意味が解っていた、チームを変わるのか?迷っていると思いこんでいる、今迷いは消えたのか?今後本格的にカーレースの道を歩むのか?何を考え走っているかだ!俺は返事をはぐらかしおどけ顔で 「ヨシ子に決まっているでしょう」 ヨシ子真面目顔で 「私の事など忘れているのに、真面目な質問よ!」 本当はもっと深刻な事を考えていたのだが、其の事には触れず

 「今は未だ何も見えないよ!本番後だね、・・ヨシ子は以外に思うかも知れないが、運転操作は反射的にしているから、コースの直線などは観客席まで見えているよ ”あっ!あそこの席に可愛い人がいるよ” なんーてね」 「もうー!、危険だからレースに集中してね」 「冗談だよ、意外とヨシ子の事や色々考えているものだよ」 「だから!レースに集中して!」 「うん」 此れで質問の意味が解るはずだ!

 「井原君、孝ちゃん、皆のおかげだよ、大変だったね、有難う有難う!それと孝ちゃん!ヨシ子を頼みます、椅子などに座らせ休まして下さいね」 孝ちゃん心得たと云うよな顔で 「解っているわよ、任しといて!」 「有難う」 ヨシ子は俺に向かって 「そんなに心配しなくても大丈夫よ!リュウ病気じゃぁないから気にしないでね、本当よ!」

 俺も本番レースに此れなら行けると思った、気持ち我がチームの皆に誇らしげに笑顔が浮かぶ、監督手をパンパンと響くように叩き、注目させ 「さー皆、お昼にしょう、森田君皆を集めてくれ、リュウはこの後ガレージでサイン会に行ってから、お昼もか兼ねて、2時まで奥さんと休んでくれ2時半から3回タイムトライアルがあるからね」

Ryuサイン.jpg 俺は用意されたサインテーブルで30分程観客やファン達にサインを行い、ヨシ子と食事に行こうと席を立った

 「龍崎さん!」 呼び止める声のする方向に7,8人の若者達が手を振っていた、中の一人が松葉杖を付きながらこちらに近ずき 「龍崎さん、横浜の病院で」 「おぉ!お前か、来てくれたんだ!有難う、確か?」 名前を思い出せずに口ごもるっていた 「西です、其処の友達と来ています、皆サインをして頂きたくて、お願いします」

 「ああ、いいよ、もう足は大丈夫か?」 「はい、リハビリー中です、明日本番頑張って下さい、予選タイム見ましたが、凄いですね」 「あぁ、ありがとう、今日は君たち何処かに泊まるのか?後にいる人、彼女か?」 まだ幼さを残す女性がペコリと頭を下げ 「はい明日も応援しますから頑張ってください!」 

西君は後を向き友達たちに向かって 「皆、サイン大丈夫だからこっちに来て!」 とリーダーらしく皆をまとめていた、 まだ高校生か卒業したと思われる男女を含め七・八人、思はぬ飛び入りだったが、素直に喜んでいる若者達を嬉しく思った

 サインも終わりピットに戻った、我がチームの生徒達や竹田君、久美ちゃん、全員で拍手で迎えてくれた、リュウさん、おめでとう、凄いですね、俺はテレながら 「ありがとう、これからが、本番予選だよ、まだ喜ぶのは早いよ」 生徒の誰かが「私達のチームでは始めてのトップですよ、一流チームの仲間入りこれから私達も希望が持てます」

 皆の顔に明るさとプライドが出て来た様だ 俺は 「本番は明日、皆のピット作業(タイヤ交換や給油等)頼みますよ」 生徒 「そうですよね、責任重大、練習もっとして一秒でも早く出来る様にします」 監督 「そうだよ、皆頼むよ!」 俺はヨシ子と食堂に連れ立った、食事をしながらヨシ子は 「改めてリュウの凄さ解ったわ実力有るのね、だから他のチームからお誘いが有るのね」 「あまり褒められるとくすぐったいよ、本番は此れからだから」 食堂にいた他のチームの人達も、我がチームの席に来て、おめでとうと云ってくれ握手を求めてくれた、

 予選(Qualifying)開始だ!監督・メカニックに送られ一回目1’07.063、二回目R1’06.332、三回目R1’06.635 僅かの差でトップを譲ってしまった、トップは一流チームの外人ドライバーだ、其の後フリープラクテス(FreePractice)をこなし、マシーン温存の為少し抑えて走りこんだ、チームの皆は残念がっていたが、抑えて走った俺と監督には明日の本番には行けると核心していた、チーム全員でサーキットのカフテリアで明日の予定を確認と取りながら他のチームも交えお祭り騒ぎで夕食を摂った、レース関係者の社交場である、

 やはり、前回からのスタートポジションと前回の事故、それに今回の結果否応なしに注目が集まる、中にはあからさまに、あの人よと指差す人や目配りで其の気配を感じた、互いに探りあったり、交流を深めたり、スポンサーと話し合ったり、騒めきで大変だ、

 「さー、ヨシ子疲れるからそろそろ部屋に戻ろう」 「ええ、リュウ凄い注目の的だね、少し疲れたわ」 明日の為に俺とヨシコは早めにクラブハウスに引き上げ風呂に入り早めに休んだ、むろんヨシ子とお腹の赤ちゃんを充分感じながら..。

R-Queen.jpg 決勝当日の朝が来た、曇りで午後からは少し雲行きが怪しく雨になりそうだ、俺達のレースのスタートは午後二時過ぎ午前中は他のレースや子供を交えた企画があり俺達は暇である、朝飯をゆくり摂り、レースクイーンやコンパニオンが興奮気味に甲高い声であちらこちらで話しあっている ヨシ子も少し興奮気味だ 「リュウ良く眠れた?」 「うん、大丈夫だよ」 「リュウ、昨日から注目されているね、視線を感じるわ、リュウの目が泳いでいるわよ、レースクイーンがいっぱいで楽しいでしょう、皆若くてピチピチでいいでしょう?」 「まーね、皆可愛いから目の保養だよ、今まで長い事こんな世界にいる俺だよ、それほど感じないよ、それよりヨシ子ほど魅力有る人は滅多に居ないよ、ヨシ子の方が男の視線感じない?」

 ヨシ子も満更でも無い様だ 「いいわよ煽てなくても、本当に口が上手いんだから、他の人にも云ってない?」 ちょっとヨシ子、怒って見せた 「煽てじゃないよ」 ヨシ子悪戯顔で 「ちょっとリュウをからかっただけよ」 「それよりお腹大丈夫かよ」 「大丈夫よ、ちょとだるかったりする事があるが心配しないで」 「これから俺達のスクールの宣伝ブースに応援に行こうか?」 「ええ、そうしましょ」

 朝から観客も沢山入り始めて混雑して来ている、俺達のメイン・レースの前に色々なデモストレーションや前座レースがある.  我々のレーシングスクールの宣伝ブースでは久美ちゃん始め竹田君、スクールの生徒達がパンフレットを配りながら、説明に大忙しだ、久美ちゃんが俺達を見つけ 「龍崎さんお早う御座います、リュウさんの効果で大分お客さんが集まりスクールの入校や内容を質問してくれます、多分入学希望者が増えていると思いますよ」

K.Ryuzaki.jpg 目ざとく俺を見つけた観客の人達がサインを求め又列になり話も出来なくなってしまい、生徒たちが気を利かし6,7人で終わる様に取り計らってくれブースの奥に隠れるようにして、久美ちゃんがヨシ子に 「奥さん、あかちゃんが出来たそうで、おめでとう御座います、何時のご予定ですか?」 ヨシ子お腹に手を充て 「ありがとう、来年の3月頃だと思いますよ、久美ちゃん結婚は?」 「そのつもりでいますが、まだ竹ちゃんが?」

 ヨシ子怪訝そうに 「そうなの、聞いて見ましょうか?」 久美ちゃん恥じらいながら 「いいです、そんな事!」 「久美ちゃんは結婚したいのでしょう?」 俺は 「久美ちゃんに任して置けばいいよ二人の都合も有るから、あんまりしつこくすると嫌われると思っているから、ヨシ子とは立場が違うの」 ヨシ子怪訝そうな顔で 「そう?そうかな~ぁ、解った!とにかく頑張りなさい」 俺 「そろそろ、部屋に戻るよ、ヨシ子はどうする?もっと別な所見ていきますか?」 「リュウと一緒に戻る、こんなに大勢の人込み少し疲れたわ」 「大丈夫?」 お昼は久美ちゃんにお願いして部屋まで届けて頂く事にした。

 クラブハウスの部屋で久美ちゃんの運んでくれた食事を採りながら ヨシ子やっとほっとした顔も束の間今度は悲しげに 「あまり人気が有り、なんだかリュウが別人のよう、こんなに近くいるのに手の届かない処の人に感じたの」 突飛な言葉に返事戸惑った 「なに!変な事云うの?・・俺だって、病院でのヨシ子は別人に感じ近寄り難い時が事あるよ、其れはプロに徹しているからと思っているよ、お互いプロでしょう、ヨシ子は初めて今回長く居るから色々見えたんだよ」

 「私だめね!病院の事意外全然知らないから、でもね本当に少し悲しかったの」 「なんって言ったらいいか、その気持ち嬉しい様な困る様な」 「許してね、リュウの方が余程大人ね」 「そんな事ないよ、俺が子供だからヨシ子が何でもやらなくてはと思っているでしょう?、今回ヨシ子は一度に一杯詰め込み過ぎだよ、もっと遊び感覚でいたら」 「だって、リュウに少しでも近ずきたくて、後悔..うんうん、いいの」 俺にはヨシ子が云をうとした事が解っていた、あの事故以来何時つも一日々を後悔の無いようにだろう..それには触れず 「凄く有り難いと思っているよ、もし俺が医者の勉強するとしたら、頭が痛くなりとても疲れて出来ないよ、ヨシ子だってそんな事望んでいないでしょう、望まれても俺出来ないよ、それでいいんじゃない?」

 ..改めて年上なのに可愛い人だなと感じていた..そしてソファーに座っているヨシ子を後ろからそっと抱きしめた、ふと、こんな場面何処かにあった様な気持ちになった内容は違うが..あぁ前の奥さんだ、悲しそうな顔の彼女を良くこんな風に抱き締めた、俺が幸せに成る度に思い浮かぶ如何して居るか気になったが..あわてて打ち消しヨシ子のお腹を擦り ”頑張ってくるからね” と心の中でつぶやいたがなんでこんな時に!又同じ不安が襲うレースを辞める時なのか?

 ヨシ子は俺の手をゆっくり外しながら 「リュウ、もう大丈夫だから、大事な試合前にごめんなさいそろそろ時間よ、リュウ着替えなければ手伝うわ」 気持ちを切り替えレーシングスーツに着替え、熱いキスを交わす、よしやるぞ!ヨシ子お腹を擦りながら 「短気起こさないで、充分注意してね、この子の為にもね」。

 決勝レース(Final Race SUGO pm2:30)

SUGOスタート前.jpg 天候は大分悪くなって来た空は黒い雲に覆われ、今にも降りそうである、着替えを終え俺達はピットに向かい、フアンから頑張って下さいと、声を掛けられる、手を上げて応えた、監督と天候とレースの運びを打ち合わせ、「今年最終レースだ、思い切り遣って来い!」 「はい」 ヨシ子と黙って然り抱き合い、ヨシ子を手で押し出すように監督に預け、

 コース上のメカニック達の待っている場所に宣伝用アンブラレを翳すレースクイーンを従えスタートラインに向かう、最前列のポジション、コースのアウト側だ井原君と孝ちゃん森田君達が待っていた、二人に 「ご苦労さん、二人とも遅くまで本当に有難う、凄く乗りやすくなったよ」

 マシーンに乗り込み、俺達の儀式、安全ベルトを確りと井原君と孝ちゃんに何時も様に締めてむらう、相変わらず孝ちゃんの 「リュウ頑張ってね」 を聞きながら、身体を左右に振って安全を確かめる、両者に親指立てOKのサインを示し、今日は何故か自信があった俺は 「任して!チームの為に笑顔で終わる様に頑張るよ!」

孝ちゃん.jpg 孝ちゃんはニンマリしながら 「リュウ絶対チャンスだからね、ものにしてね、愛してる!グットラックよ!」 二人に両脇から肩を叩かれヘルメットとグローブを被り、孝ちゃんはドサクサに紛れなんって事を! 「孝ちゃん井原君有難う、でも孝ちゃんダメ..」 「もうー粋じゃないよね!解っているわよ!行ってらしゃい、頑張ってね!」 親指を立て 「オッケイ!」 のサインを送った、

監督&ヨシ子・ピットにて.jpg エンジンスタートの合図でメインスイッチを入れエンジンスタートボタンを押した、相変わらず腹に沁みる快い振動とエンジン音が響く、全ての人達が退き、

 指定された回転数バーンアウトにセットする、スタートのグリーンランプが点きペースカーが走り出すステアリングペタルでシフトアップしアクセルを踏み込む、トップに続き、サーァ出発だ、第一コーナーを回り蛇行運転タイヤに熱を入れ地面との粘着度を高める、同時にタイヤ圧も高める、監督からの指示が入る「リュウ聞こえるか、調子はどうだ、どうやら、雨が降りそうだ」 「マシーンは順調です、雨ですか?」 「タイヤ交換時期は後で知らせる、頑張ってこい!」 「ハイ、了解!」 一周でペースカーが抜けスタート位置に付く。

 いよいよ、本番だ何時もより落ち着いているが、毎回今まで何回スタートを迎えた事か?何回経験が有ってもこの待ち時間ほど嫌なものはない、何故か、ヨシ子、監督、竹ちゃん、孝ちゃん、他のチームの人達やレーサー達、の顔が浮かぶ、皆の努力に報いなければ、敵は自分自身の心の中だ!、先ず自分に勝つ事だ、と何時ものように自身に言い聞かす、辺りは13台一斉のエンジン音で他の全べての音がかき消されているはずだ、13台最後のマシーン全車が整列した、

リュウヘルメット1.jpg ヘルメットと耳栓を兼ねたイヤーホンで覆っている、だがエンジン音は聞えてる筈だが、俺はスタートシグナルランプに集中している為か、静寂そのものだ、俺の動作は今までの経験と各レースの度、何回も頭に叩き込み尚ミスの無いように工程を確認しマシーンのスイッチ類の設定を行っている、ドライブモードをドライ通常スタートに切り替える、ただ異常に心臓の鼓動の高鳴りが聞える、ステアリング・クラッチパドルを右手人差指と中指で引き左シフトバドルでギヤーを入れる俺の心の中では全てがスローモウションを見ている様だ

  赤いスタートランプがゆっくりと1・2・3....4と付き始め5個全てが付き、次の瞬間、現実に戻る、全てのランプが消え、ブラックアウト、スタートだ!

 反射的にステアリング・クラッチを放しアクセルを踏込、スタート俺のレースマシーンが動きだす 「よ し綺麗にスタート出来た、行くぞ!」

 パドルで2速3速とシフトアップ、同時にアクセルを床が抜ける位、踏み込む、この一連の操作はレースで身に付いた経験で、無意識の中で最良のタイミングで行われる、すでに其のとき全ての不安は消えスタート第一コーナー.jpg去り、獲物を追う闘争心の塊一匹の黒ヒョウに変わり、ひたすら第一コーナーを目指す..トップのマシーンが焦り、アクセルを踏み込み過ぎタイヤをスリップさせ僅かに出遅れた様だ、幸い俺はコースのイン側をキープしトップで第一コーナーに入る事が出来た 「よし、行ける」

 俺はすかさずイン側ぎりぎりに入り込み、正確にクリッピングポイントを目掛けて急速なブレーキング同時にシフトダウン、幸いライバル車も無く、

 前回の事故での恐怖心も無く、左右に微妙なハンドル捌きで何の影響も躊躇も感じず冷静に第一コーナーを駆け抜けた、前回俺自身の運転ミスで起きた事故では無かったからと思う、次のコーナーまでの間にペダル・スイッチを通常モードに戻す、バックミラーで後続車を確認、素早く計器類に目を移し異状がないか、確認する

 其のままトップをキープ後ろでは、順位の入れ変わる激しいバトルが始まっている、もう一度バックミラーで確認する、

 順調に最終コーナーを立ち上がりメインスタンド、ピット前をトップで通過、監督から 「いいぞ!其のまま焦らず慎重に行け!後続は離れ始めている」 「はい、了解!」 2番手はマシーンの調整が少し悪かったのか?実力は十分ある、油断は禁物と自分に言い聞かせる!

 7周め辺りから、とたんに空が暗くなり霧雨が降り始めた、俺と2番手は後続を大分離し始めていた、監督から 「タイヤ交換の準備が出来ている、何時でも良いぞ」 俺は路面が少し濡れ始めていたが、雨はそれほど降らないと、判断した「監督!此のまま行けます」 監督「そうか!用意は出来てる、状況に応じて何時でもいいからな、後続は交換に入った」 俺はピットに入らずそのまま続行した、

 「はい、連絡します」..何時もと勝手が違う、やはり俺はハンターだ、そして俺の祖先も狩人だったのではないか?..ふとそう思った、前に追う車がいないと何か不安になる、追い詰める、あの快感が無く、今度はマシーンの心配ばかり、バックミラーや油圧計、水温計、エンジン音に心が行く、監督から 「ラップタイムが落ちているぞ」 の連絡が入る..此れではダメだ、ベストラップをたたき出す気持ちで集中して挑まなくては!、又監督からの連絡で他車はレーンタイヤに交換し始めている10周目で2番手はタイヤ交換に入った様だ、

 気持ちに気合を入れ、コーナー、ギリギリまで攻め込み、ベストラップに闘志を湧かす!少しでもタイヤ交換の時間を稼ぎ出したい、俺はマシーンが少し滑りだしたので14周次の周で入る事にした 「給油も同時にするから」 と連絡をオーバーテイク.jpg入れ、ピットイン、皆手初めての生徒も居るのに馴れた手つきでタイヤ交換や給油を行ってロスタイムも余り無く出発来た、

 ピットロード出口トップのままコースに戻れたが二番手が真後ろに近ずき盛んにアタックして来る、アウトに出たり、インに入ったり、上手く押さえ暫くバトルが続いたが、ニュータイヤの表面も剥け路面に馴染み始め、オーバーテイクを使い少しずつ離す事が出来た ..やはり俺は此のバトルが好きだ 相手の心理を読みコーナーの押さえ方を変える 俄然闘志が湧く..

 幸いその後雨も余り激しく降らず回復に向かっている、コースに水溜りも出来ず、順調の周回を重ねた後続車とは14秒程の差を付け39周めに再び給油とタイヤ交換に入る、順調に運び其のままトップをキープする事が出来た、ベスト走行ラインをなるべくキープする事に勤め運転がラフにならない様に勤めた、

 後はマシーンが順調である事を願い走るのみだ!..何て!不安な事か!思わず、マシーンに呟いてしまう ”頑張れ!もう少しだから機嫌良く頼む!” 今までも突然幾度となくエンジンが止まったことか! ..雨も止み始めコースのコンデションも良くなり、監督の興奮した声が聞こえる 「よし!よし!よし!が繰り返し聞こえる、後続と10秒以上離れている、慌てるな!後7周だ!良し!」 「OK!了解!」 監督の方が興奮して慌てている様だ、

 今回、何故か俺は冷静でいる余り興奮もしない、ただマシーンが壊れない事を願うのみだ、監督は俺の今の気持ちを察してか一周過ぎて又連絡が入る 「リュウ後残り6周だ、そのまま行け!」 何か監督の方が興奮しているようだ、

 此れ程残り周回を長く感じたことは無い後6周か!マシーンを労わり、いよいよラスト5周も終わり、ファイナルラップ62周目だ、観客が手を振る、騒めきが手に取る様に解る、最終コーナーを立ち上がる待ちに待ったチェッカーフラグが俺に向かって振られている、一度もトップを明け渡す事無くゴールが出来た、初めて感情が湧き上がる 「ヨーシ!やったね!有難うありがとう!」 ピット側すれすれにチェッカーを受ける。

 右手を突き上げ俺達のピット前を通過、クルー達がジャンフしながら手を振って居る様子が、解る、「ありがとう!」 後は言葉がでなかった 監督から興奮した声で 「良く遣った!良く遣った!」 監督も声がイチオクターブも上がっている、一周ゆっくりと、コースをまわる後は観客に右や左の手を上げながら、声援に応える、 やっと優勝の実感が湧いてきた、

 所定の位置にマシーンを止め上に乗り立ち上がり両手を力強く挙げ観客に応え、勝利の挨拶を送りおもむろに車から降り労わる様にマシーンのフロントカバーに手を置き 「ご苦労さん!ありがとう」 と思わず呟いていた、チームクルーから背中や肩をメチャクチャ叩かれ祝福の洗礼を受ける 「ありがとう、ありがとう」 井原君と幸ちゃんを目で探し胸の処で手を握り締め ”やったよ” と挨拶をおくる

 体重検査の為部屋の中に入り、体重計に乗り検査を受ける、監督とヨシ子が待っていた、ヨシ子は俺を見つけると駆け寄り抱きついてきた、受け止め抱き上げながら一回転し 「やったよ!」 ヨシ子の目が涙目で光って見える 「うんうん!リュウ凄いよ凄すぎる!良かったね、おめでとう」 俺はヨシ子の頭に手を充て 「うんうん」 と答えながら監督に目をやり 「監督!有難う御座います!」 監督の万遍な笑顔で迎え 「良くやった!これから表彰式だ、行こう」

 孝ちゃんも涙目で 「リュウおめでとう、良かったね!ヨシ子さんずーと力が入って、両手を合わせたり握り拳作ったりして祈っていたわよ」 俺はヨシ子を笑顔で見つめ 「そうだったの?」 ヨシ子バツが悪そうな顔で 「そんな事ないわよ、少しは力入ったかも知れないけど」 尚も孝ちゃん笑いながら 「自分では解らない物なのよ!リュウの為に一生懸命だったわよ」

 俺はヨシ子の頭の手を有難うの思いを込め軽く叩いたり撫で回した、ヨシ子は髪の乱れも気にせず興奮状態 「孝ちゃんや、井原さん、森田君の方が応援、凄かったわよ、飛び上がったり、手を握り締め、良し行け行け!て、生徒達もすっかり興奮して、もうリュウの虜よ」 「休み無く、俺の為に色々調整、して頂いたから、井原君や孝ちゃんのお陰だよ、ありがとう」 ヨシ子は頷きながら 「そうよ、井原さん、最後の5,6周なんてエンジン壊れないように祈っていたわよ」

 表彰台に上がり優勝のトロフィーを大会委員長から受け、その他にも、もうこの業界では新人と言う年齢では無いが新人賞(ルーキー・オブ・ザ・イヤー)も受けた、嫌いなインタビューで俺は戸惑いながらも 「天候とピットインのタイミング監督の指示が良かったし、メカニックの調整力に助けられドライブしやすかったチームの皆に感謝しています」 どうにもインタビューは苦手だ、今年このカテゴリー全てのレースが終わり、幸い年間チャンピオンのインタビューがあり、俺へ質問は早々に切り上げインタビューは年間チャンピオンに向かい助かった。

 興奮して疲れた顔のヨシ子から 「少し疲れたから、部屋に戻るわ」 「解った直ぐ行くから、久美ちゃんに送ってむらいなさい、無理するなよ」 少し心配で有ったが 暫くもみくちゃにされて挨拶に追われた、此の後懇親会や今後のレース方針などに参加し、又皆にもみくちゃにされる前に早々に引き上げる事にした。   

 主だった人々に挨拶して監督やチームクルーにお礼を述べ、宜しくお願いして、妻が身籠り中で有り疲れが出た様で、先に帰ることを告げた、竹田君に最寄の駅(名取)まで送って頂き、車内で流石に疲れた様でヨシ子は言葉少なくまだレースの興奮に沁たっている様だ、俺に寄り掛かっているヨシ子に 「大丈夫か?」 「ええ少し疲れただけ、丈夫よ」 ほっとした、正直俺は普段のレースドライブが終わった事と余り変りなく優勝の実感は余り無かった、ヨシ子は俺の肩に寄り掛かり名取駅に着き、竹田君に皆さんにお礼を伝える様にお願いして、宮城県松島に向かった。

タッチおじさん ダヨ!.jpg  エエ!此処まで来たんだ、最後まで読むか!..此処まで読んで下さり有難う御座いますストーリ【Story12】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-21是非お読み下さる事お願いね


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読んだよ386

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ナベジュン

お疲れ様です。
時間が出来たので再び参上いたしました(^-^)
枯れ葉の流れ着く先、サイドバーのムービーも見させていただきましたが風景、イラストと曲がいい感じにmatchしていて作品の温かみを感じました。
リュウがレイサーをやめるという衝撃の展開を気にしつつ、残りのエピソードも読んでいきたいと思います。
by ナベジュン (2013-03-10 13:18) 

テレーズ♪

菅生ハイランドは昔、仕事で良く行きました。
by テレーズ♪ (2013-05-05 18:44) 

Therese♪

古いブログですが。
使えますよ。
by Therese♪ (2013-05-07 13:30) 

テレーズ♪

こちらに
まだniceは出来ますね。
by テレーズ♪ (2013-05-08 12:38) 

ちゅんちゅんちゅん

こんばんは!
ふぅ~!です。
リュウ、よく踏ん張れたねって(笑)
でも なんか波乱の予感が・・・。
by ちゅんちゅんちゅん (2013-06-17 02:01) 

ちゅんちゅんちゅん

こんばんは!
お留守を前に
テンション上がるお話にコメントしにやってきました♪
来月9日以後から
また再開しますので
よろしくお願いいたします(^^)
あ~ 寒い(笑) あ~眠い(笑)
タッチおじさんさま、どうか ご自愛くださいませ。
では 行ってまいります。
by ちゅんちゅんちゅん (2013-10-31 03:40) 

ちゅんちゅんちゅん

こんにちは!
台風一過の爽やかな天気になりました!
タッチおじさんさま地方は
いかがでしょうか?
5月から台風攻撃、今年は当たり年なのでしょうか☆
暑い夏前の気持ちいい時期が
少しでも長く続いてくれることを
願っています~(*^^*ゞ
by ちゅんちゅんちゅん (2015-05-13 14:24) 

mimimomo

優勝の興奮いいですね♪
本日はここまで。
どうぞ佳いお年をお迎えください。
by mimimomo (2015-12-31 19:12) 

mimimomo

こんばんは^^
今日は暖かいです。気持ちが悪いほど。でも明日からまた寒くなるようです。老体には堪えます。
いつもご訪問ありがとうございます♪
by mimimomo (2018-02-15 18:58) 

mimimomo

こんばんは^^
本日はちょっとわたくしの所で書いてくださったコメントのことでお訊ねしたくって訪問いたしましたよ。
どの位の距離を歩かれるのかしらと、神奈川県の地図で調べていて、横浜動物園だけがものすごく離れているのですよね。
不思議に思って天園の方からなぞっていくと、金沢動物園ってあるのですが、ひょっとして横浜動物園じゃなく金沢動物園じゃないかと思って、違いますか?
それにしてもかなりの距離歩いていらっしゃいますね~何かの訓練?^^
by mimimomo (2018-02-24 19:33) 

mimimomo

こんばんは^^
今日は寒いです。耳が冷たくてシモヤケが出来そうなくらい^^
年賀状も出来上がり投函しました。後は遊ぶばかり(@@?
by mimimomo (2019-12-23 19:40) 

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