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枯れ葉の流れ着く先 【幻:前編16】 「Fictoin Story」 [小説(story) Fiction]

 ☆=ストーリ【Story前編15】からの続きです、是非下欄【Story前編16】をお読み下さい=☆

  《葉山・森戸海岸》

森戸海岸.jpg レーシング・チームへの報告も終わり俺は自宅マンションに向かったが、何とも寂しいそれにこんな気持ちでヨシ子にすまな過ぎる誰にも逢いたくは無く、首都高にて横浜横須賀線を何時もなら港南台ICから釜利谷JCTをへて堀口能見台ICで高速を降りるのだが そのまま通り過ぎ朝比奈ICから鎌倉へ向かった、鎌倉をも走り過ぎ海岸沿いに逗子をへて葉山の森戸海岸まで来ていた。

 森戸神社(森戸大明神)裏手から海辺の岩場に腰を下ろし、暫く静かに波打つ渚に耳を傾けた、俺の心にどんなに嵐が起こり荒れ狂おうが 自然や世間は何も変らない、何時かこの日が来る事を分っていたが 空しすぎる何とも寂しい 何が如何狂ってしまったのか? ぼんやり時を過した・・。

 以前の俺はただひたすらに目的に突き進んでいたのに、束縛されない自由な気持ちを求め自分の事意外は興味も関心も持たなかった。 だがそんな自己主義が通じる訳がない 何かが俺の中で変わり始めたのか?

 レースの為に美奈子やヨシ子生まれ来る子供まで目的の為にまだ懲りずに犠牲にしてどんな価値があるのか、ヨシ子を知り何かが俺の中で変わり始めたのか、今はそんな事を考える俺自身が恐いのか?自分の目標を守る為に非情になれない俺がいる。

夕日.jpg これまで必死に守ってきた物がと言えば自己主義過ぎて語弊があるが、すでに 横浜駅に立ち スポンサーを求むのプラカードを掲げられなかった俺は あの時から夢を失っていたのかもしれない 自分の好きな事の為にしてきた事だがそれほど俺にとってレースは意味が有ったのか? 今まで何も感じなかった事に大切な意味があり家庭を作り此れからの生活が重要な事に気が付いたのか? ・・ふん!今更何を言わんか!何時も何処かにエスケープゾーンを求めていたのに!

 俺の欲望と本心でない心を世間の常識の為にそんな振りをしなければならないのか?それとも俺自身の良心の呵責か!他の人達も同じ苦い味わいをしてきたのだろうか?俺だけは違うと思い込んでいたのに全て無意味な時を過したのか!

 俺は運命を乗り越え変えてきたつもりであったが、何も変ってはいない自分の選択を超えた何か ”宿業” とでも云うのか、それも運命なのか?いつの間にか引きずり込まれてしまう、人はどうやって、この苦しみを乗越え次に進んで行くのか?

 俺はこの気持ちをどう処理し、何処に収めるのか? 理屈では何の解決にもならない人間とは厄介な物だ、いや俺自身が厄介な人かも知れない、

 **人は生かされているとある見識者が物知り顔で語っているが、 俺は だからこそ 病や老い それに事故や自然の驚異に倒れるまで 自分の意思で生きていたい!**

 海岸袖の 俺が腰かけている 岩場付近に何処からか流されてきた汀の枯れ葉が、夕日に照らされ波間に揉みくちゃにされ 目の前で岩に当たりながら行ったり来たりしている、

 次に来るものが俺には痛いほど解っているから それが俺の実力なのだろう ただ認めたくないからだ、 俺の無能さを周りのせいにしているのか! あの枯れ葉の様にぼろぼろになる姿が怖いだけだ!

 この世に俺の生きて来た足跡や存在さえ否定され、あの枯れ葉の様にボロボロになり世間の冷たい視線を受けられるのか?、感傷的になっている俺には物の哀れを感じる。

 木の葉が青々と成長している時は希望に溢れ、突然の嵐に散ってしまった、その葉達はその役目に終わりも告げられず どんなに逆らっても流されてしまう。

 枯れ葉が川に流されあちこちの岩にあたり急流に飲み込まれ渦の中で翻弄され岸辺に留まっても、何れ大海原に流され朽ち果ててしまう。 あの一枚の枯れ葉が俺だと言うのか!それを運命と決めてしまうのか?・・・人生とは何って悲しく虚しいものか!諸行無常とは良く云ったものだ この世はなんと儚いものか!。

 何時の日か時が鎮めてくれるのか? 俺の目指し求めた物が崩れ目的を失ってしまった、今までの全てが虚空の中に引き込まれてしまう恐怖。 一体此れから何を求め何を生甲斐にすればよいのか、もう這い上がる事も出来ない深い淵、巨大なブラックホールに吸い込まれ押しつぶされ光まで失ってしまった俺にとっては敗北以外何物でもない!時は一時も止まらない事を悟る地点が何時も遅すぎる。

 勝手なもので自分が落ち込んでいる時だけ考えてしまう、この宇宙で地球とは人の感情や心に関わらず無常に自然の営みが行われている、其の中での人間とは?俺とは?何の役割があるのか?海斗の事を一つ採っても、俺には如何する事も出来ない、なんて不条理か!俺が生きている意味が有るのか?又進むべき道を失ってしまった!。

 それともヨシ子の言う人と人との繋がり、愛は全ての物を特別なものに変えてしまうのか?ヨシ子は・・ ”私にとって、リュウは最も必要で特別なぞんざいよ”

 だから与えられた時間を大切に・・そしてそれと同じように全ての存在に意味が有るのよ。 と言ったが、俺って一体なんなんだ!本当に何の意味があるのだ!全てが無意味に思える時がある。

 人はこんな時、勝手に神を作り上げ、勝手に恨んでしまう者なのか?ましてや神など信じていない、この俺が!愛に意味が無いとは言は無いが愛に甘えこじ付け、愛に救いを求めしまうのか。

 誰か教えてくれよ!運命に身を任せる気は無いが、運命に逆らう事も出来ないのか! ヨシ子が言ったとおり愛情は人を特別な存在に変える、ヨシ子に出合った事で運命が変ってしまった事も事実だ!

 そしてヨシ子はこんな事も  ”リュウ、神は宇宙の何処かにいる者ではないわ、其々の人の心の中に生まれるものなのよ、それは人々の願いが創り出した者なの”  そこを見失わないで。

 ・・・・”フフフ・・俺には三人の賢者も現れないし、特別な存在なんかじゃない俗物だよ!” フフフ・・・そんな事決まっているだろう、馬鹿な奴!なんてジョークな人生!

 本当にそんな簡単な事まで見失ってしまいそうだ!ヨシ子は生かされていると云ったが、俺は此処に生きている実感が欲しい! 全てを賭けたカーレースを失った俺に、これから何の実感が得られるのだ!

 暗黒の無の世界に何故か解らぬガスの様な素粒子が集まり、やがて巨大に圧しくされ耐え切れず大爆発(ビクバーン)を起し此の宇宙が出来、何千何万億年の時をへて、一つの星に水を与え、それは美しく青く輝き、沢山のハレー彗星の様な星により、アミノ酸をこの地球に振りまき、命に限りある生物を誕生させ、

 以来、その目的が何か解らぬままに、全ての生物が競い争って辺りを傷つけ生き残ろうとし、無常の自然に命を奪われ様とも、いづれ地球食いつくし破壊させても、飽き足らず子孫を作ってまで生き延びようとしている。 その為に仲間を作り、他の家庭やグループを味方にして、国を作り、又他の危険要因な生物や同胞までを裏切り排除する、そんな背信的努力さえも自然が破壊する、人間の飽くなき欲望は果てしなく続く、それが現実だ!。 そうまでして生きる意義はなんなんだ!このちっぽけな俺の生き甲斐さえも奪ってしまう、いかに慢心した俺を笑い飛ばすかのように、神など人の弱さが作りだした幻の産物だ!。

 そう思いながら生きている実感が欲しいだと!、矛盾だらけだ、俺の弱さなのか!何かに救いを求めている!それが神か?。 俺の価値とは何だ!人が生死を掛けた軍鶏や闘牛の戦いに歓喜する様に、愚かな人間の破滅への醜い戦いを何処かで楽しみ、全てを奪い去る事が神の目的か?自然にとって、人間の善悪は無関係、一番自然を破壊する人間は、神にとって一番の失敗作で有ったのかも知れない、それとも何時の日か宇宙をも変える存在なのか?。

 一体、人間って!俺はなんなんだ!、何の為に此の星にいるのだ、本当に何か意味が有るのか?悲しいかなこれが生物の生命体の宿命なのか!勝手なものだ、こんな時ほど取るに足りない俺のちっぽけな存在意義が問われる、答えなど見出せるわけがないと思いながら、それでは余りにも悲し過ぎる!。

裕次郎灯台.jpg 俺にとって大きな夢を失ったが、愛にトキメキ、愛を見つけ、情熱的で、かけがいのない愛、ヨシ子を心から愛し、もう失う事など出来ない、そして、命の尊さを海斗を通して教えられ、愛する人を悲しませる事など出来ない!、・・出会い、結婚、ありふれた家庭を作る事、これが運命なのか? 女は強い優れた男を選び求め、それを得られたらその強さを他の女に向けさせずに抑え、その矛盾を見事に操り自分を守る! 子供の誕生、時々神秘の衣に包まれる、急ぎ過ぎたのか?俺は一体如何すれば良かったのか?。

 やはり、俺は、流されて生きる事は苦痛だ!生甲斐、生きている実感、証が欲しい!

 日も暮れ辺りを紅に染め初め、黄金に変る、その変り行く海の美しさに見入っていた、美し過ぎる光景もやがて茜色変わり終止符がくる!意味も無く、涙がこぼれそうになる・・・。

 目の前の波打際の砂浜を若い恋人らしき二人が、移り変る夕焼けに女性が男に向かって 「ワァー凄い!綺麗!ねーみてみて綺麗でしょう」 感動の声を上げ楽しそうに通り過ぎる、何故かいっそう空しく遣る瀬無くなる!

R & Y 膝枕2.jpg やがて、深紅の空も暗くなり始め全てを飲み込む様に暗闇が俺を襲う、

 何処からか?ヨシ子の声が聞こえて、顔が浮かぶ、今は、ただヨシ子の胸の中で眠りたい、・・・・ ”リュウ膝枕する!そんな顔して、如何したの?” ・・・ヨシ子が笑顔で語りかける、そんなフレーズが思い浮かぶ・・俺は心の中で呟き ”何時まで引きずっているのだ!駄目な俺、さぁー帰ろう!・・あまり遅くなり心配させてはいけない” 家路に着くことにした、やはりカーレースに未練が有るのかな?

 帰途のドライブ中、ふとヨシ子の事が気がかりになっている自分に気付いた、俺は自分の事ばかり考えて少しもヨシ子や生まれて来る子供の事を考えていなかった事に気付きハットする思いを感じた、愛する人の為に喜びを感ずる事が出来ないのか!ヨシ子の言う様に俺は子供過ぎるのか?。

   《金沢文庫、柴町 自宅マンションにて》

 あんなにヨシ子に会いたく安らぎの家なのに、何故か今日に限って重苦しく足を踏み込む事を躊躇ったが、マンションにもどり誰よりも心配しているヨシ子に一部始終全てを隠さず報告した。 ・・家事や勉強している時のヨシ子は何時もポニーテールにしている、その髪をなびかせ振り返り

 「遅いから、心配したわ!」 「うん」 「それで、美奈子さんにも会えたのですね」 「あぁ、偶然ね、でもちゃんとヨシ子と結婚の事も話して来たよ、大分元気で安心したよ」 ヨシ子俺を何時もの優しい目で見詰め 「そうですか」 ヨシ子が、何を感じ何を思っているか解らないが美奈子に関しては、俺に気使ってかそれ以上の質問も意見も一切触れなかった。

 しばらく沈黙の後 「スクールの企画ね、やって見たらどう?、何か次の目標が見付かるかも知れないわよ、其れだけでは無いわ、リュウの今まで車での知識生かせるでしょう」 「うん、そうだね」 「私、スクールの教科書見たんだけれど、素人でももっと確りした物が有った方が良いと思いましたよ」

 「スクール立ち上げたばかり、殆んど監督一人で創り上げた見たいだよ・・あんなに短い間にヨシ子は良く見ているね、凄いよ経営アドバイザーになれるね」 「そんな事ないわよ、ただリュウなら車に関して経験も豊富だから生かせると思って」 「そうだね考えて見るよ、ただ俺のめり込むタイプだから迷惑掛けると思うよ」

 ヨシ子は此方に向き直り 「やっと解ったわ!リュウを好きになった理由、貴方が誰の邪魔も払いのけ自由に何かの目的に取り組んで、あの危険で生き生きした目が好きだったのね!其れが家庭を壊す事も感じていたけれど、おかしなものね他の若者達には無い危険な者をリュウから感じたのよ」 「俺を選んだ事失敗したね、先生の血が騒ぎ俺を見捨てられなかったんでしょう」

 「そうよ!でもそれ以上にリュウの事、愛してしまったのよ、此の気持ちどうにもならないわ」 「今の俺何処を突いても、もう何もないよ!空蝉だね」 「そんな突いたら粉々壊れそうな人嫌いよ!リュウはそんなんじゃないわ」 「・・・」 「そうだ!だったらリュウの辛い経験を生かして生徒達の為にも、スクールの企画初めて見たら」 「うん、やって見ようと思っているよ・・でも俺と同じ思いをする人を作るだけだよ」

YOSHIKO2.jpg 本を手元に置いたヨシ子を見て 「そういえば、俺の事より、ヨシ子の心理学の勉強の方は順調なの?、自分の事で一杯で何も聞いてやらないでごめん」

 「大丈夫よ、でも此れほど難しいとわ思わなかったわ、一つの物に単純に当てはめられる物では無いから、学べば学ぶ程考えさせられ意味深い物なの、学んだ事をどの様に生かすか携わる人の理解度も有るが人としての経験も有ると思うし、最近直ぐに薬に頼る傾向に在るけどもっと心のケヤーをする必要が有ると思うわ」

 「だろね、人の心理は複雑だよ、其れを必要なデーター集め当てはめて平均を出しているだけ・・素晴しい先生との違いはその現実の問題だけでは無く、その人の幼い時からの環境や生活等も含め、分析力と経験、応用力、其処だと思うよ、レースだってそうだよセオーリや道理だけじゃ勝てないよ、レースコースの変化、設置場所、マシーンの状態、タイヤの磨耗、気候、温度、対戦レーサーの心理、一つの物でも此れだけ診方があるよ、況して人に到っては色々な複雑なケース、環境や境遇、体験を経験しての総合的判断だよ、精神的問題は特にそうだと思うし、何でも知れば知るほど奥深いものだと思うよ」

 「リュウは実際にレース体験しているしその通りだね、説得力あるわよ、私もそうだけれど女性は特に単一思考になり易い処が有るから、簡単に決め付ける事は出来ないわ、薬で一時的に抑えても反って心の反発が強くなる場合もあり、心の奥底に触れる事はなかなか難しいわ・・ リュウにこんなアドバイス受けると思わなかったわ」

 尚もヨシ子は真剣に話を進める・・「ただカー・レースでは人や車を追い詰める事でしょうが・・人生はそれが正しいからと、とことん人を追い詰めては駄目なの逃げ道も与えなければならないの・・前にも云いましたが特にリュウ自身もそうよ、それが自分をも追い詰める事になるのよ」 もっともだと思った 「うん、そうだよね痛い所付くよ!」

 美奈子にも言われたばかりだ、たぶん、現在の心理学は頭の良い専門家が何人も集まり何年も研究し分析し実際にテストを繰り返し作り上げた事だろう、納得出来る所も沢山あるがそれを扱う人にも大いに左右される事と思う。

 ヨシ子は理論で語りあったらたぶん俺を簡単に負かすだろう、だが決して理論を振りまわさず偉ぶらず素直に聞いてくれる俺の好きな処だ。

 ヨシ子は優しい眼差しで俺を見詰め 「ごめん少し気になったから、リュウ一人だって子供と言うか青年みたいな良い所有るし、反面頼れるし未知で不思議な処があり其れだけでも解らないのにね、アハッハァ!本当に難しいわね」

 俺の気持ちを擦るのが解るだけに もやもやした気持ちをぶっつけてしまった 「こんな 自分の生き方さえ見失った俺なんか 頼れる訳が無いだろう!」 「今は疲れているからよ 少し休んだら?」

 「そうだよね 俺なんか単純だよ、ヨシ子のオッパイだけあれば、其れで幸せだよ、それが解っただけでも、進歩だね」 何かごまかしのように放った言葉だが、ある面本音かもしれない。

 ヨシ子は笑顔で 「リュウたら私のオッパイだけ!人格は無いの?オッパイに顔でも描こうかしら・・解っているわ」 ヨシ子はおどけた表情を作り 「でも、ほかの人のオッパイに、のめり込んでは駄目よ、毒に当たるわよ」 俺も驚いた表情を作り 「オッパイに顔!面白い事云うね」

 ヨシ子は少し拗ねた様に 「だって、リュウは人格無視の様な事云うから」 俺は慌てて否定した 「それだけじゃぁ無いに決まっているでしょう、本当に毒に当たるのかな~?恐いね!」 俺は内心人の顔にそれぞれ違いが有るように、オッパイも其々違いが有るのにと思ったが "それを言っちゃぁお終いよ” 何故かトラさんの決め台詞が思い浮かび慌てて飲み込んだ。

 ヨシ子、茶目っ気たっぷりの表情で、手のひらを広げ指先をくの字に折り曲げ、もぞもぞと俺の腕の皮膚をなぞりながら 「本当よ 恐いよ~、ウフフゥ体中にアレルギーが出るから大変よ!」 俺は体をひねりヨシ子の可愛い攻撃を避けながら 「おぉー!鳥肌立つよ、よせよ!」 今度は真面目顔になり 「それでね、赤ちゃんは母親からのオッパイで免疫をむらい受け強くなっていくのよ」 

  「あぁーそれで、俺もヨシ子のオッパイから免疫むらっているんだ!」 そうーよと言う顔で 「私もリュウからの免疫頂いたから、多少の事は大丈夫になったわ」 「確かに、ヨシ子は以前こんな事云なかったのにね..変わったね、その方がもっと好きだよ」

 ヨシ子真面目な顔になり 「角が取れたかなーって思っている? 冗談はともかくゼミや勉強会は部長が理解有るから、スケジュール上手く組んで頂いているの・・患者さんが最近よく言うのよ、”先生、結婚してから優しくやわらかくなりましたよ!” だって、此れもリュウの影響かな」

 「俺の影響か?ヨシ子は自分に厳しいから、知らない人は冷たく感じるかも、俺も初めは冷たく感じたよ、でも良く話を聞く内に優しい人だなって思ったよ、だから好きになったの」

 「本当に?嬉しいわ!、私達、医者は大勢の患者を扱っているうちに麻痺してしまい、余り個々には、聞いて上げられない時もあるの、ましてや大学病院では責任も分散されてしまうの、でもそれではいけないの、この頃、心理学の影響もあるけど患者にとっては病気を治す為とは言えどんな手術であっても、体を傷付ける事になるし、かけがいのない命、人によっては冗談みたいに誤魔化していても本人にとっては本当に恐ろしい事、そうしたことも受け止められるようになったしこれらは教科書では得られない事ですね、リュウが色々な人と会わしてくれたから」

 「そうだよ、柄が悪くて話す事が下品な人も、親しみからで凄く心が優しい人も沢山いるよ、水の中に入らず、水泳を教える様な物ではね」 「ええ、少しずつ解ってきたわ、頭だけではなく皮膚感覚や体験も重要ね」

 「先ずは、相談者が本当に心を開いて居なければ、なかなか掴みづらいよ」 ヨシ子俺を改めて見詰めながら 「人間の心理って不思議よね、病院に来ているのに痛みや病気を隠し検査を受けたがらない人、やたら病気にしてしまい思い込む人、本当に難しいわ、本当にリュウって急に立派事言って大人なのか、頭が良いのか全然子供の様な処があり解らない人ね、だから好きなのかな?」

 ヨシ子は続けて真剣な面持ちで・・ 「ねー、リュウにシリアス(serious)に尋ねたいけど」 「改まって なに?」 「もし私が癌等で、リュウの大好きなオッパイ無くしてしまっても変らず愛してくれるの?」

 「なに、急に?そんな事ありえないよ」 「将来、何が有るか分らないわよ、・・リュウ真剣に考えてみて」 「そりゃービックリして驚くよ、初めは、とまどうけれど、それで命が助かるなら、その方を選ぶよ」 ヨシ子じれったそうに 「そうではないの、そんな一般的答えは要らないの、其の後同じ様に愛せるの?」 俺も力を入れ答えた 「だから、初めは戸惑うといったでしょう、ヨシ子を失うより良いよ、オッパイだけじゃないよ、ヨシ子が一番解っているでしょう」 「でも、実際にそうなったら」

 「いい加減にしろよ! 俺がそんな事で変わるとでも云うの・・それこそヨシ子自身の問題でしょう、現実を確り受け止めて、それでも誰よりも凄く女で、いようと思うヨシ子で変らず女性でいてくれたら、乗り越える方法はいっぱいあるよ!そんな傷位でヨシ子みたいな良い女が変わる者じゃないよ、前にヨシ子が言っていたでしょう」

 「そんなにおだてないでよ、・・たぶんリュウなら ”人のせいばかりにしないで、自分の生き方や考え方もあるのよってね” リュウがそう云うって解っていたわ、確かめたかったの、これで患者さんに向き合えるわ」 「おだて、じゃぁないよ本当にそう思っているよ」 「ごめん、ありがとう」 ・・ヨシ子の事だ!もしかして俺に傷ばかり舐めていないで、次に進みなさい、早く気付きなさいと間接的に云っているのかも、・・

 「最近よく、夜遅くまで勉強しているから、病院の仕事、休みでも呼び出しが有るし、夜中でも行かなければならないし大事な体、気を付けてよ」 「何時もリュウに送って頂き助かるわ、今の病院、此れでも女性に優しい方よ」 「妊婦の休暇は無いの?」 「病気では無いのよ、動ける内は動いた方が良いの、リュウは心配症ね、大丈夫よ時期が来たら休まして頂ますから」 「ようやく、二人少し静かにいられるね」 「本当ね、少しゆっくりしましょうね」

  「何か格調の高いゆったりした音楽聴くと、お腹の赤ちゃんに良いんだって」 「そうですよ!リュウは子供の事になると夢中ね、フフ、私もかまって欲しいわ」 「俺の方が云いたいよ、ヨシ子は勉強ばかり、たまには俺をかまって!って・・本当に冗談では無く体の為に少しは休みなさいよ!」

 ヨシ子は本から目を離し向きを変え、俺を見詰めながら 「はい、ありがとう・・処で美奈子さん、心臓の方はどうなの?」 やはり、医師として気になるのだろう 「軽井沢の気候が良いから、大丈夫の様な事言っていたよ、あまり詳しくは」

 ヨシ子は椅子から立ち上がり、俺の目を真っ直ぐ真剣な眼差しで見詰め 「そうですか、そろそろ本題に入りましょう!、リュウ、もうお互い避けては通れませんね、ハッキリ云うは、美奈子さんの事とスポンサーの件、私の立場を考え、本当はリュウが一番心苦しく許せない問題、心が束縛され何時も心に残って晴れ晴れした気持ちを味わえない事、それでもリュウに取ってレースが全て、今もって不完全燃焼である事痛いほど解っていたの」 今までのヨシ子の思いを吐き出すように話は続く

・・「だから、いけないと思いなが本当にこれで良いのかって?リュウに何回も聞いたのよ、それが反って苦しめる事も知っていたわ、ビジネスだからと割り切れない理由がリュウにはあるのよね」・・「リュウに・・ ”じゃぁ俺は如何すれば良いんだよ!” て聴かれても、私応えられないが、リュウもハッキリする時期ですよ。

 そうーね、例えは違いますが、私達、医師も全ての患者、助けられる事が、出来ないのよ、私、気持ちでは解っていても、初めは凄く空しく敗北感を覚えたわ、他の優秀な医師だったらって、私だってリュウの考えや悩んだ事、私も考えたわ。

 人は何の為に生きているのかって?皆突き当たる事よ、雄大な自然の前では皆無力なのよ、世間の皆、もっともらしい理由など言うけれど誰も明快な答えなど無いのよ、それが本当の処だと思うの、リュウも今回そうだと思うわ、でもねリュウは私に云ったでしょう、出来る事をやればいいって!、自分の事になると判らなくなるのね」

Yoshiko3.jpg 尚もヨシ子の話は続く 「くどい様だけど本当に、このまま二人の為に進めて良いの?・・リュウ!貴方がどんなに平常心を装っても、私には痛いほど解るの、リュウの夢を壊したくないと云いながら、かえって、私、辛いのよ、私の為に犠牲になってリュウの自由を奪っているのよね!リュウがどんなに苦しんでいるか!私、解っているわ!私、リュウの誰にも束縛されない、伸び伸びと輝いている、そんな生き方と姿が大好きだったのに、私自身が壊してしまうなんて!思いも寄らなかったわ、

 だからなお更辛いの リュウ優等生ぶらないでよ!あの逗子の海岸で初めて私に話した時の様に あの自信に溢れたリュウは何処に行ったの!・・私に何もかもぶっつけてよ!私も一緒に泣く事しか出来ませんがね あの時のリュウの方が人間的で好きだったわ!・・またリュウが迷い悩んだあの時 ”チームを変りなさい” って云えば良かったの?」

リュウ正面1.jpg 「なに云っているの!そんな事出来る訳ないだろう!」 「そうよね、リュウはもっと傷つくわね」 「じゃぁ!もし俺と別れてくれと云ったら、如何するの!」 ヨシ子は険しい顔をして 「そんな事いやよ!出来るわけ無いわ!たとえ子供が出来ていなくても別れる事など出来ないわよ..リュウのぬくもりを知った今、もう出来ないわよ」

 「俺だってそうだよ!、沢山悩んだよヨシ子と出会無かったら違った道が有ったのかって?、俺はね、みなと未来のラウンドマークタワーでヨシ子に遇った時、初めてレース以外の事が、如何しようもなく気になったんだ!もう、ヨシ子のいない生活なんて考えられないよ!本当にいいんだよ、全て終わったんだよ、考えてみれば美奈子さんが病気になった時に、俺のレース人生は終わっていたのだよ、仮にヨシ子に遇わなくても、いやヨシ子に遇ってどれだけ救われたか!」

 「リュウ、もういいのよ、貴方は大バカよ、正直になって!私の為に何も云えないのよ、だからと云って私から別れることなど出来ないわ、私どうしてよいか分らないし如何する事も出来ないのよ!」 「それって、俺に決めろとでも云いたいの!」

 「そうよ!後々私や子供の為に犠牲になったって云はれたく無いの、もともとリュウには家庭を作る事、早かったのよ!それで何時か二人が駄目になるのよ、私、リュウの事になると冷静でいられないの、カウンセリングの勉強してもリュウに関しては何にもならないね」

 初めて心からヨシ子とぶつかり有った様に思えた 「そうだよ!ヨシ子のせいだ!って云えばいいの?それで全てを失えばいいの? ヨシ子だったら、俺など充てにしなくても一人で子供を育ていけるだろうよ、でもそんな馬鹿げた事出来るわけ無いだろう、男は正直、子供の事は生まれて一緒に育て初めて愛情が湧くものだと思うよ、本当に子供を持つ実感余り無いよ、でもねヨシ子と付き合い始めた頃、セックスと子供に就いて話してくれたから、そんなに無責任じゃあないよ、だから話した事が全てだよ、そんな事とは別だよ」   

 ヨシ子は俺の顔を覗き込む様にして 「リュウそれと私達の事とは違うのよ リュウがそんな無責任と思ってもいないわよ だからこそ云うのよ、それだったらこんなにリュウが悩む訳ないでしょう、私が子供を望んだ事よ ただリュウの夢壊したくないから」

 「その事は、誰のせいでも無いよ、俺の中でもう望みが無い事は痛いほど解っていたよ、みんな俺が招いた事もう、とっくにレース諦めていたのに、何処かで何とかならないかと俺の未練、せめて国内だけでもと思ったから、前にも云ったと思うが、たった一回位の優勝では誰も認めないよ、例え年間チャンピオンになったって如何にもならないよ。

 スターに成るには、レーサーは才能実力が有って当然 後はお金と凄腕のマネージャー それに人の持つ運だよ! 其れが全部揃はなければ駄目だよ 本当に一握りの人に与えられものなの、だから・・せめて自己満足の為だよ! ・・・それより心から安らぎを感じられ どんな俺でも受け止めてくれるヨシ子に出会えた事、本当に俺の救いになったよ・・これからもだよ!  ただ レース一筋に十年以上生きて来たのだよ それだけ思い入れも有り戸惑いもあるよ、切り替えるには時間が必要だよ」

 ヨシ子は険しい目を向け 「自己満足の為?全部うそよ!夢を追って輝いていたのに・・そんな貴方が好きなのに・・私自身が壊してしまう事になるなんて!」 俺は答えが見付からなかった 「・・・・」 暫く沈黙が続いた後で、ヨシ子が口火を切った 「思う様に成らない物ね ・・解かったわ もう本当に二度と云いません 本当にそれでいいのですね!」

 ヨシ子も俺れ以上に悩んで来た結果だろう、この一緒に泣く一言が俺の心に響き沁み込んだ 苦しみも、痛みも、悲しみも、喜びも、全て貴方と一緒よと俺に伝えている、俺は余りの悲しさに なんって自分勝手にヨシ子に甘えきっていたのだろう取り返しのつかない間違えをするところだったのではないだろうか!

 俺の心の動きを全て感じ取って、ヨシ子と付き合い初めの頃 ”美奈子さんに会って来なさい” の言葉を思い出す、スポンサーの件も含め、俺の性格を知り、どれだけ悩みレースを辞める事にしたか本当に良く理解している、俺が今回決着を付けたことで、どれだけ気が楽になり自分自身で居られる事か、反面常に中途半端で燃え尽きたという実感がない事を良く知っていていたのです、改めてヨシ子は俺を心から理解し俺を守ろうとしていた事に触れた思いでした。

 俺は全ての思いを断ち切る思いもあって 「迷いながらレースしても良い結果が生まれないよ、それより危険だよ!、何れこの時が来るんだよ!其れだったら、早く切り替えた方が、横須賀基地の仕事、今は必要で望まれているから、これで本当に良いんだよ!これで次に進めるよ、..俺はね、何が有ってもヨシ子とお腹の赤ちゃん失う事など出来ないよ、今までヨシ子に肩身の狭い思いをかけていたね」

 ヨシ子は優しく俺を見つめ、ゆっくりあゆみより 「そんな事は無いわ、リュウは私に決してそんな事、少しも感じさせなかったから・・リュウは本当にバカよ、優しいね、そんなに想われていて嬉しいわ!私もよ、リュウを失うことなど・・絶対出来ない!」 解った、と言う意味だろう、ウンウンと背に廻した手で二度ほど軽く叩いて、俺を優しく受け止め 「リュウ、夕食も取らないで!お腹空いているんでしょう?」

 俺は何も云はずに、ヨシ子の胸に小刻みに幾度となく頭を打ち付ける様に押し付けた、ヨシ子も黙ったまま、俺の背中に腕をまわし抱き締め 「本当にいいの?リュウの後悔の無いように好きな道を選びなさい、死んでいるリュウなんか見たくは無いわ」 ヨシ子は誰かの力を借りなくても一人で生きていける人だ、どんな気持ちで言っているか俺には痛いほど解っている、これが人と人の愛と言う絆だろうか?

 どれくらいの時が過ぎたのだろう、こんなに安心出来る処が他にはない、ヨシ子を失う事など何が有ろうが絶対に出来ない、俺は目の前の大事な幸せが見えなくなって見失う所だった、俺は呟くように 「もう大丈夫だよ」 ヨシ子の目にも涙が光って見えた 「うん・・いいのね、さぁー手を洗って来なさい、直ぐに支度するからね」

 ヨシ子は口にはしなかったが美奈子の事も含めての事だろう、俺は思い出したように 「如何して、お腹空いている事判るの」 ヨシ子は俺に感づかれない様に急いで後を向き涙を拭き取り「其れくらい解かるわよ、リュウの全てって云ったでしょう リュウは連絡もしないで 勝手にしないから私も待っていたのよ、食事温め直すからね」 俺はその場の雰囲気だろうか 何故か「ごめん」 と云ってキッチンに立つヨシ子を目で追った、その何でも無い様な会話と後ろ姿に何故か安らぎを覚えた

 夕食後 二人はどちらかでもなく散歩に行こうと、連れ立って手を確り握り合い月明かりの海の公園を言葉少なく寄り添いながら散歩する、呼吸に合わせた様に渚の音が静かに響く。 俺は改めて実感する ”このやすらぎだ” 想わずヨシ子を引き寄せ抱締めたヨシ子も無言で応じてくれた。

 俺はこの安らぎを求めいたのに、不思議で厄介なものだ、幸せの中にどっぷり浸かり当り前になってしまう事を何処かで弧絶しているのか、何故かこの安らぎの中で安穏している事に不安で恐くなっていた、俺の戦う本能が、この幸せを壊してしまうのか?

 ヨシ子は俺の不安を察したのか 「リュウ..私はリュウを縛り付け様とは思っていないわ、本当にリュウの進みたい道に進んで欲しいの、でもね互いに休める場所が有る事が大切な事と思っているの、私だってリュウに甘えたい時も、助けて戴きたい時もあるのよ」 「うん・・・全部を得られる事なんか、無いよ何か上手くいかないね」 

 八景島の柔らかな月明かりに微かに浮かぶ渚に、二人のシルエットが揺らぎながら微かに浮び上がらせては消える、何か幸せの風が漂っているかのように。 ・・・其の後、静かな穏やかな一週間が過ぎ、結婚式を迎えた。

タッチおじさん ダヨ!.jpg  ストーリ【Story前編17】へ続きます、クリックね《http://touch-me.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16是非お読み下さる事お願い致します


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読んだよ97

コメント 7

ナベジュン

お疲れ様です!&お久しぶりです(^-^)!
「おっぱいに顔」は印象に残りました。

時間が出来たのでお邪魔しました!
エピソード17を含め、枯れ葉の流れ着く先は一通り読み終わりました。
読むのに時間かかりましたが次回作もあればまた応援します。
by ナベジュン (2013-05-29 00:53) 

ちゅんちゅんちゅん

こんばんは!
峠は越えたんでしょうか・・・
2人の気持ちがずっしり伝わってきます!
どんな結果でも
この2人なら受け入れるでしょうね。
by ちゅんちゅんちゅん (2013-06-22 02:14) 

ちゅんちゅんちゅん

こんばんは!
8月も今日でお終いですね。
いつも 楽しく温かいコメントをありがとうございます。
ブログを始めてよかったな~としみじみ(笑)
いただいたコメントから
たくさんのものをいただきました。
頂くばかりで恐縮ですが・・・
これからもよろしくお願いします。
また大雨になるかも・・・ですね。
お気をつけください。
by ちゅんちゅんちゅん (2013-08-31 04:51) 

ちゅんちゅんちゅん

こんにちは!
朝夕は涼しくなり
周りで風邪ひきさんが増えていますが
タッチおじさんさまはお変わりありませんか?
相棒マダムもダウンしていて
お籠り状態に拍車がかかっております~( ̄O ̄;
by ちゅんちゅんちゅん (2014-10-01 13:41) 

ちゅんちゅんちゅん

こんにちは!
残暑お見舞い申し上げます~!
ようやく残暑、の時期になりました(>_<)/~~
猛暑にやられた今年の夏でしたが
何とかブログも続けることが出来ました!
touchおじさんさま、いつもありがとうございます。
心からのありがとうを込めまして
これからもよろしくお願いいたします(*^^*)
by ちゅんちゅんちゅん (2015-08-11 15:07) 

mimimomo

こんにちは^^
この時刻になると、上の瞼と下の瞼が仲良くなってくっつきそうです(__;
by mimimomo (2018-04-17 12:11) 

mimimomo

こんばんは^^
昨日は鎌倉に行きました。でも暑過ぎて歩くより電車やバスで移動したような・・・^^
by mimimomo (2019-09-16 18:16) 

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